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第1回パーティ会議 議事録2


「私は復讐がしたいわ。殺しじゃない、復讐よ。そいつが大事にしているもの、ひとつひとつを目の前で丁寧に壊してやりたい。徐々に絶望させ、そして少しの希望を仄めかし立ち上がらせ、それをまた目の前で踏みにじってやりたい。繰り返すけど、殺しじゃないわ。そんな生易しいものじゃない。精神魔法による心の破壊や、体をちぎるような拷問でもない。今まで生きて来た人生の全てを後悔させてやりたいのよ。私から壊すんじゃない、そいつ自身に選ばせた上で丁寧に丁寧に心を壊してやりたい。例えばそう、その日、着ていた服、通った道、選んだ言葉の一つひとつ全てを。これまでの人生で選んできた全ての選択肢を悔いるような復讐がしたい」


 ブレアは声音こそ変えずに言い切ったが、その瞳の奥には確かに強い恨みを感じさせた。それが彼女の全てとも思えてしまうほどの恨みを。その拳は強く握られていた。



 メスブタと俺のミステリアスな茶番の後、アルマ先生の進行の元、議題2『ブレアちゃん、苦悩の日々の終わりに』が始まった。そしてこの空気である。落差がすごい。


「殺さないのかっ?」


 ニコニコ笑うメスブタは空気の破壊もお手の物。ヘビーな空気は容易くライトな空気へと様変わりした。俺が同じことを言ったらボコボコにされるだろう。


「心から反省して『殺してほしい』と懇願されれば殺してあげようと思ってるわ」


 おおう。死とは慈悲であると仰るのか。ブレア様は恐ろしいお方よ。ゴクリ……とお茶を飲む。お茶おいしい。さすが魔法少女が淹れたお茶だな。


「相手はどんな奴なのです?」


「そうね、それが本題ね。と言っても現在どんな奴なのかは私もわからないわ。名前はサラン、かつて魔法帝国で名を馳せた英雄。魔族の男よ」


「あれ? 魔法帝国は魔族の国だったのです?」


「大国に多いけど多人種の国ね。他国に比べれば魔族と人族が多かったわ。ちなみに私も魔族の血が混ざっているわ。人族である事に間違いはないけど」


「へー、そうなんだ」


 この前、魔法王になる条件は満たしてるって言ってたけど、魔族の血も関係しているのだろうか。


「話を戻すわ。サランは死霊術を極めていたわ。死者の大群を操り、戦場を生き抜いた男よ」


「死霊術? それは禁忌に触れないのか?」


「触れないでしょうね。死者を操るだけだから。死体から離れたマナを、魔石を媒介にして顕現させる。おぼろげながら生前の姿を見せるわけね。会話は微妙だけど、支配して命令する事で生前のスキルを使わせることができる場合もあるわ。あるいは死体にあるマナの残滓を活用して、死体を操作する。どちらも精神に作用する魔法や、ゴーレムを操作する魔法と大差は無いわ」


「ふーむ、神々が良しとしても、倫理的に国からは禁止されそうなものだけど」


 怒る人……というか団体が多そうだ。


「魔法至上主義の国だったからよ。それが希少な魔法であるほど持て囃されたわ。その上、サランは表向きは人格者を装っていた。使う死者も魔物、特に妖魔が主だったわね。稀に人間を使うこともあったけど、それも多くの手続きを踏んだ上でのことね」


「そうか。魔物の死体でも良いのか……というかそっちの方が人間より強そうだよな」


「ええ、だけど奴は魔物の死体での死霊術には満足していなかった。そして、行動してしまった。私の両親も妹も祖父母も親友も恩師も友人も知人も、サランに殺されたわ。私が戦争に出て不在の時にね。戻ってそれを知った時…………私は、私は……」


 ブレアはいつになく顔を歪ませ、怒りを露わにしていた。

 どろどろに混ざり淀んだ感情がマナフィールドを通して伝わってくる。後悔し、自分自身を責める気持ち。相手を憎む気持ち。死んだ者たちへの思い。せめて苦しまずに死ねたのか、それとも苦しんで死んだのか、死んだ後に死霊術で弄ばれているのだろうか。いずれにせよ相応の報いを相手に与えねば。復讐する。復讐はするが、だけどなぜ私は……。なぜその場にいれなかった。ただ、ただ自分がその時その場にいれば。なぜ行きたくも無い戦争なんかに。あの時、毅然と断っていれば。


────あれ?


