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みんなもうガチャガチャだよぉ


 穴ガチャも100回も引くとなると長丁場になるので、先に軽く飯を食べることにした。晩飯までは時間もある。


 食堂を見つけ入店してみた。これも魔界村3の観光と言えるだろう。席に通されメニューを受け取った。


「お待たせしましたー! メニューでぇーっす!」


 メニューを持ってきたのは元気なサキュバス悪魔のウェイトレスだ。かわいい制服に身を包み、出すところをバイーンと出したその姿は俺の目を奪って返さない。返してくれ、俺の目を。女性陣の視線を感じるのだ。真冬の雪の日のような冷えた空気を感じる。しかし、それでも目が離せない。性を吸い取ってくれませんか。搾り取っていただけませんか!?


 思いは通じず、サキュバスは去った。やっと冷静になりメニューに目を通す。


◇メニュー

・生みかん……銅貨2枚

・冷凍みかん……銅貨2枚

・解凍みかん……銅貨1枚

・みかんジュース……銅貨4枚

・かぼちゃのムース……銅貨4枚

・かぼちゃの皮……銅貨1枚


 これ口頭でいいわ。メニューを待たされるほどじゃ無かった。喋れや。メニューはみかんとかぼちゃですって。


 なんなんだこのラインナップ。なんでかぼちゃなんだ。なんでムースなんだ。皮を食う奴はいるのか。謎は尽きない。


 サキュバスを呼んで注文した。


「とりあえず生ください」


 とりあえず生みかんだ。目の前には生サキュバスの生足。目が離せない。これがサキュバスの力か。やばいな。現地妻に……生現地妻に……。


 いやいやいや冷静になれ俺。むやみやたらに手を出すもんじゃない。大事のはストーリーだ。


 ストーリー……そう、例えば──降りしきる雨の中、傘もささずに立ち尽くす女。『濡れちまうぜ……女が体を冷やすもんじゃない』そう声をかけると振り向いた女は泣いていたようだった。目が赤い。頬をつたう雨とともに涙も流れているのだろう。押し黙る俺。それを見て彼女は軽く息を吐き笑った。『声をかけたんなら責任とってよ』そして俺と女は2人で夜の街へ──


「ニト」


「はい、しょうもないですよね」


 いつものようにブレアさんが俺を現実に帰してくれた。でもさっきのストーリーならサキュバスチャレンジに問題ない気もする。いま気付いた。全ての出会いはストーリーなのだ。


「あのー! ほかの皆さんのご注文はー?」


 見事な生足の女が声を出す。見ちゃうから、見ちゃうからもう話さないでよっ!


「私も生みかんで」

「あたしもっ」

「アルマもなのです」

「我輩も」

「アタシも」

「わたくしもぉ」


 全員かよ! 全員生みかん追随かよ!


 しかし、さすが生みかん。注文した瞬間、カゴで提供された。早い。


 なんとなく、全員黙ってもしゃもしゃとみかんを食べる。たまにじゅるりと汁の音が響く。どうしよう、なんか話す空気じゃなくなったな。

 みんな『それにしても昼飯がみかんか……』ってなってる。楽しいお昼のつもりがとんだみかんタイムだ。


 みかんタイム、それはみかんの味以外全てをシャットアウトするお口の牢獄だ。


 みかんを食べ終わり、落ち着いて周りを見ると店内には数体の悪魔がいた。やはり全員みかんを食べている。かぼちゃは……?


「よぉ、あんたら人間だな」


 俺と目があった悪魔の1人が声をかけてきた。目があったから絡まれたのか。恐ろしい食堂だな。悪魔はゴツい胴体に普通の手足、頭部はポニテでリボンが付いている。顔はまあフツメンだ。見た目は悪魔それぞれだからな、何も言うまい。


「ああ、人間だ。何か用か?」


「……ベルフェゴール様からよぉ、Dコインを渡したって聞いてな。ガチャやるんならやり方教えてやろうと思ってよぉ」


 フツメンが凶悪な笑みを浮かべて優しさを見せてくれた。体系や服装、そして表情がちょっとおかしいが、いい奴なのだろう。


「なるほど、気を使っていただき感謝する。しかし、大丈夫だ。他の魔界村でやったことがある。あ、いやもしかしてこの村独自のガチャなのか?」


「そんなことはねぇさ。普通のガチャだよ……へへ、普通のなぁ」


 変に含みを持たせてるが普通のガチャだろうな。こういう奴は普通に普通のことが言えないのだ。苦労してそうだな。がんばれ。頑張って生きてくれ。ヘレン様……どうか彼に幸せが訪れますように。


 リボンのポニテ悪魔マンと少しだけ会話し、俺たちは店を出た。話した内容は何神に何でキレたかだ。彼は海神と塩分濃度で喧嘩したそうだ。しょっぱいのはお断りだ、と。


 思えば悪魔も大変だな。いろんな理由で神にキレたんだろうが……穴の女神にキレた奴とかは人間界にいるのだろうか。ダンジョンにはいられないよな。人間の街にいるとしても、毎日みかんを食べているだろうから『みかん好き 長生き 頭おかしい』のキーワードで探せば割と簡単に見つけられそうだ。



 少し歩いてすぐに穴ガチャにたどり着いた。


 さあ、ガチャ祭りの始まりだ!


