表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/148

第九十七話 不浄(1)

Carminaカルミナ Buranaブラーナ~O Fortunaオー・フォルトゥナ~』

・・・ドイツ南部のベネディクトボイアーン地方にあるベネディクト修道院で19世紀頃、見つかった254篇の詩の一つ。

カルミナ・ブラーナとはラテン語で「ベネディクトボイアーンの詩集」の意味。

ほぼ11世紀から13世紀頃にヨーロッパ中の学生や神学者達などを中心に書かれたものとみられているが、酒やゲーム、セックスについての世俗的でみだらな詩が多く、その中の一遍が下記の『O Fortuna』である。

1936年にドイツの作曲家カール・オルフが曲をつけたことで有名となった。


https://youtu.be/O5b7tgkdFH0

(URLを範囲指定して右クリックし、移動を選択するとすぐに聴けます。)


O Fortuna,        おお、運命よ

velut luna        月のように

statu variabilis,    あなたは姿を変える

semper crescis      満ちては

aut decrescis;      欠け

vita detestabilis    憎悪と困難ばかりの人生


nunc obdurate      初めに抑圧し

et tunc curat      次になだめ

ludo mentis aciem,   そして、気まぐれに奪い去る 

egestatem,        貧困

potestatem        権力

dissolvit ut glaciem.  それは氷のように溶け去る


Sors immanis       運命、それは恐るべき怪物のようで

et inanis,        逆にむなしいもの

rota tu volubilis,    お前達、人間は廻り続ける車輪

status malus,      お前達、人間は悪意の塊

vana salus        その安寧はむなしいもの

semper dissolubilis,   常に無となって消え去り

obumbrata         影がさし

et velata        闇におおわれる


michi quoque niteris;   お前達、人間はわたしをも疫病でもって汚す

nunc per ludum      さぁ、今こそ、その戦ごっことやらでもって

dorsum nudum       わたしが丸裸にしてやろう

fero tui sceleris.    お前達、人間の悪意の数々を


Sors salutis       生まれながらにして権力を持つ者達がわたしに逆らう

et virtutis        人々はその健康も

michi nunc contraria,   美徳も

est affectus       追いやられ

et defectus       重い枷をつけさせられた

semper in angaria.   常に屈辱と共に奴隷にされてきた


Hac in hora       だから、まさしくこの時、

sine mora        もはや時を待たずして

corde pulsum tangite;  お前達が震えおののく運命の糸をたぐりよせよう

quod per sortem     生まれながらにして天命を持つ者が

sternit fortem,     強きをくじく


mecum omnes plangite!  さぁ、今こそわたしと共に嘆け!



Fortune plango vulnera  わたしは天命を持つ者の傷を見て嘆く

stillantibus ocellis    その涙にぬれた目を見て嘆き悲しむ

quod sua michi munera   わたしが彼女に与えてやった智慧でもって

subtrahit rebellis.     彼女は容赦なく奪い去るだろう


Verum est, quod legitur,   それは真実で書かれている

fronte capillata,      まるで彼女の髪の毛一本一本のごとく緻密なまでに

sed plerumque sequitur  来るべき時が来たら

Occasio calvata.      彼女は大胆である


In Fortune solio      運命の王座の上に

sederam elatus,      私はこれまで座るように育てられてきた

prosperitatis vario     王冠を載せられ

flore coronatus;      あらゆる繁栄の花々を飾られて

quicquid enim florui    私は富んでもてはやされ

felix et beatus,       幸福に祝福されてきたかもしれないが

nunc a summo corrui    今こそ私はその絶頂から落とされる

gloria privatus.       栄光は奪われる


Fortune rota volvitur:    運命の車輪が廻り始めた


descendo minoratus;     私は地に堕ち、ぶざまに暴かれる

alter in altum tollitur;  そして別の者がその王座に持ち上げられる

nimis exaltatus       はるかな高みへと

rex sedet in vertice    その頂きに王が座る


caveat ruinam!      さぁ、その者に破滅を恐れさせよ!

nam sub axe legimus   これはまさしく運命の車軸の下で書かれたものなのだから

Hecubam reginam.    復讐の女神によって






氷河期の頃もそうだったように、人類はお互いの集落を攻めたり、守ったりといった戦争(愚行)で使う武器を量産する為に鉱石や氷床を削り過ぎて自然の地形や気象を変化させ、温暖化を招き、大洪水を引き起こして地球を崩壊させかけた。


それと同じように青銅器時代の人々も、青銅(合金)の武器を手にしてからは国家や部族(=共同社会)が税金(皆が分け合って生きていく為のお金)でもって軍事産業を奨励し、軍備を整え、兵士を訓練して軍隊を造っていったことで、“当然、争い(戦争)は常態化し”、以前にも増してその範囲も度合いも拡大していった。

