拷問の日々
本格的にマナ総量を増やす訓練を始めるにあたり、現在のステータスを再確認することにした。
自分のステータスなら誰でも大体はわかる。他人のステータスを確認するならマナ視系統のスキルが必要になる。スキルによってどこまで読み取れるかは変わるらしい。
今のブレアのステータスを参考までにと教えてもらった。矢印はその前段のスキルの派生スキルを表している。
──ブレア──
【総合能力】
マナ総量:930,000
【基本能力】
身体力:30,000
精神力:180,000
【スキル】
マナ視:レベル10
→絶対時間把握:レベル10
→マナ配分読解:レベル10
闇魔法:レベル8
空間魔法:レベル7
収束魔法:レベル8
体術:レベル4
→痛めつける:レベル9
毒舌:レベル10
→罵声を浴びせる:レベル10
→→洗脳:レベル4
→トラウマ創造:レベル10
→→精神崩壊魔法:レベル8
【称号】
黒球の魔法使い
──────
化け物です。どれくらい化け物かと言うと、世界最強と称されてもおかしくないほどの化け物です。
マナ総量1000が一般人であることを考えると、単純にブレアは930人の成人男性と同等ということだ。
もっとも、マナ総量は増えるほど指数関数的に発揮できる実力が上がるため、930人では何もできずに殲滅されるだろう。
事実、彼女の二つ名『終焉の魔女』は彼女の最後の戦い『ヴェロアナ戦役』で三万の軍を一瞬で大地とともに削り葬ったことから付いた名だ。
どのような魔法を使うのかは不明だとされていたが、それが収束魔法だったのだろう。マナだけではなく生物や無機物も一点に収束させることができるというわけだ。
「ちなみにブレアって公式の歴史に最後に登場するのがヴェロアナでの戦闘なんだけど、その時に使ったのって収束魔法?」
「よく知ってるわね、そんな話。そうよ、あの時の魔法は収束魔法。当時はレベル5で物質しか対象にできなかったの。200年かけて8まであげたわ」
あとは、怪しいスキルが多いな。特に『痛めつける』以降がおかしい。トラウマ創造とか本当にやめてほしい。
スキルは自身で選択できるが、その生活の中で意図せずとってしまう場合もある。ブレアの毒舌系統はそれだろう。そうであって欲しい。狙ってやったのなら怖すぎる。
さて、お待ちかね! 俺の今のステータスだ!
──ニト──
【総合能力】
マナ総量:10,000
【基本能力】
身体力:200
精神力:8,000
【スキル】
【称号】
無能
怠惰
変質者
神話級性犯罪者
視姦する者
──────
よわっ! よわいよ! スキルが空白(笑)これまで何されてきたんですか? へぇ、自宅で警備を……ふふっ。辛い。いや、これは俺のせいじゃないって分かったじゃないか。神界のマナのせいだ。と、分かっていても何となく泣ける。
マナ総量は強くなったんだけどな。10倍だぜ。1千から1万だ。これならクルリアで置いてけぼりにされることもなかったろう。いや、身体力が異常に低いからわからんか。
マナ総量-(身体力+精神力)の差し引き2千弱は余剰分だ。これがスキル取得にまわる。
スキルだけでなく、身体力と精神力もその生活や訓練の過程で勝手にマナを使う。余っている分が自分で選択するスキルの原資として活用できるのだ。なお、スキルは基本的に選択できるが、そうでなくとも勝手に取得することもある。
いや、しかし……清々しいまでに無能だな、俺。称号がひどい。神話級性犯罪者って………いや、そうだったけども。神話級の称号を得ているとは思わなんだ。
神話ってことは俺と穴の女神の話がいつかどこかの教会で子供達に語り継がれたりするのだろうか。神父さまも『ニトのように短絡的に生きてはいけませんよ』みたいに子供を諭したりするのだろうか。すごい。
視姦する者はわかる。視姦してたもの。受け入れられる。
称号というのは周囲の人間や本人が強く認識することによるマナの記憶だ。俺か女神かブレアか、誰かのせいでこんな称号をゲットしてしまったわけだ。マナもそんなの覚えなくてもいいのに。
『え~~、マナせっかく覚えたのにぃ……』
ごめんな!
妄想がやばい。
「さて、ニトの魂をサクッと軽めに砕くにはナイトメアを使うのが良さそうね。精神崩壊魔法レベル6よ」
ブレアはいつもと変わらぬ様子で俺の破壊に取り掛かろうとしている。すごいな。気持ちが全然わからないよ。
「うん。がんばる……」
「その調子よ。砕いたら収束魔法レベル8のソウルコンバージェンスで擬似修復する。こないだ使ったやつよ」
「ああ、あの妙にハイになったやつ。やっぱり擬似だったんだな」
傷自体は癒えていない。今でも辛いから。
「そうね、擬似よ。けどナイトメアもある意味で擬似ね。ニトの今抱えている闇を増幅するだけだから」
これは大変なことになりそうだ。
「じゃ、始めますか」
ブレアがナイトメアを唱える。闇が俺を覆い、そしてトラウマがエクスプロージョンした。ビッグバンしたの方が適切だったかも。
「うごごごごごご」
思い出される。14の頃の悪夢。違うんだ。俺はお前のパンツを覗こうとしてしゃがんでいたんじゃないんだ! 靴紐がほどけただけなんだ!
