第1話 目覚め
なにやら楽しげ声が聞こえ俺は眠りから覚め、鼻孔をくすぐる草花の香りがそこは森なのだろうと感じさせた。俺は声のするほうに目を凝らしたが辺りには草花が生い茂るのみで人影のようなものは見つけられなかった。
「・・・ん?」
俺は近くに咲いていた花に集る虫?を見ると違和感を覚えた。
本当に虫なのだろうか、仮にそうだとしてもカブトムシ大のそれは人のような姿をしている。もしかすると先ほどまで悪い夢でも見ていたのかと思っていた俺にはここが俺のいた世界ではないと認識させるには十分だった。
声をかけてみようか、それともすぐにこの場を離れようか、と考えているとまたも楽しげな声が聞こえてきた。いや、聞こえてきたと言うより目の前のそれからその声が発せられているのだった。
彼女?の声に耳を傾けるとなにか歌のようなものを口ずさんでいるのか一定のリズムを刻んでいた。
「フフフンフフフフ~♪」
こちらにはそういう歌があるのだろうか何度も繰り返していた。
声の主が目の前の虫?であり、もしかすると口が利けるのかと思い意を決して声をかけてみた。
「いい歌だね、なんていう曲だい?」
小さい子供に話しかけるような口ぶりで話しかける俺に驚いたのか彼女?はそこを離れ近くの木の陰に隠れた。
「驚かせてちゃったかな、ごめんね」
俺は敵意がないのを伝えるべく笑みを浮かべその場に座り込んだ。
2,30秒ほどだろうか、彼女?は木の陰の影からこちらを覗きこみ話しかけてきた。
「あなた、私が見えるの・・・?」
「見えるよ、君は僕の言葉がわかるかな?」
彼女?は小さく首を立てに振り俺に敵意がないのを悟ったのか近くに寄ってきた。
「私が見える人間なんて久しぶりに見たわ」
幼さが残る声で彼女は言った。
「さっき君が見ていたのはなんという花なんだい」
そう問いかけると彼女?は朗らかな笑顔をみせ答えた。
「レワソクっていうの、この辺りでは結構あるの」
元いた世界でレワソクという名の花を聞いたことはない、俺は続けて質問をした。
「僕は綾辻勇人、君は?」
「私はフィンテ、お兄さんはどうして私が見えるの?」
女の子なのだろうとても優しい口調で語りかける彼女に嘘を吐くのは忍びないので少しあやふやにしつつ俺の身の上を語った。
「元々ここみたいに自然に囲まれたところじゃなくもっと都会に住んでいたからね、そこで神様にお願いしたんだ。君みたいな子達と話せるようにってね」
こういえば神様の話も冗談に聞こえるだろうと思った俺だったが彼女は信じたのか
「あなた、神様に会ったの!?どんな人だったの!」
と、興味を持ったのだろう興奮気味に俺に尋ねた。
「おじいさんだったよ。上品な感じのね」
端的に答えた俺に彼女は更に質問を続けた。
「ひげは!?どこで会ったの!?おじいさんって人間みたいだったの!?」
一度死んだことは伝えるべきではないのだろう、と思い俺は少し話をぼかした。
「立派なひげだったよ。そうだな、きれいなところでかな。見た目は人間だったよ」
彼女の矢継ぎ早な質問に答えていく。彼女は俺への警戒を完全になくしたのだろう、目の前まで来て話した。
「あなたは何してる人?」
「・・・探偵・・かな?」
「探偵?どんなお仕事なの?」
彼女はとても楽しげに話し続けた。
そうして、彼女との会話が一段落ついた頃彼女は不意に俺に言った。
「私この森からでたことがないのだけどあなたが良かったら私、あなたについていっていい?」
俺は少し間を置き答えた。
「いいよ。ただ、君を喜ばせられる旅になるかはわからない。僕自身右も左もわかってないからね」
「やったぁ、なら行く!」
そうして俺と彼女、フィンテとの旅が始まった。