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本日は12話目も投稿しています。


 今現在このリソトの街及び、周辺の街のポーション不足は深刻なレベルだ。いやもしかしたら国全体、世界規模――名前はないらしい――で深刻なレベルなのかもしれないが。

 森の奥にはリソトの街でも実力者をそろえないと行けないという話だし、似たようなものか?


「そん利益をギルドが貪るわけどすか。阿漕なモンどすなぁ」

「……いや、得られた薬草はポーションにして冒険者達に格安で販売している。商人共には一切渡していない。

 信じてはくれなくても別に構わない。受けてくれるのか?」


 ベスの蔑む様な冷たい視線と声にギルドマスターは真摯な瞳と声で応えてきた。

 でも残念ながらそれが真実なのかどうかはボク達には判断できない。例え真実だとしても慈善事業に手を貸すつもりもないけどね。


【どないしはりますか、ますたぁはん?】

【報酬次第かな】

「あんさんは肝心な事を言うておりません。報酬へーくらどすか?」

「そうだったな。報酬はリーン草なら1株7万ロール。カドリナ草なら倍の14万ロールでどうだ?」


 リーン草は生命のポーションを作るのに必要な薬草で、1株あれば生命のポーションを2つは作れる。

 カドリナ草は魔素のポーションに必要な薬草だ。こちらも1株で2つ。

 調合師の腕前次第だが、並程度なら1株で2つが限界だろう。付与効果は当然ないし、品質も保証できない。


 ……1株で7万も出したらギルドとしてはやっていけないんじゃないだろうか。ギルドマスターの話を信じるなら格安で販売するんだろう? 薄めに薄めた最下級の生命のポーションにしてだろうけど。


「ギルドにとっては赤字だろう」

「それは覚悟の上だ。すでにもう引き返せないところまで来ているんだよ。

 昨日の夕方に君達はギルドがにぎわっているのを見ているだろう。アレは格安で最下級の生命のポーションを販売しているからだ。

 そうでなければ冒険者は減る一方だ。ギルドに持ち込まれる依頼は増加傾向にあるのにそれに対処する人員は減り続けている。

 最早形振り構っている状態ではないということだ」


 まぁ大体の事情はわかったけれど……正直それとこれとはボク達には関係ない。

 ボクの目的は生活の基盤を確保するためにお金を稼ぐ事であり、最終的には現実に帰還することだ。

 この街がダメだとわかったら去るだけ。

 この街に思い入れもなければ手を差し伸べる義務もない。


 でも断ったら断ったで面倒事になりそうな気もする。

 ギルドマスターは最初何と言った?


 アリス達のボックスの説明を求めたのだ。これは依頼を断ったら情報を他のギルドや国などに渡すという脅しとも取れる。

 ボックスは貴重品であり便利ではあるが、中に入れたものの状態を維持できるものではない。

 状態を維持できるという利点は考えただけでも相当なものだ。


 あーあ、失敗した。


【マスター……。申し訳ありません……私があのようなミスをしてしまったばかりに】

【気にしなくてもいいよ、アリス。まだ君たちの素性はばれてない。

 お金はある程度あるんだし、街を変えればいいだけだ。幸い変身用の指輪はまだまだ作れるしね】

【……はい】


 失敗したが、別に取り返しのつかないものではないのだ。

 こちらは最初から姿を変えているわけだし、装備品なんかもまた作ればいい。

 報酬も貰ったばかりだし、懐もそこそこ暖かい。アリス達に護衛させれば次の街まで行くのは大した問題でもないだろうしね。


【ほな断る方向でかましませんか?】

【うん、断って】

「お断りどす」

「どうしてもか?」

「ひつこいどすぇ?」


 ベスの声がまた一段と温度を下げる。

 すでにクラリスとデュリーも戦闘体勢に移行している。いつでもギルドマスターの首を取れるだろう。やらないけどね。


「……ふー……。わかった。降参だ」


 数秒睨み合っていたが、ギルドマスターが大きな溜め息と共に両手をあげて降参のポーズを取る。もちろんそんな動作で気を緩めるようなアリス達じゃないけどね。

 ボクにもそれはポーズにしか見えないし。


「お前たちのボックスの件だが、ボックスなんて普通は持ってないやつの方が大半だ。

 それにまだまだ明かされていない機能が大量にある不可思議な物だ。

 中には状態を維持できるものだってあるだろう。それを誰かに漏らしたところで何の脅しにもなりゃしねーんだよ。

 お前たちほどの強さがあれば、古代遺跡に入ってお宝を持って帰ることも可能だ。そんなやつらが、一般には出回ってない物の1つや2つ持ってたからってどうってことはねぇ。

 それが普通だ」


 ……そうなの?


 今度はポーズではない脱力したとはっきりとわかるギルドマスターが天井を見上げて言葉を紡いだ。

 疲れと諦めの混じった本音のように感じた。ボクもこんな本音を零した事がある。だからわかる。これは演技じゃない。

 ボクの場合は、自分が女じゃないって説明するのに疲れて諦めたときだったけど。


【マスター、騙されてはいけません。口八丁のでまかせなどよくある手段です】

【……アリス?】

【そうどす。首切り落としいやええどすか?】

【いやいやだめだよ? ベスはちょっと落ち着こうね?】

【ますたぁはんのいけず】


 うちのベスがちょっと怖いです。


 アリス達はギルドマスターの言葉は嘘だと端から信じていない。

 まぁボクも自分の経験からそう感じただけで、信じてはいないけどね。


 でも納得は出来る。


 それにあの疲れと諦めの混じった本音。

 アレがどうしてもボクには無視できなかった。


 甘いとは思うが、よく考えればボク達のデメリットはなんだろう?

