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星屑の行方

 鬱蒼と茂る森の中。夜の森は、不穏な不気味さを醸し出す。

 同時に、どこか懐かしさを感じるそんな風景の中に、俺とクロセルは降り立った。


「今更こんな所に何の用があるのだ?」


「俺達のやろうとしてる事は世界への反逆だ。そんな事に手を貸してくれる人間が居ると思うか?」


「居ないだろうな。帝国の強者は軒並みご主人が殺してしまったし」


「あぁ、だから俺達に出来る準備ってのは、人を集める事じゃない。神の喉元に届かせる為の武器を集める事だ」


 そう言って、俺は森の中を歩き出す。

 因みに、俺とクロセルは全身を黒いローブで覆っている。白い仮面まで付けた完全防備だ。

 そうしている理由は当然、俺が王国、帝国、教国において全面指名手配中だから。俺の素顔は既に割れている。だからこうして身を忍ばせる必要があるわけだ。


「まぁ、見付かった所で捕まえられるとは思えないが、ラオンの仕事を増やすのも悪いしな」


 薄々お気付きの方も多いと思うが、ここは王国だ。

 王国領の辺境部に位置する村。その名も……


「帰ってきたな、タルフの村に」


「うむ、こうして二人で来ると感慨深いな」


 俺達は森を抜け、町の中に足を踏み入れる。

 そう、俺達の旅が始まった場所。タルフの村だ。

 相変わらずというか、街並みに変化はない。


「それで、今更ここに何の用があるのだ?」


「要件は二つある。ま、まずは簡単な方からだな」


 俺は慣れた足取りで、町の中を歩く。

 森の中から、あの場所に向かう道は何度も歩いた。手に入れた薬草を持って。


「ご主人、まさか……」


「まさかも何も、見ての通りだ、あいつに借りを返してもらおうと思ってな」


 俺はある所で足を止める。夜の闇でも分かる、古びた異質な家屋。

 星屑屋、と呼ばれている薬屋だ。俺はここの主人に用がある。


「……鍵が掛かってるな」


 当然というかなんというか。扉は固く施錠されていた。


「クロセル、開けろ」


「普通に不法侵入だが良いのか……?」


「お前がそういう事気にするようになったのか、成長したな」


 前だったら逆だった。クロセルが強引に鍵を開けようとして、俺が止める。

 今はクロセルも丸くなったし、俺は記憶を取り戻して少々過激な思想に染まった。

 なんだかおかしくて、俺はくすくすと笑いを浮かべる。


「それで、どうするのだご主人」


「素直にノックしよう」


「その手があったか!」


「やっぱお前変わってねーわ」


 目から鱗だとばかりに瞳を輝かせるクロセルに愛の拳を放って、弾かれる。

 そして、俺は少し強めにドアをノックした。


「……」


「ご主人、本当にここに居るのか……?ステラは確か……」


「俺の記憶が正しければ、クロセル奪還の際にここを離れ、後は魔王に仕えていた、んで魔王の間の前で再開して……」







「久しぶりだな、ステラ」


「えぇ、お久しぶりです。ヤマトさん、クロ様」


 俺とクロセルが最後の準備。ラプラスなりすまし作戦をしている途中の事。

 玉座の間の前の部屋に、彼は現れた。


「まだ皇帝の奴に仕えてたのか」


「えぇまぁ、ボクも命は惜しいですから」


「安心しろ、皇帝……魔王は俺が封印してやる」


「そうですよね、ヤマトさんが此処に来たって事は、そうなると思ってました」


「俺達を止めるか?」


「いいえ?逆ですよ、ボクはヤマトさんに協力する為に此処に居たんです、来るべき時に備えて、ね」


 ステラは笑ってそう告げると、俺に向かって一本の瓶を差し出す。

 中には透き通るような爽やかな青い液体が詰められている。


「封能薬です、素材をアレンジしたのでちょっと色は違いますけど、効能はおおよそ一緒です」


「良いのか?皇帝はお前の恩人なんだろ」


「確かに……エルク様は悪い人じゃなかった、ボクを拾ってくれたあの頃のエルク様は。でも今は変わってしまった、だからボクは、間違った道に進むエルク様を止めなければならない。それが僕に出来る、唯一の恩返しだから」


「……なるほどな、承った。任せとけ、俺達が魔王を止めてやるよ」


「ありがとう、それでは幸運を祈ってます。また会いましょう、願わくば今度こそは友人として」


 そう言って深くお辞儀をすると、ステラは小走りで魔王城の奥へと走って行った。







「また会おう、って言葉が確かならば、居るはずだ」


「だとしても……わざわざタルフの村に戻ってくるか?」


「……そこは賭けだな、尤も、大して期待はしてないから良いんだが」


 こんな風に駄弁っていても、中々星屑屋の店主は出てこない。

 この様子だとやはり居ないのか……そう思って俺は扉に背を向ける。


「……行くか」


「待てご主人、探査魔術を使った所、内部に生命反応がある」


「よし、扉を破壊しろクロセル」


「命令するでない、鍵だけ破壊するがよいか?」


「それでもいい」


 クロセルが短く詠唱すると、ぽん、という気味の良い音と共に、鍵穴から煙が出てくる。

 破壊行為にしてはかなり静かだ。これなら近所迷惑にはならないだろう。


「お、開いたな」


 ドアノブに手を掛けて、軽く引くと、扉はごく普通に開く。

 これで立派な不法侵入なのだが、俺は臆する事なく中に足を踏み入れた。

 相変わらず片付いてない。大量の植木鉢やら壺やら本棚やらで迷路のようになっている。

 一応店なんだよなここ?


