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【マスター、尾行者を再度撒きましたので狩りを続行します】
【うん、狩り終わったらまた隠蔽して移動ね】
【了解です】
防具の材料をイービーと一緒に用意しながら、アリス達からの念話に答える。
アリス達4人は実は冒険者ギルドで登録した時点で尾行者がついていた。まぁ結構派手にやったしね。
森に到着するのに1時間ちょいしかかからなかったのも、尾行者を撒くつもりで走らせたからだ。
しかし尾行者も相応の実力者なのか走った程度では撒けなかった。だが森に入った時点で全員で隠蔽を発動し、移動することにより撒く事は一応できた。
……戦闘したらすぐに発見されたけど。
なので戦闘後に再度隠蔽を発動させて移動させている。戦闘中に尾行者に発見されない程度に遠くにいけばいいのかもしれないが、目的のソードボアは生息域の問題からそれほど遠くにはいけなかったのだ。
ちょうどいいので隠蔽の慣熟訓練のつもりでやらせているが、みんな少し面倒そうだ。まぁそろそろもういいかなぁ、とも思うけど。
防具の錬成も大分済んだ。
付与効果は重複可能なものとそうでないものがあるので、重複不可効果で無駄が出ないように構成をきちんと考えながら作っている。
一体化している防具――複数部位をカバーしている――もあるので装備個数は各人違うが、それぞれ付与効果に無駄がなく武器の特徴やスタイルに沿った構成となっている。
アクセサリーも作りたかったが、指は1つ埋まっているのでもう1つの指装備と首装備の2つで終わりだ。
アリス達4人は魔法職が1人もいない――この世界では魔法職は貴重らしい――のでアクセサリーでいくつかカバーできないか、と思ってもいる。
1回の使用毎にCTが入ってしまうが、MPを使用せずに使うことが可能な付与効果をつけることも可能だ。
回復には生命のポーションを大量に作ってイベントリに放り込んであるので問題ないだろう。
補助効果――バフ系は装備品で大分賑やかだし、遠距離攻撃か範囲攻撃用の攻撃魔法辺りがいいだろうか。それとも敵対補助効果――デバフ系にすべきだろうか。
まぁこの辺は本人達の意見も尊重しよう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
イベントリに錬成した防具を放り込んで、アクセサリー分の材料を検分する。
作る物は初級のアクセサリーなので大した物は出来ない。まだ作らないけど。
それでも大分増えた市場では買えなかった素材があるので選択肢は大幅に増えた。
それは他の装備品にも言える事だが、所詮は初級だ。あまり変わりはない。
材料といえばアリス達の隠蔽などのスキルのLvを上げるのに市場では買えなかった素材が必要だったのを思い出した。
鉱石系統の素材なのだが、森の奥にある鉱山でしか取れないようだ。
隠蔽の慣熟訓練もそろそろ終えて、尾行者に気づかれない程度の距離を開けさせたかったのでちょうどいいだろう。
隠蔽のLv上げは早めにしなければいけない。もう早ければ早いほどいいので出来れば今日中に。
【アリス、そのトカゲを狩り終わったら鉱山地帯まで移動して】
【了解です、マスター!】
放った矢でトカゲ――テイルリザードの目を射抜きながらアリスが答える。
テイルリザードは尻尾に大きな棘のような物がついた魔物だ。まぁ大して強くない。なので戦闘中に念話で話しかけても問題ない。
ボクの予想通りに8匹いたトカゲは瞬く間に殲滅されてイベントリに放り込まれた。
尾行者を撒くために隠蔽を使い、鉱山に向けて出発させる。
ファーリはペットなので天然の隠蔽能力があるけれど、念のためにスキル付与で隠蔽を取得させて上げられるだけあげている。
4人+1匹は隠蔽による隠密効果で魔物と戦闘をすることなく、森を突き進んでいく。
今までは魔物を発見次第隠蔽が解けるのも構わず殲滅に移っていた。しかしそんなことをしていては尾行者に発見されるし、距離も稼げない。
狩りが目的ならばそれでも構わないが、今は鉱山に行くのが先決だ。
隠蔽中は走れない。せいぜいが早足程度だ。
