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力の根源

「ご主人、やっぱりこの格好は逆に目立つと思うのだが……」


「俺達だとバレなきゃそれで良いんだよ」


 クロセルの指摘通り、めちゃくちゃ目立って指を刺されながらも、素性がバレる事は無く、なんとか村を出る。

 確かに自警団に見つかって職質でもされたらヤバかった。運が良かったと思おう。

 そして現在位置だが、俺達が降り立った森と村を挟んで反対側に位置する広大な森林地帯。こっち側の森には魔物も出る為、タルフの村の人間はあまり近付かない場所だ。

 尤も、近付かない理由は魔物だけではないのだが。


「俺の記憶が正しければこっちであってるんだが……」


「ご主人の目指している場所は分かったのだが……こちらも今更何の用事があるのだ……?」


「上層でエルと殺し合った直後から、アランの森の湖で溺れかける間の記憶が欠落している、その理由を探りにな」


 そう、シェル公に記憶を復元して貰った後も、欠落した記憶がある。

 シェル公の記憶操作は完璧だった。記憶操作の才能を使った事のある俺だから分かる。だからおかしい。

 いや、分からない訳じゃない。推測は出来ている。後は仮説が正しいか証明するだけ。

 その為に俺はここに来たのだ。


「あった……アランの森の、大結界だ」


 天高く聳え立つガラスのような壁。これが、アランの森を守る結界だ。

 アランの森は禁足地、アランの民以外が足を踏み入れる事は禁じられている。

 それは当然タルフの村の人間も承知であり、故にここに近付く物好きは居ない。


「結界を破壊するのか?」


「いや、その必要は無い」


 クロセルの言葉を背に受けながら、俺は結界へと歩み寄る。

 片手を伸ばし、近付き、そして……

 ――俺の手は結界を突き抜けた


「……やっぱりか」


「なっ、ご主人!?どういう事だ!?」


 クロセルが驚きの声を漏らす。そして、俺を真似て結界に近付き、その手を伸ばすが……


「っ!?何故だ?」


 ばちん、と電撃が走るような音と共に、クロセルの手は結界から弾かれる。

 つまり、結界は正常に機能している。何故か俺はその影響を受けない。

 憶測は確信に変わった。


「クロセル、此処で待ってろ」


「説明を要求するぞ」


「俺も分からないんだ、全てが分かったら後で説明する」


「うぬぬ……分かったぞ……だがご主人一人で大丈夫なのか?前回と違って今回は完全に領域への侵入だ、前のように極刑に処される可能性も……」


「安心しろ、あの時と違って俺には才能の解放がある、それに俺を殺したらクロセルがお前らを皆殺しにするとでも言えば手は出せない筈だ」


「そうか……気を付けるのだぞ」


「あぁ」


 俺は薬の入った箱をクロセルに渡すと、そのまま結界の中へと足を踏み入れる。

 文字通りの意味で、足が結界を通り抜け、そのまま全身が結界を通り抜ける。やはり俺はこの結界の"例外"らしい。


「……今日こそは説明して貰うぞ」


 クロセルに聞こえないように、俺は小さく呟いた。

 広大な森だ。小さなアランの村を見付けるのはとても難しい。

 森を進む。道は覚えていないが、何故かこっちだという直感があった。


「ここだ」


 口をついて出た言葉。それは俺の物だったか。或いは。

 夜が明ける。太陽の光が少しずつ視界を照らしていく。

 そして、目の前に広がっていたのは、茅葺屋根の家が立ち並ぶ古風な村。

 アランの村だ。


「誰だ!」


 懐かしさや感慨に浸っていると、怒気の籠った声が投げかけられる。

 結界は長老により厳重に管理されている、侵入者が居れば、直ぐに分かる。

 だから俺自らが出向くまでも無く、丁重に出迎えて貰えるようだ。


「って……貴様は!?」


「……誰だ?会った事あったか?」


「俺がお前をタルフの村まで案内しただろ……って、なんでまた来たんだ、今度こそ言い訳出来ないぞ?」


