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たったひとつの冴えたやりかた

「パン!パン!パン!」


 時間停止から繰り出される必中の弾丸が、魔剣バアルの胸に命中する。

 が、バアルの足元に潰れた弾丸が転がるだけだった。

 バアルは攻撃を仕掛けてくる。狙いは当然、俺。


「チッ……どうする?」


 バアルは飛び上がり、鉤爪を振り下ろす。

 バアルの体格を考慮すると、あれは恐らく受け止めきれない。瞬時にそう判断すると、横転する。

 紙一重で躱し、転がった直後に跳び上がるようにして体勢を立て直す。

 が、着地したバアルは直ぐに俺に向き直り、鉤爪の刃が横に薙ぎ払われる。

 刃の長さは1m近くある。完全に間合いから逃れる事は出来ない。

 背中に熱い感覚が走る。それから数秒後に激痛。背中から血が吹き出し、痛みから苦悶の声を漏らす。


「くっ……身体強化しててもこれか……」


 クロセルの身体強化魔術の恩恵を受けている筈の俺が遅れを取っている。

 つまり、バアルは強靭の才能だけではなく、戦闘系の才能も9+であると推測できる。

 原初の魔王と言っていたか、あの言葉が確かならば、奴は最初の魔王。つまり、最初の魔王の魔魂結晶は聖教会が保管していたのか。

 要するに、そんなに前から、聖教会という組織は神と癒着していた腐りきった組織だったということだ。

 魔王システムがもたらす世界への悪影響を理解しながら、知らないふりをしていたのだから。


魔術回路改竄(カスタマイズ)……略式詠唱展開(ファストキャスト)

 ――属性魔術……水弾(ウォーターボール)(マシンガン)!」


「そんな低威力の攻撃じゃ意味ねぇぞクロセル!」


「分かっているが今はこれしか撃てん!肉体が完全に再構築されていないという事は、行使できる魔力の器も小さいのだ、魔力自体は無尽蔵だが、一度に大量の魔力を使う魔術は使えない!」


