会議
「ただいま、クロ」
「ご主人……本当に大丈夫だったのか?その手は……」
「あ?これか?気にすんな、ちょっと転んだだけだ。それにしても死者12名、重傷5名か……酷い物だな」
ギルドに魔物の襲撃を解決した報告を終え、宿屋に戻って来た。
既にクロセルは取り巻きを払い、部屋に帰って待っていたようだ。
彼女はベッドに腰掛けながら、破れた服の袖と俺の左手を見ると、驚いたように目を丸くし、心配そうに近付いてくる。
こいつに本当のことを言うと荒事になりそうだ、今は伏せておこう。
「そういや変異種ってのは普通の魔物と何が違うんだ?」
「ふむ、言ってなかったか。本来魔物は利己的な生き物だ、餌となる生き物は喰らえど、無意味な敵意は向けてこない」
「あぁ、そうだな。俺達のやってる魔物退治も殆ど向こうから襲ってくることは無い、あれはあれで少し罪悪感があるが」
「だが変異種は違う。人を殺すことを目的として動く、凶悪な知性を持った魔物だ。一説によると……いや、我の分析が正しければ。
――変異種とは"殺人"の才能を持った魔物だ。
その為に身体は人を屠ることに特化し変異、主に体躯の増大、攻撃手段の増加、耐久性の向上と……その他諸々、人を殺す力を得る」
「これまた限定的な才能だな、というか魔物にも才能ってあるのかよ……」
「あぁ、あるぞ。何しろ魔物とは元来……いや、この話は辞めておこう」
「なんだよ、気になるな」
「余り面白い話ではないのでな、聞いてもつまらないぞ」
こうは言う物の、明らかに聞いて欲しくなさそうな顔をしている。
一体何故伏せるのか理由は分からないが、別に詮索する理由もない。今は気にしないでおこう。
「分かった、んじゃつまり変異種ってのは"殺人"の才能を持って生まれ、身体が変異した魔物ってことだな」
「そうなるな。殺人の才能指数が高ければ高いほど魔物は凶悪かつ強力な力を得る。場合によっては街一つを滅ぼすほどのな」
「なるほど、それなら討伐依頼が出るのも、村を襲撃するのも納得だ」
合点がいったように頷くと、再び帰りに拾った号外に目を落とす。
死傷者の身元までは書かれていないが、恐らく中には冒険者も含まれているだろう。
これを見ていると、あの時に俺が生き残ったのはつくづく奇跡に思える。
思えばあの邂逅が無ければクロセルと出会うこともなかったのか、とすれば感謝しないとな。
「んにしても、殺人の才能があるとか神様は人間が嫌いなのかねぇ……或いは弄んでるだけなのか、どちらにしろ好きにはなれない奴だな」
「他にも悪趣味な才能はあるぞ……拷問、窃盗、恐喝、傷害、一度には挙げきれない程にな」
「分析の才能も十分悪趣味だと思うぞ……」
「何か言ったか?」
「いや、何も」
小さな声でぼそりと悪態をつく。聞こえていなかったようで何より。そっと胸を撫で下ろす。
しかしだ。ふと思ったが、俺はこいつの主人だ。恐れる必要があるのだろうか?
いや、あるか。俺とこいつの主従関係は口約束に過ぎない、いざとなればこいつはいつでも俺を殺せる。
これじゃあどちらが主人か分からないな、と思い……思わずふふっと自嘲するように笑みを浮かべる。
「さて、唐突だが今後の予定に関してだが……俺はこの村を出ようと思う」
「それはまた唐突だな。何故だ?この村で過ごしていても依頼も金銭も不足していないだろう?」
「あぁ、村と名乗っているが此処はそこそこ大きな街なんだろう、それは俺も分かってる。だが俺達は少し目立ちすぎた、いつ誰に疎まれて後ろから刺されるかも分からない」
「我が居る限りご主人に傷は付けさせな……あっ……」
俺の左手にクロセルの視線が向き、彼女は言葉に詰まる。
察しのいいコイツのことだ。俺の身に何があったか大凡気付いただろう。
それならば話は早い。俺とクロセルは常に一緒に行動できるわけではないのだ、故に絶対に安心とは言い切れない。
「この世界の地理を全く把握してないんだが、取り敢えずは此処を離れて大きな街を目指そう。その方が色々と都合がいい」
「となると王都だな、あそこのギルドは大規模だ、此処よりも物価は少し高いだろうが依頼にも不自由しないだろう」
「移動手段はどうする、距離があるんだろう」
「それなら商人に金を払って馬車に乗せてもらえば良い、我の言う通りに動けば数日もあれば手配できるぞ」
「よし、指示は任せる。明日にでも動き出そう、村を出るなら出来る限り早い方がいい」
王都……というのはこの国の首都のことだろう。
件の国の使者のことが気になるが、どうせ待っていても向こうから接触してくる筈だ。
それならば此方から出向いても結果は変わらないだろう。
その晩から。俺達は会議を進め、この村を出る準備を始めた。
全体的に話を小分けにしすぎてるかもしれません、その辺の匙加減が掴めないのでもし宜しければ意見を頂けると有り難いです




