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女神の戦慄


「なんだ家か」


 目がさめるとそこは我が家だった。なんて落ち着く環境だろうか。おうち大好き。


 ああ、良かった。全部夢だったのだ。三日間も狂ったように眼前の石に執着したり、落とし穴に落ちたり、超絶可愛い女の子の双丘と戯れるなど…………。


 最後のはもったいないな。あんな可愛い子がこの世に存在しないなんて。いや、逆に考えよう。あの子は俺の心の中にだけ存在するのだ。つまり、あの超絶美少女は俺だけの女だ。

 柔らかなウェーブのかかったブロンドの少女。白く滑らかな肌にピンク色の形の良い唇。鼻筋もすっと通っていた。神の造形かと思える瞳は碧く美しい。何より、胸もいいサイズでした。


 と言うわけで、いつものように布団の中でもぞもぞとしていると不意に背後から声をかけられた。


「おい、何している?」


 心臓が爆発したように鼓動を打つ。誰だ。盗賊か? このタイミングで声をかけるとは何という外道。盗賊だとしても普通は察して外に出て待つところだ。女の声だが油断はできない。

 硬直して動けないでいると声の主は焦れたように話し始めた。


「おい、こっちを向いて立て。早くしろ」


 マジかよ。今この状態で立てってのかい? こっちはもうすでにたっているわけだが。痴女なのか。俺の状態を見越して言っているのか? お前の実力を見せてみな、そういうことなのか?


「……わかった。受けてたとう」


「はあ?」


 さらば童貞。短い付き合いだったがお前のこと、嫌いじゃなかったぜ。

 ゆっくりと布団をどけ、立ち上がる。


 そして、振り返った。


「…………っ!」

「…………っ!」


 そこにいたのは俺の心の中に生きるはずの超絶美少女ちゃんだった。なんてことだ。妄想が具現化した! 夢が時空を超えたのだ!


 美少女ちゃんは俺のモロ出しのタワーに釘付けである。このド変態め。なかなか高度なプレイをするじゃないか。鉄格子ごしに睨みつけるだなんてな。


 ん、鉄格子?


 あれ、よく見るとここウチじゃない。牢獄だ。ちょうど良い具合に汚いからウチかと思った。悲しいが事実だ。寝ぼけていたとはいえ自分の家と牢獄を間違えるとは。底辺もここに極まれりだな。


 で、美少女ちゃんが鉄格子の向こうにいるこの状況。


 なるほどね。察したぞ。つまりアレだ。この美少女ちゃんのおっぱいを揉みしだいた俺は逮捕されて牢獄にいるわけだ。そして被害者がやってきたところに、そそり立つタワーを見せつけて追い討ちをかけている、と。



 ちょーヤベーじゃん。



 情状酌量の余地なしだわ。間違いない。だが何の言い訳もせずに黙って待つ俺ではない。そんな聖騎士のような高潔さは持ち合わせていない。足搔けるだけ足掻くのだ。がんばれ俺! お前には俺がついてる、がんばれ!


 狼狽えてはいけない。毅然とした態度で、紳士らしく振舞うのだ。意識を切り替える。俺は紳士だ。


「すまない、朝の生理現象だ。あまりいやらしい眼で見ないでほしい。俺にだって人としての尊厳というものがある」


 よし、噛まずにやりきれた。先制攻撃はまずまずだろう。あえて相手を悪者にすることで攻め気を削ぐのだ。

 唖然としてくれれば儲けもの。このまま話を逸らす。何れにせよ、決してペースを相手に握られてはならない。このまま押し通す!


 しかし、美少女ちゃんの表情はピクリとも変わらなかった。氷の女か。


「この状況で恐れ入る。人間に戦慄したのは数千年ぶりだ。とりあえず布団で隠せ」


 華麗に流してきやがった。数千年ってどう言う意味だ? 百戦錬磨ってことなのか。慣れ親しんでいるのだろうか。様々なタワーを攻略してきた猛者なのだろうか。

 不問にしてくれるのならばありがたいが、もうちょっと構って欲しかった気持ちもある。正直、女の子に見せたのは初めてなのだ。感想を聞きたかった。


「ああ、そうさせていただこう。気を使っていただき感謝する」


「念のため言っておくがドン引きしている。この状況でその余裕があることに。可能ならばもう話したくはない」


 表情も変えずに刺してきやがる。それも急所を躊躇いなく。恐ろしい女だ。侮れん。


「いや、言い訳かもしれないが……この部屋が自宅の雰囲気に似ていてね。思わずリラックスしてしまったのさ」


「この部屋と自宅が?」


「ああ」


「この悪臭漂うゴミ溜めのような劣悪環境の牢獄と君の自宅の雰囲気が似ていると?」


「あ、ああ」


「…………ふっ」


「くっ」


 敗北だ。彼女の瞳には蔑みの感情が浮かべられている。くそっ、悪くない。悪くないじゃないか。むしろ良い。ゾクゾクする視線だ。そそり立つタワーは崩れることを知らない。できることなら布団を……こう、バッとやってしまいたい。


「さて、本題に入るぞ。罪状を述べる。貴様はダンジョン『クルリア』の管理者ルートを不正利用し、最下層に違法に到達したのち、私……つまり穴の女神ヘレンに抱きつき乳房を弄った。また、その魂を構成するマナに問題があることが確認されたためこの神界の無限牢獄に囚われることとなった。解放の予定はない。では」


 えっと…………え? そう言ってヘレンさん? さま? は去ろうとした。


「待ってください! 飲み込めてません!」


「どこがだ?」


「全部です」


「ちっ……罪を理解せんと終わらん決まりだからな。まず、貴様はクルリアの最下層に到達した。これはわかるか?」


「ああ、いや、はい。落とし穴を落ちた先が最下層だったと言うのなら、まあ」


 どんだけ落ちたんだ俺。


「そうなのだ。そして問題はその落とし穴だ。それは管理者が利用する裏ルートだ。権限を持たない者の利用は禁じられている」


「ダンジョンには管理者がいると?」


「我々がそうだ。ダンジョン『クルリア』の最下層は神界に通じているのでな」


「そういえば神と仰ってました?」


「神だ」


「女神様の乳房を触らせていただけたと?」


「触らせてやったわけではない。触られたのだ。弱そうだから身の危険は感じなかったのだが……それが仇になったな」


「穴の女神というのは?」


「穴を司る女神だ」


「…………なるほど」


 何故だかタワーが一際大きくなった。


「他にはあるか?」


「無限牢獄とはなんでしょう?」


「死ぬことも叶わぬ無限に囚われる牢獄だ」


「え」


 思ったよりヤバいやつだ。死ぬまでとかじゃなくて死ねないのか。この落ち着く雰囲気の牢獄で永遠にダラダラしなくてはならないのか。何という恐ろしい罰だ。


「この世界が壊れるまでここは存在している。ある意味ではもっとも安全な場所だ。安心するがよい」


「他の囚人もいるのでしょうか?」


「いる。最長者は3億年だ」


 すげぇな。時が流れるだけで楽しめる領域に達してそうだな。


「最後に、俺の魂の問題とは?」


「それはこの神界に来た時点で解決したとも言えるが…………貴様、スキルを覚えたことがない無能なのではないか?」


「え、ここで心の傷を抉るのですか?」


 突然の精神攻撃に戸惑うも、女神が語った内容は俺がこれまで無能として虐げられてきた原因を説明するものだった。


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[一言] 何これ神作品の予感。
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