「なら……」


 俺は小さくアカツキを一瞥する。両手をバアルに向けているが、何かを撃つ気配はない。

 それはつまり、機を見計らっているという事。それはつまり、アカツキの攻撃であればバアルに届く可能性があるという事。

 ここは、あいつに賭けてみるしかないか。


「俺の死ぬ瞬間が見たくねぇ奴と断末魔が聞きたくねぇ奴は目と耳塞いどけ!」


「ご主人……分かった」


「えっ?ヤマトが死ぬのなんて嫌だよ……僕がもごもごっ」


「ダーリンが死ぬわけ無いだろう、貴様は黙って見ているといい」


 クロセルが目を閉じる。

 瀬野には伝わらなかったようだが、シェル公が抑えつけてくれた。あいつ意外と察しが良いんだな。当然か。

 そして、アカツキも目を閉じる。それを確認すると、俺は叫ぶ。


「なぁバアル、俺を殺したいんだろ!?良いぜ……殺してみろ!」


「けっ……諦めたのか?ならせめて良い声で鳴いてくれよ!」


 俺の安っぽい挑発に、見事に乗ってくれた。

 俺はディザビリティを持っている。故に傷害が出来ない。

 それは当然相手も知っている。俺を殺すことは出来るが、俺に殺される事は万に一つもありえないのだ。

 だから、確実に乗ってくる。この甘い罠に。

 バアルが地面を蹴ってこちらに突貫してくる、俺は左手で腰に付けた"それ"を取り出す。

 そして、それを投げつけた。


「あ?効かねぇって言ってんだろ!そもそも当たらねぇ!」


 バアルは鉤爪で俺の投げたそれを切り裂こうとする。

 瞬間、それは起爆した。

 辺りが閃光と轟音に包まれ、視力と聴力を奪われる。これは強靭の才能では防げない。

 そう、俺が投げたのはスタングレネード。瀬野の作った武器の一つだ。

 本来は勇者と戦う時に使うつもりだったが、結果的には残しておいて正解だったと言える。


「空間魔術……亜空切断(ディメンションカッター)!」


 この一瞬の隙。一瞬だけでも相手を怯ませ、動きを止めれば十分だ。

 アカツキの魔術が発動する。空間に切れ目を入れ、物を切断する魔術。

 これにはどんな強靭な物質だろうと抗えない。それが存在する空間そのものが切断されているのだから。


「嘘……だろ……?」


 俺は閉じていた目を開く。そして、勝利を確信する。

 バアルは棒立ちで目を見開いていた。

 そして、ずるり……と滑るような音と共に、その上半身が下半身と別れ、地面に転がる。


「この俺の身体が切断される!?ありえねぇ……てめぇ……何をした!」


「俺じゃねぇよ、俺の仲間のアカツキって奴の功績だ、すげぇだろ」


「くそっ……くそっ……俺は悪くねぇぞ、マスターならもう少し情報をだな……」


「どんなに相手の情報を与えても、残念ながら貴方では勝てません、そう未来は決定してしまっていた」


 神の少女は、真っ二つになり地面に転がったバアルにそう告げる。

 その言葉は淡々としていて、一切の動揺は見て取れなかった。


「は!?なら何で俺を呼び出したんだよ」


「負けるのは分かっている、それでも足掻いてみたかったんです、運命って奴に」


「それで……運命は変えられなかった、それで終わりかよ」


「終わりみたいですね……」


「チッ……そうかよ……やられ損じゃねぇか……」


 バアルは悔しげにそう呟くと、その身体は光の粒子になって散り散りになった。

 そして、聖域には俺達と神の少女だけが残った。


「お前、負けるのは分かっているって言ったな」


「えぇ、ラプラスの力で私は未来を知った、"この座標の私"はどう足掻いても、生き残れない」


「いつからだ」


「確定したのは貴方がティアではなくアカツキを選んだ瞬間。あれが分岐点だったと言えるでしょう」


 その言葉を聞いて、俺は唇を噛む。

 あの選択が、正解だったと?そんなの認められる訳がない。

 もっと良い方法があった筈だ。俺なら二人を救えたはずなんだ。


「……そうかよ、それで……お前はどうするんだ、大人しく殺されるのか?」


「抵抗しても無駄……分かっています」


「別にお前を殺す必要はない。権能をシンシアに返すならば、命は助ける」


「意味ないんですよ……貴方が生き延びる限り、私は死ぬんです」


「何故だ、説明しろ。俺は約束を守るぞ」


「優しいんですね、殺そうと思えばいつでも殺せるのに、わざわざ話を聞くだなんて」


「どんなに憎い相手だとしても、お前はエルだ、大切な仲間だった過去は消えない、だから……俺も出来れば殺したくはないんだ」


「……分かりました。説明しましょう、どうせ死ぬんですから」


 神の少女は溜息を吐くと、ゆっくりと言葉を紡ぎ始める。

 その瞳にはただ諦めの色だけが浮かんでいた。


「私は未来、今から半年後にこの世界に転生してきました」


「……は?ツッコミどころが多すぎるぞ?未来と言っているのに"してきた"は過去形だ」


「文字通り"私"としては過去の話なんですよ、私は地球からこの世界に転生してきた、貴方と同じです。神を殺せという一つの言葉と才能を与えられて」


「え?神様は貴方なんじゃ……?」


「取り敢えず最後まで聞こう」


 瀬野が尤もな発言をする。俺も同じ事を思ったが、今は話を聞くことの方が重要だ。


「最初の私が持っていた才能は"時空間操作10"、要するに瀬野さんの才能の上位互換です、異世界転生してチート能力を手に入れた私の旅路に関しては、特筆するまでもないでしょう、そして結論から言えば、私はヤマト様、貴方と同じ思想に至る」


「……神を殺して神に成る、か」


「その通り、"神を殺せ"という啓示から私はこの世界に偽りの神ではない、本当の神が居ることを知った。この時の偽りの神は未来の私なのですが、まぁそんな事は知るはずもなく、私は偽りの神など気にせず真の神を、殺すのではなく力を奪うことを画策した」


