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初陣

戦闘シーンって難しいですね

 暫く歩いた所で振り向いてみれば、案の定。俺に付き纏うような人間は居ないようだ。

 ふぅ、と溜息を吐きながら安堵したのも束の間。


「………」


「……何のつもりだ?」


 俺が振り向いた隙に、路地から三人組の男が現れ、素早く取り囲む。

 歩みを進め、押し進もうとするが男は手を横に広げ通せん坊する。完全に道を塞がれた。

 この空気には覚えがある。面倒なことになったな。


「この村は俺達の縄張りだ。故に、余所者でありながら依頼を食い潰すお前が邪魔な存在だというのは分かるな?」


「これは警告だ、今直ぐにこの街を去れば痛い目には遭わないで済むぞ」


「ふむ、なるほどな、お前達の要求は分かった」


 そんな脅し文句に、至極冷静に返答していく。

 言われてみれば、ここ数日で俺に出来るような簡単な依頼は片っ端から消化してしまっている。

 クロセルが居れば大体のことはなんとかなるからと少し調子に乗りすぎたか。

 しかし、こんな輩も居るんだな。三人共見てくれは只の冒険者だ。

 武器に手を掛け、人斬りを躊躇う様子も見えない所から手慣れであると予想できる。これは厄介だな。

 大人しく言う通りにすれば、確かに逃してもらえるだろう。

 一方的な攻撃ではなく交渉を持ち込んできたということは、俺を傷付けると相手に少なからず不都合が起きると推察できる。

 警察的組織の存在を恐れているのか、或いは俺自身の力を恐れているのか。少しハッタリを掛けてみるか。


「嫌だと言ったら、俺と戦うか?」


「そうだな、余り手荒なことはしたくないが少しばかり痛い目に遭って貰うことになる」


「俺を魔術師と知っての狼藉か?俺の方も余り手荒なことはしたくないんだがな」


「ふん、嘘をついても無駄だぞ、お前は魔術の才能を持っていない」


「……根拠はあるのか?」


「自分の奴隷に戦闘を行わせて自分は見てるだけ、それがお前のスタイルだ、調べはついてる」


「俺が才能を隠しているとは考えないのか、愚かだな」


 クロセル曰く、魔術の才能を持つ人間はとても少ないらしい。

 故にその存在は希少で、その力に対し邪な感情を抱いた人間にその身を狙われることも多いと聞く。

 その線でカマをかけてみたが、どうやら失敗のようだ。


「長話で時間稼ぎか?そんなことしてもお前の奴隷は戻って来ないぞ」


「盗み聞きとは趣味が悪いな、全く……こんな横暴なことをして捕まっても知らないぞ」


「自警団は件の襲撃の処理に追われて忙しいだろうさ、お前に助けは来ない」


 警察的組織の存在は確認した。これで迂闊に足が残る殺しをすることは無いと考えられる。

 なら此処は……少し運動と行くか。


「大人しく言うことを聞くなんてプライドが許さない。良いさ、相手してやるよ!」


 そう大声で叫びながら先制を取る。


 取り囲んだ三人の距離は然程離れていない。


 軽く膝を折り、勢いを付けながら飛び上がり正面の男を蹴り上げる。


 その蹴りは男に触れる寸前で弾かれる。

此処までは予想通りと言った所だ。傷害行為に対し反発力が発生するならそれを利用するのみ。


 強い蹴りの反動で俺の身体は宙へと舞い上がる。眼の前の男は怯むが、他の二人は素早く剣を抜き、構えを取る。


 そのまま男達の前に着地。取り敢えずこれで包囲は解けた。


「チッ……なんだ今の動きは、おい!やるぞ!」


 俺と言葉を交わしていたリーダー格の男は、蹴られたはずの部分を訝しげに一瞥した後に、剣を構える二人にそう号令を掛ける。


 左の男が俺に肉薄し、袈裟懸けに剣を振り下ろす。

 が、見えているならばどうとでもなる。数々の喧嘩の経験は伊達ではない。


 男の懐に潜り込み、敢えて紙一重で身を捻り躱す。

 ヒヤリとした物が胸を流れ落ちるのを感じ、心の中で毒づく。真剣が相手となるとやはり少し恐怖があるようだ、俺もまだまだだな。


 振り下ろした剣戟が次の攻撃へと移る前に、俺は半身を捻った姿勢から一気に腕を振りかぶり、手にしていた薬瓶を男の顔面に叩き付けた。


「あぁ……勿体ねぇ、折角貰ったのに」


 当然のように手に感じる反発。瓶には二つの方向から強い力が加わり……当然弾ける。

 パリンという小気味良い音と共に中の液体は男の顔面へと降り注いだ。


「うっ……くそっ、目が!」


「これなら通じるか、全くこの才能チカラも穴だらけだな、神様って奴も適当なこった」


 剣を落とし、目を抑えて戦意を喪失した男を"優しく"押しのけ突き飛ばす。これで一人。


「っと、同時に攻めれば良い物を。これじゃ折角三人相手だってのにつまらねぇ」


 そう呟きながら、背中に当たった生暖かい風を頼りに反射的に回避動作を取る。


 大きく身を横に傾けた所、刹那に頭上を横薙ぎの一閃が走っていく。


 そのままくるりと身を翻しながら一歩距離を取る。そこに案の定、挑発に乗ったリーダー格の男が此方へと斬りかかってきた。


「おっと、威勢はいいが雑魚が集まっても足を引っ張り合うだけだぞ」


 二方面からの攻撃だ。一方は安直な上段からの斬りかかり、もう一方は刺突の姿勢。その距離は直ぐ間近である。


 素早く片方の男へと近付き、刺突を構える剣と反対の腕を掴む。成功。こうなってしまえばこっちの物だ。


「ぐあぁぁぁぁぁぁ!?」


 強く腕を引き、姿勢を崩した男の胸元を掴む。此処まで近付いてしまえば剣は振るえない。そのまま軽々と男を持ち上げ、ある方向へと向ける。


 そう、その方向には剣を大きく振りかぶったリーダー格の男が居た。

 頭に血が上った勢いだけの攻撃、今更止めることも出来ず、その斬撃は俺の掴んだ男の背を見事に切り裂く。


「くっ、卑怯だぞ!」


「誰が言うか、さっさと失せろ、今のは深かったぞ」


 背を切り裂かれた男の利き手から剣の刃の部分を掴んで強引に奪い取り、そこらに放り投げる。


 左手から盛大に血が噴き出るが、この程度の痛みでどうこうなる身体じゃない。


 後に残ったのは倒れた二人の男と、完全に戦意を喪失したリーダー格の男のみ。

 俺としてはこのまま続けても良いが、それが無謀だということは相手も気付いたようで。

 リーダー格の男は悔しげに歯軋りしながら、剣を落とし武装を解除する。


「……行け、くそっ……覚えてろ」


「此方の台詞だ、次は無いからな」


 純粋な暴力行為を抜きにして、三人を戦闘不能に出来ただけ上々だろう。

 やはりこういった喧嘩は血が騒ぐ。生前の俺の経験がこの世界でも通用すると分かっただけ収穫だ。

 落ちている剣を借り、軽く服を破くと、それを包帯代わりに左手を止血する。

 去り際に男達を強く睨み、捨て台詞を返す。そして俺はその場を立ち去った。

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