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望まぬ出会い


 マルフィアナは白亜の建物が立ち並ぶリゾート地だった。高台から街が広がっていて、砂浜へと続いている。


 入り口は高台にあり、街が一望できた。道行く人々が目に入る。


「金もってそうな人が多いな」


「高級リゾートなのです。金持ってなきゃ楽しめないのです。地元の人の生活区画と観光客用の区画もちゃんと分かれてるのです」


「たしかにリゾートのために作られた街だな。間違っても活気のある港町とかじゃない。威勢のいい漁師とかいないし」


 代わりに綺麗なお姉さんが多い。これは素晴らしい。が、しかし、それに伴ってお兄さんもたくさんいる。これはいただけない。どうにかお兄さんだけ消しとばす事はできないものか。


「宿はどうしようかしら?」


 ブレア嬢はそろそろゆっくりしたいようだ。


「そうだな。とりあえず中の上のグレードの宿に2、3日泊まるのはどうだろう? サービスとか料理とか様子を見てグレードを上げるか下げるか考えよう」


「はっ」


  俺の発言に対してアルマは鼻で笑い、やれやれといった様子で話し始めた。なんだこいつ。


「金なら唸るほどあるのです! 上の上に行くのです!」


 金がたくさんあると気が大きくなるのだろう。だが、金が無くなったらビクビクしそうだな。こいつは小者でゲスで表情豊かな女だ。楽しそうな人生だな。


「お前は本当に、こう、なんというか、良い意味で底辺だよな」


 気持ちが良いほどに思考と精神が底辺だ。低俗と言い換えても良いかもしれない。


「なっ! ニトに言われたくないのですっ! このド腐れ◯◯ポ野郎がっ! なのです! ぺっ!」


 うまく伝わらなかった。良い意味で底辺。これ以上にアルマを表す言葉が出てこない。でも罵られてご褒美をいただけたので良しとしよう。


 ぷんぷん怒るアルマをなだめつつ相談した結果、宿のグレードは上の下ということで落ち着いた。街の入り口近くには観光案内所のような施設があったため、そこで希望を伝えて宿を紹介してもらった。


 坂道や階段の通りを進む。あちこちに水着のお姉さまがいるぞ。これはアルマ先生にお礼を言わねばなるまい。


「アルマ先生、ここに来ることを提案いただきありがとうございます。ここは素晴らしい場所ですね」


「ふふふ、なのです。そちも直ぐに上の上の宿に泊まりたくなるだろうよ、なのです」


 薄目でこちらを見つつ謎キャラでお返しされた。


 すたすたと前を行くブレア、何処かへ消えていきそうになり俺に捕まるメスブタ、終始金持ちぶる成金のアルマ。


 メスブタを捕まえるのにちょっと疲れた頃に宿に着いた。宿は街の中腹に位置していた。景色も良くビーチも近い。近くには店も多く買い物をするのにも便利だ。しかし、周囲は静かで良い立地だ。さすが上の下の宿。



「これが『艦隊の号砲』亭か」


 リゾートには似つかわしくない名前だが、海らしい荒々しさがあって面白い。


 宿も戦艦をイメージしたのか、ところどころに大砲や武器、大きな銛などが設置され遊び心が感じられる。広いロビーには衝角のような物が飾られていた。

 それでいて不思議と高級感があるのだから宿屋の主人のセンスの良さがうかがえる。


「いらっしゃいませ」


 出迎えてくれたのは小さな女の子……いや、草原族だな。見た目は子供、中身は熟した変態の草原族だ。大人びた仕草でわかる。


 しかし『艦隊の号砲』か…………『合法の歓待』か? 『聖鳥の止まり木』といい、妙なネーミングは草原族のこだわりなのか。


「1人部屋と3人部屋をお願いします」


「かしこまりました。それではお部屋にご案内しますね」


 宿内を先導され歩きつつ、雑談する。


「草原族の方って気ままな旅人のイメージが強かったんですが宿をやる方も多いんですか? いや、この前まで泊まっていた宿も草原族の方が経営されてましてね」


 女将は立ち止まり、振り返ってこちらを見て怪しく笑った。


「ええ、趣味も兼ねてまして…………ね」


 そこで言葉を濁し、また歩き始めた。趣味とは何なのか、聞ける雰囲気ではなかった。なんだろう。まあ、変態と宿は親和性も高い。何かしらあるのだろう。


 俺の部屋と3人の部屋は隣同士だった。自分の荷物を置き、女子部屋で女将に尋ねる。


「ビーチに行こうと思うんですが、おすすめの水着屋さんってありますか? ああ、なるべくたくさん種類がある店がいいです」


 水着に対する拘りは多いが、挙げだすとキリがないし、ブレアたちに『お前が着るわけじゃないんだから黙れよ』って言われそうだ。せめて、種類が豊富で各自が好きなものを選べる店がありますように。


「でしたら、少し下ったところにある店がおすすめですよ」


「ありがとうございます」



 少し休憩して、4人で水着屋へ向かった。店はすぐに見つかったが問題が1つ。男用の水着は取り扱っていなかったのだ。

 しょうがないので3人の水着を見繕うのに集中しようと意気込んだが、その3人の手で追い出された。


「私たちの買い物は長くなるから先にビーチでゆっくりしてていいのよ」


「ゆっくりしてろっ!」


「他の客の迷惑になるのです」


 なんでだよ。ちょっと卑猥な目で見るかもしれないけど、それは男だし、しょうがないじゃん!


