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外伝 月の綺麗な夜に

お久しぶりです、何年待たせるんだって話ですね

書きたい外伝は色々あるのですが、まずはこれから、大事な読者が一人増えた記念に投稿します

 私の名前は鳴無 奏。


 鳴無という名字は、戸籍上は正しくない。何故なら私に両親はいなかったから。

 物心がついた時から、"カナデ"という三文字が、私の唯一の識別子だった。


 それに、その三文字ですら、"奏でる"なんて美しい意味じゃなかった。

 私の所有者にとって、私は『金』の『出』ていく貧乏神でしかなかった。それを揶揄して金出、カナデと呼ばれていたのだろう。


「――お前なんかを拾うんじゃなかった」


 それが、あの人と交わした最後の会話だったような気がする。

 気付けば私は、荷物と呼ぶには軽すぎるリュックを背負って、夜の公園のベンチに座っていた。


「これからどうしようかな」


 夜空を見上げる。月が綺麗だった。

 多分、私は不幸な人間なのだろう。けれど、何故か心は平坦で、穏やかなままだった。

 静寂が心地よい、怒声が響かない、音のない世界。そこで、ただ自分の心臓が打つ音だけが規則正しく脳を揺らす。

 心地よかった。静かで平穏な現在は、存外気分の良いものだった。


 鳴の聞こえない静かな世界で、命という音を奏でる。

 鳴無 奏という偽名は、思えばこの時の感情から生まれたものなのだろう。


「……さて」


 立ち上がる。足取りは軽い。

 さぁ、何処へ行こうか。思えば自由というものを手に入れたのも、これが初めてだったような気がする。

 今の自分は、きっと何処へだって行ける。そう信じていた。


 私は幼かった。未熟だった。常識というものもきっと身に付いていなかったのだろう。

 こんな深夜に、10代の少女が出歩いて、リスクが無いわけが無かったのだ。


「――ガンッ」


 痛み。何故?疑問が浮かぶ。

 温かいものが額を垂れる。殴られた、そう気付いた時には遅かった。

 意識が遠のく。同時に、耳障りな声が耳を衝く。


「おい馬鹿、やり過ぎだ、殺すなよ」


「わりぃ、市街地に近いし、声を出されると面倒だからな、一撃で気絶させたかったんだよ」


「……ったく、どれどれ……よし、死んではないな、さっさと連れてくぞ」


 言葉の意味は分からない。思考はもう回らない。

 ドクドクと流れる命の音だけが、私の耳に残って。

 世界は暗転した。




「いたっ……」


 痛みで目を覚ます。後頭部が割れるように痛い。

 おぼろげな意識で記憶を辿る。あぁ、殴られたんだった。

 ここはどこだろう、耳を澄ますと、耳障りな声が壁の奥から聞こえてくる。

 それと、これは波の音だろうか。海が近くにあるのだろう。


「……――、――!?」


「――、――――……」


「日本語じゃない……?」


 聞こえてくるのは、異国の言語。

 内容が分かれば、少しは現状を分析できると思ったが、そう甘くはなかった。

 ただ、馬鹿な私でも推測はできる。


 手足は拘束されている。部屋は暗くてよく見えないが、周りに私と同じように気絶している人がいる。命の音が聞こえる。

 外国人が、人を気絶させて一箇所に集めて、近くには海。となれば、多分海外に連れて行くのが目的なのだろう。

 自分がどのような扱いを受けるのか、なんとなく想像はつく。


「また、逆戻りか……」


 折角自由になれたのに。そんな感情が湧いてくる。

 結局、この程度の人生だったのだ。

 諦観が心を支配する。何かを望めるほど、私は幸福ではなかった。


 そして、再び目を閉じようとした、その時。隣に座っていた人影が、もぞもぞと動き出す。

 やけに私に近い場所で蠢いている。何がしたいのか良く分からない。

 そう思っていたら……


「ブツッ……」


「よし、成功!」


「え……?」


 私の腕の拘束が解かれる。同時に、小さく小さく喜ぶ声が聞こえた。