人が多いところなどに出ると隠蔽も解けてしまうが、森の中でなら大丈夫だ。動物達の目があるだろう、と現実になった今なら思うけど大丈夫なんだから仕方ない。不思議。
鉱山についても必要な鉱石――光鉱石が転がっているわけでは当然ない。
光鉱石はHeart & Heartsなら採掘ポイントでしか手にはいらない素材だ。でもピッケルとか採掘用アイテムでさくっとやるだけでポンポン出てくる物だった。
市場で集めた情報では光鉱石は鉱山の奥でしか手に入らない物で割りと希少な素材となっている。
Heart & Heartsとのアイテムの相場の違いやレアリティの違いでちょっと混乱しそうになる。アイテムを全ロストしていなかったら、思わぬアイテムがレア素材だったかもしれないな。
ボクのイベントリの中身も拠点も、もう残ってないだろうからそんな心配は不要だけど。
実はボクも拠点を持ってた。ていうか拠点は課金すれば簡単に手に入ったし、中に置ける倉庫がイベントリなんかとは比べ物にならないほど量と種類が入るので重宝していた。
たまにある救済イベントで中位以上の成績を収めると貰えたりもしたけど、ボクは課金で手に入れてしまった。まぁ便利だし、イベントで貰えるよりも上位の拠点だから別にいい。
拠点に入るには鍵のアイテムが必要で、イベントリに入れておいたのでロストしている。くそぅ。
拠点もないと思ってるのはそのためだ。あっても鍵がなければ入れないしね。
そんなわけで採掘するのにまずはピッケルなどのアイテムを錬成しようと思う。
鉱山なら採掘ポイントの1つや2つすぐ見つかるだろう。何せボクには秘策があるからね。
普通にやっていたら採掘ポイントなんて見えないことは市場で集めた情報でボクは知っているのだ。
現実に即した世界であるのにHeart & Heartsのスキルが使えたり、色々不思議なこの世界。
錬成にあったピッケルなどの採取用アイテムが情報を集める前のボクに採取ポイントが普通にあるのか、と思わせた。
実際は誰も採取ポイントの事は知らなかった。というか、知ってはいたけど任意に見つけられないというかなんというか。
簡単にたくさん様々な素材をゲットできる場所が極々稀にある、というレベルでの話ならあったのだ。
Heart & Heartsの時のように採取ポイントでござい、といった感じのポイントではないということだろう。
ではどうするか。
ボクは錬金術師である。
そしてHeart & Heartsで作れなかった、ゲームの世界ではなかった物がいくつも錬成のレシピにあるのを知っている。
その中でもコレ、『採取用ゴーグル』。
予想がつくだろう? たぶんコレをかければ採取ポイントが見えちゃうとかそんなんだよきっと。
……まぁダメだったら手当たり次第にピッケルで掘らせるつもりだし別に問題ない。
もちろん材料は買ってきてある。お金が入る見込みがあるっていうのは素晴らしいことだ!
「マスターさん、用意できました!」
「ありがとう、イービー」
「えへへ」
準備をしてくれていたイービーの頭を撫でて褒めてあげる。
彼女も照れくさそうに撫でられているが、部屋の隅に片付けられた椅子はとても存在感がある。どうしたって避けられない運命はすぐそこまで来ているよ。強く生きろ、イービー。
遠くを――椅子を――眺めて、パンっとして、ほい。錬成。
テーブルの上のシートの上にあった、大量の卵の殻、黒土、木の板が光に包まれて消える。
後に残ったのは何の変哲も無いゴーグルだ。
「これが採取ゴーグルか」
「変な装備ですねぇ~?」
錬成しまくっているので光にはもう慣れっこになったイービーが、不思議そうに採取ゴーグルを突付いている。
さすがにもう豹爪篭手は外しているので切り裂かれることはない。
「まぁでっかい水中メガネみたいな感じだしねぇ。とにかくコレで試してもらおう」
イベントリに放り込んでアリス達の状況が映っているウィンドウを確認する。どうやらまだまだ鉱山は遠いようだ。ある程度離れたら走ってもらうつもりだ。
最初から走ったら隠蔽が解けて、尾行者までついてきちゃうしね。それじゃ意味が無い。
お金が入る見込みが確定しているとはいえ、今現在あるお金がそんなにあるわけではないので材料も必要以上には買えなかった。