 こちらの素性はまったく明かしていないし、やろうと思えば姿を変えて違う街ですぐにでもやり直せる。

 装備品を強化していけば今現在よりもずっとアリス達は強くなる。

 今でも追加の装備品のおかげで尾行者によって見極めただろう強さよりもずっと強くなっている。

 それに戦闘に特化したスキル付与を行えば、装備品と合わせて相当なところまでいけるはずだ。


 国が動いたとしても……ボクならホムンクルスを量産できる。

 装備が必要だが、時間さえあればなんとでもなる。

 その時間はギルドマスターの依頼を引き受ければ稼げるだろう。


 まぁそれは極論として。


 ボク達のデメリットはほとんどないのではないだろうか。


【アリス、この話を受けた場合のデメリットって何?】

【ギルドに良い様に使われる可能性があります。結果としてマスターに危険が及ぶ可能性も否定できません】

【クラリス、ギルドに良い様に使われないように立ち回れる?】

【可能かと存じます】

【クラリスッ!】

【ですが、アリス先輩。マスター様は幾重にも策を講じておられます。

 現にわたくし達は素性すらも知られていません。現時点での戦闘能力もです】

【アリスはん、かなんら斬ればええんどす】


 ベスの発言が引くほどに物騒だけど、その声には先ほどのような剣呑な気配はない。

 どうやらベスはボクの意見に賛成のようだ。

 正直ベスがこの場でギルドマスターの首を斬りおとしたとしても、ボクは驚かない。

 先ほどの剣呑さはそれほどのものだった。

 だからこそ意外だ。


【ベスはいいの?】

【うちはますたぁはんを信じていまっしゃろから】

【なッ!? 私だってマスターを信じている! いや、私の方が信じている!

 マスター! 私もマスターの意見に賛成です!】

【なら問題あらしまへんね】

【あぁ! 何も問題ないな!】


 ……わーを。ベス、すげー。

 あっさりとアリスを操作しちゃったよ。ていうかアリスちょれー。


「ギルドマスター、わたくし達はその依頼を引き受けさせて頂きます」

「なっ!? 本当か!?」

「ですが」

「な、なんだ?」

「薬草の納品は毎日というわけにはいかないかと」

「あぁ、出来るだけでいい」

「それと」

「ボックスの件や尾行の件、その他諸々お前達の素性や何かも含めて全て詮索はしないし、させない。国にも手出しはさせない。

 これでいいか?」


 こちらの意見が一致したところでクラリスがまとめに入った。

 さすがに突然答えを翻したクラリスと、その答えに異を唱えないアリスとベスに視線を何度も往復させるギルドマスター。だが結局は受けてくれるならば、と余計な事を言うのをやめたようだ。


 そしてクラリスは見事にギルドマスターから様々なメリットを引き出してもくれた。いやこれは最初から引き受けたら出そうと思っていた項目かもしれない。

 ……一応書面にさせよう。


 ギルドマスターのサイン入りの書類を作らせ、誓約の魔法――やっぱりあった――で印も押させる。

 これで破った場合は代償として1番重い罰が科せられる事になる。


 それは即ち、()だ。


 まぁ無茶なことは書かせてはいない。こちらとしても捨て鉢になられても困るしね。

 あくまでも利用し、利用される者同士としての契約だ。


 まぁ持ちかけたのはあっちだし。代償を払うのはあっちだけっていうのは当然だけどね?







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







「ではこれで契約は成立だ。薬草を手に入れたらこのカードを受付に渡してくれ。

 くれぐれも薬草をそのまま受付に渡すような事はしないでくれ」

「わかった」


 今や薬草は高価で貴重な素材だ。

 ギルドとしても要らぬ問題を好き好んで抱える必要はない、ということだろう。

 そんなんでポーションの販売はどうしてるんだ、と思ったがボク達の知ったことではないと思い直した。


【マスター、よろしいですか?】

【うん、いいよ。とりあえず昨日採取しておいた5株渡しちゃって】

【わかりました】

「ではさっそくだがギルドマスター、これを」

「ありがたい。

 ……リーン草5株確かに受け取った。ちょっと待っていてくれ」


 リーン草5株をしっかりと確認したギルドマスターは机に戻り、何やら書類を1枚作成するとソレを渡してきた。なんでもこれを受付に持っていけば報酬をもらえるそうだ。


 その後は一緒に買取受付まで戻り、ギルドマスターが買取担当の職員と話をしてソードボアを全て引き取ってくれた。

 もちろん色をつけてくれた。まぁ今回だけだろうけど。


 突発的なイベントはあったが、それ以外は特に問題もないので今日も依頼を受ける。

 一応昨日採取した薬草は全部渡してしまったので今回も森関連にしておいた。

 昨日採取させてみてわかったが、本当に薬草類は滅多に見かけない。

 採取した5株も鉱山近くの森――かなり奥の方になる――でたまたま見つけたものだ。

 カドリナ草に至っては陰も形もなかった。確かにこれではポーションの数を揃えるのは至難の業だろう。


 ますますボクの能力は秘匿しなければならない事がわかった。



 さて……イービーの身分証作成はいいとして、ボクの方は本当にどうしようかな。




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『濁った瞳のリリアンヌ』完結済み
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『幼女と執事が異世界で』完結済み
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『王子様達に養ってもらっています inダンジョン』完結済み
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