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04



 アリスが買ってきたパンはなんというか……パンだった。

 惣菜パンとか菓子パンとかそういうのじゃない。


 パンなのだ。


 つまり1斤丸まるタイプのTHEパンだった。

 ……まぁお腹空いてたからかぶりついたけど。


「……でもやっぱり飲み物くらいは欲しかったかも」

「今すぐ買ってきます!」

「あ、いやもう食べちゃったしいいよ」

「すいません……気が付かず……」


 恐縮しているアリスだけど、彼女もパンを1斤丸まる食べきっている。もちろん飲み物無しで、だ。

 まぁボクも食べたけど。

 結構大きかったけどあのサイズで1斤170ロールだったそうだ。意外と安いよね。


 ポーションが品切れ状態ということはそれをあてにして戦ったりしている近接職の人達は大変なことになっているはずだ。

 もしかしたら回復魔法を使える人が多いんだろうか。でもそうでなかったら……。


「ねぇ、アリス。回復魔法って使える人多いの?」

「回復魔法……神聖魔法スキルのことでしょうか? それでしたら聖職者しか扱えませんのでほとんどいません」

「ふむ? じゃあ近接職の人は回復どうしてるの?」


 どうやら前者の状態のようだ。

 そうなるとPTに必須の回復職の確保も難しいんじゃ?


「ポーションが徐々に品薄になり、今では品切れ状態が続いていますので……はっきりいってほとんどの者が及び腰で戦っている状態ですね。

 LB――ライフバリアが切れれば怪我をしてしまいますから」


 あ、この世界もLBが普通にあるみたいだ。

 でもHeart & Heartsの世界と似通っている部分もあるけど、違う部分――知らないスキルとか知らない種族とか知らない街とか――も多い。

 Heart & HeartsではLBが尽きたら戦闘不能で攻撃が当たらなくなるけど、こっちでは違うようだな。現実世界と考えればまぁそうなるだろう。

 LBはそのまんまバリアみたいなもんだし。


「街の外って魔物とかいる?」

「もちろんいますよ。街の外に出る場合はそれなりの準備をしなければすぐに死んでしまいます。

 街の外に何かご用事が?」

「ううん、そうじゃないんだけど……そうなると行商とか運搬とかする場合って護衛とか必要じゃない?