「あ、声出しちゃダメだからね……静かに静かに」


「……え」


「手は動かせる? 僕の靴の中に小さなナイフが入ってる、それで拘束を解いてくれないかな?」


 暗闇に目を凝らす、どうやら私の拘束を、この蠢く人影は解いてくれたらしい。

 まだ、希望はある。その僅かな事実が、臆病な私を奮い立たせた。


 音を立てないように、静かに起き上がり、隣の蠢く人影の靴を脱がす、確かに小さなナイフが、靴底に貼り付けられていた。

 私と同じように捕まったのだとしても、やけに用意周到すぎる。何者なのだろう。そんな疑問を頭に浮かべながら、私はナイフで人影の拘束を解いた。


「ありがとう!いや助かった、近くに意識のある人がいて助かったよ……」


「あなたは……?」


「あ、僕? まぁ名乗るほどの者じゃないよ。さて、取り敢えず逃げようか」


 人影は立ち上がる。男性にしては小柄だが、声からしてきっと男の人なのだろう。


「えーっと、流石に正面突破はきついよなぁ……僕は戦闘苦手だし……」


 私を助けてくれた男の人は、光が漏れ出ている扉に近付いて、その隙間から外を覗き込む。

 そして、困ったように笑いながら、何かないかと周囲を確認しているようだった。


「そもそもここ何処なのかなぁ、倉庫っぽい気はするんだけど」


「近くに海があるから、港湾施設じゃないかな……」


「海? なんで?」


「波の音、聞こえない?」


「全然聞こえないけど……すごいね」


「外にいる人は8人くらいかな、多分……全員男の人で、3人は銃を持ってる」


「……なんで分かるの?」


「音……?」


 男の人は、私を見て目をぱちくりさせる、驚いてる。暗いけど多分そう。


「すごい耳が良いんだね、ありがとう、突破口は見えたよ」


「え、今ので……?」


「武器が銃なら、逆に僕達に勝機がある、それにこれだけ外が照明で明るいなら……やっぱり僕達が有利だ」


 男の人は、そう言って、さっき脱いだのと逆の靴を脱ぐ。

 そこには、今度は一本のダーツが入っていた。


「まさか……それで戦うの?」


「いや、そんなの無理だよ、僕弱いしね」


「ダーツで、何を……?」


「僕、結構手品とか得意なんだよね、仲間の役に立てないから、せめてみんなを笑わせたくて」


 そう言いながら、男の人は扉を少しだけ開く。

 その隙間は、それこそダーツ一本が通れるほどの、とても狭い隙間。それで何かができるようには、私は思えなかった。


「良い? 僕が合図をしたら、身を屈めて全速力で外へ走るんだ」


「身を屈めて?」


「相手が乱射でもしてきたら万が一があるからね、相手は目が暫くは見えないだろうから、外に出たらなるべく暗い道を走って逃げるんだ」


「……分かった」


「あと、まぁこれは保険だけど……」


 そう言って、男の人は、扉から漏れ出る僅かな光を頼りに、床で何かメモのようなものを書き始める。

 そして、それを私の手に握らせた。


「もし、僕に万が一のことがあったら、このメモを書かれた住所まで届けてほしい」


「これ、何処の住所?」


「僕の仲間がいるところかな、ちょっと怖い人たちだけど、大丈夫」


「すごいんだね、お兄さん」


「僕は凄くないよ、いつだって守られてばっかりだった」


 男の人は、自嘲するように小さく笑う。確かに少し頼りない雰囲気だけれど、それでも、私を助けてくれた。勇気ある人だと、私は思った。


「さぁ、行くよ」


「うん」


 そして、男の人は手に持ったダーツを、器用に扉の隙間から放つ。


「ブーン……」


 すごい、どういうからくりなのかは分からないが、扉の先の照明が落ちた。

 同時に、男の人は合図をする。同時に、私達は駆け出した。


「――!?――!!!!」


 耳障りな声が響く。私と男の人は、身を屈めて倉庫の中を走った。

 急に照明が落ちたことで、混乱する黒服の男たち。今まで明るい場所にいた男たちはきっと何も見えていない。逆に暗い場所に閉じ込められていた私達は、この暗闇の中でも目が見える。


