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作品ごとに世界観が違う異世界物語

第一王子の嫁選び

ある日、王城に集められた六人のご令嬢に国王陛下はこうおっしゃった。

「見事、飛竜の卵をふ化させた者を第一王子の婚約者候補とする」

その後、陛下が去った後で第一王子のベジス殿下はこう付け加えた。

「卵を自ら育てて飛竜を自身の魔力で染め上げるのだ」

こうしてこの国の重要戦力である、飛竜を使っての嫁選びが始まった。



私の名前はケーテ・ウィルマリス、武の名門、ウィルマリス家の長女だ。

目下の問題は私たちの前にある飛竜の卵だ。

「お父様、残念ながらわたくしの魔力だけでは立派な飛竜を育てることはできませんわ」

「しかし、王命が下った以上はそれを果たすのが忠義、何とかならぬものか」

「あなた、王命はあくまで飛竜の卵をふ化させることです。ベジス殿下のお言葉は無視してもよいのではありませんか」

「確かにそうだが・・・」

「お父様、臣下が果すべきは王命のみ。無理にわたくしだけの魔力で育てて、我が国の重要な戦力である飛竜を無駄にするべきではありません。それに、ふ化させた後に魔力で染め変えても問題ないはずです」

「そうだなケーテ、我が家が最高の飛竜を育てるのだ」

こうして我が家の方針は決まった。



数日後、大きな問題が浮上した。

「魔力が足りない・・・」

我が家の卵は大食らいで、母とわたくしの魔力量では賄えない。

「魔力のある指揮官クラスを国境から下げることはできぬ。どうするか・・・」

結論は簡単だった。

国境の戦力が下げられないなら自分たちが国境に行けばよい。

だが、国境の砦で私のやることは卵に魔力を注ぐことだけなのですごく暇だ。

こういう時、普通のご令嬢なら刺しゅうをするらしいが、わたくしは剣なら得意だが針など持ったこともない。

しかし国境の小競り合いに参加するわけにも行かないので、砦の料理を担当した。

武門の娘をなめてもらっては困る、野営のために一通りなんでもできるのだ。

「ケーテ、少し大味だけど、とてもおいしい野戦食だよ」

森で狩ってきた鹿肉や採取した香草と薬草のスープをお父様はいつも褒めてくれる。


秋が過ぎ、冬を越えたある日、飛竜の卵がふ化した。


我が家のふ化が一番遅かったらしく、翌日にはすべてのご令嬢が召集された。

陛下の前に並ぶ飛竜の中で我が家の飛竜がやはり一番力強い魔力を感じる。

まあ、わたくしの魔力に染まっていないので少し落ち着きが無いのだけど・・・

一騎ずつ審査をしていた殿下が我が家の飛竜の前に来た。

最高の飛竜騎士であるお父様も認めた飛竜だ。

「この飛竜は一つの魔力に染まってはおらぬな、気付かれないとでも思ったのか。そうまでして俺の婚約者になりたいとは浅ましいやつめ。だが、俺の命に反したきさまの家は相応の罰をくれてやる」

はい・・・なに言ってんだこいつ馬鹿か?

「わたくしの主は国王陛下です。ベジス殿下の命令に従う理由はありません。また、これから二年程度の時間をかければわたくしの魔力で染めることができます。ベジス殿下のお言葉にも適っているはずですが?」

わたくしは真っすぐに殿下の目を見る。

そこに陛下の言葉がおりる。

「よしケーテ・ウィルマリスよ、そなたの飛竜を一番と認めベジスの教育を任せる。四年後の結婚までのあいだに真っ当な王子に育てよ」

今度は王子を飼育するのか、何と言う無茶振りだ・・

「くっ、王命、謹んでお受けいたします」

「おいまて、俺は貴様と結婚などせぬぞ」

本当に大馬鹿だねこいつは

「ベジス殿下、王命が聞こえてなかったのですか」

わたくしは陛下への礼をとったままの姿勢で殿下をいさめる。

「さすが、わしが見込んだだけは有る。今後は王家への不敬を認める。この調子で頼んだぞ」

そうか、良いことを聞いた。

「国王陛下にお伺いいたす。今回の件で我が国の重要な戦力である飛竜を五騎失った。それについて国王陛下はどのようにお考えか」

飛竜は生まれたときの魔力量で将来が決まるのだが、なんと陛下は全く理解していないご様子である・・・・・飼育する王族は二匹か!

