喪失
「……ヤマトさん!ヤマトさん!」
「うるさい、聞こえている」
目覚めは最悪。二回の才能の解放の反動で頭痛が酷い。
だが、まだ動ける。俺達はまだ何も成し遂げていないんだ。
身体を起こし、ぼやけた視界のピントを合わせる。
目の前には、アカツキ。
「悪魔とグレモリーは?」
「相討ちです、ラプラスは破壊しました」
「お前は……無事みたいだな」
「はい、おかげさまで」
ふらふらとよろめきながらも、立ち上がる。
俺の隣には魔剣グレモリーと聖剣フルティンが転がっていた。
「取り敢えず、凌ぎきったな」
「……はい……そうです……ね……」
俺は勝利に安堵する中。何故かアカツキの表情は暗い。
あれ……そう言えば、何かを忘れている気がする。
大切な何かを。
「おいおい……なんだよアカツキ……俺達は勝ったんじゃないのか?」
「勝ちました、ですが……」
アカツキは重々しく呟くと、目を伏せるようにして視線を移す。
俺もそれを追うようにして頭を動かすと、それが目に入る。
それは黒焦げになって原型を留めていないが、ティアだ。祝福が無ければ間違いなく致命傷だろう。
「こればっかりはエルに感謝しないとな、自爆とかいう手段こそ非人道的だが、ちゃんと死なないように祝福を与えている事は評価出来る」
俺はティアに近付き、おもむろに手を口元へと持っていく。
祝福があるのだから、生存確認など必要ないが、確認せずにはいられなかった。
大丈夫だ。ティアは。ティアは。
――い き を し て い な い。
「ぁ……あぁ……あああああああああ!?」
ジジッと視界にノイズが走る。一瞬の思考停止。そして叫び。
理解できない。理解したくない。理解など出来るものか。
俺は頭を抑え、叫ぶ。目の前の現実から目を逸らす。
「ごめんなさい……ティア様……ヤマトさん……」
「嘘だ!祝福があるんだよな!?今は死んでるが、これから生き返るんだよな!?」
「……祝福は死者を生き返らせる才能ではありません。生者が死者とならない才能です。つまり……今のティア様に祝福はありません」
「嘘だ……ろ?」
「……ごめんなさい」
俺は再び確認する。自分の観測が間違いであることを信じて。
呼吸はない。
だが脈は?
ない。
心臓は?
動いていない。
紛れもない。
――死んでいる。
「ハッピーエンドが好きなんじゃないのかよ……こんなの……何もハッピーじゃねぇ……」
「ヤマトさん……」
「くそっ……エル!!!!!俺は!お前を!絶対に許さない!!!!!」
ティアが死んだ以上、観測者はもう居ない。
つまり、エルには聞こえない。
それでも、俺は怒りを表さずには居られなかった。
俺はエルを、神を、必ず。殺す。
動かなくなったティアを抱き締めながら、俺は呪いの言葉を吐き散らした。
「ヤマトさん」
「うるさい」
「先に進みましょう、今なら合流出来ます」
「うるせぇ!お前を選ばなければ……ティアは……」
「はい、その通りです、私が生き残ったからティア様が死んだ、それは紛れもない事実でしょう」
「くそっ……俺の選択は……間違ってたのか?」
「それを決めるのは今ではありません、私達には成し遂げなければならない事がある、そうでしょう」
「……分かった、先に進もう」
俺はティアの亡骸を優しく地面に置き、立ち上がる。
アカツキが二つの剣を拾い上げ、先程閉じた空間の穴のある壁へと近付いていく。
「空間の穴が使えるのか?」
「はい、上層に存在する結界が全て消滅しました、恐らくは……」
「……教皇を倒したか」
「と、信じたい所です。魔術回路構築……詠唱……
ル・トゥーム・アルガス・ティル
空間魔術……接続」
アカツキが詠唱すると、壁に空間の穴が生まれる。
それを潜り、俺達は先に進む。
そこには、今まで居た部屋と同じような広間が広がっており、そこに見慣れた顔ぶれを見つける。
「ダーリン!会いたかった!」
「良かった、二人は無事だったんだね」
俺に抱き着いてくるシェル公を軽くあしらいながら、壁に寄りかかっている瀬野と、その横に転がっている魔杖を確認する。
「クロセルがやられたか」
「うん、でも教皇さんと勇者さんは倒したよ」
瀬野が右手で指差した方向を見ると、そこには倒れ込んだ教皇と大量の氷の剣で串刺しにされた勇者の姿が。
「……祝福はニコラスの方にあったか」
「あぁ、祝福とは厄介な物だね、中々に手を焼いたよ」
「よく倒せたな」
「教皇を倒せたのも、祝福の勇者を倒せたのも、あのゼノという男の活躍が全てだ」
「瀬野がやったのか?」
「あはは……僕にしては頑張った方だと思うよ」
「酷い怪我だな」
「ヤマトもね、横腹から骨見えてるよ……」
言っていなかったが、服はアカツキに渡してしまった為、俺は上裸だ。
失血でそろそろ意識が朦朧としてきた。応急処置をしないとまずいかもしれない。
そう思っていると、瀬野の横に転がっていた杖が光りだす。
そして、辺りが閃光に包まれたかと思えば、そこには半透明の美少女が立っていた。
「半透明だな」
「うるさい、復活直後なのだから仕方ないだろう」
こうしてクロセルが復活した。
俺と瀬野の治療、それとアカツキの分の服の作成。
流石は俺の魔杖、便利な奴で、それらを全てこなしてしまった。
「ふぅ、こんな物か」
「お前にしては遅かったな、普段のクロセルならこの半分の時間で終わる筈なんだが」
「復活直後で弱体化してるのが見えないのかご主人は」
「冗談だ」
これでひとまず体勢は整った。
問題はこの後だ。
「クロセル、その姿で戦えるか?」
「前線を張るのは厳しいな、魔力だけはあるから後ろから魔術で援護する事は出来る」
「グレモリーも復活直後は厳しいだろうし、俺とシェル公でなんとかするか」
「と言っても……神様の方の主戦力ってこれで全部じゃない?あとは神様をみんなで倒して終わりだと思うんだけど」
「福音使徒は雑魚だし殆どの勇者は過去の俺が殺したみたいだしな」
「万全を期すならクロセルさんとグレモリーさんの回復を待つべきなんでしょうが」
「いや、攻めるぞ。先手必勝だ、向こうも戦力を失ったからには体勢を立て直そうとしてるはずだ、今叩くのが一番だと判断する」
俺は立ち上がる。そして、その場にいる皆と顔を見合わせる。
覚悟は出来てる。決意も十分。俺の選択が間違いじゃなかった事を証明する為にも、俺は神を殺す。
「アカツキ、聖域に直接繋げるか」
「分かりました。魔術回路構築……詠唱……
ル・トゥーム・アルガス・ティル
空間魔術……接続」
アカツキが近くの壁に向かって詠唱すると、お馴染みの空間の穴が生まれる。
穴は長く、数十メートルはあるだろうか。途中で穴が閉じたらどうなるのだろう、というどうでもいい不安が浮かぶ。
「行こう」
俺は仲間と自分に向けて、その一言を残す。
そして、聖域に繋がる穴へと足を踏み出した。




