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ダーリン

 クロセルとの再契約から数時間の後。俺達は宿の一室にて一堂に会していた。

 どうやらシェル公爵の誘拐事件という事で、街は大騒ぎになっているらしい。そこから直ぐに俺とクロセルの仕業だと踏んだ二人が帰ってきたというわけだ。

 というわけで、この場には俺とクロセル、アカツキとゼノ、そしてシェル公の五人が居る。


「……説明を頂けますか?」


 アカツキの冷たい声が部屋に響く。まぁ、それも妥当だろう。


「うぬぬぬぬ……」


 俺の右隣にはクロセルが座り、何故か右腕に抱き着かれている。そして獣のような唸り声を上げながら、俺の左側を睨み付けている。

 まぁ、ここまではいつも通りだ。いや、そうでもないか?まぁ要するにその辺は些事だ。問題は……


「ダーリン♡」


「あはは……ヤマト、モテモテだね……」


 俺は身体を擦り寄せるようにして左腕に抱き着いている金髪幼女を一瞥する。

 誰だこいつ。と言いたくなるが……シェル公だ。

 記憶操作は完璧だった。彼女の記憶に一片も違和感や齟齬は無いだろう。

 だが、その、なんというか……やり過ぎた。

 俺の命令に逆らえない程度に俺に対して好意を抱くように調整したはずなのだが、その結果がこうだ。


「おい……いい加減離れろ……視線が痛い、主にクロセルとアカツキの」


「クロセルさんやティア様を連れ回してる辺りで薄々察していましたけど、本当にどうしようもなく救いようのないロリコンだったんですね、ヤマトさん」


 アカツキの軽蔑の視線が痛い。口調も台詞も凍るように冷たい。

 ゼノもなんか薄ら笑いを浮かべてるし、死ぬほど気まずいんだが……?。


「ご主人は我の物だぞ!触れて良いのは我だけだ!」


「いーやーだ!ダーリンは私の男なの!ね?」


「いや違うが、あとクロセル、俺はお前の物でもないからな」


「……説明を」


「あはは……」


「分かったから一旦全員落ち着け!」


 両腕の拘束を振りほどいて立ち上がると、そのまま両脇の二人の頭に拳を叩きつける。

 ばしんと弾かれるが、待てというのはなんとか伝わったらしい。束の間の静寂が訪れる。


「ふぅ……じゃあ説明するから、お前ら黙ってろよ、質問は後で受け付ける」


 というわけで、俺は昨日からの経緯を説明した。

 まず俺はシェル公に記憶操作をされる寸前で、危険を感じ、精神汚染耐性の才能を解放した。ここはセン公の入れ知恵が役立った。

 結果としてはそれが功を制した。俺はシェル公爵に記憶を操作されたが、自我や意思と言った物は残った状態に陥った。

 同時に、シェル公の記憶を上乗せする形で操作された影響で、俺はシェル公の思惑を知った。俺を使ってクロセルを手に入れる計画だ。

 この状態では、シェル公の命令には逆らえない。クロセルを守り、俺の記憶を取り戻すにはどうすれば良いか、考えた。

 結果、俺は完全に記憶操作されるふりをして、クロセルとシェル公爵を上手いこと誘導し、シェル公の計画を挫く方法を考案した訳だ。

 敵を欺くにはまず味方から。というわけで三人には騙されてもらった。

 んでまぁ色々あって、全て俺の思惑通りになった。

 俺は記憶を取り戻し、クロセルは守り、シェル公の保護に成功する。

 んでシェル公が今後悪いことをしないように、記憶をちょっぴり弄って懐柔した。

 そして今に至る、と。


「保護というか誘拐ですよね?」


「ちょっぴりどころかほぼ別人になってるのだが?」


「うるせぇ!というか提案したのお前だろクロセル!」


「ここまでやれとは言っていないぞ!」


 俺とクロセルは睨み合う。なんとも醜い言い争いだ。

 そんな二人を呆れたような目で見守るアカツキは、諦めるように一つ溜息を吐いた。


「取り敢えず状況は理解しました、それで……これからどうするんですか?」


「シェル公に街の人の記憶操作を解除させて平和的に町を治めて貰おうかと……思ってたんだが……」


「やーだ、私はダーリンと一緒に居るの!」


「とまぁ、そうする場合。俺は一生をこの街で終える事になりそうなんだ」


「記憶操作をやり直したり出来ないんですか?」


「絶対に無理だ、記憶操作がディザビリティになった以上、似たような才能を使っても失敗するだろう」


「困りましたね……この街をこのまま放置する訳にもいきませんし」


 アカツキが腕を組んで考え込む。

 その間も俺に抱き着こうとするシェル公をしっしっと邪険にしながら、俺も思考を巡らす。

 すると、珍しい人物が声を上げた。


「ボルト君を頼ったらどうかな」


「……ってのは?」


「もし記憶操作を解いたりしたら、今後のシェル公の統治に反発が出る可能性もあるよね、だからフェアリーケレッジの統治は別の人間に委任するのが一番だと思うんだ」


「なるほど。セン公爵は自分の領地を治めるだけで手一杯だろうし、そうなると代わりになる人物はあいつぐらいしか居ないか」