「長老に話がある、なに、手荒な真似はしない。対等に対話をさせて貰えればそれで良い」


「……身柄を拘束するが構わないな?」


「言っておくが、俺を殺したりしたら魔杖クロセルがアランの民を滅ぼすからな、扱いには気を付けろよ」


「全く……君は変わらないな……」


 俺を見付けた男は、呆れたように溜息を吐くと何処からかロープを取り出し、俺の身体を拘束する。

 黒髪に真っ白い肌。今なら分かる。アランの民とは魔族だ。かつて魔王に仕えていた一族の一つ。

 それが、何故か魔王フォーカスに滅ぼされかけ、何故か生き残った。

 クロセルの話から、何故そういう経緯になったのかは推測できる。

 と、そんな風に考えていると、いつもの集会所に辿り着く。


「ここで待っていろ」


「あいよ、長老には魔杖クロセルの件とでも伝えてくれ」


「分かった」


 男が去っていく。早朝という事もあって、ここに来るまでに殆ど人とは会わなかった。

 俺を湖から引き揚げてくれたあの兄妹。元気にしてるだろうか。というかそもそも生き延びてくれただろうか。

 今回の対話が穏便に済めば、また会えるかもしれない。

 そうしたら改めてお礼を言わないとな、なんて思いつつ。


「……また貴様か」


「久しぶりだな、長老さん」


 暫くすると奥から老齢の爺が現われ、椅子に腰かける。

 そして、こいつもあからさまに大きな溜息を吐いた。


「何故再び訪れた、ここには二度と近付くなと言った筈なのだが」


「魔杖クロセルの封印は解かれた、もうお前達が隠れて生きる必要は無いんだ」


「……何の事だ」


「すっとぼけるなよ爺さん、アランの民ってのは、魔杖クロセルを守る為の一族だ、そうだろ?」


「部外者の貴様に話すことなどない」


「部外者?あぁまぁ、確かに"俺"は部外者だ、だが当事者でもある」


「どういう事だ?」


 俺はふっと小さく笑う。そして告げた。


「もう良いだろ、出て来いよ、魔王様?」


 俺がそう呟いた瞬間、俺の身体から紫色の光が放たれる。

 場所は胸、心臓部。その光は徐々に強さを増していき、同時に俺の意識が宙に浮いたように不安定になる。

 俺は意図的に、意識の手綱を手放した。

 主導権は俺から、他の何かへと変わる。


「……」


 光はゆっくりと消え失せ、途端、俺の纏う気配が変わる。

 それはまるで別人のような。事実、別人の物だ。

 そして、俺の身体を借りたその人物は、ゆっくりと口を開いた。


「僕だ。

 ――48代魔王ハーゲンティと言えば通じるかな?」


「ハーゲンティ様!?ですが……貴方の魔魂結晶は勇者に破壊されたはず……どうして……」


「あぁ、訂正だ。正確にはハーゲンティの意志の才能が自我を持った物、と考えて貰えるかな」


「才能が自我を持つ?」


「あぁ、才能指数10の力は、一つの人格すらも形成する、神の力なんだ、おかしな話じゃないだろう?」


「では……その身体は」


「才能である僕が力を発揮するには依り代となる肉体が必要だ、だから僕は今まで、何人もの人間の肉体を渡り歩いてきた」


「その男が、ハーゲンティ様の依り代だと?」


「そういう事だね、ヤマト君は僕と長老を会わせる為に此処に来てくれたんだよね」


 朧げに聞こえていた声が鮮明になる。意識が浮上し、肉体の主導権を取り戻す。

 いや、正確には半分だけだ。今この肉体の主導権は二つの人格が同時に握っている。

 取り敢えず、話せ、という意思表示だと受け取り、俺は声を発した。


「こうでもしないと、お前は出て来てくれないと思ったからな」


「あはは……確かにそうだね、今まで隠していてごめんね」


「気持ちは分かる、クロセルに知られたくなかったんだろ?」


「まぁ……それもあるよ、彼女を過酷な運命に誘ったのは他でもない僕だ、会わせる顔が無い」


「なるほどな、それで……諸々の説明は貰えるんだよな?」


