俺はトップランナー
ついにここまできた。
スキルを覚えるのだ。永きに及ぶスキル童貞とオサラバするのだ。
この牢獄に来てからも長かった。
収監されてから約3年。前半の1年半は人生を振り返っていた。メンタルは半分壊れていた。後半の1年半は真剣に脱獄に向けて取り組んでいた。メンタルは全壊だった。
ほぼ記憶がない。廃人だったと言ってもいい。思い出そうとすると身体が壊れそうなほどに震えるのだ。
怖いとかそういうのじゃない。寒気がして震えて思考が明後日の方向に飛んでいくのだ。視野はひどく狭くなり、目の前の一点を見つめるしか無くなる。しかも見つめていながらも対象を認識する余裕がないのだ。そこに恐怖はない。『無』だ。
トラウマを魂に刻み込まれたのだ。魂を壊しては適当に固められ、また壊しては適当に固める。粘土よりも雑に扱われた俺の魂はまだ魂と言えるだけのカタチをしているのだろうか。あれ、俺はまだ人間なのだろうか。俺は、俺は…………あががががが。
────……
ふう、危なかった。2、3日経ったかな。
ブレアはいつものように椅子に腰掛けている。
俺が魂のトラウマに壊れそうになっている間もただ座っていたのだろう。すごい。人知を超えている。さすが俺のブレア。トラウマ創造スキルをカンストさせているだけある。トラウマに非常に寛容なのだ。意味がわからないがそうなのだ。
まあ2、3日壊れるぐらいなら日常だ。脱獄が成功した後、ちゃんと生きていけるかは疑問だが、壊れてしまったものはどうしようもない。
心なんて壊れていて普通なのだ。壊れていない方がおかしい。
「あら…………? あらら。ニト、あなたスキル獲得しちゃったみたいよ」
座っていたブレアがこちらを向いてそう言った。
「え?」
「選択しなくても、本人の性質と親和性が高いスキルだと自然に習得してしまうのよ。料理人が選択せずとも料理スキルを得るようにね」
しまった。たしかにそうだった。ブレアに相談せず急いで習得すべきだったかもしれない。
どのスキルなのか。確認せねば。
純潔の女神様に祈りながら俺はステータスを確認した。
──ニト──
【総合能力】
マナ総量:170,000
【基本能力】
身体力:100
精神力:100
【スキル】
変質者:レベル1
【称号】
真なる変質者
神話級性犯罪者
視姦する者
ブレア様の犬
矛盾様
──────
減っとる! 基本能力へっとる! 子供ぐらいだ。10歳には勝てるかなってレベルだ!
こんなこと有り得るのか。聞いたことないぞ。
じゃなくて、スキルは…………変質者か。
泣けてくる。俺はボロボロの魂と引き換えに変質者スキルを得たのだ。称号も真なる変質者に変化している。はははっ。もう後戻りできないってことかな? 終わった。
だけど…………そうだ、こういう時だからこそ前向きに考えよう。いつも俺はクズだったじゃないか。俺以上の変質者はおそらく世界にいないだろう。なんせマナを17万も…………大魔法使いになれるほどのマナを消費して変質者スキルを獲得したんだからな!
今、世界に宣言する。
俺は変質者界のトップランナーだ!