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支配からの解放

「おいシェル公」


「なんだね、ダーリン?」


「俺は事態を収拾しろって言ったよなぁ!?」


「あぁ、そうするつもりだったのだが、どうも何を言っても聞かなくてね、記憶操作も効かないしどうなっているやら」


 まずは状況を説明しよう。

 アカツキと瀬野は無事にボルトを連れ帰ってきた。話し合いも順調に進み……


「これもドラゴファースト家の復興の第一歩になるかもしれません、良いですよ」


 と快諾を得られた。ここまでは順風満帆、後は街の人を集め、記憶を戻し、シェル公に成り代わってボルトが公主になる。こういう筋書きだった。

 というわけで、朝になって俺達はシェル公の屋敷に向かった訳だ。すると……


「お前達がシェル様を誘拐した犯罪者だな!」


「……人違いだ」


「いや、その女がシェル様を連れて逃げたという証言がある、言い逃れは出来ないぞ」


 と……360度を武装した公国兵の連中に囲まれた状態で、俺とシェル公は再会する事になった。

 シェル公には誤解を解いておくように伝えたはずなのだが……何故だ。


「これは……ご主人が悪いな」


「なんでだよ!誘拐したのはお前だろ!」


「そうではない、昨日、ご主人はシェル公に命令したな?」


「あぁ、ちゃんと命令したはずだ、俺の言葉には絶対服従するように記憶操作してある」


 クロセルはあちゃー、とでも言わんばかりに頭を押さえる。

 そして、呆れたような声色で続けた。


「ご主人のディザビリティは何だ」


「俺のディザビリティ……?傷害、剣術、再起動、短剣術、指揮、封印術、蘇生術、精神汚染耐性、回復魔術、記憶操作……と、こうやって挙げると多いな」


「……それだ、指揮のディザビリティだ」


「ん?あ……」


 そうだ、俺は指揮のディザビリティを持っている。

 これは以前に検証して分かった事なのだが、俺が他人に命令し、相手がその命令を承諾した場合、確実に失敗する。これが指揮のディザビリティだ。

 んで……これを避ける為に基本的には自己判断、或いはただの肯定、曖昧なお願いなどの形を取ったりしてきたのだが……完全に失念していた。


「シェル公には"俺の命令には絶対服従"という記憶操作を施した、つまり……あいつに何かを命令すると全て失敗する」


「ご主人は馬鹿なのか?」


「何度も!言うが!やらせたのは!お前だろ!」


 クロセルの頭に拳を叩き込み、弾かれながらも叫ぶ。

 それを見ていたアカツキが、呆れたように溜息を吐きながら口を開いた。


「そのディザビリティ、逆に考えると最強の才能ですよ」


「どういう事だ……?」


「命令に従うと絶対に失敗するという特性を利用するんです、まぁ試しにシェル公爵に『この場に居る全員に誤解を広めろ』とでも命令してみてください」


「は?なんでそんな逆効果な事を……」


「良いからやってください」


「お、おう。シェル公、命令だ、この場に居る奴らに誤解を広めろ、今以上に俺達を憎むように」


「ダーリンの命令とあらば、任せたまえ」


 そして、公国兵に囲まれるようにして守られていたシェル公が声を張り上げる。


「この者達は神にも等しきこの私を誘拐し、神聖なこの身体を犯した。変態の大罪人だ、今すぐ引っ捕らえよ!」


「おいシェル公。そこまで言えとは言ってないぞ」


「ヤマトさん……?」


「誤解だからな?真実じゃないからな!?」


 アカツキからジト目を浴びせられながら、俺は辺りを見渡す。

 すると、周囲の兵士達にざわざわと、どよめきが広がる。


「お言葉ですがシェル様、この者達は人違いでは無いでしょうか」


「僕もそう思います、この者達がシェル様を誘拐したとはどうも思えない」


「な……どうなっている?神にも等しきこの私の言う事が聞けないとでも?」


 兵士達は武器を下ろし、ゆっくりと包囲が解ける。

 ……勘の悪い俺でも何となく分かった。この"裏技"が。


「どうやら誤解だったようです、疑ってすみませんでした、旅の方」


「おう、分かれば良いんだ。んでアカツキ、どうなってる?」


「見ての通り、ヤマトさんの命令に従った場合、絶対に失敗するんです。普通ならばこんなおかしな命令には不信感を持つので、完全には効果を発揮しません。ですが今のシェル公はヤマトさんの命令に一片の疑問や不信感を抱くことはない。つまりシェル公に対してどんな事でも失敗させる事が出来るんです」