「だが、それは未来、つまりシンシアに権能はない」


「えぇ、シンシアに着いてから、私はそれを知りました、だから私は才能を使った。時空間操作で過去へ行き、シンシアから権能を奪い、神に成った」


「なるほど、そして神として生き長らえた結末が、ここか」


「そういうことです、理解できましたか?」


「理解はした。だがそれで何故、お前が確実に死ぬんだ?シンシアに権能を返してくれれば、俺は未来にこの世界にやってくるお前を殺したりしないぞ」


「これは推測に過ぎませんが、もし神に権能を返した場合、未来の私は果たして転生してきますか?」


「……そうか、神に権能が戻れば"偽りの神を殺す為に地球で死んだ人間を転生させる"という現象は起こらなくなる……つまり、地球で死んだお前が生き返ることはなくなる、その場合、今お前が生きている可能性が消滅する」


「そういうことです」


 待てよ?おかしいぞ。エルは自分の死が確定していると言った。

 もし仮に、シンシアに権能を返さず、ここでエルを見逃したら、エルの死という確定した未来を回避できるのでは?

 ……本末転倒だ。今までの苦労、ティアや教皇の死、奪い奪われた多くの命が報われない。

 もう戻れないのだ。確かに、エルの死はほぼ確定していると言っていいだろう。


「エル……」


「選択肢は2つです、私を殺すか、私が権能を返して"私の存在しない現在"を反映させるか」


「後者による過去の改変はリスクが大きすぎる、それに……」


 もし偽りの神が居ない、という世界線に俺達が移動した場合。

 転生者である俺、アカツキ、瀬野、ハゲの死亡が確定する。

 待て。これは全て"エルが偽りの神になった場合"の話だ。


 見つけた。たったひとつの冴えたやりかたを。


 あぁ、ダメだ。本当に俺は甘っちょろい人間になったもんだ。

 エルの生存する可能性を見つけてしまった。それどころか、上手く行けばティアも救える。


「過去を改変すれば未来は変わる、それは確かなんだな」


「えぇ、私がやった限りでは、過去と現在の整合性が取れなくなった場合、現在に至るまでの過去は都合の良いように改変される」


「修正力の優先順位は過去、未来、現在って事か」


「そうですが、そんな事を聞いて何になるんですか」


「――俺がお前の死という未来を変えてやる」


「……どうやって」


「秘密だ。最後の一回を使う、良いな?ハゲ」


 俺は自分の中に居る魔王様に尋ねる。返答は直ぐに返ってきた。

「過去に行くんだね、何をするつもりだい」

「安心しろ、お前がこの世界に来なかった事になる未来じゃない」

「過去の改変はリスクが大きい、どんな未来になるか分かったもんじゃない」

「お前は神が憎いんだろ、安心しろ、神は殺す、必ずな、約束する」

「……分かった、ただし僕はここに残る、過去に向かうのは君一人だ」

「オーケー、交渉成立だな」

 心の中での問答を終える。そして俺は、最後のスイッチを入れた。


解除(アンロック)!」


 "才能『時空間操作10』を強制解放しました

 エラー……才能データが破損しました"