「うん、それにボルト君は三大公爵家の最上位、公主であったドラゴファースト家の人間だ、それならこの町の人間も納得してくれるんじゃないかな……って」


「それ、良いと思いますよ。ボルトさんならきっとやってくれます」


 瀬野にしては中々冴えた意見だ。アカツキのお墨付きも得られた。

 となれば、善は急げだ。町に混乱が広がる前に動こう。


「アカツキ、転移魔術でボルトを連れてこれるか?」


「大丈夫だと思います、ボルトさんが聖協会に捕まってたりしたら厳しいと思いますが」


「もし家に居なかったらすぐに戻ってこい」


「分かりました」


「僕も付いていくよ」


 瀬野が名乗り上げる。戦力としては心許ないが、詠唱要らずの空間操作は緊急事態で生きるかもしれない。


「取り敢えずシェル公は屋敷に戻ってろ、じゃないと街の混乱は静まらない」


「了解だよ、ダーリン」


「となると街の人の記憶を戻すのは明日になりますかね」


「そうだな、ボルトを連れて来たらアカツキと話し合って明日に備えることにしよう」


「ご主人……アカツキに頼りっぱなしだな」


「うるせぇ、いつもの事だろ」


 吐き捨てるように言って、俺は目を逸らす。

 俺とて、アカツキとクロセルに頼りっぱなしなのは理解している。だから感謝もしているつもりだ。言葉や態度に出すのが気恥ずかしいでだけであって。


「では失礼します、瀬野さん、こちらへ」


「うん」


魔術回路構築(クリエイト)……詠唱……

 ル・トゥーム・アウナデム・ティロワール

 空間魔術……空間接続(ゲート)!」


 アカツキと瀬野が手を繋いだかと思えば、眩むような光を放ち、消え失せる。


「じゃあ命令だシェル公、屋敷に戻って事態を収拾しろ、明日屋敷に集まるように街の人全員に伝えるんだ」


「ダーリンの命令とあらば必ずや、任せてくれたまえ」


 シェル公は立ち上がると、俺に向けて小さくウインクをして部屋から出て行った。

 そんなシェル公を終始睨み付けていたクロセルが、小さく溜息を吐く。


「どうしたクロセル、ライバルが現れて焦ってるのか?」


「あぁ……って!そんな訳無いだろう!我は別に妬けてなどいない!」


「安心しろ、俺の相棒はクロセル、お前だけだ」


「なっ……う、うん、そうだぞ、良く分かっているではないか!」


 目を細めながら抗議していたかと思えば、今は顔を真っ赤にして嬉しそうに頷いている。一々可愛い奴だ。


「さて、じゃあ俺達は寝るか」


「ご主人……さっきまで寝てたんじゃ……」


「うるせぇ、気絶は寝たうちに入らねぇんだよ」


 俺は立ち上がると、すぐ近くにあるベッドに背中を預ける。


「……」


「何突っ立ってんだよ」


「我は部屋に戻るべきか?」


「は?そうしたいなら別に良いけど、一緒に寝るんじゃないのか?」


「っ……!あぁ、そうだったな!危うく忘れる所だった」


「素直じゃないな、一緒に寝たいならちゃんとそう言ってくれれば良いのに」


 呆れたように笑いながら、俺は小さく呟く。

 クロセルがベッドに飛び込んでくる。だが待て、その軌道だと……


「うぐっ……ごほっ……!」


「わ、悪いご主人……」


 クロセルは俺の腹の上に見事に着地。込み上がる嘔吐感を抑え込みながら、痛みに喘いでいた。


「はぁ、はぁ……お前がガキみたいな身体じゃなきゃ死んでた」


「貧相な身体で悪かったな」


 クロセルがジト目で皮肉を言い放つと、そのまま横にごろんと転がり俺の隣の定位置に寝転がる。


「怒涛の二日間だったな」


「まだ終わってないぞ、大変なのはこれからだ」


「まぁ確かにそうだな……」


「そう言えばご主人、記憶が戻ったのだろう?その話はしてくれないのか?」


「あぁ、それもあるな、だがちょっと不可解な事があるというか、俺も理解出来ない点が幾つかあるんだ、まぁフェアリーケレッジの件に収拾が付いたらみんなの前で話すよ」


「うむ、分かった」


 そう、俺の記憶は戻ったが、未だ謎な事が幾つかある。

 シェル公の記憶操作は完璧なはず。それでも何故か"存在する筈の一部の期間"の記憶が欠落しているのだ。

 これが何を意味するのか、今の俺には分からないが、一つだけ分かった事がある。


「私とヤマト様は殺し合う関係、ヤマト様はこれからきっと記憶を取り戻す、そして私を殺しに来る、そうすれば……また会えるよ」


 あの時のエルの言葉が脳裏で再生される。

 あぁ、その通りだ。俺は神を殺す存在。いや、違うな。正確に言えば……


「ご主人、おやすみ」


「あぁ、おやすみクロセル」


 クロセルと小さく言葉を交わす。

 眠ろう。今はただ。俺の心は揺れ動いている。

 エルや勇者達と刃を交える未来など、考えたくはないんだ。

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