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限りなく柔らかいものに包まれているような感覚が明瞭になる中で、
僕は眼を覚ました。
僕は、大きな羽二重餅のようなものに頭からつま先までくるまっていた。
「何だこれは。
ここはどこだ」
気が動転してしまって、叫ぶしかなかった。
すると、女性と思しき人の声が聞こえてきた。
「目を覚ましたのね。
それは、餅よ。
そして、ここは私の家」
これが餅?
確かに餅のようだが、
鼓動のような音が聞こえているのだ。
僕の知ってる餅ではない。
そもそも私って誰だ。
「誰なんだよ。
何なんだよ。」
急に不条理な状況に対する悲しみが襲ってきた。
涙があふれ出て止まらなくなった。
今思うと、全裸で餅のようなものにくるまった成人男性がさめざめと泣く様子は随分と気味の悪いものだっただろう。
私と名乗る人が餅の穴を拡げて、僕の顔をのぞき込んできた。
無表情だけれど、綺麗な人だということは分かった。
「あなた泣いてるの?」
「泣いてるよ。
笑いたきゃ笑ってくれよ」
「いいえ。笑わないわ。
だって、あなたを泣かせたのは私だから」
どういう意味だか分からなかった。
ただ、無性に腹が立った。
「どういう事だよ」
彼女は冷静に言った。
「私があなたをこの世界に呼び出したからよ」
理解が追い付かない。
この世界がどこかも分からないし、
今くるまっている餅のようなものが餅かどうかも分からない。
裸のままなのは恥ずかしいし、
若干気持ちよさを感じているのが悔しい。
その上、この女が僕を呼び出しただと。
「呼び出すなよ‼」
どうしてこう言ってしまったのかは自分でも理解できない。
でも、一番言いたいことだったのだと思う。
「ごめんなさい。」
彼女は驚くほど素直に謝ってきた。
「でも、徒に呼び出したのではないの。
私の話を聞いてもらえないかしら。」
僕は拍子抜けしてしまった。
「とりあえず話だけは聞くから、
この餅から出してください。
あと、何か着るものを貸してください」
彼女は頷いて、聞き取れない言葉を呟いた。
その瞬間、僕をくるんでいた餅は左右に開き、
どこからともなく現れた麻袋のような材質の服が僕の身を包んだのだった。
「これでいいかしら。」
今起きたことに全く僕の頭が追い付いていないことなどお構いなしに、
彼女は僕を呼び出した理由を話し出した。