05
アリスに魔素のポーションの材料を入手に行ってもらっている間にトイレに行って……。
……そこで気づいて確認して――色々――、違いにびっくりして一頻り戸惑ってトイレットペーパーが普通にあるのにまたびっくりしたけど、なんだか色々すっきりした。
ゲームではそういうところまでは再現されてないからね!
さて、砂利とか石とか木っ端程度ならホテルの裏手にでも行けば手に入るって言ってたのですぐ済むだろう。
……まだかね。
【マスター、砂利を入手しました。確認お願いします】
【どれどれ~】
そんなことを思っていれば、アリスから念話が入ったのでイベントリを開いて確認する。
そこには生命のポーション、お金とパンの残りの他に砂利が入っていた。
うん、砂利だね。見事に砂利だ。たぶん大丈夫だろう。
イベントリ共有はこのように離れたアリスがイベントリに物を収納してもボクはそれを取り出すことが出来る。
逆にボクがここで物を入れてアリスが取り出すことも可能。超便利。
ちなみにイベントリはボクの方に様々な優先権があるようで、アイテム毎にフィルターをかけて取り出せなくしたり、入れる物に制限をかけたりも出来る。
まぁ今は必要ないけど。
【おっけ~。この砂利をもうちょっと集めて。他の材料も適当に集めてから戻ってきて】
【わかりました】
イベントリを開いたままにしておくと、砂利の量が少しずつ増えて、拳大の石が何個も追加され、木っ端も増えていった。
さて今のうちに水を用意しておくかな。
水は部屋に水道っぽいのがあったのでソレを捻って見ると、思ったとおり水が出た。
町並みは結構中世ヨーロッパとかごちゃ混ぜっぽいのに水道があったり、部屋の照明が部屋全体を照らせるくらい明るい丸い蛍光灯のようなものだったりして色々不思議だ。これも魔道具なんだろうなぁ。
アリスと話していると所々に魔道具という言葉が出てくる。
詳しくは聞かなかったけど、スキルを付与したりした道具なんだろうことはわかった。
この辺はHeart & Heartsにもあったから理解しやすい。
水差しに水を入れてテーブルに置いて、イベントリから砂利と拳大の石と木っ端を取り出す。
まだアリスは戻ってきてないけど、別にそれは問題ない。
両手を重ねてパンっとして、ほい。錬成。
淡い光のあとにテーブルの上に置いておいた材料は水色の液体の入った小さな試験管に変化した。
これが魔素のポーションだ。
ちなみに数は5個。
イベントリに入れて確認してみると――。
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魔素のポーション
品質:最高品質
CT:500秒
MPを9%(3%+6%)回復する。
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追加効果を付与するよりも数を多く作る方を優先してみた。
売るときにもそっちのが都合がいいしね。
魔素のポーションは生命のポーションよりもCTが長い。
でも別にCTが終わってから使うから関係ない。500秒で9%回復できればあっという間に全回復まで持っていけるしね。
さっそく1本使ってMPを回復させる。
赤いゲージがぐいぐい回復していく。即効性って素晴らしいね。
残りの材料も1セット分揃ったら全て魔素のポーションにしてしまい、イベントリで寝かせておく。
イベントリの材料が増えなくなって少ししてアリスが戻ってきた。
きちんとノックしてから入ってくる辺りできた子だ。
「これが魔素のポーションですか。さすがマスターです」
「そう? やっぱりこれも品切れ状態なの?」
「そうですね。生命のポーションよりも圧倒的に手に入らないです。相場も倍以上するかと。売る場合には気をつけないといけません」
「そっかぁ~」
でも売れれば倍以上かぁ。
ホムンクルスカスタマイズをうまく使って外見をいじったりして、別人になりすまして売る作戦もどこまで通用するかわからないからなぁ。
まぁとりあえずは余裕があるから出来る限り使えそうなアイテムを作って隠蔽できるようにしよう。
視界右側中央に出ている魔素のポーションのCTの残り時間が0になったら次の魔素のポーションを使う。
その間アリスにこの世界の事を聞きながら時間を潰した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
この街――リソトはそこそこ大きな交通の要所といったところで、物資には事欠かない。
そんな物資の中継地点でもポーションは品切れ状態だ。だからポーションがあればお金には困らない。でもその代わり厄介事も舞い込む可能性が高い。
ポーションが品切れ状態なのは街の近くや、あまり強い魔物が出ない地域でも取れたポーションの材料となる薬草類が取れなくなったから。
冒険者――やっぱりこういった職業があった――に成り立ての初心者や、中級者が依頼の帰りなどについでに取ってくる事でポーションの需要は賄われていた。