 読め過ぎていた。感情移入し過ぎたか? 同調したというか。


 ふとブレアを見ると、少し驚いた顔で俺を見ていた。向こうにも伝わったのか。繋がり過ぎた事が。


「ニト……」


「……わからん」


 俺とブレアのやりとりを訝しむアルマ。余計なことを言うと講義が始まりそうだ。今はややこしい講義は後回しだ。本題を進めよう。ブレアを見て頷き、先を促した。


「……そうね。ベルゼブブから聞いた話によるとサランは今リッチになっているわ。魔族だから人族よりは多少長生きだろうとは思っていたけど、死霊術で自らの魂を自らの死体に留めたのね」


「待て待て。それこそ禁忌に触れるだろ」


「どうかしら。世界にアンデッドが存在する事、サランが死神に連れ去られていないところを見ると禁忌ではないのでしょうね。ギリギリのラインだとは思うけど」


「死霊術が得意なリッチか……。肉体を破壊すれば死ぬのかな?」


「おそらく。媒介なしに魂は収束し続けられないわ」


「その通りなのです。肉体を崩壊させればリッチといえど魂は分散するのです。マナのみの生命なんて精霊ぐらいなのです」


「へー……あ! すごいなアルマ。物知りだな!」


「……ふふっなのです」


 良かった。アルマ先生はご機嫌だ。


「サランを見つけたらまずは対話を試みるわ。攻撃してくるようなら無力化するけど、向こうには死霊術があるから敵が何体いるかわからない。私も知り合いがいれば動揺するでしょうし。みんなの判断で危ないと思ったら協力してほしいの。その時は、さっきの復讐のことは忘れて良いわ。安全第一、復讐第二ね」