装備品は作れたけど、予備は作れていない。
装備は、特に武器は使えば使うほど耐久値が減る。
減った耐久値は鍛冶屋などで修復できるけど、Heart & Heartsでは一瞬だったその作業が現実に即した結果そこそこ時間がかかるようになった。
アリス達が使っている装備品は付与効果が凄まじい。
そんな物を持っていったら信頼が置ける鍛冶屋でなければ持ち逃げされる可能性がある。いや持ち逃げはさすがにやらないか。
でも犯罪者として身分証に記載されないやり方をいくつかイービーに教わった――一般教養で得られる一般常識の範囲のレベルらしい――ので、信頼の置ける鍛冶屋を見つけるまでは耐久値の修復ができない。
ちなみにそんなんじゃ普通の人達も鍛冶屋で耐久値の修復なんてできないだろうと思われるが、ボクが作った装備だから危ないだけで、市販品程度でそんなことをする人はいないそうだ。ソレ相応の性能の装備品をもっている人なら信頼を置ける鍛冶屋の1つや2つは知っているだろうしね。
スミス系のアクティブスキルが使えたらボクが直すのに。
次に優先的に作るのはアクセサリー、そして予備の装備って感じだな。
でもまずはピッケルとか作らないとね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【マスター! マスター! 大量です! 大量ですよ!】
【よう取れます。これやけぎょーさんやと嬉しくなってしまいますえ】
【光鉱石、闇鉱石。あ、空鉱石なんて初めてみましたぞ! マスター殿! レアですぞ!】
【デュリー、報告は後ほどです。今は手を動かしなさい】
【御意!】
何やら鉱山でピッケル――黒鉄鋼のピッケルを振りまくっているアリス達はホクホクらしい。
黒鉄鋼のピッケルはボクが錬成したので、もちろん最高品質で付与効果がついている。
消耗品扱いのピッケル系統だけど、採取用アイテムは別枠なので等級に応じた付与効果をつけられる。中級のピッケルなので消耗品でも2つの付与効果をつけられて、採掘で得られる取得物のレアリティを上げたり、取得数を上げたり出来るようにしてある。
ピッケルなどの採取用アイテムは使えば一定確率で壊れるけど、品質が高いとなかなか壊れなくなる。
最高品質なら早々壊れないけど、採取ポイントを独占状態なのでもうすでにアリス達は3つほどだめにしている。
……まぁその分大量に素材をゲットしているけど……あと3つしかないからすぐに打ち止めになりそうだなぁ。
ちなみに鉱山でも魔物は出てくる。ここは鉱山とは言うけど森の奥にあるので森が魔物だらけになっているために誰もこれなくなってしまったので、廃坑寸前だ。
坑道に巣食った魔物がかなりの数いるのでそれらを一掃しながら採掘ポイントを探し、カンカンしているというわけだ。もちろん魔物の死体もイベントリへ。
ソードボアのように素材として必要な部位がわかっている場合はきっちりと切り分けてもらうけど、そうでない場合はそのままイベントリ行きだ。血抜きも時間がかかるので最初くらいしかしていない。
イベントリには森で狩った魔物と森でついでに採取した素材、鉱山の魔物と素材、採掘ポイントから出てくる大量の鉱物系素材が、そりゃあもう大量に入っている。
たった1日でずいぶん溜まったもんだ。でも恐らくこれは長らく人の手が入っていない森や鉱山だからこそだろう。
これからはここまで大量には集まらないと思う。何せここは現実なのだ。
ポップポイントから魔物が出てくるわけでもなければ、採取ポイントでもない場所から採取した素材がすぐに補充されるものでもない。
……採取ポイントは別みたいだけどね。今度からは森でも採取ゴーグルを定期的に使わせた方がいいかもしれない。
一心不乱に採掘ポイントをカンカンしているアリスとデュリー。
音に近寄ってくる魔物を妖しい笑みを湛えながら斬り捨てているベス。
彼女達3人を統括しているクラリス。
そしてお座りして色々視線を振って眺めているファーリ。
あっちも平和そうだね。
いつの間にやら炭鉱婦です!
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