「すごい!お兄さん!」


「あはは、ありがとう、失敗したら二人揃って死んでたからね……成功してよかった」


 そんな会話をするぐらいには、余裕のある状態で、私達は倉庫から抜け出す。

 外には港と海が広がっていた。少し遠くに、街の灯りが見える。


「あの街に向かって走るよ、あいつらも多分、街中で暴れるのは避けるはずだか――」


 パン、乾いた音が響く。

 聞いたことのない音。不快な音。

 それが、銃声なのだと、私は初めて知った。


「お兄さん!」


「いったぁ……撃ってくるとは思ってたけど、この暗闇で当てられるのかぁ……あはは、僕ってやっぱりダメダメだなぁ……」


 男の人は笑いながら倒れ込む。撃たれた?


「死なないで、お兄さん!」


「あぁ、僕は大丈夫、足を撃たれただけだから、いや痛いけどね……めっちゃ痛いよ……」


 慌てて足を確認する、暗くても分かるほどに鮮やかな赤色が、ドクドクと地面に広がっていく。


「うん、まぁ……これは無理かな、僕はいいから、君一人で逃げて」


「そんな……」


「大丈夫大丈夫、僕ってそもそも人質なんだよね、だから捕まっても殺されない、君が生き延びてくれれば、多分ヒーローが僕を助けに来てくれる」


「ヒーロー……?」


「そうだよ、どんな逆境だろうと覆す、最強のヒーロー、あの人に、僕は少しでも近付きたかった、だから柄でもないことをしちゃった」


 違う。そう言いたかった。眼の前の男の人、よく見れば、少年と呼んでも良いぐらいに幼いであろう男の人。

 名前も分からない、そんな誰か、それでも、私にとっては……


「お兄さんこそが、私のヒーローだよ……」


「さぁ!急げ、悠長に話している時間はない、君は捕まればきっと殺される、だから走れ!」


「っ……!」


 私は、走る。振り向かず、一心不乱に。あの小さなヒーローから受け取った、一枚のメモを抱き締めながら。

 ただ走る。息を切らして。いつもは心地よい心臓の音が、あまりにもうるさいと感じるほどに。




 気付けば、周囲が明るいことに気付く。街の灯りが、私を照らしていた。

 振り向く。誰もいなかった。黒服の男たちも、当然……あの少年も。

 あまりにも非現実じみていた。今までの出来事は夢だったのではないかと思うほどに。


「この住所……」


 けれど、あの人から受け取った一枚のメモと、後頭部の鈍い痛みが、ここが現実だと私を囃し立てる。

 住所は遠くない。一刻も早く、これを届けなければ……




 何時間走っただろうか。もう、足の感覚も分からない。


「ついた……」


 小さなビル。ヒーローの住まいとは思えないほどに、荒れ果てた入口。けれど、そんなのはどうでもいい。

 ノックもせずに中に入ると、部屋中にいる強面の男達が、何事かとばかりにこちらを睨み付けてくる。


「おい誰だ、こんな時間に!」


「おいおい、ここはガキが来るところじゃねぇぞ?」


 耳障りな声が、私をノックする。怖い、そんな感情が私にもあったのだと驚く。

 本当に、こんな場所にヒーローがいるのか? 私は、場所を間違えたのではないか?


