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秘密結社『外』


 始めの牢獄に戻ってきた。ここを出てほんの数日だ。神などの手ですぐに戻される可能性は考えていたが、自主的に戻ることは考えていなかった。


 数日なので当然、懐かしさも感じない。というか、何処行っても同じ造りの牢獄だったし『本当にここだったっけ?』ぐらいの気持ちだ。しかし、長年過ごした以上、間違えたら負けな気がする。


 ああ、これは……思い出した。近所の愛犬家の集まりだ。彼らは同じ種類の犬を飼っていた。同じ模様と体型でよくどっちがどっちか分からなくなっていたのだ。

 それぞれが、自分の犬だと思う犬を捕まえた時の、何とも言えない顔。自信がないけど飼い主として自信がないことを見抜かれてはいけないという、ぎりぎりの綱渡りをするような緊迫感に近いものがある。


「ここ……だな」


「ええ…………」


 あ、ブレアも自信ないんだな。わかるわ。見抜いてしまった。


「ここだったっけっ!?」


 まあメスブタは覚えていないだろう。数百年ぶりらしいし。ここにいたのも一日に満たないそうだし。


 くそっ。こんな事なら鉄格子を曲げっぱなしにしておけばよかった。脱獄がバレたとしても、せめてどんな能力で出たのかはバレないように元に戻しておいたのだ。


 ん、いや、あれは──


「ブレア、ここだ」


「なるほど。あなたのそのねっとりと絡みつくようなおぞましい観察眼が久しぶりに役にたったのね」


 俺の視線に気付いたブレアは『心底嫌そうな無表情』という俺にしかわからない顔で久しぶりに直接的な毒を吐いた。


「あ、はい……。椅子の置かれている位置と角度がすごくブレアらしいです。脚を組むときにタイトなローブでお尻のラインがぎりぎり見えないように調節された絶妙の角度なので。あれよりこちらを向けば正面すぎて胸が強調されアウト、あちらを向けば体のラインが俺に丸見えでアウト。俺の視線をかわすために計算し尽くされた椅子の位置なので。そして、布団は壁側ではなく鉄格子側に寄せてたたまれています。寝るときは必ず俺の方に脚を向けていました。頭頂部が俺に見えることも嫌がっていましたから。あ、そう思っていたと感じているだけです。たたみ方もブレアらしさに溢れています。まず縦におり──」


「シニスターインビテーション」



────…………


「わあああああっ! イチゴのパンツ!」


「おはよう」


「あ、ああ。おはよう。そ、そうか、夢か…………い、いま図書館で眼鏡をかけたドジっ娘ゴブリンとラッキースケベが無限に繰り返される悪夢を…………」


 ぐっしょりと汗をかいていたが機能固定ですぐに乾いた。これ機能固定が無かったら脱水症状で死んでたな。


「そう。辛かったわね。もう大丈夫かしら?」


 なんだろう。心配されているのだろうか。それとも大丈夫と答えたら『じゃあもう一杯どうぞ』なんてことになるのだろうか。

 正解がわからないときは自分の心に従うしかない。俺は後悔しない!



「ブレア、俺は……大丈夫だ!」



 立ち上がり、しっかりとブレアを見据える。震える足は押さえつける。気合いで乗り切れっ! カッコつけるのだ! 今更ながら! 手遅れだとしても!


「そう、じゃあ探索を始めましょうか」


 ほっ。どう答えても良い場面だったようだ。しかしレベル7の精神崩壊魔法で良かった。レベル8なら一週間は心を壊していた。ちなみにレベル8を人間界で放てば街一つが悪夢に沈み二度と目覚めることはないだろう。それほど凶悪な魔法だ。