「安全第一、復讐第二。了解です」


 分かりにくいが『安全』が相手を殺すほうで、『復讐』が相手を殺さないほうだ。


「私の話はそんな所ね」


「分かったのです。ブレアちゃん、泣きたい時はアルマがいつでも抱きしめるのです。気軽に言うのです」


「俺も。いつでも言ってくれ。俺の体は好きにして良いから」


 前みたいにさ。好きにしてくれないかな。


「あたしもだっ! 組手ならいつでも付き合うぞっ!」


 組手。


「みんな……ありがとう」


 棘が取れたかのような、いつもより少し柔らかい笑顔だった。



「さて、議題3『アルマ、栄光への架け橋』なのです」


「つかれたっ!」


 たしかにそろそろ疲れた。もういいんじゃないか。話したかったことは話したし。


「メテオちゃん、聞くのです」


 『笑顔』のアルマは笑ってはいなかった。有無を言わさぬ様子だ。アルマにとってはこれからが本番なのだろう。やむなし。休憩なしか……。


「お、おうっ」


 メスブタも圧倒されている。


「簡潔に行くのです。アルマは癒し系なのです」


「簡潔すぎてわからない……」


 頻繁に罵られ、唾を吐きかけられているがあれは癒しなのか? たしかにある部分では癒されているが。


「神聖魔法による回復に加え、優しい診察と手当て、なでたり、添い寝したり、耳かきしたり、鞭で叩いたり、棒で叩いたりできるのです」


「最後の方、優しくなくない?」


「特にブレアちゃんには活用して欲しいのです! 今晩は添い寝するのです!」


「ふふっ。ありがとう」


 俺の質問、無視されたな。しかしブレアの微笑が拝めた。これは今晩はお2人は添い寝ですかな? 添い寝なら俺もしたい。


「あたしもっ!」


「むむっ! しょうがないのです。今日は3人で寝るのです」


「待った! なら俺も添い寝!」


「ぺっ、なのです」


 はい、癒しー。


「じゃあ、アルマ……今度2人の時でいいから、夜伽は……」


「ぺっ、なのです」


「……うむ」


 まだ好感度が足りないらしい。もう少しデートしたりプレゼントしたりして仲を深めていこう。



「議題4『魔法王、屈辱とその悦び』なのです」


 アルマは赤いメガネをお掛けになられた。クイクイしている。落ち着かないな。


「何なのそれ。跪かせる話?」


「なのです。今代の魔法王は聞くところによると女なのです。それも金獅子族の厳格なメス。跪かせるときっと屈辱的だと吠えるのです」


「なるほど。続けてくれ」


 興味深くなってきた。


「なのです。でもそこでアルマの鞭術レベル10で叩き続けるのです。踏みつけながら、時には罵りながら。自身を絶対強者だと思っていた魔法王はアルマという小娘になすすべなく叩かれ、抵抗する術のない自分に愕然とするのです。人間として、王としての矜持が、自分の中に潜んでいた獣の部分に食い破られ屈辱の中でニャーニャーと鳴くしかなくなるのです」


「良いじゃん。魔族の頂点に立つ金獅子がメス猫に成り下がって涙を流しながらヨダレをこぼすわけだな」


 アルマ恐ろしい子。さすがセバスチャンの娘。


「なのです? 魔族の中で最高の権力者がアルマの手でマゾ族になるのです」


「そのダジャレは今回限りで」


「わかったのです。自分でもよくないかなと思っていたのです」


 肝心なところでガッカリさせてくる。さすがセバスチャンの娘。


「それで終わりか?」


「全ての魔族の支配階級がアルマに対して様付けをするように魔法王から指示させるのです。そこまでが今回の計画なのです」


「あ、そう……なんかもう一手欲しいな」


「殴るかっ!?」


「死ぬからダメだ。ケガしないやつがいい」


「寸止めで殴り続けるかっ!?」


「恐怖を超越して悟りそうだからダメだ」


「難しいなっ!」


「難しいんだよ。そうだな…………あ、アルマが勉強を教えるのはどうだろう?」


 みんなピンとこないようで首を傾げている。


「なんでそうなるのです?」


「魔法に絶対の自信を持つ魔法王に魔法を教えてあげよう。マナとは何か、魔法とは何かを。講義をして、試験をする。間違えたら罰として棒で叩く、正解したらご褒美に鞭で叩く」


「む、むむ……ふむふむ、なのです」


「この魔法都市で魔法王と呼ばれる権力者に魔法のことを教えてやるんだ。罵りながら」


 これ以上の屈辱があるだろうか。


「でも、アルマは癒し系なのです」


 ここに来てそこに躓くのかよ。


「大丈夫だよ。だって最後は魔法王も幸せになるじゃないか。アルマは癒し系だろ?」


「たしかに、なのです。ニトはいいこと言うのです!」


「じゃ、金獅子の魔法王はアルマが調教するという事で」


「腕がなるのです!」


 変な話になったな。まあ面白そうだから良し。



「では最後の議題5『唱えよ、ステータスオープン』なのです」


「ステータスの確認かしら?」


 ブレアはそう言いながらも全員のステータスを確認しているようだ。


「そうなのです。そろそろ気になるのです」


「なるほど、まあそうだな。確認しておくか」


「終わったわ。4人分、こんな感じね」



──ニト──

【総合能力】

マナ総量:944,000

【基本能力】

身体力:400,000

精神力:400,000

【スキル】

変質者:レベル5

【称号】

神に連なる変質者

神話級性犯罪者

視線の奏者

ブレア様の犬

常識崩壊

変態様

メスブタの飼い主

──────


──ブレア──

【総合能力】

マナ総量:1,370,000

【基本能力】

身体力:50,000

精神力:410,000

【スキル】

マナ視:レベル10

→絶対時間把握:レベル10

→マナ配分読解:レベル10

神界流魔法陣:レベル6

闇魔法:レベル8

空間魔法:レベル7

収束魔法:レベル8

体術:レベル4

毒舌:レベル10

→トラウマ創造:レベル10

→→精神崩壊魔法:レベル9

【称号】

黒球の魔法使い

終焉の魔女

宇宙の法則を乱すテクニシャン

──────


──メテオストライクブースター──

【総合能力】

マナ総量:1,010,000

【基本能力】

身体力:402,000

精神力:87,000

【スキル】

破壊と再生:レベル10

【称号】

アホの子

不死王

破壊王

砕きし者

ニトのブタ

──────


──アルマ──

【総合能力】

マナ総量:1,418,000

【基本能力】

身体力:210,000

精神力:453,000

【スキル】

家事全般:レベル10

夜伽:レベル1

添い寝:レベル10

耳かき:レベル10

なでる:レベル10

診察:レベル10

手当て:レベル10

神聖魔法:レベル10

変形:レベル10

鞭術:レベル10

棒術:レベル10

【称号】

最高級品

ド禁忌

変質神が呪い申し上げます(爆)

