06
「……たぁはん、起きておくれやす」
「おはようございます、マスター!」
「……ん~、おはよ~」
朝っぱらからアリスのテンションが辛い。
頭が回らないからもうちょっとテンション下げて欲しいよ、ほんと。
「ますたぁはん、きんのはおちゃいちゃいに入らおへんどしたのどすから、綺麗にしまひょか」
「……ん」
最後のはわかった。
綺麗にしましょう。つまりお風呂だろう。うん、お風呂。
それになんか呼び方がマスターからますたぁはんになってる。まぁべつにいいか。
寝ぼけ眼で目を擦りつつ欠伸をして、お風呂に行く前にトイレに。
昨日もしたけど……立ったままじゃ無理だね、うん。
朝だからテンションも低いし、特に何も思わないや。
「さぁマスター! 私がしっかり洗ってあげますよ!」
トイレを出たらなんだか鼻息荒いエルフがボクを拉致って、1着しかないワンピースはすぽーん、とあっさり脱がされて、下着――絶壁なのでブラなし――もベスに脱がされて……泡泡状態にあっという間にされてしまった。
ちなみにアリスは脱いでもすとーんでした。
あっという間に泡まみれにされたのでじっくり見る暇もなくて色々と残念。
ベスも居たけどずっと後ろを洗っていたので何も見る暇は無かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
気づいたら綺麗になった布のワンピースを着て、鼻歌を歌うベスがボクの髪を乾かしてました。
ドライヤーではなく、魔法を使ってるみたい。
そういえばアリスもベスも生活魔法のスキルがあったっけ。
「マスター、朝食をルームサービスで頼んでおきました!
ベスが増えた分の人数申請もしておきました! 泊まる人が増えたら申請するだけでいいそうです」
「うん、ありがとう」
「楽しみですね!」
「ますたぁはんの髪ん毛むちゃ艶々で触り心地抜群どす」
「そう?」
「マスターですから当然です!」
アリスが気を利かせてホテル側にベスが増えた事を伝えてくれたようだ。まぁ伝えなかったら朝食が2人分しかこなくなるからじゃないかな? アリスって食いしん坊キャラみたいだし。
アリスもボクの髪の毛を弄り始めて、どんな髪型にするかで2人が揉めてる間に朝食が届いた。
アリスがノックに気づいて出るとワゴンが3台部屋に入ってきてセッティングされていく。
凄くいい匂いだ。お腹が可愛い悲鳴を上げた。
絶対今セッティング中のボーイさんたちに聞かれたよ……。
でもさすがプロ。表情には出さずにセッティングを終えて一礼して部屋を出て行った。
食べ終わったら入り口のベルを鳴らしてくれれば取りに来るそうな。
あ、チップあげてないけどいいのかな。
……ベルで呼び出すとかなんだかお金持ちっぽい。
まぁこのホテルは高級ホテルらしいのでそれくらいはありなのか。
便利な魔道具がいっぱいあったり、トイレットペーパーが普通にあったりするのに呼び出しはベル。もしかしてコレも魔道具?
「美味しおすなぁ」
「マスター、コレ凄く美味しいですよ!」
「どれどれ~」
セッティングが終わった朝食をさっそく食べ始めたけど、さすが高級ホテル。昨日のTHEパンとは比べ物にならないね。
パンももちろんあったけど、焼きたてなのかふわふわもちもち。全然違うんだもの、驚いた。
和気藹々とした朝食を取り終わると、さっそくホムンクルスを増やすことにした。
1晩寝てMPは全回復したようで赤いゲージも満タンだ。もったいないのでちゃちゃっと使っちゃおう。
「じゃあ新しい子を作るよ~」
「どないな子が出来はるのどすか?」
「ん~、とりあえず戦闘がある程度出来る子がいいんだけど、結構ランダムだからどんな子かはわかんないかなぁ」
「そないなんえか。ほな注文をつけるんはややこしいどすなぁ。
でもうちとしいやは――」
アリスは大人しくボクの作業を椅子に座ってみているけど、ベスは興味津々で色々自己主張してくる。
でも京都弁がきつすぎて何を言ってるのかちょっとわかんないや。
アリスが通訳してくれないとちょっときつい。まぁある程度はニュアンスで分かる時もあるけどね。
一応ボクがわかるように話せるのは知ってる。でもこだわりがあるのか京都弁のままだ。
まぁ追々なんとかしていこう。
今回のホムンクルス生成で任意のマナはアリスやベスのときとは違う量にしようと思っている。
ずばり、9割だったのを5割まで落としてみる。
両の掌を胸の前で合わせて、パンっとして、ほいっと錬成。
光の後に残ったのはボクよりも少し背の高い女性。純人種だ。
ちなみにアリスとベスはボクよりもずっと背が高い。女性にしては大きいと思うくらいだ。
髪は茶色。肩よりも少し上で切りそろえられていて前髪ぱっつん。目は眠そうな半眼。
最初から開いてる子はこの子が初めてだ。といってもまだ3人目だけど。瞳も茶色。
スタイルは標準かな? ボクが着ているような布のワンピースだからお尻はよくわからない。
そしてやっぱりすぐに跪いて頭を垂れる――命名待ちになった。
「ますたぁはんはすごい方やったのどすね」
「どうだ、私の言ったことは本当だったろう! イベントリだけではないのだぞ!