「ご主人!何をするつもりだ!」


「悪い、クロセル。ちょっと行ってくる」


「……ご主人、ダメだ……そんなの我は認めないぞ!」


「心を読むなよ……折角格好つけたんだから」


「クロセルさん!?ヤマトさんは何をするつもりなんです!?」


「ダーリン、必ず戻ってくるのだな?」


「……あぁ、また会えるさ、必ずな」


「ご主人……嫌だ、嫌だよ……私はご主人の事を……」


 どんなに隠していても、クロセルにはお見通しらしい。

 いつもみたいに元気な姿が見たかったが、泣かせてしまったか。

 あぁ、未練たらたらだ。俺も分かる。この力は片道切符。多分、戻っては来れないだろう。

 それに、戻って来ては俺の目的は果たせない。


「クロセル、今までありがとな、お前が居なければ俺はここまで来れなかった」


「ご主人の計画は穴だらけだ!世界の修正力が都合の良いように働く保証はないのだぞ!」


「かもしれないな、それでも俺は、みんなが笑って過ごせるハッピーエンドが見たいんだ」


「ヤマト様……貴方のやろうとしている事はハッピーエンドなの?」


「あぁ、とびきりハッピーだよ、俺の大切な人達を全員救えるんだからな」


「そう……なら止めない、やってみて、未来の確定したこの座標を、書き換えてみなさい」


 神の少女、エルは小さく笑った。

 そうだ、姿形は変わっても、エルはエルだ。

 確かに彼女のした事は許されない。だがそれは俺も同じなんだ。裁かれるべきは彼女じゃない。


「時間がない、そろそろ行くよ」


 そう言って、俺は仲間達の方を振り返る。

 その瞬間、身体に優しい衝撃と、唇に柔らかい感覚を覚えた。


「っ……クロセル?」


「大好きだ、ご主人!どんなにこの世界が改変されても、時が流れても、私だけは貴方を覚えてる!」


 俺に抱き着いてきて、キスをしたクロセルを優しく抱き止めると。俺は小さく笑った。

 これじゃあハゲの奴に嫉妬されちまうな。


「俺もお前を愛してたよ、クロセル。こんな時まで素直になれなくてごめんな」


「ご主人は悪くない……素直になれなかったのは私も同じだから」


「あぁ、そうだな」


 クロセルは泣きながら俺の身体を抱き締めてくる。

 離れたくないという強い意思を感じて、思わず決心が揺らぐ。

 それでも、行かないと。


「なっなっ……あいつ!ダーリンに何をしてくれて……」


「はいはい、良いところなんですから空気読んでください」


 飛び出していきそうなシェル公をアカツキが捕まえている。

 最後まで愉快な仲間達だ。


「時空間操作」


 才能を発動すると、カチカチカチと、時計の針のような音が聞こえてくる。

 その音が、徐々に加速していく。目指すは遥か過去、真の神であるシンシアの元へ。


「それじゃあ行ってくる、また会おう」


「行ってらっしゃい、ヤマトさん」


 アカツキも、微笑みながら送り出してくれた。それだけで俺には十分だ。

 周囲の風景が移り変わり始める。世界が巻き戻されている。




 それから、悠久とも思える時間が経った。

 いや、経っていない。今も時間は巻き戻っている。

 俺という存在の体感時間だけが、ひたすらに引き伸ばされている。

 辺りは真っ暗だ。俺はどこへ向かっているのだろう。

 才能指数10の力だ。失敗などありえないが、それでも不安だ。




 更に体感時間が経った。

 何時間、いや何日だ?周囲の風景は変わらない。

 本当に時間が巻き戻っているのかさえ分からない。

 才能の破壊が発生していない。という事は時間は経過していないのだろう。

 どこかの時間座標に取り残されて、ひたすら時を浪費しているというわけではなさそうだ。

 人間は一定期間孤独でいると気が狂うというのを聞いたことがある。

 まだ大丈夫だ。目的を果たすまで俺は狂うわけには行かない。







 体感時間は何年だ。いや、何十年?何百年は流石にないだろう。

 今の一瞬まで、思考が停止していた。

 眠っていたわけではない。眠るなどという甘えは許されない空間だ。

 身体の時間が停止しているという事は脳の活動も停止しているはず。

 なのに何故思考が出来ている?自我というのは脳の生み出した錯覚に過ぎないんじゃないのか?

 本当に魂とかいう概念が存在すると?いや、異世界だから存在して当然か。

 こうも長い間思考だけをしていると、哲学的な事ばかり考えてしまう。







 そして俺は考えるのを……やめないぞ!?

 体感時間は既に計測不能、考える時間だけは無駄にあったが宇宙の真理とかそういう事は全然分かってない。頭が悪い人間がどんなに考えても無理な物は無理ってことだ。勉強になったな。







「かはっ……!?」


 突然襲った苦しさから、思わず咳き込む。

 どうやら呼吸をするのを忘れていたらしい。

 待てよ?呼吸が必要ということは、身体の時間が動き出したということ。つまり……


「到着したか……」


 こうして俺は、シンシアの元へ辿り着いた。

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