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外伝 クロセル神様大作戦Ⅱ

「ヤマト君! 祝福の勇者ニコラスが遊びに来たよ!」


「あぁ……よく来たな……」


「……抜刀斎ニコンが!」


「あぁ、歓迎するよ……」


「……」


 元祝福の勇者ニコラス。今は祝福もないし勇者でもないが、神だった頃からの付き合いだったこともあり、定期的に遊びに来る。

 その度に、多分、いつもの俺だったら追い返してたんだろう。


「ここ最近ヤマトさん……めっちゃしおれてません……?」


「だよね!? 僕に対するツッコミに明らかにキレがないよね!?」


 アカツキが心配そうに顔を覗き込む。そんなにテンション低いだろうか、俺。

 というか勇者、お前……遂にツッコミがないと満足できない身体になってしまったのか……

 という言葉を口に出すのが、どうも億劫で、俺は……


「勇者には……世話になったからな……」


「やっぱりおかしいよね?」


「おかしいですね……」


 本格的に二人が困惑した表情で顔を見合わせる。

 まぁ、その理由は……自分でもなんとなく察しているが……


「ヤマト様、クロセルに依存しすぎ」


「カナデ……はは……俺の血……吸うか……?」


「いや本当に末期じゃない……? 本当にこの人クロセルなしで数千年生きてこれたの……?」


 カナデの冷たい視線が突き刺さる。いやこれはガチで引かれてるやつだ……落ち着こう。

 教皇にクロセルを預けてから……一ヶ月経った。

 そんな風に呆けていると、気付けば瀬野まで俺の心配の列に加わっていた。


「あはは……ヤマト的には数千年分の反動なのかもね……」


「いや、長くないか……?」


「長い……数千年が?」


「違う、俺はその、こう、数日ぐらいならクロセルを貸してやってもいいなという心積もりでイヴェンの奴にクロセルを託したんだ……」


「……耐えられる期間結構短いんだね?」


「寂しい……」


「ほら、元気だして、手品見せてあげるから……」


「一人じゃ嫌だ……」


「手品って別にマルチプレイコンテンツじゃないんだけどね……?」


 瀬野にツッコまれるというのは、流石に末期なのだろう。

 そんなこんなで、俺が限界寸前になっている、ある日のことだった……




「ヤマト様、お客さん」


「……誰とも会いたくない……」


「聖教会だけど、いいの……?」


「聖教会……聖教会!? クロセル!」


 カナデの言葉が脳に届くまで、少し時間が掛かった。

 クロセルが帰ってくる、その事実だけで、俺は転びそうになりながら玄関に駆け出した。




 こんな格好で、ヤマトに会わないといけないのだろうか。

 私は、改めて鏡で自分の姿を一瞥する。まるでウエディングドレスのような、真っ白いドレスに、白銀のティアラ。

 右手には本体である魔杖クロセル……をもうなんか聖杖クロセルみたいな感じに魔改造したやつ!

 普段の服装も恥ずかしい自覚はあるが、この格好はなんというか……あまりにも自分らしくなくて顔が赤くなる。


「神様、ヤマト様の前でボロを出したら不合格です、また長い長いお勉強が始まりますからね」


「……分かっています」


 教皇に対して、慣れない敬語で返す。意図的に落ち着いた口調、ゆっくりとした話速で言葉を紡ぐ。

 真っ赤になりそうな顔を、理性で押し殺し、凛とした表情を維持する。よし! 今のところは大丈夫。


「では、カナデさん、ヤマト様を呼んできてください」


「これを見たらヤマト様、卒倒しそうだね……私でも惚れそう……取り敢えず呼んでくるよ?」


 カナデが心底驚いた表情で私を見ている。カナデとも長い付き合いだが、こんな反応は新鮮だ。そんなに今の私は変なのだろうか。

 カナデが屋敷に戻り、そして暫くすると、どたどたという足音が近付いてくる。


 そして、玄関の扉が開け放たれた。


「クロセ……ル……?」


「お久しぶりですね、ヤマトさん」


 小さく首を傾げながら、にっこりと笑いかける。ここまではプラン通り。

 あとはヤマトの反応に合わせて臨機応変に……


「綺麗……だ……」


「ぇ……ぁ……」


 わー! わー! そんな直球な褒め言葉! 初対面でしか言われたことない!!!!

 待て待て落ち着け神様クロセル、ここで狼狽えてはまた長い長い修行期間に後戻りだ、訓練の成果を見せるのだ頑張れ私……


「ありがとうございます、私もヤマトさんに会えて嬉しいです」


 にっこり。多分にっこりできてる。ニヤついてない、はず。

 ヤマトの方はどうだ、分析の才能をフル回転させる、ふむ……傷害の才能は0……じゃなくて! そこまで初対面再現しなくていい!

 呆けている。いや、見惚れている。これは確実に見惚れている! 間違いない、ふふふ……


「この、様子だと……俺の心配は杞憂だった……みたいだな……」


「えぇ、そうですね。神として上手く振る舞えていると良いのですが……」


 時に、完璧すぎる存在は恐怖を与えてしまう。適度に親近感を与えるために、疑問形を活用しろと教わった。

 こうすれば自然と相手から言葉を引き出せる。例えば「そんなことないですよ!」とか「そうですね」とかそういう感じ。

 そして! ここに物憂げな表情で少しだけ俯くワンポイントを足して保護欲を掻き立てる! 完璧!


