焼肉パーティ@ダンジョングルガン
少しずつ強い魔物が増えてきた。マナ総量が5万から10万程度、CランクからBランク下位ぐらいの魔物だ。
これぐらいの魔物でも、逃げ場の無い場所で罠を警戒しながら連戦すれば、Aランクパーティが全滅する程の脅威となる。
ゴブリンの上位種、オークの上位種、ミノタウロスみたいな何か、逃げ回るコボルト、にゃんにゃん言いそうな猫、羊っぽいやつ。
食べられそうなモノが多くて良い。お腹減ってきた。魔物たちは容赦なく俺たちの空腹を刺激する。魔物おそるべし。メスブタはヨダレを止める気が無いようでアゴがべちゃべちゃだ。
そんな卑しさを追求するブタに教えを請うユリーネは着実に技術を磨いた。どんどん強くなっているように見える。謎だ。人間の限界を超えた存在の動きを見るだけでも身になるものなのだろうか。
「マナの共鳴ね」
「共鳴?」
ブレアが頷きながら言った。何かが見えているようだが。そんなん聞いた事ない。
「古い伝説よ。目にしたのは初めてね。気の合うもの同士、協力してことに当たると互いの不足を補い合うようにマナが共鳴し、マナフィールドの境目が曖昧になるのよ」
「へぇー。てことはユリーネは今、メスブタの力を借りて戦っている?」
「そうなるわね。そして、メテオもユリーネのスキルの力を借りているはずよ。ちょっとしたきっかけで解除されるような不安定な状態だけどね」
「そうか……あの変態スキルがメスブタに……」
レイシャの位置情報を察知したりするのだろうか。神聖術とかもあったな。レイシャを話術で楽しませるメスブタとか想像できない。
「あ、それなら正式名称があるのです。アストラルリンクというのです」
「へぇ、そうなのね。この状態になるコツとか効果とか知りたいわ」
「効果はブレアちゃんがさっき言った通りなのです。コツは……魂の願いなのです。強い願いなのです。そうなりやすい魂質かどうかも関係するのです。他者に依存しがちな人に多いと言われているのです」
「では、原因はユリーネではないでしょうか?」
「たぶんレイシャの言うとおりね。ユリーネのマナフィールドからメテオに通じているように見えるわ」
さすが恋人。相手のことをよく分かっている。しかしユリーネは魂まで女の子と混ざり合おうと言うのか。なんと業が深い。
よく見ればメスブタの手刀の斬れ味が半端じゃなかった。斬れた後、しばらく経ってずれ落ちるヤツ、物語では聞いたことあったが現実で始めて見たわ。
あれ、いま斬ったヤツ……。
「なあ、これってアレじゃないか?」
「あら、ホントね。セバスチャンが言ってた……」
「そうなのです。父様が言っていたダンジョンで食べられる美味しいお肉のヤツなのです」
食べる、という言葉にユリーネとレイシャが後ずさった。
「食べるのですかっ!? これを? 見た目は非常に、その、なんというか、手が人に近いですし、目が絶望感を煽りますし、顎もなんというかドゥルンとしてますし、足は臭みがきつそうですし、何より背中がバキバキですよっ?」
ユリーネが大興奮だ。本能でレイシャを守ろうとしているのか。たしかに見た目は酷いがことダンジョンに関してセバスチャン氏は嘘をつかない。はず。
「大丈夫ですよ。まずは死ににくいメスブタが毒味しますから」
「にくっ! にくっ!」
「おっ、さっそくやる気だな……あ、刃物が。ユリーネさん切り分けてもらっても良いでしょうか?」
刃物を持ってるのがユリーネだけだった。失敗失敗。刃物ぐらいどうとでもなるかという油断が招いた事態だ。反省しよう。準備が悪かったな。
「え、えええ…………わかりました、わかりましたよ。斬ります。この……何かよくわからないナニカを」
俺たちが引くことはないと察してか、腹を決めた彼女の剣は見事だった。すごい捌きっぷり。コレは良い焼肉が出来そうだ。