「それを応用すれば、こういう事も出来るって訳か」


「そうですね、普通の指揮の才能より使い勝手は悪いですが」


 要は剣術のディザビリティで剣戟を防いだり、傷害のディザビリティで立体機動を取れるのと同じだ。

 ディザビリティも、使い方次第では優秀な才能となり得る。

 大失敗をしたと思っていたが、怪我の功名と言うべきか、結果として良い方に転がったので良しとしよう。


「よし、じゃあシェル公、命令だ、この街の人全員に記憶操作を施せ、その際に、絶対に記憶操作を解くな」


「あぁ、任せてくれたまえ、ダーリンの頼みとあらば必ずや」


「……健気に命令に従ってるのに絶対に成功出来ないのって……少し残酷ですね」


 アカツキが小さな声で呟いた。まぁ確かにそうだ。

 俺の為に頑張ってくれてるのに、最初から失敗するのが確定しているというのは、残酷だ。

 というわけで、シェル公は完璧な手腕で街の人を集め、屋敷で記憶操作を施していった。


「ふむ……何故だ?絶対に解けないように記憶操作を施しているのに……記憶操作が解けてしまうようだ」


「気にするな、続けて良いぞ」


「悪いね、ダーリン、力になれなくて……」


「……これなんか罪悪感が湧いてくるんだが」


「これ以外に方法が無いので仕方ないが、確かに我だったら心が折れてるな……」


 クロセルと俺は、心做しか落ち込んでいるようにも見えるシェル公に対して、憐憫の眼差しを送っていた。

 それと、因みに記憶操作が解けた街の人に関してだが……


「どういう事なんだ?今まで俺達は……何を……」


「混乱するのも無理は無いですね、後ほど説明がありますので、こちらへ」


 記憶操作が解けても、今までの記憶が消える訳ではない。

 つまり、混乱状態に陥るが直ぐに暴動などが起きる訳ではない。記憶操作が解けた人は順番にアカツキと瀬野が屋敷の外に連れて行っている。そして外では。


「聞いて下さい。今まで、フェアリーケレッジは、洗脳じみた手法で支配されてきました。皆さんはその被害者なのです。僕はボルト・ドラゴファースト、公主アイシィに代わり、このアステカス公国を守る使命を託された人物です。僕はこの街をシェル公爵の支配から解放する為にやって来ました。僕はこの街に自由を齎します。そして、このアステカス公国を復興します。その為に、どうか僕に協力してはくれないでしょうか。僕をこの街に自由を取り戻す者として、受け入れては貰えないでしょうか。今すぐにはとは言いません、皆さんの今までの暮らしを大きく変えるような改革もしません。僕は街の人、この国の人の意見を積極的に取り入れ、今よりもっと良いフェアリーケレッジを作りたいと考えています。その為に……」


「選挙の演説を聞いてるみたいだ……」


「選挙?」


「気にするな、俺の世界の制度だ。んで……ボルトの奴大丈夫なのか?」


「街の人の反応は良いようだぞ、やはりシェル公爵のやり方は記憶操作の解けた状態で考えればおかしいのだ、今まで通りシェル公爵に付いていこうと考える者の方が少ないだろう」


 屋敷の二階のテラスから、Vことボルトの声が聞こえてくる。

 外は騒がしいが、なんとか荒事は起きていないらしい。このまま穏便に済めばいいのだが。


「……」


「兄貴が気になるのか?」


「……」


 ボルトが来たという事は、当然、妹のファイも連れて来たことになる。

 演説に向かう前で、クロセルの元が一番安全だから、という事で預かった。

 まぁ、確かにボルトの近くは危険だ。記憶操作が解けた後もシェル公爵に忠誠を誓っている奴とか、ボルトを受け入れられない奴が暴動を起こす可能性がある。それに巻き込まれるのはまずい。

