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ぼくたちは生きるのが苦手


「あ、ニトなのです」


 声に振り向くとそこにはアルマ達3人がいた。聖職者らしき男と一緒だ。なぜこんなところに?


「……アルマ? それにブレアとメスブタも」


「メスブタ?」


 過敏に反応したのは当然、性騎士様だ。


「ああ、すみません。内輪のあだ名です」


 ユリーネの顔が引き締まった。出会ってから今までで一番真剣な顔をしている。


「どの子です?」


「あのピンクの髪の……」


 なんか真剣すぎて教えていいのか迷ってしまった。

 横ではユリーネがガッツポーズをしている。その気持ちはわかるがアレは化け物だからな。気をつけろ。


「やはり私の目に狂いはなかった……!」


「いや……」


 頭は十分狂ってますよ、という言葉は飲み込んだ。俺も人のことを言えない自覚はある。どこがどうおかしいのか自己判断はできないが。


 3人は偉そうな生殖者……聖職者に連れられここまで来たようだった。


「みんなはどうしてここに?」


 そう問うとブレアが腕を組みながら問い返してきた。


「それはこっちのセリフよ」


 嘆息混じりなご様子。たぶんブレア側もトラブルなのかな。そして、せめて俺側がトラブルじゃないですようにと淡い期待を抱きながらも、諦めの気持ちから出たセリフなのだろう。

 ええ、とびきりのトラブルです。聖女誘拐未遂ならびに聖女誘拐計画です。



「ああ、俺の事情はちょっとややこしくて……聖騎士様、仲間には話しても? この3人以外に漏れることはありえません」


「構いませんよ。貴方の事は信頼してます」


 俺というか変態的な何かを信じているのだろう。まあいいや。


「ありがとうございます。さて、俺の事情は……すみません、そちらの方は?」


 危うくスルーして話しそうになったが、この聖職者は何者だ? 小太りで豪華なローブに身を包んだ拝金主義の豚野郎といった印象だ。地位も高いのかな。


「ああ、これは失礼を。拙僧はアルベルト・ソリュール・グランドワースと申します。お見知り置きを」


 拙僧とかへりくだって名乗った割に態度も服装も名前も大仰だな。節操もなさそうだし。


「いえ、こちらこそ失礼しました。ニトと申します。よろしくお願いいたします」


「不躾ながらニト様は昨晩の?」


 ほほう。その話がでるならば上層部の方なのだろう。これは探りあいになりそうだ。メスブタならまだしも雄豚と探り合っても何も楽しいことなどないのだが。適当にすまそう。


「それがあちらの聖女様を指してのことならそうですよ」


「なんと。ニト様とアルマ様、お二人がお仲間ですか。これはとんでもないですな。ブレア様とメ、メテオストライクブースター様? もお強いのでしょうね」


 ああ、普通の感性の人なんだな。メスブタの名前に疑問を抱いてやがる。


「はは、どうでしょうね。すみません、少し仲間と情報共有させていただいても?」


「構いませんとも」


 豚野郎はにこにこ笑いながら少し距離をとった。俺たちも少し離れて会話を始める。


「手短に共有すると昨晩、あちらの聖女が誘拐され、それを俺が助けた。それでいま聖女から厄介な仕事の依頼をされて悩んでいた」


 難しい仕事では無いが、登場人物の関係が見えなさすぎて気軽に手を出せない。しかし報酬が凄く魅力的……という悩みだ。



「なるほど、詳しくは後で聞くわ。面倒ごとね」


「ああ、そっちは?」


「面倒ごとなのです」


 アルマは難しい顔をしている。アルマ以外の俺達は人間界で生まれ育ったのに1日でここまでトラブルを…………あ、元々おかしいから無限牢獄に行ったんだもんな。そりゃこうなるか。自分達を甘く見てたわ。


「オーケー、気持ちに踏ん切りがついた。どんな面倒ごと?」


「買い物しようと3人で歩いてるとナンパされたのです」


「それは……されるだろうな。されない方がおかしい」


「で、あたしが殴ったっ!」


 え、飛躍しすぎ。怖い。どういうこと? ナンパされて殴った……殺したの? 消滅させたのか?


「こ、殺したのか?」


 恐る恐る尋ねる。


「死んでないっ!」


 ほっ。良かった。ナンパがウザくて殴られるぐらいなら良くある話だけど殴ったのがメスブタならおかしなことになる。死ななくてよかった。いや待て待て。


「なんで死んでないんだ? そんな強者だったのか?」


「手加減したっ!」


 そんなことできたのか。凄いじゃないか。


「手加減によって男の四肢が弾け飛ぶのみにとどまったのです」


「それは、とどまったといえるのだろうか」


「不憫なのでアルマが治してあげたのです。そしたらそれを見かけた教会の人──あそこの金豚がアルマの神聖術がすごいから教皇に会ってくれと懇願してきたのです。豚のくせに見所があると唾を顔面に吐きかけて『案内しろ豚野郎』と言ったらこうなったのです」