しかし中級者でも厳しい魔物が多く生息する地域にしか薬草類が生えなくなった事から需要に供給が追いつかなくなった。
それでも数多くの在庫があったために――ポーション類は長期保存が効くそうだ――なんとかやってこれたが、それもここ数年で状況が一気に悪化。
ポーションは完全に品切れ状態が続き、冒険者達はかなり厳しい状況に追いやられているらしい。
それでもなんとか大人数を確保したり、高額で神聖魔法スキルを扱える聖職者を雇ったりして現在では物資の運搬などは安定してきたらしい。
だが昔ほど冒険者が安定して仕事を出来るわけもなく、年々冒険者の数は減っているそうだ。
それはつまり街の周辺に出没する魔物の討伐などを請け負ってきた冒険者が不足しているということであり、街内の治安を担って来た兵士や騎士達が借り出されることになり……。
結果的に昔よりもずっと治安が悪化した場所が多いそうだ。
リソトも例外ではなく、街の外壁近くや北門付近のスラム――ボクが最初に居た場所は治安の良い南門付近だったそうだ――では治安が非常に悪いそうだ。
さてここでボクのこれからの行動についてだが、この錬金術を駆使してポーションを大量供給する……なんてことは絶対しない。
そんなことをすれば戦闘能力のないボクはきっと誘拐されて監禁されて、ポーションを作る道具として一生を過ごさねばならなくなるだろう。
元の世界に戻る事が目標のボクには絶対に取れない選択肢だ。というか監禁されてポーションを作る道具とされるなんて何があっても絶対嫌だけどね。
そんなわけでボクはより一層慎重に行動しなければいけないだろう。
ポーションを売ろうと思っていたけど、それも危ないっぽいしなるべく危険な橋は渡りたくない。石橋は叩き壊して、川を塞き止めて干上がってから渡るのだ。
幸いな事に冒険者という職業があるのはわかっている。
そしてその冒険者は年々数を減らしているみたいだから、依頼なんかは解決されずに残っていて引く手数多なんじゃないだろうか。
まぁもちろん依頼を解決するだけの実力があってこそだろうけど、幸いな事にどうやらボクの作ったホムンクルスであるアリスは強いみたい。
スキル付与でスキルを追加すればもっと強くなるのは明白だ。
さらに目立つのはアリスであり、ボクじゃない。ココ重要。
アリスが稼いだお金はイベントリを経由してボクに入ってくる。
必要なアイテムはボクが作って上げられるだろうし、魔物を倒せば素材が手に入るだろう。
それを使って装備を作る。そうすればアリスはもっと強くなる。強くなったアリスがもっと強い魔物を倒して素材を手に入れる。
まさに黄金パターンだ! 依頼をこなしながらならお金も入ってくるしね!
まぁアリスが同意してくれればだけど。
Heart & Heartsでだったらお助けNPCに自我なんてなかったから好きなように扱き使ってポイだった。でも今まで見てきただけでもアリスは本物の人にしか見えないし、思えない。
まぁボクに対して忠誠心というか信頼というか、そういうものがかなりあるのはわかるけどね。
「――というわけでどうだろう?」
「……それがッ……マスターのッ……ごッ……ご命令とあら……ッば……」
そんな俯かれてぷるぷる震えながら言われてもなー。
顔を覗き込んでみたら今にも泣きそうだったし……。
「いやえっとね? 確かにアリスは目立つことになるからボクとは会えなくなるかもしれないけど、絶対会えないわけじゃないと思うよ?」
「! 本当ですか!?」
やっぱりアリスはボクと会えなくなる、という点が問題みたいだ。
冒険者としてお金を稼ぐという点に関しては問題ないみたい。
「ん~。まぁ色々と変装アイテムとか作れると思うから。素材さえあればね」
「集めます! 私にお任せください! 絶対に集めて見せます!」
「あはは……」
なんだろうなぁー。
アリスがすごく犬っぽい。きっと尻尾があったらぶんぶん振られていることだろう。
そんなアリスが凄く可愛い。ほっこりする。
「アリス。でも1人で冒険者をやらせるってことはないからね。
まずは君の部下を作ろうか」
「部下ですか! よろしいのですか!?」
「うん。でも仲良くしてね?」
「もちろんです!」
さっきまで俯いてぷるぷるしてた人と同一人物とは思えないくらいにテンション高いなー。
そんな瞳をキラキラ輝かせるアリスに苦笑しながらも、MPが9割以上あるのを再度確認してホムンクルスを生成する。
今回も任意のマナ――MPはアリスを作った時と同じ最大値の9割。
今日は1人作ったら終わりかなぁ~。
パンってして、ほい。錬成っと。
「おぉ……」
光の後に残っていたのはウサギ耳の女性。
髪は短く耳に――普通に人間の耳もあった――かかるくらい。アリスが銀髪だったのに対してこの子は真っ赤だ。燃えるように紅く、朱い。
顔はアリスのように整っているけどどちらかというと可愛い系かな?