「ほかのご令嬢が育てた飛竜の魔力量では成長しても人を乗せては飛べない。戦わずに五騎の飛竜を失ったと言える。実戦であれば大敗北である」

私はこんこんと諌言申し上げた・・・


===============


さて、国王陛下のことは後回しで、取りあえずこの馬鹿王子を何とかせねばならない。

まずは現在の教育体制を見せてもらおうか。

殿下はごねていたが、私は王命で動いているのだ。

だがここで大きな問題が発生した。

殿下が受けている教育を私はまるで理解できない。

はっはっは、自慢ではないが生まれてこのかた剣より軽い物など持ったことがない。

私が父から教わったのは、歴史は死人に口なしで、地理は北が山脈で南が敵、どうだ恐れ入ったか・・・・

まあいい、内容が理解できなくても分かったことがある。

こいつまじめに勉強していない。

何せ勉強時間より休憩時間の方が圧倒的に長いのだ。

そして今も優雅にお茶を飲んでいる。

「既に俺は近衛騎士とも互角に戦うことができるのだ。才能のある俺はそれほどの時間をかけずとも何でもできてしまうのだよ」

おい、そこの近衛騎士、今の接待試合はなんだ、あれが本気ではないよな。

私がにらむと近衛騎士は目を逸らした。

「ベジス殿下はお強いのですか?」

私は殿下の目を見て問いかける。

「先ほどの試合を見ていたのだろう。まあ、女には俺の強さが理解できぬのだろうが」

たしかに私には理解できない事ばかりだ。

教育方法?そんなことは分からん!だが、我が家はいつもこうしてきた。

「はっはっは、全く分かりませんわ。ですので」

私は立てかけてあった剣を殿下に突きつけた。

「わたくしに分かるように教えていただけますか?」



まるで新兵のようだ。

殿下は私の剣を防げず徐々に後退していく。

壁際まで追い込んだ殿下の剣をはじき、腹部を蹴ると彼は無様に転がった。

「ベジス殿下はお強いのよね?」

殿下を見下ろしながら問いかけたが返答がない。

私ははじき飛ばした殿下の剣を投げ渡した。

「あなたの強さがまだ理解できませんわ。・・・さあ立て!」

しばらくして近衛騎士が懇願してきたので私は剣の鍛錬を終了した。

次は政治学の時間だ。

ふうん、ほうほう、ふむふむ、すやすや

私は椅子に座って目を開けたまま睡魔に身をゆだねた。

はっ、私は政治学の時間が終わると同時に目を覚ました。

寝ていても気配でこれくらいのことは分かるのだ。

今日の授業はこれで終わりだ。

私は殿下を追い出し、学問担当の王宮文官や剣術担当の近衛騎士と今後の方針を話し合った。

「ウィルマリス様のおかげでベジス殿下が珍しくまじめに授業を受けてくださいました。ですが、あのご様子ですと全く頭には入っていないとは思いますが・・・」

どうやらびびりの殿下は私のことが気になって授業中も震えていたそうだ。

ちょっとやり過ぎたか・・・

まあ今年から三年間、殿下は高等学園で学ばれる予定だし何とかなるであろう。

私は根拠のない確信を得て納得する。

翌日からは常に殿下のそばにいると勉強にならないというので、そっと柱の陰から監視し、問題があれば音もなく背後に忍び寄った。


===============


そして春が来て高等学園への入学の日だ。

殿下は満面の笑みをたたえて近衛騎士とともに学園にやってきた。

「・・・・・な、なぜそなたが此処にいるのか?」

「なぜとおっしゃいましても、殿下とわたくしは同い年ですよ」

この世の終わりみたいな表情を浮かべ放心しているが取りあえず無視した。

殿下は私の隣の教室だ。

王宮文官と近衛騎士が細工したのだ。

だが私は王命をないがしろにしたりはしない、ちゃんと授業中でも殿下の教室を確認できるように許可を取った。

入学から半月ほど立ったが授業中はまじめに前を向いて勉強し、休み時間などは学友たち(主に女生徒)に囲まれて楽しくやっているようだ。

ふむふむ、殿下は問題なくやっているようだ。感心感心

それから二ヶ月が過ぎたある日、私の前に刺客が現れた。

ぐぬぬ、ここまで追い詰められたのは初めてだ。

だが私は負けぬ、この羽ペンに誓って。

ええと、8×3は・・・くっ、指が足らぬではないか。

そうか8は一個分隊 それが三つなら一個小隊だな、小隊の定数は34名だ。

ざんねんながら外れである。ケーテは小隊長と本部要員が9名いるのを忘れている。

この戦いはその後一ヶ月の間続いた・・・補習である。



私が補習を受けていた間に事態は大きく変化していた

何と、殿下はご令嬢との密会に忙しく、授業に身が入っていないらしい。

不覚、私が個室で女教師の個人授業を受けている間にこんなことになっているとは。

もしや、あの女教師が私を部屋から出さなかったのは殿下の差し金か。

だだの言いがかりだ。ケーテの成績が酷すぎたため学園側も仕方なく実施しただけである。

私は殿下の元に急いだ。


「わたくしが何を言いたいかはおわかりですよね」

ほほ笑む私を見て殿下のお顔が引きつる。

「ケ、ケーテよ、こ、これは・・」

しどろもどろに答える殿下に目だけで着いてくるように促した。

はて、いつもの訓練場に来たのは良いが先ほどのご令嬢も着いてきていた。

「どうしたのですかオードリール様、殿下とわたくしはこれから剣の稽古をいたします。そこにいらっしゃっては危険ですわよ」

「そう言って殿下を束縛するのはおやめなさい。殿下はわたくしを選んだの。あなたには負けません」

ふむ・・・よくわからないが私と勝負がしたいのかな?