「っと……やっぱりか」


 奥に進むと、丸机に突っ伏して寝ている少年の姿を確認する。

 既視感とはこのことか。そう言えば最初に星屑屋に来た時も、不法侵入してこいつが寝てたっけ。

 という訳で、今回はこいつに用事がある。気持ちよく寝てる所悪いが、起きて貰おう。

 肩を優しく揺さぶると、直ぐに目を覚ます。そして、虚ろな視線が宙を泳ぎ、俺とクロセルを見て停止する。


「ボクは誰?貴方はステ……」


「それもう良いから」


「……ほんとに誰ですか!?強盗!?ボクの店に金目の物なんて無いですよ!?」


ステラは飛び起きると、両手で待ってのポーズをしながら、あたふたと目を回す。

何故だ?と少し考えて理解する。そう言えば俺達変装してたな。


「あぁ、悪い。これで分かるか?」


フードを脱ぎ、不気味な白い仮面を外す。クロセルも俺に続いて同じように変装を解いた。


「ヤマトさん……とクロさん?はふぅ……びっくりしました」


 俺とクロセルの存在を認識すると、安堵したように溜息を吐くと、嬉しそうな笑みを浮かべる。


「まさか本当にここに居たとはな、指名手配……ではなかったな、お前は死んだ事になってる」


「はい、こうして戻って来れたのもアカツキさんのお陰です」


「それで、本題なんだが」


「ボクの所に来たという事は、そういう事ですよね。任せて下さい。力になりますよ」


「あぁ、助かる。因みに目的は神を殺す事だ、協力してくれるな?」


「えぇ、もちろんです。ん……え?誰を殺すって言いました?セミ?」


「神だよ、教国に居る」


「本気ですか?どう考えても魔王よりやばい相手ですけど……」


「まぁ、やるしかないんだよ。神の為にな」


「神の為に神を殺す?あはは……ボクちょっと頭がこんがらがってきました」


 ステラは頭を押さえて小さく笑う。まぁ、混乱するのも無理はない。


「ご主人の説明が悪いな」


「うるさい、話すと長くなるんだよ、取り敢えず封能薬と身体強化薬、あとゲーテに殺されかけた時に使ってた傷を治す薬も、用意できるか?」


「封能薬は神の権能には効果がありませんが……良いんですか?」


「権能について知ってるのか?」


「えぇまぁ、エルク様から色々と聞いてはいるので……」


「勇者や教皇も相手にする事になるからな、持っていて損は無い」


「分かりました、あと超再生薬(エリクサー)に関してなんですが……あれは魔法薬の才能が無いと使えないんですよね」


「それなら問題ない、俺が使える」


 一回だけなら、と心の中で付け加えておく。

 ステラの方は、当然驚いたような反応を返してくる。


「えっ!?そうだったんですか!?あの……才能指数で効果が変わるんですけど……ボクは『魔法薬8』なので致命傷一歩手前くらいなら治せます」


「なら俺なら致命傷でも治せそうだな、幾つ用意出来る?」


「封能薬3本、身体強化薬4本、超再生薬1本ですかね……どれも貴重な素材と作製に時間が掛かる代物なので量産は出来なくて……」


「十分だ、助かる」


「では用意するので待ってて下さい」


 ステラは立ち上がると、店の奥へと消えていく。

 狭い部屋に取り残された俺とクロセル。取り敢えず一つだけ椅子があるので俺は座らせて貰った。


「ステラの奴、いつもここで座って寝てるがベッドとかないのか?」


「身体を痛めそうだが、大方、ベッドを置けるスペースが無いのだろう」


「少しは片付けろよ……」


「我の研究室もこんな感じだったぞ」


「そう言えば、ステラの才能ってどうなんだ?調合と魔法薬は分かるんだが才能指数は知らないんだよな」


「『錬金術3』『調合9』『魔法薬8』だな」


「あいつも大概の規格外じゃねぇか……妖精か転生者かと疑うレベルだ……」


「ご主人の才能に比べると霞んで見えるがな……」


 そんな風に話しながら十数分程度待っていると、奥からステラが戻ってくる。

 手には箱を持っており、中には色の違う三種類の薬瓶が入っている。


「お待たせしました」


「早かったな、それが例の?」


「はい、青色が封能薬、黄色が身体強化薬、赤色が超再生薬です」


「分かりやすいな」


「着色してますからね、本来は深緑とか茶色なんですけど」


「まずそうだな」


「良薬とは苦い物ですから」


 俺は箱を受け取ると、片手でステラの頭を撫でる。


「ありがとな、これで借りは返してもらった」


「あはは……利害関係が無くても、ボクはヤマトさんに協力しますよ」


 相変わらずの無垢な笑顔を浮かべる。これで男じゃなければ……


「ご主人?何か変な事を考えてないか?」


「心を読むな」


「顔に出てたぞ」


「顔色を読むな」


「無茶苦茶だが……それとステラは……いや、言わないでおこう」


「なんだよ、気になるな」


「大した事じゃない、それに他にも用事があるのだろう?急がなくて良いのか?」


「そうだったな、取り敢えずステラ、改めてありがとう、薬は有効活用させて貰う」


「はい!ヤマトさんとクロ様もお気を付けて」


 俺が席を立つと、ステラが深くお辞儀をして見送ってくれる。それに後ろ手で手を振りながら、狭い廊下を進み、店を出る。

 こうして俺とクロセルは、星屑屋を後にした。

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