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お姉さま、お義姉さま


「この浅い階層でこれか……」


 俺たちは5階層まで到達した。ちょうど魔物の群れとの交戦を終えたところだ。

 戦ったのは主にメスブタだ。彼女の足元には魔物の死体が積み重なっていた。Cランク相当の魔物だ。

 ハミチチはともかく、妹とニノでもこの数を相手にすれば間違いなく死ぬだろう。そろそろ帰り道が怪しいな。


「ふふ……もはや3人は帰れないのです」


 何がおかしいのかアルマが笑顔だ。


「確かにもう帰れないわね。調子に乗っていたわ……」


 ニノが歯噛みする。ヤバい空気を感じていたのに焼肉でテンションが上がってどんどん来てしまったのだ。美味いものの罪は大きい。もしかしてあの焼肉モンスターは探索者をより深い階層へ誘うために存在するのではないか。なんて得体のしれないことまで考えてしまう。


「ほんとにね。この空気を舐めてたわ。反省ね!」


 反省してなさそうな妹の態度に思わずため息が漏れる。


「さて、このまま妹の採掘スポットとやらに行くが……帰りは送りが必要かな?」


「悪いけど……お願いします」


 さすがにニノも素直だな。これで少しずつ脱いでなければ少しはマシなんだが。このまま脱いでいって裸シルバーアーマーとかになったらどうしよう。


「お願い、お兄ちゃんとお義姉ちゃんたち」


 お義姉ちゃん、たち……? これは難しい問題だな。


「お願いします。もう帰りませんか?」


「却下」


 ここまで来て帰るのは面倒くさい。


「とりあえず妹さんの採掘スポットって何階層なのかしら?」


 あ、そうだった。勝手に浅い階層だと思っていたが実際どうなのか。


「10階層だよ、ブレアお姉さま!」


 あと5階層か。どうなるかな。今のペースなら問題なさそうだが。


「そう、どれくらいまで敵が強くなるかはわからないけど、そこらへんにSランクが出るようになったら帰りましょうか」


「それぐらいがちょうどいいかもな。Sランクがでるならボスで何百万かのマナ総量が出てきてもおかしくはないし」


 俺とブレアの会話でハミチチが口からよだれを垂らして白目をむいた。さすがに妹とニノはもう慣れたのか、ひきつった笑いにとどまっている。


「普通の探索が見てみたかったわ……せっかくお金を払ったのに」


 確かにニノは金を払っていたな。悪い事した。返金するか。と思ったが先生はさらに稼ぐ方針を打ち立ててきた。


「ならこうするのです。普段見ることのできない、ダンジョン踏破者の普通の探索を見せてあげるのです。いくら払うのです?」


「……なるほど、安全が保障されるなら追加で払っても良いわ」


「白金貨1枚なのです」


「はい、お願いします」


 ニノが白金貨を支払う。白金貨2枚どころかもっととれるぐらいだがそれを言ったらアルマが徴収するだろうから注意だ。


「すげぇ! それなら白金貨10枚でも良いぐらいだな!」


 ほらもう。ハミチチ君ったら。ちょっと考えが足りないかな。そもそも白金貨1枚もお前は払えないだろ。


「ハミチチは後で面白いことをするのです。それがお代なのです」


 とんでもない振りが来たぞ。答えられるのか。


「え、何をすればいいんですか?」


 恐る恐る尋ねる青年A。


「え? えーと、メテオちゃんに殴られるとか……なのです?」


 ジャストアイデアで死亡するプランが飛び出てきた。恐ろしい女だなアルマ。


「殴……死……」


 青年Aは意識を宇宙の彼方へとい追いやった。


「わ、わたしはお金を払ったわよね!」


「もちろんなのです」


 念を押したくなるニノの気持ちはわかる。痛いほどに。

 そして探索を再開した。


「感覚的にここの5階層で他のダンジョンの40階層ぐらいの難易度になっているな」


「ねえ、探索はニトの変質したマナフィールドでやっているの?」


 俺のつぶやきに貪欲な女ニノが反応した。役には立たないだろうが教えてやろう。


「ああ、索敵と罠探知は全部これだな。マナが無い罠は普通に見つけるか引っかかった後に避ける」


「あとは殴るっ!」


「メスブタの拳はダンジョンの罠作成者の工夫を無に帰す理不尽の拳だ」


 可哀そうなヘレンちゃん。


「変質者スキル以外でマナフィールドを伸ばすようなスキルは無いかしら?」


「魔法とかいっぱいあるだろ?」


「え?」


「魔法だよ。魔法はマナに刻まれた魔法語で定型的な動きをマナに強いているだろ? 変質者スキルはそれを無詠唱で柔軟にやっているだけだ。直感系のスキルとかは近いかもな。とにかくスキルと魔法の組み合わせで似たようなことはできるはずだ」