「まずは我輩から行こう……!」


 不敵な笑みを浮かべ力強く大地に立つその男の名は勇者ジャン・アークボルト! 失った仲間の悲しみを背負い戦い続け、ついにその目的を他人の力で成し遂げた偉大な男だ。その背中は頼もしく大きい。触りたくはない。


「箱のこの部分にDコインを入れるんだ。で、ここのレバーを回す」


「わかった…………ジャン・アークボルト、推して参る!」


 かっけー。


 勇者が気合とともにレバーを回した。気持ちはわかるが気合は関係ないよ。ランダムだから。


 光とともに神のアーティファクトが顕現した。神々しい。


 勇者は顔を綻ばせていた。


「真・地獄のローラー、レア度6だ! 魅力的だ……」


 筋トレに使えるから嬉しいのか?


「魅力的とは?」


「ここを見てくれ」


 勇者が指をさしたローラーの側面にはサタンが描かれていた。地獄の象徴なのか?


「これは?」


「サタンだ。我輩の方向性とは違うが、あの見事なボディ…………魅力的だ……」


 オーケー。もう聞く必要はない。


「よし、順番にやっていくか。誰かがやり続けても見てる方もつまらないしな。次は?」


「ではぁ、わたくしがぁ」


「魔法王か」


 そして魔法王もガチャを回し光が辺りを包む。


「えぇー、ドーナツぅ? 食べてもいいですかぁ?」


 穴だからか。食べ物も出るんだな。ヘレンちゃんが焼いたのか?


「ちゃんと味わえよ」


「はひぃ。おいしぃよぉ」


 豚がよだれでべちゃべちゃになってやがる。ったく、蹴っ飛ばすぞ。


 そんな感じでガチャを続けた。ジーラさんがやたらレア度1を引いたり、メスブタが豚耳カチューシャを引いたり、俺がラッキーキャットさんとお揃いの猫手袋を引いたり。


 アルマはさっきの食堂の悪魔とお揃いのリボンを引いていた。あいつとお揃いという記憶さえ消せればステキなリボンだ。

 精神力の向上効果もあるらしい。数値的には100ぐらいだ。精神力45万を超えるアルマにとっては焼け石に水どころではない。


 しかし、こうしてみると悪魔たちの衣服も結構ガチャで出たものっぽいな。アイツら結構なガチャ狂いだ。



 そして、全100回のガチャが終わった。



 まずは俺とメスブタ以外の5人の最高の品は以下の通りだった。


・ジーラ 虹色のフラフープ(2)

・ブレア みかん箱・大(3)

・魔法王 こころとからだの拘束具(6)

・アルマ 精神力向上リボン(7)

・勇者  ヘレンちゃんツルハシ・金剛(8)


 ジーラさんがすごい。14回引いてレア度1と2ばかりだった。そして最下位の人用のおまけの1回で引いたのが虹色のフラフープ、レア度2だ。

 虹色なだけで普通のフラフープだった。何か特別な効果があるかもしれないと、真顔で腰を振り続けるジーラさんは悲しくも少しエロかった。


 そして俺のは驚愕の品だった。


 レイシャとユリーネのフィギュア・レプリカ(6)


 何があったんだ。俺の作品のレプリカが作られてガチャで配布されてる……。際どい部分のみかんも見事に再現されている。完成度が高い。これをヘレンちゃんが作った……のか?



 あと、メスブタは『ヘレンちゃんフィギュア・等身大スタイル着せ替えセット・ジャージ版(9)を引いた。服だけなのが残念だ。おそらく、等身大フィギュアがレア度10なのだろう。

 ともあれ、これでメスブタが最高位の人用のおまけの1回を引くことになった。


 メスブタはやばいのを引いた。とてとやばいものを。


 インターホン(9)


 埋めたのに! 道中で埋めたのに! アバドンちゃん呼ぶやつだ。埋めたやつと同じのを引き当てやがった!

 メスブタはそれが何なのか気付かずに首を傾げている。大事な何かを思い出しそうで思い出せない記憶喪失の人みたいなリアクションだ。


 後で奪おう。俺が引いた『女豹コスチューム(4)』と交換しよう。


「いやー、盛り上がったな!」


「そうね。私とジーラさん以外はそうだったでしょうね」


「ブ、ブレアとジーラさんもレア度低くても楽しいものいっぱい出たじゃん。お絵かきセットとか、矢文セットとかさ」


 ちょっと厳しいフォローだった。2人は互いを見てため息をついている。


「我輩は大満足である。このツルハシ……ビーチを拡げるのに活用しよう」


 頑張ってくれ。いつか最高のビーチを。


「なぁニトッ! なんだこれっ!」


「そのインターホンは俺が預かろう。男性用だからな。エッチなやつだ」


「えっ!? えええエッチなのかっ!?」


「そうだ。代わりにこの可愛い女豹の服をやろう。今晩にでも着てみせてくれよ」


「う、うんっ! まかせろっ!」


 アルマは何も言わずにリボンをニヤニヤと見つめていた。本当に嬉しいんだな。リボン可愛いし……食堂のポニテ悪魔マンとお揃いリボンだという話は触れてはいけないだろう。


「わたくしもぉ、この拘束具がぁ気になりますぅ。どんな効果なのかしらぁ?」


 俺は魔法王の耳元で囁いた。


「使ってみようぜ?」


「はははははひぃぃいいい!」


 大声で叫び台無しになった俺の囁き声のアプローチ。冷ややかなブレアとアルマ、そしてジーラさんの視線。


 んー…………うん。さて、帰るか。今夜はブタ達の宴だ!


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