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エデュケーショナルファンタジー  作者: 東雲みずき
9/52

田舎でお泊り★

 あらかじめ鍋を使ってウサギ肉をバターでいためておく。トマト、キノコをくし切りにして白ワインで煮る。最後に合わせて煮込み、完成である。


 ユーリはラフラスが料理を作れるとは思っていなかった。帝国における彼の住まいは城の東区画全てを占めていた。先々代の皇帝が是非にと贈ったものである。当然のことながら帝国の召使いや料理人を使役できる身分だ。


「手際が良いですね」


「料理とは面白いものじゃ。人に頼らず、もっと若い頃からやればよかったわい」


 リュクロスは皿を並べる魔王を注視している。


(あきらかに魔族だよな。何者?)


 ユーリの魔法を使えば、この角の男の正体が分かるだろう。だが自分たちは客人の扱いを受けている。ユーリが動かぬ以上、勝手な行動は慎むべきだろう。


 そういえば、さっきの若い女も布を継ぎ合せたような肌をしていた。家主と言ったが魔族の可能性もある。だったらなぜ人里で暮らしているのだろうか。


 考えれば考えるほど混乱してくる。


 夕飯のテーブルに六人。狭い。


「ごめんネ。狭くて」


「いえいえ。ありがとうございます。夕食まで頂いて」


 料理は旨かった。だが、田舎料理を食べる為にわざわざこの地を訪れたのではない。


 三人で帰るわけにもいかない。なんとしてでもラフラスを帝国に連れ戻さねば。


 ユーリはマミにお願いをした。


「ずうずうしいついでに、今晩泊らせて貰えませんでしょうか」


「いいけど、本当に狭いヨ」


 ラフラスは顔をしかめた。


「迷惑じゃ。この村は宿屋もあるのじゃが?」


 ユーリは長期戦の構えだ。リュクロスは悟った。


「ラフラス様は家主ではないのですよね?だったら文句を言われる筋合いはないです」


「ぬけぬけと言いおるわい……」


 食器を片づけ、テーブルを立てかける。


 床に藁を敷きつめて雑魚寝である。


「え?この部屋でみんな一緒に寝てるんですか?」


「他に部屋が無かろう」


 鎧や剣を並べて男たちとの間に仕切りを作る。


 五人が横になって実感する。


(せ、せまい)


 ベッドは少し高い位置に備え付けてあるため、何とか全員床に横になれる。このベッドはもともと小屋の棚を改装したものだ。


「だから迷惑じゃと言ったろうに……」


 見かねて、ベッドの上からマミが声をかけた。


「私が床で寝るヨ。女の子ふたり、このベッド使いなヨ」


「そうはいきません。無理を言って泊めて頂いているのに」


「じゃあ一人おいで」


 マミは手を伸ばした。


「ユーリ様どうぞ」


「リュミシーが一番疲れてそうだからベッドで寝なさい」


「でも」


「これは命令です。良いからいきなさい」


 背中を押されてリュミシーはバランスを崩した。


「あっ!」


 マミの手を掴んだまま、魔王の顔の上に尻モチをついた。


 ドタドタッ!


「ぐぅっ……」


「キャー!ごめんなさい!!」


 マミもベッドから落ちたが老人が両手で抱きとめた。


 しかし左足は魔王の腹を踏んでいる。


「ぐくっ……わざとだろ貴様……消し墨になりたいようだな……」


「ほう、お主に出来るかな」


「コラー!喧嘩するなら外で寝なサイ!」



                       (つづく)

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