ふっふっふ面白い、殿下一人では物足りない、受けて立とうではないか。


翌日から殿下はまじめに授業を受けるようになった。

ところでオードリール様がそばにいないのだがどうしたのだろうか?



あれから三度目の冬がやってきた。

殿下はあの後も数人のご令嬢と同じようなことを繰り返したが私はちゃんと職務を全うした。

そして今、殿下は婚約者候補のパール様とともに私に挑んできた。

え、婚約者候補は私を入れて六人ですよ。

王命は”飛竜の卵を孵化(・・)させた者を第一王子の婚約者候補(・・・・・)とする”だから。

殿下とパール様は鋭い視線とともに私に剣を向けた。

しかし、愛し合った二人が強大な敵に挑む、これは最近読んだ物語のようだね。

いいだろう受けて立つとも。

私は剣を手に取った。


こ、この私が押されているだと。

二人の見事な連携に私は一歩、また一歩と後退を余儀なくされた。

そしてついに殿下の剣が私の心臓をとらえた。

「ぐっはっ、お、お見事」

私は苦悶の表情で殿下たちを見つめ倒れ伏した。




私は遥か天空の高みから地上を見た。

今日は殿下の結婚式だ。

大きくなったな・・・私は感慨にふける。

あのびくついていた殿下が立派になったものである。

あの戦いで殿下はパール様とともに私に挑み、ついに私という壁を打ち破った。

そして今、二人は口づけとともに永久の愛を誓った。

教会の鐘が高らかに鳴り響く。

さあ祝福の時間だ。

私の広げた手から花びらが舞い飛ぶ

おめでとう殿下、いやベジス王太子殿下

地上では天から降り注いだ花びらに歓声が上がった。

では、そろそろ帰ろうか。

私は天に輝く太陽に向かって飛び立った。







「中隊長殿、こちらも花びらをまき終わりました」

他の飛竜小隊も仕事は終わったようだ。

「ごくろう、では南の国境に戻るとしようか」


え、訓練用の木剣で死ぬはず無いじゃないですか。








――エピローグ――


「はい、今日も頑張ってくれたポットちゃんには大好物の魔力たっぷりのリンゴをあげちゃいますね」

ポットちゃんはあの時私が育てた飛竜だ。

殿下を立派に飼育したことへの褒美として、正式に国王陛下から下賜されたのだ。

私は王都から国境まで往復して疲れているだろう愛娘の飛竜に魔力を込めたリンゴを与える。

愛娘はリンゴをパクリと食べ、うれしそうに私に頬を寄せてくる。

「うーん、ういやつよのう・・・」

慣れとは恐ろしいものである。

周囲の者も最初の頃はケーテの飛竜への愛情表現に戸惑っていたが現在では日常の光景として認識されている。

「ケーテ嬢、少し良いか」

ふれあいの時間を邪魔されたことは腹立たしいが、無視して良い相手ではない。

「何か御用でしょうか、クバルト大隊長」

少し冷たい声音になったが、愛娘とのふれあいを邪魔されたのだから仕方が無い。

しかし、クバルトはそんなことを気にすることもなくただ付いてくるように言った。

ここでは出来ない話なのか?

「ああポットちゃん、お話が終わったらもう一つリンゴをあげますからね」

私は愛娘に微笑み、クバルトに続いた。



「結婚を考える気は無いか」

殺気を漂わせつつ鋭い目つきで睨みながらこう言われて戸惑わない者などいないだろう。

危うく抜剣して飛びかかりそうになったぞ。

それに私は利発さを未だ見ぬ弟のために母のお腹に置いてきたのだ。

その私にこの言葉では全くもって説明不足ではないか。

だが私も日々成長しているのだ。

愚鈍な者が聞いたら私自身のお見合い話だと勘違いしそうであるがそうではない。

飛竜の雌は生まれてから五年経つと生涯の伴侶を探し始める。

私の可愛いポットちゃんがもうすぐ五年目だ。

ぐぬぬぬ、この男がこの話を持ち出したと言うことは、クバルトの飛竜をポットちゃんの伴侶として勧めているのだろう。

フッ、ポットちゃんが欲しくば力ずくでかかってこい。

「私に剣で勝てたら考えましょう」



辛うじてではあるが私はクバルト大隊長に勝利した。

「うおー!」

勝利の雄叫びが訓練場にこだまする。

まだポットちゃんには結婚なんて早すぎます。

どこかの親馬鹿が言いそうなことを考えつつ放心しているクバルトを訓練場に放置して私は竜舎へと向かう。

ポットちゃんにリンゴをあげるのだ。



翌年、鬼気迫る表情のクバルトに気圧されて敗北を喫しポットちゃんは彼の飛竜の伴侶になった、そしてなぜか私も彼の伴侶になった・・・・・あれ?


まあ良いか、次は必ず勝つ。


残念令嬢に振り回される口下手な大隊長の受難はまだまだ続く。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 脳筋ご令嬢がよく描けてて面白かったです [気になる点] ちょっとヒロインのハッピーエンドが物足りない気がします……馬鹿王子の相手で花の学生時代が潰されてるのに、報われた感が無くてちょっと残…
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