俗物

──────



 メスブタの飼い主になってるな。首輪買ったからか? ブレアの犬なのにブタの飼い主になってしまった。犬がブタ飼ってんのか。ファンシーだな。


「ニニニニトのブタになってしまったっ! 卑しいっ! 卑しいっ!」


 真っ赤になって首をブンブン振りながらメスブタが錯乱している。


「落ち着け。卑しいから落ち着け」


「はひゅうー、はひゅぅー」


 だいぶ興奮してるな……卑しい系女の横の癒し系女も大興奮だった。


「なんで俗物なのです!? そんなはずないのです! 真摯に、真摯にお金と向き合っていたのです。金の亡者であっても俗物ではないのです」


 なにが違うんだ?


 そんな2人より、個人的にはブレアの称号──宇宙の法則を乱すテクニシャン、が気になる。あの夜が忘れられない……。



 自らの内なる何かに納得して落ち着いたのか、アルマ先生が自分を取り戻していた。メガネクイして講義が再開された。


「そうだ、なのです! せっかくだから、みんなこれからどう強くなるのか検討でもするのです!」


「アルマ先生。ブレアは魔法か魔法陣か……まあ、魔法陣かなと思います。他の3人は考える余地とかないかと。俺は変質者スキルを伸ばすだけ、メスブタは破壊と再生スキル以外いらないからマナ総量を増やして基本能力を底上げ、アルマもなんか色々あるけどカンストしてるし基本能力を底上げするだけ。以上では?」


「た、たしかになのです」


 納得してくれてよかった。


「とりあえずみんなマナ総量が増えるように苦心しようぜ。それが全てだよ」


「むむむ、そうするのです」


 アルマ先生のメガネがすごいスピードでクイクイされてる。あの仕草をなんだと思ってるんだ。なんのジェスチャーなんだろうか。わからない。



「あ。そうだ。ブレア、ステータスは練習だって言ってたよな。今、マナからステータス外の情報を読み取ったりできないかな?」


「……そうね、項目にない情報を拾い集めて、自分なりに整形して…………やってみるわ」


 言われた直後にためらわずにチャレンジするブレアさん。思い切りが良いな。ブレアは目を瞑り集中し、数分後に目を開いた。


「出来たわ。出来るものなのね。自分で練習なんて言ってたけど本当にその先に行けるとは思ってなかったわ。ニト、ありがとう」


「え? いいよ。それよりなにが見えたんだ?」


「転生回数よ」


「転生回数って……魂的な? 転生の回数?」


「そのままその通りよ」


 あまりにも予想外。そんなのも読めるのか。


「それもはや別のスキルじゃない?」


「いえ、立派なマナ視の一環よ」


「……ちなみにみんなの回数は?」


「1位は私の魂。13回、8760年。年数は魂の存在期間であって肉体を持って生きていた期間ではないわ」


「おお、そういう感じね」


 転生中の時間も含むわけだ。


「2位はメテオの魂。5回、2703年」


「なるほど」


「3位はアルマの魂。0回、1億年」


「えーと、創るのに時間がかかったのかな。年数で言えば1位だな」


「四位はニトの魂……0回0年よ」


「ん? ごめんもう一回」


「0回0年よ」


「どういう事?」


「分からないわ。何分、初めてのステータス項目だから」


 なんてこった。ベイビーじゃないか。合法的におっぱい揉んだり飲んだりしていいのか。……よしっ!


「ニト、ステータスがどうあれ、貴方は実年齢21歳、肉体年齢16歳だから」


「うーん…………だな!」


 納得。頭を過ぎった願望が犯罪であることを確認し、第1回パーティ会議は幕を降ろした。


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