最弱無才のディザビリティ
「ご主人」
「ん……ぁ?もう朝か?」
「いや、もう昼だぞ、ご主人」
俺は暖かいベッドの上で目を覚ます。
大好きな人の声で目を覚ます、最高の目覚めだ。
「んっ……あっ……ぁむ……」
俺は身体を起こすと、流れるような動作でクロセルの唇を奪う。
そして、そのまま息が苦しくなるまでキスを続けた。
「ぷぁはぁ……もう、真昼間に何をするのだ」
「俺は数千年分の欲求が溜まってんだよ、我慢しろ」
「その幼い身体で性欲とかあるのか?」
「……ねぇよ、まだな」
言われて俺は自分の身体を見る。
転生した身体は10歳の少年の身体だ。愛とか恋とか知るには早すぎる。
「こんな時間に何してるんですか……」
「え、アカツキ、いつから」
「最初からです、ご飯出来てますよ、皆さん待ってるんですから」
「わざわざ俺が起きるのを待ってたのか」
「皆さん優しいですからね」
俺はベッドから降りると、服を着替える。
そして身支度を終えると部屋を出て食堂に向かう。
懐かしい間取りだ、聖都にある公衆浴場に併設された屋敷。
どうやらこの座標でも、この屋敷は手に入れる事になったらしい。
「やっと起きてきたんだ、おはよう」
「おはよう、カナデ」
「昨晩はお楽しみでしたか?」
「いや別に……」
「なんだ、折角私がクロセルをあげたんだからもっとイチャつけば良いのに」
「それに関しては感謝してる、お前意外と優しいんだな」
「まぁ、定期的に血を吸われるの、痛いし嫌だったからなんだけど」
そう、魔王ハーゲンティの意志が消えた事で、クロセルには定期的にリソースの供給が必要になった。
必要とするリソースは魔剣によって違う、生命力、魔力、寿命、そして血液。
つまるところ、今のクロセルは、定期的に主人から血液を摂取しなければ活動できないのだ。
カナデ曰く、それが嫌で俺にクロセルとの契約を渡したらしい。
また、クロセルもそうする事を強く望んだからというのもある。
「美味いな、流石はカナデだ」
「なんでクロセルは貴方みたいな男を主人に選んだんだろ……私には理解できない」
「おい、喧嘩売ってるのか」
「冗談、私も貴方の事は嫌いじゃないよ」
「お世辞どうも」
カナデが作った遅めの朝食を摂る。
意外な事に、あいつは元々家事が得意らしい。
今のカナデは、神としてのエルよりも俺の知っているエルに近い。
つまりはそういうことだったのだろう。
「僕とティアが居ない間に何があったんだい?神がこの屋敷に居るなんて……」
「うるせぇ黙ってろ勇者、祝福剥ぐぞ」
「いや……君が権能を返したから祝福の才能も消えたんだけど……」
「あと俺を神と呼ぶな、もうただの人間だ」
大英雄ニコラス。その活躍は、この座標でも歴史に残る物となった。
最終決戦、要するに俺を殺す為の戦いでは、ややこしくなるので待機命令を出しておいた。
それはもう一人の勇者も同じ。
「ねぇヤマト、ご飯食べ終わったら町に行かない?」
「いや、聖教会の人間に見つかるとまずいし……あとなんで殆ど他人の俺に懐いてるんだお前は」
「年が近い友達が欲しかったの!」
「俺は子供じゃねぇ!」
ティアも無事だ。前の座標では救えなかった命。俺の間違った選択で失った命。
彼女が笑ってる今がある。それだけで、この物語はハッピーエンドだ。
俺のした事は間違いじゃなかった。そう思える。
例え皆から忘れ去られようとも。こうしてまた一からやり直せば良いんだ。
「外出出来ないのは不便だね……」
「ちょっと遠出すれば大丈夫だ、俺の最後に転生したこの身体を知ってるのは教皇と聖域に入れる一部の福音使徒だけだからな」
瀬野は俺の事を知っている数少ない人間だ。
と言っても、瀬野の知っている俺は、俺のようで俺ではない。
ラプラスが生み出した都合の良い過去だ。
この世界は並行世界ではない、一つの世界、一つの線が、時の調律師ラプラスによって上手くいくように管理されている。
だから、俺のやった事も、所詮はあいつの掌の上だったという事だ。
「あはっ?」
気が付くと、背後にあいつが立っていた。
神出鬼没にも程がある。普段は姿を隠していて、俺の事を観察しているんだろう。
悪趣味な奴だ。
「お前やっぱ心読めるだろ」