「あぁ、完璧すぎる……完璧だ……」


 だが、先ほどからどうもヤマトの思考が読めない。

 いくら分析をしても、何の情報も入ってこない。これはまるで何も考えていないかのような……いや、違うな、もしかしてこれは……


「……ごふっ」


「……!? 大丈夫ですか!? ヤマトさん!?」


 ヤマトが血を噴き出す。鼻と口の両方から。これはあれだ、多分、思考がフリーズしてたという奴だろう……読めなかったのはそういうことだ。

 つまり……これは悩殺に成功したということではないのか? というかここまでヤマトが私に欲情してくれたのは初めてなのでは!? 毎日隣で寝てるのに手を出してくれなかった彼が!?

 まずいまずい、おめめがぐるぐるするところだった、ギリギリで回避成功。私は平常心。平常心。


「クロ……セル……」


「な、なんでしょうか……?」


 ヤマトが、ふらふらになりながら、私の顔をじっと見つめる。

 急にどうしたのだろう、明らかにヤマトの方はキャパオーバーだし、そろそろ一旦切り上げた方が良さそうだが……


「――結婚しよう」


「する!」


 ……あ。いやだってしょうがなくない!? こんなチャンス何万年に一回あるか分からないし! 即答しちゃうのはもうなんというか不可抗力というか……いやでも別にね! 私とヤマトは世界を超えた絆で結ばれてるからもう結婚とかそういう次元はとっくに過ぎてるけど! でも――


「……こほん。そういうセリフは、神様ではなく、もっと大切な人に言ってあげてくださ……ヤマトさん?」


 脳内で駆け巡る邪念と邪念と邪念を取り敢えず無かったことにしようと、小さく咳払いをして仕切り直そうとする。

 が、その前に……ヤマトは白目を剥いて気絶していた。


「ここまでですね、ヤマト様を部屋まで運んであげてください」


 教皇が、パチンと手を叩くと、周囲の福音使徒がヤマトを運んでいく。

 一応は元神様なので、すごく丁重に……


「……どうでしたでしょうか?」


 私は、やや引きつったような苦笑いを浮かべながら、優しく教皇の方を一瞥する。

 教皇はと言うと……案の定というか、頭を抱えていた。


「まぁ、及第点としましょう……恐らく神様もヤマト様の前だとこうなってしまうのは仕方ないでしょうし」


「ありがとうございます……」


「お若いですね……お二人とも私よりも長く生きてらっしゃるのに……」


「申し訳ありません……」


「神様が謝ることはないです、基本的に私よりも偉いのですから、その辺の上下関係も慣れていきましょう」


「分かりました、ありがとうございます」


 取り敢えず、私は神様合格らしい。

 ほっと胸を撫で下ろす。触って気付いたが、胸はバクバクだ。そりゃそうだ、よく最後まで平常心を保てたと思う。いや保てなかったが……


「今後に関してですが、依頼のような形で神様に式典や儀式への出席をお願いする形になりますかね、あとは荒事の解決も、こちらはちょっとズルをしますが……」


「分かります。パフォーマンスのような形式的なものですね」


「そうなります、神が人を殺したりする訳にはいきませんので。前まで勇者がやっていたヒーローショーのようなものです、神様には派手に演出していただければそれで問題ありません」


「それ以外の時は、いつも通りヤマトさんの側にいても大丈夫ですか?


「えぇ、恐らくはそうしないと、神様もヤマト様も保たないと思いますので……」


 教皇は苦笑いをする。恥ずかしい限りだが、全く否定できない。


「それと、神様の仕事にはヤマト様も同行して大丈夫ですよ」


「福音使徒として、ですね。それに万が一の補給の為に」


「はい。元々、今のヤマト様の身体は福音使徒のものですから、特別浮くこともないでしょう」


 ヤマトが見ている、そうなると俄然やる気が出てくるというものだ。


「では早速で悪いのですが、実はもうすぐ教国の建国記念式典がありまして、当然ですが神様にも出席して頂くことになります」


「分かりました、いつになりますか?」


「明日です」


「……もう一度聞いても?」


「明日になりますね」


「心の準備が……」


「しておいてください」


 教皇の笑みが怖い。確かに、神様としての振る舞いは学んだ。

 ヤマトを前にしてもボロが出ないぐらいには洗練されているはずだ。

 けれど、それと"人前に出ること"は別の話だ。



『この人殺し! 悪魔!』


『あぁ……魔王だ……この街は今度こそお終いだ……』


『良いぞ! 魔王を殺せ! そして俺達が英雄になるんだ!』



「っ……」


 怖い。本当に、私なんかを人々は受け入れてくれるのだろうか。

 どれほど表面を取り繕っても、私の醜悪な本性が見透かされるのではないだろうか。

 怖い。あの日の恐怖が、絶望が、やっぱり私は忘れられない。


「今夜だけは……"クロセル"でよいでしょうか?」


「……構いません、元よりそのつもりです」


「ありがとうございます、では……」


 パチンと弾けるように、用意してもらった神様衣装と、普段の魔王衣装が切り替わる。

 地面にふわり、と着地して、くるりと一回転する。うむ、やはりしっくりくる。


「ありがとう、教皇、では失礼するぞ」


「はい、ではまた明日、クロセルさん」


 そして、私はヤマトの側へ向かった。

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