ゆっくりと開いた瞳は髪の色よりも深い真紅。
肌は透き通るように白く、全体的に赤と白ですごく映える。
スタイルはアリスが着ている長袖とズボンとは違う、ゆったりとしたワンピースを着ているためよくわからない。
そしてやっぱりアリスと同様に跪いて頭を垂れた。まぁ命名待ちです。
「君の名前はベス。よろしくね」
「よろしゅうお頼申します、マスター」
「私はアリス。ベス、おまえの先輩だ!」
「仲良くね」
「よろしゅう頼みます、先輩」
なんだかアリスが無い胸を張って先輩風を吹かしているけど、ベスはにっこり笑顔で先輩を強調して、適当に流している感じがする。
でもアリスは気づいてない。鼻息をフンス、と満足そう。
……まぁ仲良くやってくれればいいや。
さてボクはベスのステータスチェックだな。
ホムンクルスカスタマイズを使うとベスの情報が追加されているのを確認し開いて見る。
所持しているスキルの数はどうやらアリスと同じ個数のようだ。
でもどちらかというとベスは戦闘に特化している構成だろうか。
特に身体能力強化、長剣技、軽盾技、軽速、高速行動、精密動作のスキルを持っている事からスピードを活かして手数で攻める感じだろうか。
盾も使えるし、完全な回避型ではなく万能タイプだろうか。
まぁ戦闘が出来る子が増えるのは正直助かる。
アリスと一緒に冒険者をしてもらうんだしね。
「時にマスター。うち達以外にはへーへんのどすか?」
「へーへん?」
「いないのか、ということです、マスター」
「へー……。今のところはボクとアリスとベスだけだけど、明日にはもう何人か増やそうかと思ってるよ」
ベスは京都弁? がかなりきつい。
口の動きと発音が合ってないからたぶん不思議パワーで翻訳されてそう聞こえるだけなんだろうけど……だったら標準語にしてくれないかなぁー。
「よろしゅおす。楽しみどすなぁ~」
「うむ、後輩が出来るのはいいことだ!」
2人共嬉しそうだ。
明日は任意に込めるMPの量を変えてみよう。
9割でやって2人共同じスキル量だった。構成や外見、性格なんかも全然違うみたいだけど、共通点としては性別とスキルの量だ。
色々実験して見る価値はあるだろう。
「あ、そうだ。ベス、お腹空いてない?」
「ちびっとやけどすさかい、どもないどす」
「……あーえーと?」
「少しだけなので大丈夫だそうです」
「……ねぇ、ベス。普通に喋れない?」
「聞き取りづらいですか?」
「普通に喋れるんじゃん!」
「かなんどす、マスター」
じと目でベスを見上げて見ても、彼女はどこ吹く風だ。
この子はこういう子なんだろうなぁ……しょうがない。
イベントリからパンを1つ取り出してベスに渡してあげる。
「食べられなかったら残していいからね」
「おおきにどすえ、マスター」
ベスにもイベントリを共有化してその事を教えてあげると、目を見開いてびっくりしていた。食べていたパンがポロっと落ちてアリスがナイスキャッチして一口食べていた。
やっぱりイベントリは伝説のスキルみたいだ。
アリスがベスにボクの事を何か大げさに言ってるけど、まぁ別にいいや。
今日は色々ありすぎてもう疲れちゃって、お風呂入りたいけど眠くて仕方ない。
「ふあぁ……終わったら2人共寝なよ~」
ベッドに潜りこめば柔らかくて心地よい空間がボクの意識をあっさりとどこかに運んで行ってしまった。
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5/6 練成→錬成
5/12 イベントリにルビを追加
5/17 イベントリのルビを最初の一箇所だけに修正