「いえいえ~気のせいですよ」
ニヤニヤと笑う悪魔に向けて、拳を振り下ろす……ほど身長は無いので顔面グーパンだ。
ディザビリティで弾かれた。この感覚も懐かしい。
「ヤマトさん、時々虚空に向かって話し掛けてますけど……幽霊でも見えるんですか?」
「お前なんで見えないの?」
「ボクの一番はヤマト様なんで?」
「意味分かんねぇよ、てかエルクじゃねぇのか」
「あーあいつね……あいつボクのタイプじゃないんで」
「そうかよ……」
皇帝はこの座標でもクロセルを盗み、魔王になり、封印された。
相変わらず可哀想な奴だ。
「ボクは是非とも殴って欲しいんですけど、ヤマト様ディザビリティですからね、なんでそんなゴミみたいな身体選んだんですか?馬鹿なんですか?『俺にはこっちの方がしっくりくる』とか格好付けてるだけじゃないですかだっさww」
「お前俺の事嫌いだろ」
「大好きですよ?」
「はぁ……」
このマゾ悪魔の相手をしていると疲れる。
が……何千年も一緒に居たらぶっちゃけ慣れてしまったというのも本音だ。それでも俺はクロセル一筋だが。
「それにしても、神が消えて教国は大騒ぎですけど、私達バレたら捕まるんですかね」
「もしそうなりそうなら俺を差し出せ、俺がお前達を脅迫してたって事にすれば罪には問われないだろ」
「そうですね、その時は遠慮なく」
「そう言えばヤマトが今とは別の可能性の未来から来たって話、本当なの?」
「本当だぞ、我はしっかりと記憶しているからな」
「俺が死にかけるまで忘れてた癖に」
「うぐっ……」
「俺は覚えてるぞ、どんなに世界が変わっても時が流れても私だけは永遠にあなたを……」
「うわー!やめろー!恥ずかしい台詞を復唱するな!」
クロセルが身を乗り出してあわあわと慌てふためく。可愛い。
「まぁ、クロセルさんがここまで言うんですから、本当なんでしょう」
「前の可能性の世界の話、私達に聞かせてくれる?」
「あぁ、それぐらいなら良いぞ、お返しにお前達の旅の話も聞きたい、どこが同じで、どこが違うのか気になるからな」
思えば短くも長い旅路だった。
多くの困難と挫折を繰り返し、ここまで来たんだ。
そして、この物語の主人公はもう俺ではない。
ここまでが、俺の物語だ。この先は別の物語、カナデの紡ぐ物語。
故に、この話はここで一度終わりを迎える事になる。
「ヤマト様」
「なんだ」
「前にボクに言いましたよね、貴方の選んだ選択は間違いだったのかって」
「あぁ、言ったな」
「今なら答えは出てるんじゃないですか?」
「もちろんだ」
俺、クロセル、アカツキ、ニコラス、ティア、カナデ、瀬野。
俺達七人は、一からやり直して新しい関係を築いていく。
これが、俺の望んだハッピーエンドだ。
最弱で無才だった俺は、多くの仲間に助けられ、最弱で無才のまま生きていく。
もう才能の解放なんていうチート能力は無い。だから、今の俺は本当の意味で……
――最弱無才のディザビリティだ。
END
完結です!全127話、ここまで読んで頂きありがとうございます。
二年近く掛かってようやく完結。やはり達成感がありますね。
途中で何度か投稿を中断した事もありましたが、エタることなくなんとか完走出来ました。
ヤマトの物語はここで幕を閉じますが、この世界は続いていきます。
魔王と神を失った世界がどうなるのか。ヤマト達の今後、そして最後に描かれる事の無かった登場人物が新たな世界で何をしているのか。そう言った外伝のような物も、不定期に投稿していきたいと思います。
この作品は物書きの練習で作った物で、出来は凄く悪いですし登場人物の名前に至っては知り合いのハンドルネームを弄って使っています。身内ネタを盛り込み軽いノリで楽しめる作品を目指しました。その結果として、作品の質が落ちているのは感じていますが、私は満足なので問題ありません。小説を書くことなんて基本的には自己満足ですからね。
それではこの辺で後書きも終わりにしたいと思います。また次回の作品で会いましょう。繰り返しますが、ここまで読了して下さった皆様、丁寧な考察を投下してくれた大英雄キュリオス(の元ネタの人)、今までありがとうございました。ではアデュー☆