イベントリだけでもすごいことだが!」
「あーうん、ちょっと2人ともうるさいよ?」
まだ命名待ちのこの子は跪いたままだし、背後で騒いでいる2人をちょっと軽く注意すると2人ともしゅん、としてしまった。なんだか可愛い。
「さて、お待たせ。君の名前はクラリスです。よろしくね。
後ろの2人はアリスとベス。仲良くしてね」
「アリスだ! 私がマスターの1番ホムンクルスだ!」
「ベスどすえ。よろしゅう」
1番ホムンクルスってなに……。
「よろしくお願い致します、マスター様、アリス先輩、ベス先輩」
立ち上がったクラリスが深々と腰を折って挨拶する姿はかなり様になっている。
なんというかスカートを摘んでやるカーテシーよりもずっとこっちの方が似合っている、と思う。生粋のメイドさん?
「じゃあ、もう1人作っちゃうか」
「もう1人ですか! 次はどのような? というかクラリスはどんなスキルを持っているのですか?」
「うちも知りたおす」
「クラリスのスキルは~」
「マスター様。マスター様のお手を煩わせる必要はございません。わたくしの事は自分で説明させて頂きとうございます」
「そう? じゃあお願い」
クラリスのスキル構成は基本的に盾職の構成だ。所謂防御型。
その他にもメイド知識と高等掃除技術とか、まんまなスキルを持っている。
防御型のメイドさんだね。
スキルはホムンクルスカスタマイズの情報を見るか、本人に聞くかしないとわからない。
ボクが昨日寝てる間にアリスとベスは情報を共有してたみたいだ。
3人が話している間にボクはもう1人作っちゃおう。
クラリスの情報はホムンクルスカスタマイズを読んで知っているしね。
魔素のポーションを1つ使ってMPを回復して、今回も5割のMPを使ってパンっとして、ほい。
光の後に現れたのは今度は特徴的な木のような見た目の角が側頭部から生えた女性。4人目は竜人種でやっぱり女性だ。
スタイルはアリスよりはあるけどクラリスよりはなさそうなサイズの胸に、細い腰と小さなお尻。
アリスと同じような上質そうな半袖の服とズボン。腰の辺りから鱗に覆われた太い尻尾が見えている。
髪は黒と白のメッシュ。閉じられた瞳が開いて吸い込まれそうなほどの漆黒の瞳を覗かせた。
そしてやっぱり跪いて頭を垂れる命名待ち状態へ。
さっきボクに注意されたからか、今回はアリスもベスも黙ってみているみたい。クラリスはメイドさんよろしく綺麗な姿勢で待機している。
「君の名前はデュリーだよ。よろしくね。
この子達は君の先輩で、アリス、ベス、クラリス。仲良くね」
「ハッ! マスター殿のお心のままに!」
あれ、デジャヴかな? 最初のアリスみたいな感じだ。
でもずっと堅い気もするけど、アリスという前例もあるからまだわかんないや。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ホムンクルス達4人が自身のスキル構成やその他諸々を話し合いながらお互いの情報を共有し始めたのを横目に、ボクは新しい2人の情報を検証する。
ボクのカンストしているMPの最大値の5割を使って作った彼女達は9割のMPを使ったアリスとベスよりも所持しているスキルの量が少なかった。
ただクラリスとデュリーのスキル量は同じ。どうやら使うMP量でスキル量が変化するみたいだ。
でもその他はランダムなのだろう。性格も種族もスキル構成もバラバラ。
一応戦闘向けという思いがあったからか、みんな戦闘できるスキル構成ではあったけど細部は違う。
アリスは弓を用いた中、遠距離型に相場情報なんかの商人系スキルを所持している。
ベスは完全に戦闘型で回避型近接攻撃タイプ。一般教養と生活魔法は持っているけどそれは全員持っている。後は特になし。
クラリスは完全防御型のメイドさん。知識系は一般教養とメイドさんのみ。
デュリーは槍使いで、筋力強化系のアタッカー構成だ。知識は一般教養のみで、ベスと似ている。
見事に全員の戦闘スタイルがバラけてくれている。
スキルは後からでも増やせる。クラリスとデュリーの2人はアリスとベスよりも戦闘系スキルが少ないが問題ないだろう。
最初から危険な依頼を受けられるとは思えないし。
MPも1割ちょっとしかないので、CTが終わったら魔素のポーションを使いつつのんびりする。
4人も打ち解けあったのか和気藹々としている。情報の確認は終わったけど、よく考えるとみんな女性。
ホムンクルスといえどアリスとベスを知っているボクは彼女達を無機質なお助けNPCだとはもう思えない。
そうなるとガールズトークに混ざろうとするのは自殺行為に思えてしょうがない。所詮ボクはアバターだけが女性なだけで中身は男なのだ。しかも男らしい男に憧れる男の子なのだ!
よし、ここは眺めるだけでやめておこう。うん、それがいい。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ホムンクルス4人のガールズトークは別にガールズトークじゃありませんでした。
すごく庶民的というか、現実的というか。これからの生活に必要な物のピックアップから、冒険者をするために必要な装備や道具、冒険者になるために必要な行動の手順の確認など様々な事に及んでいた。
華やかなガールズトークが始まるとちょっとドキドキしていたボクは現実という何かを思い知ったとさ。
「マスター、私達でこれから必要となる物を洗い出しましたので購入してまいります」
「あーえっと、ボクも行くよ」
「わかりました! では皆で参りましょう!」
こうして異世界生活2日目は買い物となった。
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5/6 練成→錬成
5/6 ホテルへベスが増えた事を伝える描写を追加
5/12 イベントリにルビを追加
5/17 イベントリのルビを最初の一箇所だけに修正