「大声を出すな、何時だと思ってる……」


 そんな張り詰めた空気の中、一人の男の声が響く。

 耳障り、とは感じなかった。他の男と同じようで、少し違う。

 それが何故なのか、私には分からなかったけれど、仄かな確信があった。


「お前……怪我してるのか?」


 黒い髪に黒い瞳、スーツを着た青年が、すたすたと歩いてくる。

 この組織のリーダーなのだろう、周りの男たちは黙り込む。

 けれど、あまりにも若い。周りを大の大人に囲まれながらも、気圧されることなく、トップに相応しい威厳を放っている。

 そんな不思議な男が、屈んで私の顔を覗き込む。


「ったく……こんな据わった目をしたガキがいるわけねぇだろ……おい、少女、何があった?」


 目を合わせただけ、それだけなのに、この男は私の尋常ではない様子を悟り、対等な存在として言葉を交わしてくれた。

 あぁ、きっと……この人が……


「あなたは、ヒーローなんですよね……?」


「……違う、俺は悪人だ、クズの外道だ、見りゃ分かるだろ」


「助けてください!あの人を……あの……」


 説明しようとして、思わず言い淀む。あぁ、そうだ、私はあの人の名前すら聞いていなかった。

 その事実に、今更になって、涙が込み上げてくる。


「……落ち着け、泣かれると困る」


 男は、バツの悪そうに顔をしかめながら、恐る恐る手を伸ばす。

 そして、私の頭に何度か触れる、殴るような強さではないけれど、撫でると呼ぶには不器用な力加減で。


「そいつは、俺のことを『ヒーロー』と言ったんだな?」


「……はい」


「ったく、そんな馬鹿はこの世に一人しか居ねぇよ……」


 男は溜息を吐く、そしてそのまま立ち上がると、この部屋の入口に置かれた傘立てに入った鉄パイプを徐ろに拾い上げる。


「お言葉ですが、ヤマトさん、行くべきではないです」


「仲間を見捨てるつもりか?」


「相手はチンピラやヤクザじゃないんですよ」


「んなことは分かってる」


「どれだけ喧嘩が強いヤマトさんでも、流石に銃で武装した相手に勝てるとは思いません」


「あぁ、そうかもな」


 周りの男達に『ヤマト』と呼ばれたその男は、私の視界を塞ぐように前に立ちながら、言葉を続ける。


「お前ら、あいつのことをどう思ってる?」


「……正直、この組にはいるべきではないと思ってます、男とは思えないほどに弱虫、ヘラヘラしてばっかりで拳の一つも出せない、何の役にも立たない足手まといだと……」


「あぁ、だから俺は行くんだよ」


 私は小さくヤマトという男を見上げる。

 その目は黒く黒く、氷のように冷たく、私を見下ろしている。

 けれど、口元は小さく笑っていた。


「そんな弱虫が、勇気振り絞ってガキ一人守り抜いたんだ、ならもうあいつも立派な漢だ」


「……俺達は止めましたからね」


「あぁ、ありがとな、だがまぁ心配要らない、ささっと連れ帰ってくるさ」


 そう言って、ヤマトは私の持っていたメモをゆっくりと手に取る。

 そして、ぐしゃりと握り締めると、そのまま一歩踏み出した。


「あ……」


 ヤマトは歩いていく、確かな足取りで。

 私は慌てて、その背中を追い掛けた。それに気付いたヤマトは、道の中央で小さく振り向く。


「ん、どうした少女、さっさと家に帰れよ、こんな時間に出歩くもんじゃねぇぞ」


「おじさん……ほんとに勝てるんだよね、ヒーローなんだよね?」


「おい……俺はまだそんな年じゃねぇ……」


 ヤマトは、がくっと肩を落とした後に、少し考え込む。

 そして、ふっ……と小さく笑うと、鉄パイプを肩に担ぎながら宣言する。


「あぁ、そうだな……ヒーローは守りたいものを守り抜いて、物語をハッピーエンドにするのが仕事だからな」


「ハッピーエンド、そうだよね……私も、ハッピーエンドは好き」


 そう言い残して、ヤマトは走り出す。その背は、確かに頼もしかった。




 その後、あの人達がどうなったのか、私は知らない。

