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尊い……


 牢獄で一晩ぐっすり眠った。慣れ親しんだ空気感のせいか非常にくつろげた。中途半端に良い宿よりはこういう所の方が肌にあっているのかもしれない。おかげさまで酔いが覚めた。


 覚めてしまったのです。


 わかるかな? 酔いが覚めた時の気持ち。思い出したくないのに延々と繰り返されるフラッシュバック。地獄の業火に焼き尽くされるかの如し苦行。


「あああああああ」


「どうした? 大丈夫か?」


 元童貞の向かいのおっさんは凶悪な顔なのに優しい。罪状も似てるしな。なんとなく親近感わいちゃう。


「あ、ああ。大丈夫だ。ちょっと後悔してるだけだ」


「わかるぜ、その気持ち」


 おっさんの言葉に思わず微笑む。おっさんもその凶悪な顔をいやらしく歪ませる。笑ってんのかなコレ。笑ったのだろう。これが仲間ってやつか。へへ……同じ目線でモノを語るってのはいいもんだな。なんか落ち着いたかも……。



 からのフラッシュバアァック!



「ああああああ」


 なんでパンツ被ったんだ。

 なんだよ、ミスターパンツって。

 なんで両手放しで散水してんだよ。

 魔剣はちゃんと封印してから振向けよ。


 聖女に見せつけたのはまあ良いけどさ。爆乳聖女の記憶に焼き付けることができて良かったけどさ。…………あれ、差し引きプラスじゃね?


 いや、プラスだとしてもだ。問題はブレア達への言い訳だ。『騒ぎは起こさないこと』とかみんなに言った後、速攻で俺が騒ぎを起こしてしまった。恥ずかしい。恥ずかしすぎて穴の女神がせっせこせっせこ掘った穴に入りたい。



「おいおい。落ち着けって。立ち小便で人生どうにかなるほど、この世界は厳しくはないだろ?」


「……たしかに」


 おっさんは俺の扱いがうまいな。よく考えたらブレア達からも口汚く罵られたり、冷たい目で睨まれる程度だろう。いつも通りだな。なんてことない日常の一コマだ。


 そもそも俺って聖女様の誘拐を食い止めた英雄だよな。酔いが覚めてやっと疑問に思ったけど、なんで投獄されてるんだろ。

 いくらなんでもそこまで杓子定規に法を適用しちゃう? 事の経緯の確認とか先にやることあるんじゃないの? 衛兵さん無能すぎない?


「おっさん、この国やばいぜ」


「突然どうした」


 おっさんの凶悪な困惑顔に俺が困惑していると看守が現れた。助かった。そろそろおっさんの顔を見るのが辛くなってきたところだった。

 しかし看守か。無限牢獄にはいなかったからなんとなく新鮮だ。


「出ろ、釈放だ」


 お、噂をすればか。


「釈放? 3日と聞いていましたが?」


 看守には通じないだろうけどちょっと皮肉を言ってみた。


「聖騎士様の命令だ。詳しくは上で聞け」


 看守は事務的に鍵を開ける。


「おっさん、俺は釈放らしい。またどこかで会おうぜ」


「あ、ああ。なんか大変そうだな。聖騎士とか国がやばいとか……頑張れよ」


 拳の親指を立て、おっさんに無言で返事をしつつ看守に連れられ階段を上って行った。


 牢獄は地下にあった。階段を登れば衛兵の詰所になっている。造りも簡単なので軽犯罪者用の施設なのだろう。重犯罪者を収容するには警備が甘すぎる。


 詰所の一室に案内されると室内には肉体年齢23歳ぐらいの女聖騎士がいた。 うん、まじまじと見ても23歳だな。俺の目にかけて誓う。この女は23歳だ。鎧に身を包んでいてもわかる。


 髪は茶色で短く揃えている。顔立ちはどちらかと言えば男顔だ。凛々しく、女性にモテるだろう。これで聖騎士なのだから余計にだ。身長も女性にしては高めだ。


 部屋は4人も入れば窮屈に感じるぐらいの狭い部屋だ。椅子が2つ置かれているだけで他には何もない。

 マナを探ると魔法で防音されているのがわかった。密談用の部屋だろう。


 聖騎士が口を開いた。


「ユリーネと言います。レイシャ……聖女様の前で男の象徴を曝け出したあなたを尊敬します」


 真正面から俺を見据え、キリッとした顔でそう言われた。言い終えた後、一瞬だけ俺の股間に目線が移る。視線の奏者の称号を持つ俺でなければ気付かなかっただろう。


 なるほど、変態の方ですね。わかります、最近はよく変態にお会いするので。この女、聖騎士じゃない。性騎士だ。


「恐れながら、突然の変態ぶりに驚きを隠せません。あ、私はニト。旅人です」


「これは失礼。まずはお礼と謝罪を。聖女様を助けていただいたにも関わらず一晩このような場所に拘留し、大変失礼しました。そして、何より聖女様を……いえ、レイシャを助けていただいたこと、1人の聖騎士として、そしてレイシャの友人として心からお礼申し上げます」