 という訳で、ファイが居るのだが、いつも通りというか何というか、一言も言葉を発することなく、呆然と上を見上げている。

 その表情は幼くも憂いを帯びているように見えた。俺の言葉は聞こえていないかのようにガン無視だが、これもいつも通りだから別に気にしてはいない。


「ボルトはどうやってこいつと意思疎通を取ってるんだ?」


「普通に話していた気がするが……」


「マジ?俺こいつの声すら聞いたこと無いんだが」


「ご主人は怖いからな……ご主人の前だと話せないのだろう」


「えっ……逆にクロセルの前だと普通に話してたのか?」


「あぁ、アカツキとかとも話していたぞ?」


「嘘だろ……」


 嫌われているのか?いや、怖がられているのか。

 別に、慣れっこだ。気にしてなどいない。うん。


「ご主人……気にすること無いぞ」


「おい心読むな」


「思いっきり表情に出てたのだが……」


「うるせぇ」


 確かに、仲間に信頼されていない、というのは少し思う所はある。

 いや、あいつからすれば俺なんて仲間とすら思われてないのかもしれないが。

 そして、外から夕日が差し込みだした頃。


「ダーリン」


「あ?どうしたシェル公」


「街の人全員に記憶操作を施そうとして……全員失敗した」


「これで全員か?よし、よくやった」


「ダーリンの言葉ならば、嫌味でも嬉しい物だな」


 辺りを見渡すと、確かにさっきまで存在した人の行列が消えている。

 これで街の人全員の記憶操作が解けたことになる。なんとか夜までに終わったな。


「あとはボルトが上手いことやってくれれば完璧だな、ちょっと外の様子を見てみるか」


「待って下さい」


 俺が軽く伸びをして、出口へと歩き出そうとした所で、声がかかる。

 声の方向に振り向くと、アカツキがいた。どうやら外への誘導も終わったようだ。

 アカツキは、すたすたとこちらに近付くと、シェル公爵に一礼して、言葉を続ける。


「シェル公爵、お疲れ様です。お言葉ですが、今は外に出ない方が良いですよ。ボルトさんが受け入れられたのと同時に、シェル公爵への反感が高まっているので……」


「なんだと?やはり記憶操作に失敗したのがまずいな……直ぐに掛け直すべきか」


「シェル公、お前は俺の物だな?」


「……?あぁ、私はダーリンだけの物だが」


「お前の財産、屋敷、そしてお前自身は全て俺の物だ、俺がどう使っても構わないな?」


「あぁ、もちろんだとも」


「……最低な発言が聞こえるんですが」


「俺はお前の財産及びフェアリーケレッジの統治権をボルトに譲る、分かったな」


「ふむ……構わないよ、私にはダーリンが居ればそれで十分だからね」


「ご主人……」


「これも街の人を救う為なんだ……その為には俺が悪者にならないといけないのさ……」


「……」


 アカツキとクロセルから嫌な視線を感じる。

 悪者になるのは慣れてるが、この軽蔑の視線だけはどうも慣れない。


「じゃあアカツキはシェル公とファイを連れて帰ってろ」


「分かりました、ヤマトさんとクロセルさんは?」


「ボルトが心配だからな、一応様子を見て、一段落付いたら戻る」


「分かりました」


「当然だが、シェル公は部屋から出すなよ?」


「分かってますよ、では」


「あぁ」


 アカツキは俺に小さく会釈をすると、シェル公爵とファイの二人の手を掴んで、少し離れる。

 そして、小さく詠唱をしたかと思うと、眩いばかりの光を放ちながら消え失せた。


「ファイとシェル公爵を連れてるとアカツキが母親のように見えるな」


「妖精は成長しないらしいからな、残念だ」


「何が残念なのか説明して貰えるか?ご主人」


「……冗談だ、目が怖いぞクロセル」


 割と本気で殺意を感じた。気のせいだと信じたい。

 そして、俺はクロセルと共にボルトの元へ向かった。

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