「構わないけど、少し条件がある。君の仲間達の前で僕の名前を出さない事だ、魔王ハーゲンティ、出来るね?」


「分かった」


「よし、それじゃあ話すとしよう、長老、良いですか?」


「ハーゲンティ様が宜しいのでしたら……」


「ありがとう、じゃあまずはアランの民についてだ」


 魔王ハーゲンティ、の意志の才能さんは、俺の身体を借りて、話し始める。

 魔王ハーゲンティの悲願。それは世界征服でも世界平和でも無かった。それは……


 ――神を殺すこと


 正確には、偽物の神、エルを殺す事だった。

 その理由は俺と同じ。


「シンシアの啓示?ってことは……ハーゲンティ、お前……まさか」


「そのまさかだよ。僕は地球からの転生者だ。そしてこの世界を救う為、魔王を討ち、魔王になった」


「啓示を受けたのは俺とお前だけ、つまり才能指数10の持ち主がシンシアの試行錯誤の成功例って事か」


「僕が神を殺そうとしてるのは啓示だけじゃない、あの神が他でもない魔王を生み出した存在なんだ、僕は魔王と言う存在が憎い。正確に言えば、魔王というシステムが憎いんだ。だからそれを作った神を殺し、魔王システムをこの世界から消し去ろうとした」


「んで失敗した訳か」


「あぁ、そうだよ、僕は失敗した。僕だけの力じゃ神には届かなかった、そして同時に、僕には時間が無かった。勇者による魔王討伐の開始までに、僕が出来る事は」


「クロセルを後世に残すことだった、と」


「そうだ、僕は彼女を魔王にして力を与え、討たれた後の魔魂結晶から杖が作られる事までを想定し、その杖を奪還、保護する為の準備をした。その結果生まれたのが……

 ――アランの民だ」


 長老が口を挟む。


「我々はハーゲンティ様に言われた通り、莫大な犠牲を払い魔王フォーカスから魔杖クロセルを奪取、それを保護する為に聖域に封印していたのです」


「そう、来るべき時が来るまで、封印するつもりだった、それが彼女に途方もない苦痛を与える事になるのは承知の上で、だ。だが、計画は早まった」


「本来はクロセルが目覚めるのはもっと後の筈だった、と?」


「その通りだ、だが、僕は計画を変更した。君というイレギュラーの発生をきっかけにしてね」


「いつから目を付けてたんだ」


「上層で君が神と戦った時だよ、僕は神の動向を常に伺っていた。だから君と神の戦いも見ていた。君は全ての才能を才能指数10で持つ、規格外だ。君なら神を殺せる、と思った」


「封印された才能を解放する力、それ……お前のお陰なんだろ」


「そうだよ、上層で、僕は君の身体を借りて戦った。その時に解放した傷害の才能、それが君の最初のディザビリティだ」


「……なるほどな、繋がったよ」


「才能封印を受けた君では神に勝てない。だから魔杖クロセルを解放する必要があった。僕は君の身体をアランの森まで運び、結界を超えて湖に潜った」


「んで、その途中で俺が目を覚まして、身体の主導権を奪われた訳だ」


「そういう事だね、色々と計画とは違う過程になったが、結果としては上々だ、君はよくやってくれた」


「クロセルの魔力も、クロセルが加護の影響を受けないのも、アランの森の結界を通れたのも、アランの民がフォーカスに滅ぼされなかったのも……」


「全部、僕の仕業だよ」


「意志の才能……なんでもありかよ……」


 理解から生まれた安堵を覚えると同時に、俺は大きな溜息を吐いた。

 だが待てよ?俺の存在は計画外の存在。

 本来の計画では、ハーゲンティはどうやって神を殺そうとしてたんだ?


「じゃあ本題だ、わざわざヤマト君がお膳立てしてくれたからね、このチャンスは有難く受け取らせてもらうよ」


「そりゃ良かったな」


「長老、アランの民を代表して僕の言葉を受け取って欲しい。700年間、今までクロセルを守ってくれてありがとう、そしてもう良い、もう良いんだ……結界を維持する必要は無い、君達の役目は終わった、この森に縛られず、自由に生きて良いんだ」