 怒涛の展開だな。唾の件は聞かなかったことにしよう。

 治したってことは四肢を生やしたのか。まあ神聖術の使い手だもんな。欠損部位を生やすぐらいはできるのか…………あれ? もしや。


「アルマもしかしてリバイブも?」


「当然なのです」


 こいつ胸を張ってやがる。やばい奴がいた。


「それは聖女として、使えるということか?」


「説明が困難なのです。まず、そもそもリバイブを使って蘇生が可能な者は、神界の魂質諮問委員会で可決された魂の持ち主に限るのです。アルマは議題にかけられたことは無いのですが、変質神の妙技で蘇生が可能になってしまっているのです。これは死神の禁忌に触れるのです。つまりアルマがリバイブで誰かを蘇生させるとその瞬間に死神が現れ、かつホムンクルスの存在がバレて創造神も現れ、言い訳に変質神が参戦し、さらにはその他の最古の神々も降臨して生命のあり方、神のあり方を闘論──殴り合いの議論──する創世以来の大混乱が起きるのです」


 言葉にならない。胸を張って当然とか言ってる場合じゃない。なんかさっきまで話してた聖女とかすごくスケール小さい話だった。まじでこいつ爆弾だわ。


「ホムンクルスってそんな大ごとなんだな」


「それは神々がそもそもの──」



「失礼、そろそろお時間が」


 小娘から顔に唾をかけられた聖職者だった。


「時間?」


「はい、教皇様とお会いするお時間です」


 そう言えばそんなこと言ってたな。その後のインパクトが強すぎてふっとんでた。


「そうですか。じゃ、俺はここにいるから。また後で」


「ニトはこないのです?」


「教皇様にお会いする理由はないし」


「いえいえ。昨晩の英雄様です。皆さまお仲間とのことですし是非、教皇様に。ニト様にも喜んでお会いいただけるでしょう」


 教皇様に会いたい気持ちはゼロだが……聖女の扱いについて教皇側の意見も得ておいて損はないか。この国でどう振る舞うか、今後の判断の参考にもなるだろう。

 良く熟成された芳ばしいニートだった頃の俺が知れば驚くほどの働き者だな、まったく。


「有り難いお言葉。ご迷惑でなければ是非。というわけで聖女様、本日はこの辺りで失礼してもよろしいでしょうか?」


 勝手に決めて失礼だったかな? しかしそこそこ地位のありそうな豚がぐいぐいきたからな。この豚も聖女を恐れないでいい程度には地位があるのだろう。



「……ええ、もちろん。ひとつだけ、あなた方は神の御使いか何かですか? 全員とてつもない……」


 まあ確かに変質神の御使いと言えばそうだな。そうです、我々は神界の変態のお使いで人間界の穴を攻略しにきたのです──とは言えんわな。


「どうでしょうね? ただ聖女様とはまたお会いできれば光栄です」


「そうですか。次は是非みなさんでいらしてください。入口でユリーネを呼んでいただければ、ここまで来れるよう手配しておきます」


「ありがとうございます、また会いにきます」


 先ほどの依頼の返事は次の時だな。


「ではご案内いたします」


 そう言ってゴールデンオークが歩き始めた。

 後ろをついていくと、ブレアが小声で話しかけてきた。


「ニト、聖女様のマナ視は?」


「ああ、聞いてる。レベルは?」


「3よ」


 低レベルというのは嘘ではなかったか。正直だな。話の真偽に判断がつかないのが辛いところだったが……情報を集めるしかないか。


「あと聖騎士様だけど……」


「ああ、ユリーネ?」


「凄く、独特よ。私達に危険は無いけど……独特なのよ」


 先ほど、ブレアはユリーネを見て微かに引いた顔をしていた。ステータスを見ていたのか。まあ、わかる気がする。


「今は良いけど、いつか教えてくれ」


「ええ、個人名が入ったスキルだけで構成されてるなんて初めて見たわ。ユニークスキルだらけね」


「え、なんか気になる。やっぱり今教えてくれ」


「こんな感じね」



【総合能力】

マナ総量:153,000

【基本能力】

身体力:43,000

精神力:11,000

【スキル】

レイシャの剣:レベル8

レイシャの盾:レベル7

レイシャへの敵意検知:レベル9

レイシャの位置察知:レベル10

レイシャのお世話:レベル10

レイシャと会話術:レベル10

レイシャへのイタズラ:レベル10

神聖術……えへへ、レイシャと同じ:レベル2

【称号】

聖騎士

聖女の剣

女の子好き

レイシャ尊み

一切の歓喜・愉悦をレイシャに関連付ける人

マナ視を恐れる者



 Aランクに差し掛かったぐらいの力量かな。…………スキルがよく分からんけど。

 レイシャへの思いをマナにねじ込みすぎだろ。神聖術とかどうなってんだよ。マナも『痛い痛い痛い。二重の意味で痛いよー』って言ってそうだ。



 …………こないな。



 神界にいた時ならここで更にマナの一言があって会話が弾んだものだが。ふむ、やはり神界だと何かと繋がっていたのか? ダンジョンで繋がることもあると言っていたが……。


 ま、置いておこう。


 よし、教皇に会う。俺の昨晩の動きをどう見てるのか確認。アルマの扱いがどうなるかも確認。


 基本的に聖女様の誘拐はする方針で行こう。報酬に抗えそうにない。その辺、ユリーネは察していそうだ。変態の嗅覚は鋭い。


 教皇とあった後で、ブレア達にも早々に相談だな。


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