「なるほど……そういうことなのね……なら、精度面であまり意味を見出せなかった危険探知や罠探知も……」


 ニノが世界に入り込んでしまった。戦闘が始まったんだが大丈夫か? ニノの方に飛んできた毒を吹き飛ばす。全く気付いていないな。入り込むと昔からこれだからな。よく探索者としてやって行けてるな。

 魔物をせん滅したところでニノが帰ってきた。質問とともに。大丈夫かな。追加料金とられないだろうか。


「ブレアさんに早速聞きたいんだけどいいかしら?」


「どうぞ、いいわよ」


「ニトの妹の採掘スポットにえーっと、神界流魔方陣……? で鍵をかけるって話だったけど、そんな魔法陣聞いたことないわ。どんな魔法陣なのかしら?」


「神界流魔法陣は神の世界の魔方陣技術よ。天使や悪魔を封じたりすることもできるわ」


 へー、そうだったのか。


「神の世界の……」


「ええ」


「その、特定の人物だけに効果を発揮しない事が可能ということは、逆に特定の人物にだけ効果を発揮する呪いみたいなこともできるのかしら?」


 なるほど。罠を仕掛けたりできるな。Aさんの家の扉に魔方陣を仕掛け、Bさんが通った時に死に至る電流を流すよう設定しておく。そしてAさん宅をBさんが訪れた時にBさんが死ぬ。Aさんが疑われる。完全犯罪! みたいなこともできるな。法律家がひっくり返るぞ。


「可能よ。魔法も呪いも称号も同じ仕組みなのだから。解呪もできるし魔法を防ぐこともできる。そして、称号を消すこともできる」


「なんだって!?」


「どうしたのニト?」


 初耳だ。消そうと思って消せるのか、称号。いや、そもそも自然に消えている称号もあったじゃないか。自然に消えるということはみんなの認識から薄れたということで、称号として維持する必要がなくなったということだ。そう、俺の怠惰とか無能とか。もはやどちらも当てはまらない。だから消えた。これを故意に実現することが出来るのか。


「消したい称号がいっぱいある!」


「わたしも、わたしも、『偽りの』をけしたいっ!」


「私にはできないわよ。理論上できるというだけで」


 静寂が訪れた。やだ恥ずかしい。本気の声を出してしまった。ニノも顔を赤らめている。なんかこいつかわいいな。

 あ、待てよ。魔法も呪いも同じ仕組みか。変質者スキルもだな。そういえば変質神がステータスをいじっていたが……そういうことか。自分でできる! 自分でやろう! 頑張ってスキルレベルを上げねば。そしてかっこいい称号をいっぱい追加するのだ。『愛と自由の騎士』とか。


 おっと魔物だ。


「魔物がくるぞー。2匹だな。またトロールだ」


「ここはわたしが戦うわ。できれば何かアドバイスを」


「アバズレだけにいいところは見せられないね。アタシも戦う!」


 ニノと妹が前に出た。前者はアドバイスを求めており、後者は褒めてほしいのだろう。

 数秒待ち、トロールがあらわれた。2人が一斉に攻撃を開始する。


「アイスニードル」


「どりゃあ!」


 ニノは良い。まずはアイスニードルで足を刺し動きを止めようとしたのだろう。良い判断だ。妹は謎だ。手斧を投げ足を切断したものの、相手はトロールなので普通に再生している。何やってんだか。遊んでるのか?


「ふん、そんな事でよくBランクになれたわね!」


「ぐぬぬ」


 マジだったのか妹。

 愕然とする俺をよそに戦いは続く。


「アイスカッター」


「どっせい!」


 えーと、ニノはトロールを切り刻みつつ凍らせている。まあ、いいんじゃないかな。妹は岩を投げた。潰しちまえば早いってことだろう。何という脳筋スタイル。メスブタと話が合うんじゃないか?


「アイススピア!」


「はぁーどっこい!」


 ニノは氷の槍を放ち、脳天から体を貫いた。これはトロールと言えど即死だろう。妹は先ほどの岩からはみ出たトロールの顔面部分をハンマーで叩き潰した。マジ脳筋。


「さすがBランクはすごいぜ……」


 Dランクは俺の陰に隠れていた。分を知っている男だな。それで正しい。余計なことはするべきではないのだ。


 そして更に潜っていき、俺たちは目的の10階層へと辿りついた。敵の強さはBランク相当になっていた。


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