「ハーゲンティ様……ありがたきお言葉……これでアランの民は報われます」


 長老は地に付くほど深く深く頭を下げる。

 こいつらにとってそんなやばい存在なのか、こいつ。

 というか関係ない俺に向けて頭を下げられてるみたいでなんか複雑だな。


「では僕は失礼するよ、君の目的は僕の悲願だ、必ず、神を殺してくれ」


「分かった、もう行くのか……本当にクロセルに会う気は無いんだな」


「少なくとも、目的が果たされるまでは……ね、それに彼女の主人はもう僕じゃない、ヤマト君、君なんだ」


 そう言って、俺の身体から気配が消え失せる。

 本当に俺の身体に入ってるのか分からないほどに、普通だ。

 後遺症もなんもなし、記憶もしっかりある。


「ハゲの奴はああ言ってたが、魔族であるお前らに居場所が無いのは事実だからな、無理する必要は無いぞ」


「その通りだ。故に我々は此処から離れるつもりはない、これからも結界を維持し、静かに暮らしていくつもりだ」


「それが良い、んで……ちょっとしたお願いがあるんだが良いか?」


「お前にはハーゲンティ様を連れてきてくれた恩がある、言ってみろ」


「この村に釣りが得意な少女は居ないか?うろ覚えだが……確か才能指数は6だったか」


「シオンの事か?」


「名前は知らん、取り敢えずそういう奴が居るってなら会わせてくれ」


「うむ、分かった、連れてこさせよう」


 長老が一つ頷いて、俺の後ろの方に立っていたアランの民を手招きすると、少し言葉を交わし、その男は長老にお辞儀をすると直ぐに集会場を出ていく。

 それから十数分程度待っていると、集会場に二人の人物が現れる。

 一人は青年、もう一人は幼い少女。あぁ、良かった。生きていたか。


「よう、久しぶりだな」


「貴様……どうやって此処に来た」


「これ、ウジェド、彼は大切なお客様だ。言葉は慎むように」


「……そうなのですか?長老」


 兄妹の兄の方。ウジェドと呼ばれた青年は困惑した様子で俺と長老を交互に見る。

 一方、妹の方は不思議そうな顔で俺を見つめていたかと思うと、思い出したかのように目を見開いて声を出した。


「湖で溺れてたヤマトお兄ちゃん!無事だったのね!」


「そうだ、あの時は世話になったな」


「魔物に殺されたかと思っていた」


「俺もお前ら二人が魔物に殺されたんじゃないかと思ってた、無事で良かったよ」


 相変わらず愛想のよくない兄と、俺に警戒心を欠片も抱かない無邪気な妹。


「お前ら二人に感謝を言いたくてな、この世界に来た時……いや正確には違うんだが、まぁ湖で溺れてた俺を助けてくれてありがとう」


「どういたしまして!」


「名前を聞いても良いか?」


「私はウジェド、こっちは妹のシオンだ」


「改めて宜しくね!ヤマトお兄ちゃん!」


「あぁ、宜しくな」


 太陽のような笑みを浮かべるシオンに、俺も小さく笑って返す。

 また来る事もあるだろう。もうアランの民は何も守らなくて良いのだから。


「また来るよ、とか言ったら怒るか?」


「長老の言葉が確かなら、お前は例外なんだろう、歓迎……は出来ないが、出て行けとは言わないさ」


「また来てね!ヤマトお兄ちゃん!」


 反応は様々だが、来るなとは言われなくて安心した。

 全てが終わったら、また来よう。今度はクロセルや、仲間達も連れて。


「じゃあ俺はこの辺で失礼するよ、朝早くに悪かったな」


「我々も、変わるべき時なのかもしれないな」


「そうだな、そこから先はお前たちの問題だ、俺は何も言わないが、頑張れよ」


 長老に向けてそう告げると、そのまま立ち上がろうとして……


「……おい、誰かこの縄解け」


「あはは、ヤマトお兄ちゃん、今まで忘れてたでしょ」


 シオンに笑われた。だって誰も指摘してくれないんだもん。

 長老に指示で現れたアランの民に縄を解いてもらい、今度こそ集会場を後にする。


「よし、戻るか、クロセルを待たせてるからな」


 俺は一人呟いた。或いは中のハゲに聞こえるように。

 そして、心地よい朝の空気を浴びながら、俺は村を出て、結界のある場所へと向かった。

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