 私は警察に保護されて、色々あって施設で暮らすことになった。

 後日、あの事務所があった住所に行ってみたけれど、そこはもぬけの殻で、お兄さんとヤマトという男が無事だったのかは分からず仕舞いだった。

 やはり、夢のように現実味のない一夜だったと思う。その反動か、その後の私の人生は、割と平凡そのものだった。



 けれど、月が綺麗な夜は、思い出す。

 頼りないけれど、誰よりも勇敢だった少年のことを。

 少し怖くて不器用だけれど、必ず仲間を助けて、物語をハッピーエンドにしてくれるヒーローのことを。




「右だ」


「ふっ、もう俺は騙されないぞ、答えは『どちらでもない』だな……」


「ご主人、それはズルいぞ、もしその答えを選ぶなら具体的に何処に隠したかまで言い当ててみるがいい」


「くっくっく……俺が何年生きてきたと思ってる、手品の手口なんか全通り把握してる……答えは俺のポケットの中だ」


「じゃあ、答え合わせをするよ?」


 瀬野が両手をグーにした状態で、前に突き出している。

 ヤマトとクロセルは、そのどちらの手にビー玉が隠されているか当てるゲームをしているらしい。

 どちらも自信ありげという様子、特にクロセルはさっき魔術まで使っていた、大人げない。


「答えは~」


 そう言って、瀬野が両手を開く。当然……どちらの手にもビー玉は入っていない。


「ずるいぞ!ルール違反だ!そもそも『どちらの手に入っているか』という前提条件を破壊するのはゲームとして成り立っていない……!」


「残念、俺の勝ちだな、これだから手品を理解していないお子様は」


「くっ……じゃあ本当にご主人のポケットの中に入っているのだな!?」


「あぁ、このパターンなら100%そうだ……そう……だ……ろ?」


 そう言いながら、ヤマトはポケットを漁る。けれど、幾ら探してもビー玉は出てこない。

 焦りだすヤマトを見て、悪戯っぽく笑いながら、瀬野は靴を脱ぎ始める。

 そして、その靴底をくるりとひっくり返すと、カランという小さな音と共に、光る玉が床に転がった。


「正解は僕の靴の中でした~」


「……」


「……」


「あれ? ま、まぁ二人ともハズレだけど、これってそういう手品だから……」


「クロセル、やっていいぞ」


「無論だ、徹底的にやるとしよう……」


 クロセルがヤマトの首筋に噛み付く。あ、これ本気のやつだ……


「ま、待って……あれ、おかしいな……僕この光景初めてのはずなのに……この後にどうなるか知ってる気がする……!?」


「……くくく、魔術回路改竄(カスタマイズ)……略式詠唱展開(ファストキャスト)――」


「誰か助けて!」


 いつものように、クロセルが暴れている音を聞きながら、私は夕食を作っていた。

 何故だろう。耳障りだとは感じない、心地のいい騒音だった。


「全く……あの3人はいつまでも子供ですよね……」


「アカツキは年齢の割に大人っぽすぎるんだよ……」


「カナデさんもそうでしょう」


「いや、どうかな……存外私も子供っぽいところはあると思うよ」


「……ちょっとご機嫌ですか?」


「あ、分かる? まぁね、ちょっと懐かしい気分に浸ってただけ」


 隣で料理を手伝ってくれているアカツキと談笑しながら、私は小さく笑う。

 窓の外を見ると、夜空には真っ白いシンシアが浮かんでいる。


「権能を返した影響なんですかね、前よりも見える日が多くなった気がします」


「確かに、前まではこの世界の空と言えば、星空の印象が強かったね、あんなに白く光り輝いてはいなかったかも?」


 多分、あの二人は覚えていないだろう。

 私は今よりずっと小さかったし、私自身、気付いたのはつい最近のことだった。

 何より、この世界に来てからは、ずっと忘れていたことだ。

 私があの日を思い出すのは、特別な日だけだと、決まってるから。




 あぁ、今夜も……




――月が綺麗だ。

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