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外伝 クロセル神様大作戦Ⅲ

 目を覚ます。朦朧とした意識の中で、記憶を整理する。

 確か、俺は……クロセルと


「目を覚ましたか、ご主人」


「あぁ、おかえり……クロセル」


 視界が開けてくる、その先には、小さく微笑むクロセルの顔があった。きっと、確かに笑ってくれているのだろうけれど、その瞳は、どうも少しだけ物憂げにも見えた。

 頭の後ろには、太ももの柔らかい感覚、どうやら俺はクロセルに膝枕されているらしい。


「らしくないな、取り乱した」


「くくく、珍しいご主人の姿が見れて役得だったな」


「……それはこっちのセリフだよ、ったく……」


 思い出すだけで、少しだけ頬が熱くなる。綺麗だった。それはきっと、単純にクロセルが美少女であるという理由だけではないのだろう。全く我ながら、惚れた女には甘いものだ。

 身体は起こさない、横になったまま、クロセルの瞳を見つめる。今はもう少しだけ、こうしていたいと思った。


「確か、前にしてもらったのはフェアリーケレッジの時だったな」


「うむ、思えば随分と前のような気もする」


「実際、前世の出来事のようなもんだ、それぐらい久しい感覚だ……」


「我は確かに覚えているぞ、あの日のことを」


「俺とお前が、再契約した日だもんな、いや、思えばあの時がきっと……俺達は本当の意味で繋がったような気もする」


「あぁ、我もそう思うよ」


 シェル公爵の策謀に抗い、洗脳すらも乗り越えて、あの日、俺とクロセルは二人で一人になった。漠然とした利害関係だけではない、強い絆で結ばれた特別な関係になった。


「クロセル、お前は俺の物だ……お前が神になろうと、魔王であろうと……それは変わらないよ」


「っ……!? あ、ありがとう……」


「……他の誰にどう思われようと気にするな、俺だけはずっとお前の味方なんだからさ」


 ふわふわとした意識の中で、思わず口を衝いたのは、そんなセリフだった。どうして、突拍子もなくこんな言葉が頭に浮かんだのか。

 あぁ、そうだ……それはきっと……


「泣くなよ、クロセル……」


 涙を浮かべながら、酷く苦しそうな顔をしている……俺にとって、この世界で誰よりも大切な君に、笑って欲しかったからなのだろう。

 優しく手を伸ばす。クロセルの頬に浮かんだ雫を、小さく拭って。


「だが、我は……私は、魔王として、多くの命を……」


「――クロセル、俺は悪人か? 死んでしまった方が良い存在なのか? 幸福になる権利のない咎人か?」


「違う、ご主人は……」


「もし、この世界で『罪』が赦されないものなのだとしたら、クロセルだけじゃない、俺だってきっと赦されることのない存在なんだ」


 簒奪者として生きてきたのは、クロセルだけじゃない、俺もそうだ。生きるために奪った、生きるために殺した。

 それは決して赦されない、正当化されることのない、俺の罪だ。


「俺はずっと、罪に縛られていた、自分が悪人だと言い聞かせて、幸福になってはいけない、誰かを幸せにすることの出来ない、そんなクズだと思ってた」


「あぁ、そうだったな……ご主人はすぐに自分を悪者にしたがる、本当は、ずっと優しいのに」


「俺の罪は赦されない、けど、クロセル……多分、お前だけは、俺のことを赦してくれるのだと、長い旅の中で俺は気付いたんだ」


 手のひらに残った、血の感触は今でも覚えている。誰かを傷付けたという呪いは、いつまでも俺の手から消えることはない。きっと、それが罪というものなのだろう。けれど……


「罪は消えない、きっと……死ぬまで背負っていかなきゃならないものなんだろう。けどさ、もし……お前が俺を赦してくれる唯一の存在なのだとしたら……」


 俺は、両手を伸ばす。クロセルの首に手を回して、そのまま、小さな身体を抱き締めた。

 君の身を襲うような、冷たい罪の感触よりも、暖かく、強く、強く。


「――俺は、お前を赦し続けるよ、クロセル」


「ぁ……あぁ……うぅ、ぐすっ……ご主人……」


 君は泣き止まない。ぽつぽつと降り注ぐ雨は、今は土砂降りのようで。堰き止められていた感情が、きっと涙と共に零れ落ちているのだと感じた。

 悔しいな、俺は君を笑わせたかったのに。

 けど、その涙は、きっと悲しみの涙ではないのだと、鈍い俺でもなんとなく分かった。


 尊大で、賢いかと思えばちょっと抜けていて、強くて、けれど臆病で、とっても可愛らしい、小さな小さな魔王様。

 けれど、今はただ。一人の少女として、俺の手の中で、笑いながら涙を流す。

 今夜は長いのだから、語り明かそう。まだ話し足りない、二人のことを。つまらない話でも、君と一緒なら笑えるような気がするから。

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