 護衛の人も回復……神聖魔法スキルが使える人がほとんどいなくてポーションも手に入らない状態だとなかなか大変なんじゃないかな、と」


 要するに物価が上昇しているんじゃないだろうか、と。

 1斤170ロールのパンもすでに物価が上昇したあとの値段だとすると、元々はもっと安いということになる。

 現在の物価の上昇がどの程度のものなのかで今後の生活が色々変わってくるんじゃないだろうか。値上がりしそうな物を買いだめしたりしないといけないし。


「えぇ、その通りです。

 現在では大規模な商隊を組んで神聖魔法スキルが使える聖職者を高額な料金を払って1人は雇わなければ護衛に人が集まらない有様です」

「ということはやっぱり物価って上昇してる?」

「そうですね。大分上がってはいますが今は緩やかになっているかと」


 かなり上がった状態が今のようだ。

 緩やかってことは安定してきたのかな? 大規模な商隊を組んで物資の運搬は行っているようだし。

 ポーションが品切れ状態でもなんとかなるように色々試行錯誤し終わって安定してきた状態っぽいな、コレは。


「……さて、そろそろ寝床を確保しようか。もう日も暮れてきたし」

「はい、マスター。本日はどちらで休まれますか?」

「お奨めは?」


 どちらと聞かれてもボクにはこの街の知識がない。

 マップを見れば宿の場所くらいはわかるけど、1泊いくらでどの程度のサービスなのかなんてのはわからない。

 Heart & Heartsでは宿は所謂簡易拠点代わりだった。

 部屋を借りて中に居ると、LBやMPの回復速度が上昇したり、プライベートな空間として使えたりする。

 まぁ本当にプライベートな空間が欲しかったら宿ではなく、もっと高額な拠点(ギルドハウス)を購入する必要があるけど。


「ではランドリーンホテルはいかがでしょうか?」

「ホテルなんだ。どんなホテルなの?」

「1泊の料金はそれなりに高いですが、高いだけありサービスは色々と充実しています。

 1階では食事も摂れますし、ルームサービスで頼むことも出来ます。

 ……先ほど食べたパンよりはずっと美味しい食事が食べられます……」


 最後のはごにょごにょと俯いて耳を赤くしながらだった。

 でもばっちり聞こえましたよ、アリス君。

 まぁボクも正直THEパンではお腹が膨れただけだったからすごく不満だったよ。わかるよ、ちょーわかる。

 それにしてもアリスは物知りだ。本当に今日誕生したばかりのホムンクルスですか、君。

 知識系のスキルなんて一般教養とか相場情報くらいだったと思うんだけどなぁ。不思議だ。

 まぁ突っ込みはじめたらなんでボクが今ここにいるかって所から突っ込みたいから突っ込まない。

 便利ならもうそれでいいや。


「じゃあそこにしようか。当分泊まる予定だけど大丈夫かな?」

「はい。人数での料金ではなく、1部屋での料金で1泊23000ロールですので、よほど長く泊まらなければ問題ないかと」


 1泊23000ロールか。

 結構お高いホテルなのかな? リアルで1泊23000も取ったら結構いい部屋泊まれるよ?

 まぁでも今の所持金は50万ロールを超えている。

 数日とまる分には問題ない。1部屋の料金みたいだし。

 その間にまたポーション売るなりなんなりすればお金は問題ないだろうし。

 でも目立ってボクに面倒事が纏わり付いてこないように気をつけないと、ね。


 お腹も膨れて思考能力も正常になって色々と思うことはあるけど、一先ずは寝床の確保をしてからにする。

 アリスの案内――さりげなく手を繋いできた――でランドリーンホテルに到着するとさっそくチェックイン。

 ホテルの外見も中身もシックで落ち着きがあり、渋くていい感じ。

 無駄に赤い絨毯とか敷いてないのが好印象だ。

 チェックインしたときに対応してくれた白髪のご老人の接客態度は丁寧で渋くてとてもいい。あんな風に年を取りたい。まぁボクには無理だけど。


 部屋は2階の角部屋。

 とりあえず3泊分払っておいた。

 案内のボーイ君に付いて行くと、廊下の内装も統一感のあるシックな感じが非常によろしい。

 部屋の中も豪華すぎず、されど殺風景ではない絶妙な具合だ。ちなみにボーイ君には1000ロール硬貨――1ロール硬貨から10倍ずつの硬貨があるみたい――をチップとしてあげたら目を丸くして深々と頭を下げてきたのでちょっとびっくりした。あげすぎたかな……。

 寝室にはベッドが4つもあった。どうやら普通は4人以上(・・)で泊まるものらしい。

 以上というのは寝室のベッドも1つだけクイーンサイズの大きさだし、それ以外の3つの部屋には簡易ベッドがいくつか設置できるから、らしい。

 ホムンクルスをもう数人増やす予定なのでこれはありがたい。


「マスター……私は幸せ者です」

「大げさだと思うよ?」

「いいえ、そんなことありません! こんないい部屋なかなか泊まれません!」


 自分がお奨めしたくせに何を言ってるんだろうね、この子は。

 でも子供みたいにはしゃぐアリスは悪くない。むしろ美人さんがはしゃぐのは見ていて楽しいものがある。

 ベッドにぴょーん、と飛び込んでバウンドしてはあははは、と笑っているのはボクも真似したくなる。というか真似した。


 ……ベッドは柔らかくて非常にいい感じでした。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 一頻りベッドの柔らかさを堪能して、ごろごろと寝転がりながらこれからのことを考える。

 とりあえずお金の問題はなんとかなりそう。

 あとは面倒事に巻き込まれないようにひっそり慎重に生きつつ、リアルへの帰還の方法を探すってところかなぁ。

 でもどうやって探せばいいんだろうか。

 とりあえず文献とかの収集、閲覧ってところ?

 その他にもそれっぽい出来事があったら詳しく調べる?

 一応こっちの世界の文字は読めるけど、明らかに日本語じゃない。人の集まりそうなところに日本語をちりばめた張り紙とか張ってみる?