「男の意見も──「いらないのです」



 よーし、素直に諦めよう。女性陣は長くなるのだろう。適当に安い雑貨屋で見つけた男性用水着とパラソルを買い、先にビーチへ向かう。


 ビーチはまばらに人がいて、それなりにスペースが空いていた。適当なところにパラソルを突っ立てて座り込み、ぼんやり眺める。


 …………いいね。


 水着のお姉様方を眺める至福の時間だ。マナの全てを目に注ぐのだ。見ることに集中するのだ。どんな攻撃を見逃したとしてもポロリは見逃すまい。


 そうだ!


 ピンチの女を助けよう。いいアイデアだ。なぜって合法的に触っていいのだ。溺れそうな人を助けるためには触らないといけないからな。誰か溺れないかな…………いやいや、人の不幸を願ってはいけない。ま、でも、そうだな。俺が必ず助けるから大丈夫だ。安心してほしい。誰か……安心して溺れてくれないかな。


 そして俺の願いが通じた。溺れたぞ。そこそこ可愛いポニーテールの女の子だ。ちょっと狙ってた子だ。チャンス!


 海の上を走り、途中まで向かう。急げ、助けるのは絶対だ。その上でいかにカッコよく助けるのかだ。

 しかし、俺が助けることは叶わなかった。溺れた女性の近くにいた男に先を越されたのだ。くっ、場所が悪かったか。助けた男も海の上を走っている。海の上を走る仲間だ。中々出来る男だな。


 溺れた女はひとしきり咳き込み、落ち着いてから男に言った。


「ありがとうございます、勇者様」


 まじか。こいつが勇者だと? 赤黒く日焼けした肉体、ウェーブのかかった金髪、鍛え上げて肥大化させた筋肉、整えられた髭。

 全体的な印象として、エロ本で女体と絡んでそうなこの男が勇者だと?


「構わんさ、子猫ちゃん。このビーチを守護するのが我輩の生業なのだから、ね!」


 ウインクした。ヤバイぜ。コイツはヤバイ。女の子も引いてるだろうと顔を見ると、ちょっとだけ恥ずかしそうに、そして嬉しそうにしていた。

 バカな。俺の知らぬ間にウインクがそこまで市民権を得ていたのか。俺もやった方がいいのか。いや、勇者だからか? 本物か知らんが。勇者はウインクが5割増しとかの特典があるのかもしれない。


 驚愕する俺をよそに助けられた女は去って行った。そして勇者と呼ばれた男は俺に話しかけて来た。


「貴殿も海を駆けておったが、溺れた女性の救助に?」


 マナフィールドを広げる。勇者かどうかは知らんが勇者であってもおかしくない力量だな。


「ええ。そうですね。間に合いませんでしたが。素晴らしいスピードですね」


 にこりと笑いかける。適当に話してどっか行こう。俺は次の溺れた女を助けるのだ。『海なんかに溺れてないで俺に溺れな』って言ってウインクするのだ。忙しい。


「貴殿のスピードには負ける。あの距離から一瞬で詰めたのだからな。さて、我輩はこのビーチの守護神ジャン・アークボルトだ」


 なんか見たことあるな。勇者とかそんなの関係なく……慣れ親しんだ感じの顔だ。


「あの、失礼ですが何処かでお会いしたことが?」


「初対面かと思うが……もしや『月刊ハプニングビーチ』を?」


「それだっ!」


 この顔は……大事なところで妙にちらついて邪魔するイライラする感じのこの顔は。愛読していたエロ本によく載ってた男だ。


「はははは。いや、魔王を倒した後で祭り上げられていた頃でな。舞い上がってエロ本にまで顔を出してな! お恥ずかしい」


 お恥ずかしい気持ちはわかるが、ちょっと羨ましいのも事実。複雑な心境だ。


「魔王を倒したということは勇者なのですか?」


 そう言うとエロ本の男は俺の体を上から下まで舐めるように見つめた。


「そう、我輩は勇者だ……。だがそんな事は些細な事だな。君のボディからはすさまじいパワーを感じる。ビンビンと、感じるんだよ。パワーを、ね」


 ウインクされた。どうしよう、気持ち悪い。


「ええ、酷い目にあったせいで凄いんです」


 現在進行形で酷い目にあっている。


「そうか。尊敬する」


「あ、どうも」


 そろそろ帰っていいかな。


「時に君はその力で何かを成すのかね?」


「初対面で込み入ったことを聞きますね」


「なに、ビーチの守護神として君ほどのビンビンボディに出会えば聞かざるを得ないのさ」


 勇者としてじゃないのか。というか俺ってばビンビンボディだったのか。コイツ、話せば話すほど気持ち悪いぞ。


「特にないですよ。仲間に3人の美女がいるのでみんなが幸せになればと。それだけですね」


「わかる。我輩もそう……同じだ」


 金髪をかきあげ遠い目をする男。エロ本でもこういうショットがたまに1ページを占めてて凄く邪魔だった。お前が主役じゃねーんだよってイライラして。


「同じ?」


「10年前、多様な種族の仲間たちと共に魔王と戦った。長く辛い旅だった。今は帰らぬ友も少なからずいる。悲しみ、怒り、自分の至らなさ、理不尽な力と差別、憤り……多くのことを感じ、語り合った。我輩たちは、理想を求めた。そして、誓ったのだ! あらゆる差別のない、理想の、理想のビーチを! ヌーディストビーチをこの地につくると! みんな脱げばいいじゃないかっ! 裸は最高のファッションなのだからっ!!」


「…………うーん、いいんじゃない?」


 流れが意味不明だったけど結論には合意できた。


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