表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/133

旅立ち

「よし、こんなもんか。忘れ物は無いな?クロ」


「そもそも我は持ち物が無い、案ずる必要はないぞ」


「あー……そう言えばそうだったな、何か欲しい物があれば言えよ、今ある有り金の殆どはお前が稼いだ物なんだから」


 そう言う俺も荷物らしい荷物は持っていない。

 金を入れた袋と替えの衣服や携帯食料を詰めた小さな鞄一つ。それを肩に携えたまま、商人の馬車の荷物の山へと乗り込む。

 ついでにステラから餞別と貰った酔い止めの薬を飲んでおく。薬と聞いて少し臆していたが、思っていたより甘い。砂糖に砂糖を加えたシロップのような感じ。正直これはこれで甘すぎて苦手だ。

 それに続いてクロセルも荷台に乗ろうとするが、身長が足りないのか少し迷ったように右往左往する。

 手が焼ける……と思いつつも、溜息を吐きながら片手を差し出して、クロの身体を一気に引き上げた。


「おぉ、助かったご主人」


「もう少し大きな身体を用意出来なかったのかよ……それじゃ不便だろ」


「見た目を自由に弄れる訳ではないのだ……我の記憶にある自身の姿にしか姿を変えられない」


「……お前いつから杖になったんだよ」


「大凡100の時だな、魔王になってから成長が止まっている故に……これ以上若くなることは出来ても大きくなることは……」


「それ以上幼くなったら流石に俺も相手に困るからもうそれで良い……期待して損したな」


 しかし、今の姿でも十分に幼過ぎる。もう少し成長していれば何かと楽しめたのだが、残念だ。

 必要ないと思いつつも、クロセルに先程と同じ薬を渡しておく。丁度二人分貰ったのだから使わなければ勿体無いだろう。


「んじゃ、出発と行こうか、待たせたなおっさん」


「あはは……お二人とも仲が良いようで、では出発しますね」


 商人のおっさんが温かい目で此方を確認すると、やがてゆっくりと馬車は走り出す。

 王都とやら、この村より大きな都市であることは間違いない。これから出向くであろう未知の世界に対して好奇心が疼く。

 言ってしまえばワクワクしている。心地よい蹄と車輪の音を聴き、馬車に揺られながら、俺は改めて空を見上げた。


 生前の俺の世界は狭かった。言うなれば井の中の蛙、その狭い世界で俺は全知全能の存在。敵なんて居ないと思っていた。

 だが実際は、俺の見ている世界はずっと狭くて。広い世界では俺の存在なんてちっぽけな物だと思い知らされた。


「世界は広いな、クロ」


「突然どうした、ご主人らしくないな」


「らしくないってなんだよ……俺だってこれぐらい考えることもあるさ」


 何故か驚いたような顔をしているクロセルに、苛立ちを覚え拳を飛ばす。弾かれる。


「直ぐ手が出るのはご主人の悪い癖だぞ~?もう少し忍耐って物を……」


「説教を垂れるな、当たらないと分かってるからやってるんだ」


 勝ち誇ったように笑うクロセルを睨み付ける。だが彼女の言うことは最もなことだ。

 今でも俺は怒りっぽくて直ぐに手が出る。弱い者を虐げ強い者に媚びる最低な人間だ。


「ま、だからと言って直すつもりなんて無いけどな」


 神の思う通りに真っ直ぐ生きることすら、天の邪鬼な俺は従いたくないと感じる。

 命を救って貰った感謝はするが、俺は神に祈ることも助けを乞うことも無いだろう。


「本当はお前を頼るのも不本意なんだがな……」


「我はもっと頼って欲しいと思ってるぞ、ご主人に尽くしたいと考えている」


「全く……お前の忠誠心は何処から湧いてくるんだか、俺なんかに仕えて楽しいのか?」


「あぁ!楽しいとも!我は存分に楽しんでいるぞ、ふはははは!」


 高らかにそう宣言し、笑い声を上げるクロセルの姿を見て、呆れたような態度を取りつつも、内心は少しだけ嬉しかったりする。

 一体何を思って俺に付き従っているのか、真意は見えないが……この笑顔が嘘だとは思いたくない。

 俺はこいつを信じると決めたのだから、今更考えるまでもないか。




 そんなこんなで、暫く馬車に揺られていると、自然と眠気が襲ってくる。

 娯楽も何もない旅路で、楽しめることと言ったらクロセルを弄ることぐらいだ。

 そんで肝心のクロセルも……


「すぅ………」


 俺の膝に頭を乗せながら、すやすやと寝息を立てるクロセル。

 睡眠は必要ないと聞いたが、やはり眠気は人並みにあるのだろうか、寝顔を見ていると何故か苛々してくる。


「はー……代わり映えしない風景ばっか見てても何も面白くねぇ、俺も寝るぞ」


 誰に言うでもなくそう一人呟くと、積荷に背を預け、そのまま目を閉じる。

 思っていた以上に眠気が回っていたらしい。数刻もしない内に、俺の意識はずぶりと水底へと沈んでいく。




 そして俺は、後にこの瞬間を後悔することになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