「おっ! 起きたのかっ?」


「ああ、メスブタか。待たせたな」


「気にするなっ! で、何するんだっ!?」


 このブタめ。何をするのか理解できていなかったのか。


「ニトが寝ている間は特に何もしていないわ。雑談したり、神や天使が現れるのを待ったりね」


「死神が現れたら良かったんだけどなっ!」


 そうか、新しい囚人が収監される可能性もあるわけだ。そうしたら何かしらの神が現れるだろう。

 それはさておき今やることが何かだな。


「メスブタ君。我々がここに何をしにきたのか、君のために整理しよう」


「おおっ! よろしく頼むっ!」


 期待に満ちた桃色美少女の笑顔が眩しい。俺はそんな笑顔を向けられていい人間ではないのに。

 まだ目が覚めたばかりで壊れた心は俺を不安定にしているがこの数年の慣れは恐ろしい。心はアヘアヘでも思考はいつも通りなのだ。



「さて、ここにきた理由はこっちに出口がある可能性が高いからだ。常識的に考えれば囚人が集まっている方に看守はいるだろう?」


「ふむふむっ?」


 くるりとした瞳がパチクリと瞬きを繰り返す。可愛い。


「と言っても人間界の常識だし、天使どもは何処にでも転移できるようだから何とも言えない。囚人ももはやこの牢獄にはいないしな。だから何かしらの痕跡がないかと期待している、という程度だ。他に当てもないし闇雲に移動しても意味がないしな」


「ふむふむっ?」


 頷くたびに桃色の細く短い髪が揺れる。女の子特有の甘い香りが鼻腔をくすぐる。可愛い。


「で、探すのは渦だ。この無限牢獄から消えることができる天使はマナの渦によって消えた。死体になった後だがな。それでも、渦に関連するものが出口につながるヒントである可能性がある」


「ふむふむっ?」


 目をつぶり考え込む様子だ。まつげ長いな。可愛い。


「つまり、この始めの牢獄の近くに『外』との出入口があり、それは渦に関連した何かがヒントになっているのではないか。そう考えているわけだ」


「ふむふむっ?」


 手で額をおさえる。拳で戦う彼女の手は傷ひとつない。おそらく超再生スキルのせいだろう。美しい手だ。可愛い。



────えっ! 俺は今何を考えた?



 傷ひとつない手、だと?


 ばかな。拳を敵に何度も打ち付けておきながら傷ひとつない? 超再生スキルの効果がそれだと? 当然、それは拳に限らないだろう。これまでの戦闘で負ったキズもそうだ。そう、だとすると彼女のボディには『永遠の純潔』が実装されているのかもしれない。


 落ち着け。落ち着け、俺。メスブタの身体はどうなっている? 三択だ。


・メスブタはユニコーンに乗れる乙女である。

・メスブタはユニコーンに乗車拒否される。乙女ではない。

・ユニコーンはメスブタを乗せて良いか判断に迷う。つまり、純潔スキル……じゃない、超再生スキルを得た後に初めての経験をしている。


 一つ目が理想。三つ目が問題だ。複雑な気持ちになるからだ。あ、でも何となく悪くないかも。そもそもメスブタだしな。名前がビッチだし。二つ目もありだわ。別にビッチで悪いことなんて一つもないんだけど。


 ブレアからの汚物を見るような視線とメスブタからの期待の眼差しという美少女2人からの視線をいつまでも堪能するわけにはいかないので、ひとまずここは話を進めよう。


「えーと、ごほん。わかったか? これがここに来た理由と探すものだ」


「えっと、そうだなっ! わかったっ! 無限牢獄から果てなき渦に飲み込まれた天使はマナという巨悪の存在による陰謀で『外』という秘密結社に始末された。我々はその陰謀を『ヒント』という仲間の導きで暴くの……かっ!?」



 最後クエスチョンマークでそんなこと聞かれても、俺はそんな秘密結社の事も仲間の事も初耳だし。というか天使を始末したのはお前と俺だよ。

 そうだな、どうしよう。ブレアを見ると彼女は頷いた。



「メテオストライクブースターさん、ぐるぐるしたものを探して欲しいの」


「っ! まかせろっ!」


 あ、そういうことね。ややこしいこと話して悪かったな。


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