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彼女はおもむろに話し出した。


「あなたを呼び出したのは、この私です。

 私の名前はアーミ、慈悲尊の御神勅により、あなたの世界から呼び出した者です。

 慈悲尊は、この世界の秩序が乱れたことを深く憂いになり…」


このアーミとか言う女は何を言っているんだろうか。

慈悲尊がきっとこの世界の神様なんだろうということは分かるが、それが僕と何の関係があるんだ。


それにしても、この女、というよりも、よく見ると娘だけれど、

年のころは16ぐらいだろうか。

ただ何というか発育が悪いな。胸の辺りなど5歳の姪っ子と変わらない。


「すみません、私の話は聞いていただけてますか?」


おっと、いけない。


「いや、すみません。よく聞いてなかった。」

「では、どこまで覚えていますか?」

「世界の秩序がどうとか…」

「はあ」


この娘、露骨にため息をつきやがった。

偉そうに。

それにしても、この麻袋みたいな服はチクチクと肌に刺さっていけない。イライラする。


「では、もう一度お話しします。」

「どうぞ。」

「慈悲尊は、世界の秩序の乱れを深く憂いになり、これを正すべく適任者を選定され、あなたの召喚をお決めになりました。」

「私が適任者だと?」

「そうです。その理由は私には分かりません。ただ、この世界の人間は秩序のうちに存在するので、秩序に支配されない存在でなければいけなかったのは間違いありません。」

「はあ。」


訳が分からな過ぎて、間の抜けた返事しかできない。

何せこっちはシャワーを浴びていただけなのだから。


「あなたの使命は、この世界の秩序を乱している原因をつきとめ、正すことです。この使命を達成できたら、すぐにあなたの世界に戻っていただきます。」


随分勝手な物言いではないか。

だんだんと腹が立ってきて、声を荒げてしまった。


「ふざけるな。勝手に呼び出して、要求を聞かないと帰さないだと?こっちの都合はお構いなしか!?」


娘は眉一つ動かさず、平然として言った。


「そうです。」


僕は唖然としてしまい、言葉を失った。

そんな僕に気遣うこともなく、娘は話を続けだした。


「慈悲尊は世界の秩序の乱れにお気づきになりましたが、どのように乱れているかはご存じありません。」

「慈悲尊ってのは神様なんだろ?なんで、分からないんだよ。」

「慈悲尊もこの世界の一部だからです。秩序のうちに存在する以上、その乱れがどのようなものか認識することは不可能なのです。」

「じゃあ、何がどう乱れてるか分からないなら、ほっといたら良いじゃないか。」

「それを判断されるのは、世界を治める三柱の神々だけです。私は慈悲尊より命ぜられただけで、秩序の乱れが良いことなのか、悪いことなのかは分かりません。」

「あ、そう。」


この娘と議論しても時間の無駄だ。


「それでさ、僕は何をすればいいの。」

「これから、私と一緒に世界中を調査してもらいます。」


世界中と聞いて、背筋が急に寒くなった。

この世界がどれだけ広いかまだ分からないが、地球と同じくらいだとすれば、一生かかっても終われないだろう。

実質、元の世界には帰れないということだ。

神様も随分アコギなことをするじゃないか。


「世界中ったって、いや、知らないけど、随分広いだろう?」

「ええ。あなたの世界と同じくらいだと思っていただいて結構です。」

「何だ。地球を知ってるのか?」

「もちろんです。私があなたを呼び出したんですから。あなたの世界のことも多少は知っています。」

「地球と同じくらい広いと言うのなら、いつまでたっても帰れないじゃないか。」

「心配いりません。大丈夫です。」

「何が大丈夫なんだ。」

「私の背に乗ってもらいますから。」

「はあ?」

「私はあなたの世界で言うところのドラゴンにあたります。ですから、あなたは私の背に乗ってもらえばいいのです。あなたの身も私が守ります。」

「あ…、あ、そう。」


何だよ、ドラゴンって。

あやうく喧嘩を売るところだった。


「とはいえ、あなたには気の毒なことだと思います。」

「もう良いよ。今更。」

「いえ、突然召喚されたことだけではなく、私とあなたはこれから追われることになりますから。」

「え、なんで?神様の御用なんでしょ?」

「私にも分かりませんが、すでにこの館は何ものかに囲まれているようです。ごの御役目を喜ばぬ者がいるのでしょう。」

「勘弁してくれよ。」


と言うか言わないかのタイミングで、火矢が窓ガラスを割って、床の絨毯に火をつけた。


「つかまってください。この屋根を突き抜けます。」

「へ?死んじゃうよ。」

「大丈夫です。ケガはするかも知れませんが。」

「ちょっ」


娘は瞬時にドラゴンに姿を変え、僕を胸に抱きかかえると飛び立った。

凄まじい音を立てて屋根を突き破ると、館を取り囲む者たちに凄まじい勢いの炎を浴びせかけ、燃えさかる屋敷を後にした。

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