 そう言って深々と頭を下げた。数秒たち、ゆっくりと頭をあげる。


 本当に聖女を大切に思っているのだろう。彼女の言葉、仕草、表情からそれが感じられた。助けてよかった。

 世界に一匹しか生存が確認されていないスーパーウルトラレアの聖女を。


「……いえ、お気になさらず。聖女様を本当に大切に思っていらっしゃるのですね」


「大切……ええ。彼女とは幼馴染で……いえ、そういう関係は全部置いておいて…………なんというか……愛おしい、です」


 彼女は頬を染め足元を見つめながらそう言った。


「尊い……」


 素直な感想だ。2人で百合百合してるのかな?


「さて、それはともかく本題に入らせてください。今回の件について聖女様があらためてお礼をしたいと仰っています」


「良いんですか? 俺が何者か、なぜあそこにいたのか、何を思って賊を捕まえたのか。その辺をスルーして」


 俺が犯罪者じゃない保証なんてどこにもない。というか俺は神話級の性犯罪者だ。


「良いのです。だって股間のソレを見せつけたんですよ? それ以外に目的なんてあるわけないじゃないですか?」


 性騎士ならではの推理だな。これだから変態は困る。終始斜め上の思考で追いつくことができない。いつも一歩先にある。その辺は聖なるものと同じだな。そうか、聖だろうが性だろうが大した違いはないのか。どっちも尊いものだしな。


「あえて正直に言うなら酔っ払った上での奇行なのですが、そちらが気にしないなら何でも良いです」


「ふふっ……なるほど、そう言うことにしておきましょう」


 柔和な笑みを崩さない性騎士はこちらの言い分を聞く気配がない。この国もいよいよやばいな。


「一つ確認を。今回の件は公になっているのですか?」


 性騎士は顔を引き締め答える。


「いえ、極秘事項です。国と教会の上層部、聖騎士の一部、当事者のみです。衛兵には固く口止めをしています。なのでニト様も他言しないようお願いいたします」


 そう言って再び彼女は頭を下げた。礼儀というものをわかっている。変態とはそういうものだ。


「頭をあげてください。他言するつもりはありませんよ」


 しかし……聖女にお礼を言われても困るな。


 俺は現地妻が欲しかっただけなのだ。逆に、お礼とか言わないで罵るような悪女な聖女なら現地妻として検討したのだが。

 そうだな、町娘でいい。気立ての良いパン屋の娘とかでいい。むしろ聖女とかよりそっちのほうが興奮する。抱きしめるとパンの香りがする女だ。

 どうしよう。すごく探しに行きたくなってきた。今すぐ行きたい。


「ということでお断りします。では」


「え、どういうことですか?」


 即座に去ろうとするも伝わらなかったようだ。思考のベクトルが違うとコミュニケーションは難しいな。


「やる事がありまして……」


「……やる事がどれだけ大事なことかは私にはわかりません。しかし、しかし見せつけただけで、あなたは満足なのですか?」


 なんだ挑発か?


「満足も何もそれが目的ではありませんから」


「写生させたりしなくていいんですか?」


「…………!」


 写生だと? なんというアイデアウーマン。頬を染め必至に書き写す聖女。


『そこがダメだ。もっとここの角度を見ろ。反りが違うだろう? リアリティを追求しなさい』


 そういうことか。こいつ、できる。自分が持っていないから誰かにさせようと言うのか。それとも自分が見たいのか。百合な空気を匂わせたわりに自ら異物をぶちこもうというのか。やぶさかではないが。共犯のお誘いに来たのだな。


 うーむ。面倒ごとは避けたい。ブレア達も心配してるだろうし…………してないか。してないな。たぶん観光してる。


 軽い気持ちで会ってみるか。聖女──人を生き返らせることを神に許された存在に。


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