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はじめまして、ブレア


 昔、ずっとずっと昔。まだ無能じゃなくて、ただのひとりの子供だった時。


 俺はヒーローになりたかった。


 女の子のピンチに颯爽と駆けつけ悪者を殴る。とにかく殴る。殴る蹴るの暴行だ。相手が悪の女帝なら違う方向性で暴行する事も視野に入れて妄想していた。思えば子供の頃から俺は変わらないな。


 守るのは女の子だ。男はあまり守る気にはなれない。まあ当然のことか。誰しもそうなんじゃないかな。


 ともかく、ヒーローになるべく頑張ろうと思った。お菓子をつまみながらベッドでゴロゴロしつつ俺はヒーローになるんだと、いや、でも面倒くさいなと。女の子にキャーキャー言われたいなーと。


 ある時、気付いた。俺はヒーローになりたいが名を馳せたくはない。有名になればそれなりに妬まれたりもするだろう。煩わしい。可愛い女の子だけの隠れたヒーローになれればいいのだ。


 自室のベッドでエロ本を読みながらそう考えたのだ。


 いま、その時が来た。


 俺が収監されて4年と18日。

 ブレアが収監されて207年と35日。


 俺たちは今日、脱獄する。


 改めて考えると凄いな。俺は1,478日。ブレアは75,590日だ。3億年さんは1兆95億日だ。もはや神になっているのではないか。人間らしさなどかけらも残さない超越者になっていそうだ。


 俺のスキルが確定して、ブレアとは議論を重ねた。お互いに何ができるのか、どのような事態にどう対処するのか。

 もちろん、それぞれ研鑽を積みながらだ。この1年、前ほどの頻度ではないが、ブレアによる魂の破壊と収束も継続して実施した。


 結果として能力は大幅に向上した。人としては崩壊間際だ。壊れそうで壊れないのだが。


──ニト──

【総合能力】

マナ総量:283,000

【基本能力】

身体力:70,000

精神力:70,000

【スキル】

変質者:レベル2

【称号】

真なる変質者

神話級性犯罪者

視線の隠者

ブレア様の犬

常識崩壊

──────


 余剰の14万のマナは緊急用だ。精神力か、身体力かどちらかで必要になった時に即座に変質する為のものだ。一度どちらかに割り振ると、身体力から余剰マナ、余剰マナから精神力と言ったように変質に手間がかかるのだ。


 ブレアは200年でマナ総量を50万近く増やしている。対して俺は4年間で28万伸ばした。この成果をもたらしたのはブレア流チート術…………チートじゃないな。正しく苦労したわ。ブレアの攻撃に耐え続けたからだ。


 鉄格子の向こう。そして、その向こう。人間界へと続く道。


 俺は…………ブレアが欲しい。


 4年間見つめてきたのだ。ずっと一緒だった。鉄格子を挟んでいても、ここで共にあったのだ。彼女の望みを叶える。神の牢獄なんかに留めておくものか。


 彼女の体も心も俺のものにしてみせる。俺のものだ。俺が奪う。


 強い決意とともに身体にマナを巡らせて行く。俺の身体は一般人のそれから英雄のものへと変質していく。


 いま、ヒーローになるのだ。彼女だけのヒーローに。他の誰でもない、ブレアの。


「おおおおおおおお!」


 鉄格子を曲げる。ただ曲げたのではない。鉄格子は元からそういう形であったのだという物質自体のあり方を変質させながら曲げた。この鉄格子は、もう元には戻らない。


 ブレアが目に入る。まだ邪魔な鉄格子がある。ブレア側の鉄格子を曲げるべく、牢獄の外に出た。


 初めて立つ鉄格子の向こう側の世界。同じ空気のはずなのに。汚い監獄のはずなのに。まるで空気の澄んだ朝のような清々しさを感じた。


 誰かが来る気配はないことを確認し、ブレアの鉄格子を曲げる。


 ブレアは曲がった鉄格子をしばらく見つめた後、ゆっくりと廊下に出てきた。


「ありがとう」


 彼女の顔は変わらない。だけどいつもより心なしか少ない言葉がその感謝の大きさを感じさせた。それ以上の言葉がないのだと。


「どういたしまして」


 そう言いながら俺は右手を出す。

 俺の手を見て、彼女も右手を出した。


 初めて触れる手。


「4年越しね。長く一緒にいたのに触れるのは初めてだわ…………いえ、人に触れるのも久しぶり。人ってこんな感触だったのね」


「ああ」


「柔らかくて、暖かい……」


「うん」


「ニト……はじめまして。よろしくね」


「こちらこそ。はじめまして、ブレア。これからもよろしく」



 4年越しの『はじめまして』だ。

 なんだかおかしくて、互いに微笑んだ。ブレアめっちゃ可愛い。


 ということで…………さて、この状態は非常に不自然だ。俺は4年間閉じ込められていた童貞変質者だ。そんな男が4年間視姦し続けた美女の手を握りしめているのだ。


 なんか良い匂いするし。もう頭がフットーしちゃいそうだよぅ!



 気づけば、握手する右手と交差する形で俺の左手はブレアの胸を掴んでいた。これがグランドクロス…………。


 むに


 ふにふに


 ふにょん……むに


 これがおっぱい…………。


「柔らかくて、暖かい……」


「うん」


「はじめまて、おっぱいさん。私がニトです」


 紳士としてご挨拶しておかねば。


「ニト、なぜ断りもなく胸を?」


 …………あ、ちょっと冷静になってきた。やってしまったな俺。いかん、ブレア怒ってるぞ。


「えっとですね、大変申し訳ございません。4年間溜まりに溜まってしまい」


「…………そう。出たからには急ぐわよ」


 いまここで爆発して俺が2、3日廃人になったらマズイ。怒りは蓄積することにしたのだろう。怖い。道中はご機嫌取りに注力しよう。


「ブレア様。私が先導します」


「任せるわ。そうね、胸の件は脱獄後の報酬の際に揉める予定だった回数から引いておくわね」


「回数決まってたの!?」


 本当は美処女を牢獄内でナニするシチュエーションも良いかもと思っていたのだが、時間がないのも事実。そんな空気でも無くなってしまったし、ブレアも怒っているし、急ぐのが賢明だろう。


 ああ、でもこの左手の感触がおっぱい。4年前の穴の女神とはまた違う気持ちだ。やはり相手との関係性やストーリーあってこその『性』なのだ。この道を極めるべく俺は人間界に戻らねばならない。


 俺たちは脱獄のため、見慣れた廊下の見慣れぬ向こう側へと進み始める。


 左手の感触が全身に指示を出す。

『おい、お前ら! おっぱいだぞっ! おっぱい!』

 荒ぶる俺のグングニルはいかなる盾をも貫かんと猛々しく天を指し、俺の歩みを邪魔するのだった。


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