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極限状態では執拗に


 なんかある気がしたんだよ。そうだな、3日ぐらいいじってたかな。石の形がどうもアレに…………人工的に見えてね。


 こねくり回して右に左に押していたら少し動いた。ちょっとしたゆとりがあることに気がついて、延々と動かしていると、気になる石が外れてしまった。


 ああ、壊れたか。動かしている間はすごく良かったんだが。まあ、人工的に見えたのは気のせいだったかな。極限状態だからこそ見えた幻だったのだろう。やはり自然のものだったのだ……と思ったものの、今度は何故か石が取れた後の壁が気になった。それから半日は見つめていたかな。


 マナが渦を巻いているような気がした。


 いや、普段はマナとか見えないんだけどさ。見えるタイプじゃないんだ。だけど、流石に半日も見てたらな。


 せっかく見えたのだからと思い、無心でマナの渦に合わせて指をぐるぐるぐるぐると回していた。なぜそうしたか? 何も考えていなかったからだ。


 気付いた時には目の前に壁はなかった。代わりにそこにあったのは闇だ。


 なんだかわかんないけどやり遂げた気分だった。よくわからない何かを弄くり回したら何かが出てきたのだ! 何が何だか分からないが何だか良い気分だった。ああ俺、混乱してるわ。



 落ち着いて現状を整理しよう。


 俺は大陸最大のダンジョン『クルリア』にいる。最下層は不明、現在の人類最高到達階層が57階層、俺がいるのは12階層。まあ浅い方だ。

 規模も凄いが、何かと悪名高いダンジョンで、多くの罠と凶悪な魔獣で名を轟かせている。

 罠の種類は無数にあり、攻略開始から300年経った今でも新種の罠の発見報告は絶えない。まったく理解しがたいことだ。


 俺がそんな場所に一人でいる理由、それはCランク探索者パーティ『闇鍋の舞』がルートを間違えたことに端を発する。

 俺は奴らのポーターをしていた。荷物運びだ。俺はマナ総量1000の凡人だからな。スキル0の奇跡的な無能だし。ポーターをやらせてもらえただけありがたいと思うべきだろう。


 俺は重い荷物を背負い、奴らは魔物を倒す。で、探索を進めること数日。リーダーが迷ったと言い出した。食料は多くない。


 なにが起きたか。


 置いていかれました。


 死んだわ。そう思った。切なかった。だってまだ16歳だし、童貞だし。


 ああ、一回ぐらいしてみたかったなぁ。アレをソレしてわっしょいと。


 えっちな事を考えていたら、出っ張った石が気になりだしたのだ。なんというか、出っ張りというのは趣深い。押したり引いたり回したりしてみた。無心になってそんなことを始め、今に至る。


 そんな事を思い出しながら、目前の闇を見つめる。


 普通のメンタルなら迷わず逃げ出すだろう。だが俺は違う。なんせ3日間もここで石をいじり、見つめ、指をぐるぐる回していたんだからな。逆にこの状況で普通のメンタルってどんな化け物だよ。


 だから俺は迷わず進んだ。眠いし腹も減ったのだ。もっと正直に言えば、途中から引き際がわからなかったのだ。

 もう行くしかない。逆にここで引いたら俺は俺に申し訳ない。後でどう謝ったらいいかわからないし、毎朝どんな顔して俺は俺に会えばいいのかわからない。

 あれ、俺何言ってんだ。いよいよ限界か。早いとこ行っちまおう。



 脚を踏み出した瞬間、天地がひっくり返った。


「落とし穴!? くそっ! しまった、罠か!」


 思わず叫んだけど俺バカじゃないの。なにが『しまった、罠か!』だよ。数秒前の意識が朦朧としていた俺のバカ!


 ああ……落ちた先に女の子いないだろうか。めっちゃ可愛い女の子。ああ、そしたらすぐに告白……いや、結婚だ。落とし穴の先で出会うなど運命に違いない。


 このスピードで落ちるからたぶん俺は死ぬだろう。でも死ななかったら、神様お願い。俺のいうことをなんでも聞いてくれる天使のような可愛い可愛い女の子をください。俺のために女の子を創造してください。ご褒美をください。なんの褒美かはこの際問わないでも良いのではないでしょうか。


 お願いします。アレやこれやとナニしたいのです。やましい気持ちは何一つございません。生物としての使命を全うしたいのでございます。


 お願いします。

 お願いします!

 お願いしまーっす!

 オネガァシャーっす!

 チィーッス!

 ウェーイ!



 ぐにゅん、ポイーーン。


 あ、底だ。


 当たった瞬間そう思った。当たった瞬間…………当たった? 生きてるぞ。よく分からんが、何かに吸い込まれ、放り出された感じがした。


 なんでだ? 足元を見る。


「うおっ!?」


 バカでかいスライムがいた。一回吸い込まれた気がしたが……生きてるから良しとしよう。なるべく刺激しないように。


 辺りを見渡すと、横穴があった。


 そーっとそっちに向かう。よし、スライムさんは俺に興味ないようだ。なんと寛大なスライムさんだろう。


 横穴に入ると、すぐ奥に部屋があるのが見えた。明かりがついている。これはもしや落とし穴を生き延びただけでなく、帰宅まで望めるのだろうか。


 膨らむ期待を胸に、警戒も何もなく自然体の自分で広場に躍り出た。小躍りしながら飛び出たという意味だ。自然体の自分でな!


 そして、俺は見つけてしまった。ご褒美を。神様がくれたご褒美を!


「か、か、か」


 ご褒美は驚いた様子でこちらを見て、後ずさる。


「か、か、神様ぁぁああ!」


 そして、ご褒美こと女の子に飛びかかってアレをソレした瞬間、俺の意識は暗転した。


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