田舎でお泊り★
あらかじめ鍋を使ってウサギ肉をバターでいためておく。トマト、キノコをくし切りにして白ワインで煮る。最後に合わせて煮込み、完成である。
ユーリはラフラスが料理を作れるとは思っていなかった。帝国における彼の住まいは城の東区画全てを占めていた。先々代の皇帝が是非にと贈ったものである。当然のことながら帝国の召使いや料理人を使役できる身分だ。
「手際が良いですね」
「料理とは面白いものじゃ。人に頼らず、もっと若い頃からやればよかったわい」
リュクロスは皿を並べる魔王を注視している。
(あきらかに魔族だよな。何者?)
ユーリの魔法を使えば、この角の男の正体が分かるだろう。だが自分たちは客人の扱いを受けている。ユーリが動かぬ以上、勝手な行動は慎むべきだろう。
そういえば、さっきの若い女も布を継ぎ合せたような肌をしていた。家主と言ったが魔族の可能性もある。だったらなぜ人里で暮らしているのだろうか。
考えれば考えるほど混乱してくる。
夕飯のテーブルに六人。狭い。
「ごめんネ。狭くて」
「いえいえ。ありがとうございます。夕食まで頂いて」
料理は旨かった。だが、田舎料理を食べる為にわざわざこの地を訪れたのではない。
三人で帰るわけにもいかない。なんとしてでもラフラスを帝国に連れ戻さねば。
ユーリはマミにお願いをした。
「ずうずうしいついでに、今晩泊らせて貰えませんでしょうか」
「いいけど、本当に狭いヨ」
ラフラスは顔をしかめた。
「迷惑じゃ。この村は宿屋もあるのじゃが?」
ユーリは長期戦の構えだ。リュクロスは悟った。
「ラフラス様は家主ではないのですよね?だったら文句を言われる筋合いはないです」
「ぬけぬけと言いおるわい……」
食器を片づけ、テーブルを立てかける。
床に藁を敷きつめて雑魚寝である。
「え?この部屋でみんな一緒に寝てるんですか?」
「他に部屋が無かろう」
鎧や剣を並べて男たちとの間に仕切りを作る。
五人が横になって実感する。
(せ、せまい)
ベッドは少し高い位置に備え付けてあるため、何とか全員床に横になれる。このベッドはもともと小屋の棚を改装したものだ。
「だから迷惑じゃと言ったろうに……」
見かねて、ベッドの上からマミが声をかけた。
「私が床で寝るヨ。女の子ふたり、このベッド使いなヨ」
「そうはいきません。無理を言って泊めて頂いているのに」
「じゃあ一人おいで」
マミは手を伸ばした。
「ユーリ様どうぞ」
「リュミシーが一番疲れてそうだからベッドで寝なさい」
「でも」
「これは命令です。良いからいきなさい」
背中を押されてリュミシーはバランスを崩した。
「あっ!」
マミの手を掴んだまま、魔王の顔の上に尻モチをついた。
ドタドタッ!
「ぐぅっ……」
「キャー!ごめんなさい!!」
マミもベッドから落ちたが老人が両手で抱きとめた。
しかし左足は魔王の腹を踏んでいる。
「ぐくっ……わざとだろ貴様……消し墨になりたいようだな……」
「ほう、お主に出来るかな」
「コラー!喧嘩するなら外で寝なサイ!」
(つづく)