 でも土着した日本人だったりしたら厄介事の匂いがしそう……。


 とりあえずは情報収集か。


 ごろごろしながら今後の一応の指針を立て終え、視界の左上部――LBとMPのゲージを確認する。

 MPはまだ2割程度だ。

 回復速度はHeart & Heartsのときと変わらない、か。ただ面倒なのはホテルの部屋に入っても回復速度が上昇しなかったことか。

 このままだと1晩経たないと全回復しないっぽいなぁ。やっぱり魔素のポーションが必要かも。


 魔素のポーションは生命のポーションがLBを回復させるアイテムであるように、魔素のポーションならMPを回復させる。

 でも生命のポーションよりは基本的に回復量が少なく、CTが長い。

 まぁ1晩待つよりは圧倒的に早いから別に気にならない。

 錬成でレシピを確認すると、変わっていないようで一安心だ。


「アリス、完全に日が落ちちゃう前にちょっと集めてきて欲しいものがあるんだけど、いいかな?」

「お任せください!」


 一緒にベッドでごろごろしていたアリスが乱れた髪はそのままにガバっと起き上がる。

 元気のいいことだ。


「じゃあ今度は砂利と拳大の石と木っ端を探してきて」

「砂利……ですか?」

「そう、砂利」

「えぇと……どのような砂利でしょうか?」


 どのような……? あぁ砂利っていっても小石の混ざり具合とかで違いが出るからかな。

 Heart & Heartsだと適当に砂を採取すれば手に入るんだよね。


「ん~……まぁじゃあ適当に集めて……あ、そうだ。アレを使えるようにしよう」


 未だに乱れた髪はそのままのアリスがベッドに女の子座りで、首を傾げながらこちらを見ている。

 なんか最初の凛とした雰囲気がもうまったくないなぁ。でも可愛いからいいか。


 アレとはホムンクルスカスタマイズの共有拡張機能のことだ。

 共有拡張機能はスキル付与とは違い、プレイヤーの持っている主要機能をホムンクルスとリンクさせて便利にする機能だ。

 中でも1番便利なのがイベントリ(インベントリー)共有。

 これを使っていないとホムンクルスが魔物のドロップなどのアイテムを拾っても、いちいちプレイヤーが回収しないといけなくなる。

 でも使っておくとホムンクルスが勝手にイベントリに入れてくれるので超便利だ。


 Heart & Heartsではドロップをイベントリに入れるだけだったけど、こっちだとどの程度まで共有できるのだろうか。ちょっと興味もある。


 MPを消費してアリスのイベントリ共有をアクティブ状態にする。

 これでイベントリは共有になったはずだ。


「アリス、ボクのイベントリを共有できるようにしたんだけどどうかな?」

「え……あ……何か視界の端の方にあります……あ! で、でました! これがイベントリなんですか!?」

「そうみたい」

「す、すごい……。あの伝説のスキルを私が……」


 なんだか恍惚とした表情のアリスが潤む瞳でうわ言のように呟きを漏らした。髪荒ぶってるけど。

 それより伝説って……。


「伝説なの……?」

「はい! ボックスのスキルを付与された魔道具はあるにはありますが、イベントリのスキルは所持している人も付与された魔道具も1000年以上見つかっていないはずです!」


 ボックスってなんだろう。アイテムボックスかな?

 イベントリとアイテムボックスの違いってなんだろうか。


「ボックスとイベントリって何が違うの?」

「ボックスは中に物を入れても重量が変化することがない便利スキルです。状態などは維持されませんが、重量を無視して持ち運べるようになるので大変人気のあるスキルです。

 ですが、人気があるので総数10しか入らない程度の容量でも100万ロールくらいする高級品なのです。

 イベントリは伝説ではボックスとは比べ物にならないほどの容量が入り、状態を固定して保存出来る上に中に入れた物ならば鑑定のスキルがなくても、詳細を知ることができるそうです!」


 たか……。

 ボクのイベントリの容量は課金アイテムで限界まで拡張してあるので、枠300で総数だと3万近くかな?

 1枠99まで入るからだけど、基本的にそんなに入れるのは消耗品くらいだ。

 アリスの話では状態が固定されるそうだけど、ゲームでは確かに凍ってるアイテムとか入れても一切溶けてなかったっけ。まぁ溶けてたら面倒くさいことこの上ないだろうけど。


「とりあえず、アリス。イベントリはあまり人前では使わない方がいいかな」

「はい、そうですね。ボックスの付与された魔道具として誤魔化すためにも腕輪などを買っておいたほうがいいかもしれません」

「腕輪?」

「はい。ボックスのスキルが付与された魔道具は腕輪型のものが多いですから」


 ほほぅ。それなら腕輪があればある程度は問題ないかな?

 でも100万ロールもするアイテムを子供にしか見えないボクがつけていたら危ないかも?

 アリスはともかくボクは人前でイベントリを使うのはなるべく控えよう。


 その後、イベントリ共有のテストを色々としてアリスにさっそく材料を集めに行ってもらった。


気に入っていただけたら評価をして頂けると嬉しいです。

ご意見ご感想お待ちしております。


5/5 宿泊費に関する文章追加

5/6 練成→錬成

5/12 イベントリにルビを追加

5/17 イベントリのルビを最初の一箇所だけに修正



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