思い出される。13の頃の悪夢。やめてくれ! 俺とそのゴブリンをベストカップルにするのはやめてくれ!
そうして数ヶ月の時が流れた。
「だんだん効かなくなってきたわね」
「ああ、俺も精神的に大きく成長できた」
辛かった。もうナイトメアは嫌だ。違う方法を模索する時が来たのだ。と思ったがブレアはすでに考えていた。簡単なことだ。
「シニスターインビテーションにしましょう。精神崩壊魔法のレベル7よ」
だよな。ナイトメアはレベル6だったもんな。そしてブレアはレベル8までいけたもんな!
「うがががががががが」
おぞましい幻覚が俺を攻め続ける。
数えきれぬ蟲達が身体の中でぐりゅんぐりゅんと這いずり回り食い破る幻覚。術が解けた後は身体があることが逆に不安になるほどだった。身体があるから蟲が来るのだ。身体が無ければ蟲は来ない。しばらくハサミで自分の体を切り続けていた。
可愛い女の子が片っ端から肉塊に変わり呪いの言葉を吐き続ける幻覚。青空は真っ赤に染まり、草原は砂漠になり、木々は墓標になった。墓標と墓標の間で肉塊が俺に呪いをかけ続けるのだ。
ゴブリンのハーレムを築き地元に凱旋する幻覚。やめてくれ、そんな目で俺を見ないでくれ! 知人たちが可哀想な目で俺を見る。ゴブリンたちは熱い目で俺を見る。
こんな感じで一年が過ぎた。
俺のステータスはこうなった。
──ニト──
【総合能力】
マナ総量:170,000
【基本能力】
身体力:200
精神力:60,000
【スキル】
【称号】
無能
怠惰
変質者
神話級性犯罪者
視姦する者
ブレアの犬
矛盾さん
──────
身体力が上がってない。固定されてるんだからしょうがないか。上がるわけないが、すごく悲しい。
ブレアの犬か。これは悪くない。喜ばしいことだ。不満があるとすればブレア様じゃないところかな。
矛盾さん。わけわからん。なんじゃこりゃ。あ、あれか。精神崩壊したまま精神力が高まっているからか。ドーピングだもんな。
さて、10万ちょいぐらいの余剰マナがあるわけだ。で、これまでの訓練の中で、こんなスキルほしいですーって思ってたのがどういう結果になったのか。
思い浮かべるとスキルが出てくる。初めてだ。今選べるスキルはこれだ。
──────
【スキル選択】
→マナ記憶改竄
物質機能固定
神拳
神眼
神耐性
流動魂
変質者
──────
マナ記憶改竄。なんかすごくやばそう。俺のマナちゃんを思いのままに出来そうな気がする。称号とか変えられちゃうんじゃなかろうか。下手したら相手のスキル構成を思うがままに弄ったり。ぼくのかんがえたつよいスキルって感じだ。つよそう。
『あれぇ? マナ昨日の晩ゴハン忘れちゃったぁ』
『クパー貝の塩焼きだろ?』(本当はケポー鳥の塩焼きだったがな!)
『あ! そうだったぁ! えへへ、ニトお兄ちゃんありがとう』
みたいな感じか?
物質機能固定か。これが多分狙ってたやつだな。本命だ。よし、夢が近づいた。
神拳か。苦しくて苦しくて床や壁をドンしてたからかな。神の拳と言う割に条件が安いな。身体力200じゃ使いこなせる気がしない。ひ弱な引きこもり少年が俺の拳は神の拳だ! とか言っても可哀想だなとしか思えない。
神眼。まあブレアをずっと見てたからな。服の向こう側まで見れる気がしちゃうぐらい見てた。ただブレアを見るんじゃなくて彼女の存在を、その歴史を俺は見てたんだ…………という性活をしていたので。納得である。
神耐性。なきゃおかしいわな。うん。
流動魂。うーん。ネーミングセンスに難あり。意味わからん。壊れた心のことを言っているのか? 放置かな。
変質者。なんだよこれ。嫌がらせか。分かってます。私は変質者です。クソが。
「ブレア、物質機能固定っていうのがある。多分これが俺たちが狙ってたやつだ」
「人間界が近付いたわね」
「そうなんだけど……よくわからないのがいくつかある。特に怪しいのが一つ…………マナ記憶改竄だ」