「火は、火は誰が?」
「任せろっ!」
メスブタが火打ち石で火を起こす。凄いな、一発で火がついたぞ。しかしすぐに消えた。火をつける対象が直に肉だから当然だな。
むしろ火打ち石だけで肉にちょっと火を付けたのがすごい。
「よしっ! もう一発だっ!」
「キリがないからやめとけよ」
「魔道具があるのです」
アルマが荷物からコンロを出した。ちゃんと準備物に入れておいたのだ。コンロが無くてもアルマかレイシャの神聖術で放たれる神の炎みたいなので何とでもなるのだが。
「なんだとっ! そんなものがあったのかっ!」
メスブタは驚愕した。お前が準備物を理解してないことは知っていたが、そこまで驚かれると悲しくなる。
「……メスブタ、その火打ち石どこから入手したんだ?」
「買ったっ!」
「どこで?」
「露天だっ! 金貨10枚っ! 最高級の火打ち石だっ!!」
アルマが顔を真っ青にしている。恐ろしや。恐怖を知らぬ者の買い物とはコレほどまでに人に地獄を知らしめるのか。
「メテオちゃん、この魔道具は金貨10枚なのです……」
「なんだってっ!?」
「わかってくれたのです?」
「ああっ! 最高級の火打ち石と同じ値段だなんて、そのコンロとんでもないなっ!」
「っ! ……な、なのですぅ」
アルマは目の端に涙を溜め、なんとも言えない顔でブレアに抱きついて頭を撫でられるのだった。
◇ ◇ ◇
「美味いな」
焼肉をいただく。食材はさっきのアレだ。よく分からない見た目だがきっと先祖は普通の動物だ。
ちょっとマナが濃くて変わってしまっただけなのだ。食べる事はできる。はず。マナ総量が低い子供は中毒になることもあるので要注意だ。
「そうね、思ったよりイケるわね。この肉」
「美味しいのです。意外なのです。見た目があんななのに……なのです」
「んまんまんまっ!」
「よく食べられますね…………と思ってましたけど食べ始めたら止まりませんね」
「レイシャ、食べ過ぎてお腹壊すなよ」
ゲリーネさんには言われたくあるまい。おっと、アレはただの設定で事実ではなかったか。
「ゲリ……ユリーネさんが上手い具合に刻んでくれたからこその味ですね」
ダンジョン内での美味しいお肉は何物にも代え難い宝物だ。この食事も、素敵な思い出の1ページだ。
「いや、メテオ様の手刀よりも斬れ味が悪くて……お恥ずかしい」
「あれは手刀の方がおかしいので……」
慰めにならない気もするが、手刀で聖騎士の剣を上回る斬れ味になる方がおかしい。いくらアストラルリンクなる現象で剣術スキルを借りていたとしても、素手だからな。
「おかしいっ? おかしかったかっ? まだまだ研鑽が足りないなっ!」
原因と結果が噛み合ってないけど……手刀がおかしいのは間違いないし、死神を相手にするなら研鑽が足りないのは間違いない。訂正するのも大変なので──
「がんばれ」
──という回答になった。
そのままガッツリ焼肉を終え、小休止のティータイムの後さらに進む。磨かれていくユリーネの技。メスブタの手刀。
なんだかんだと危なげなく40階層のボス部屋まで来てしまった。
そこには予想通りのボスと、予想外の存在がいた。
「女の子?」
「またデュラハンなのです?」
そう、30階層の時よりも禍々しく強烈なオーラを放つデュラハンと、それに対峙する女の子がボス部屋にいた。
8歳ぐらいの女の子だ。黒髪の女の子。その華奢な体軀からはひしひしと強者の気配を感じる。デュラハンを前にしているが『危ないぞ、退きなさい』なんて声をかける気にはなれない。
幼女はゆっくりとこちらを見る。金色の目が俺を捉えた。
「むっ! お主らか。今度はこのダンジョンを攻略するのか? 前回は不覚をとったが今度はそうはいかぬぞ! がはははは!」
そう言って幼女は背後に立つデュラハンとともに高笑いした。
え、こんな豪気な幼女知らない。