そうして、お互いを殺し合い、お互いの国土を荒らしまくってはまた、もっとたくさんの血が流れる、もっと大量の人間を殺戮さつりくできる、そんな新しい武器や兵器を求め、ひたすら軍拡競争に明け暮れて、青銅(合金)の武器や兵器を量産する為に森林をどんどん伐採し、地面をどこまでも掘り下げていった・・・。



その上、青銅(合金)のような金属を造る技術である“冶金”(=metallurgy)というのは、その作業工程において必ず空気や水を汚す。



例えば、銅鉱石に含まれる成分から欲しい金属(銅)を取り出すには、空気(酸素=O)を吹き込んで銅鉱石を溶かして酸化銅(CuO)を造り、さらに空気(酸素=O)と、燃料である木炭(炭素=C)と、酸化銅(CuO)が熱化学反応することでCO (2)(二酸化炭素)+Cu(銅)に分かれて“粗銅そどう”(他の不純物が完璧に取り除かれていない銅)ができる(酸化還元反応)。

ただし、銅鉱石の一つである黄銅鉱は、前述した通り、単純に銅だけでできている石ではないので、いろいろな成分が詰まっており、その中で特に鉄(Fe)と硫黄(S)が一番、多い。


その為、銅と一緒にこれらの金属要素も熱で溶かされた時に空気(酸素=O)と結びついて酸化還元され、その熱化学反応で硫化鉄りゅうかてつ(FeS)や硫化銅りゅうかどう(CuS)が生まれ、“二酸化硫黄(SO (2)、亜硫酸ガスとも呼ぶ。)”が排出される。



この酸化還元を繰り返すことで必要な金属を少しずつ取り出していき(=製錬、Smelting)、そこから不純物を取り除いて銅の純度を上げていく“精錬(=Refining)”を行うのだが、この精錬の作業工程においてもただ加熱するだけでなく、鉱石が溶けやすくなるよう融点(溶ける温度)を下げてくれる“融剤”(石英や石灰石など)を加え、鉱石に混ざっている鉄などの不要な金属要素と、この融剤の成分をそれぞれ化学結合させることで“スラグ”(=Slag、ノロとも呼ぶ。不要な金属と融剤が混ざっている不純物)に変えて分離させたり、さらにこのスラグ(不純物)を水で砕いて取り除いたりもする。


この時、できてしまうスラグ(不純物)が石英を原料とした“ガラス”や、水に溶けない不溶性の“シリカ”(=Silica、食品乾燥剤のシリカゲル、半導体部材のシリコンウェハーの原料。ちなみに、植物や人体に含まれ、食品になることもあるシリカは水溶性のシリカである。)といった物質で、これらの副産物をガラス製品に変えたり、シリカはセメントにもなるため、後にローマン・コンクリート(古代のコンクリート。現代では銅スラグ骨材と呼ばれる。)の原料になるなど新しい製品に生まれ変わることもあるのだが、その一方で他の金属要素が多すぎて取り除けず再利用リサイクルできないものや、微粒なスラグ(不純物)だと取り除くのも面倒臭くなってそのまま放置したり、川に流してしまうこともある。


こうして、不要となったスラグ(不純物)は加熱から一転して雨水や川の水にさらされ、今度は“冷却”という別の化学反応によって鉛や亜鉛、水銀、カドミウム、ヒ素といった毒性のある様々な金属要素がスラグ(不純物)から溶け出すことになり、それらが土中に染み込み、川や海へと流されていき、さらに鉱石を燃やす(酸化還元を繰り返す)度に二酸化硫黄(SO (2))や二酸化炭素(CO (2))が煙となって排出され、それらが大気に混じると太陽光で光化学反応を起こし、酸性雨となって地上に降り注ぐ。




つまり、これらの現象を今で例えるなら、青銅器時代こそ“産業革命”(=Industrial Revolution)の始まりであり、

そして、“公害”(=Environmental Pollution、環境汚染)の始まりでもあった。


その結果、これらの“鉱毒”に汚染された水や酸性雨が植物や農作物を枯らし、魚を死に絶えさせ、知らずに汚染水を直接、飲んだり、あるいは汚染水に侵された魚介類や家畜、農作物などを食べたりして次第に人体をむしばんでいく・・・。

また、外に出れば鉱毒の粉塵や排煙によって汚染された空気(大気汚染)に触れることになり、鉱毒ガスや粉塵、光化学スモッグなどを直接、吸って気管を痛め、くしゃみや鼻水、咳が止まらなくなったり、眼を患ったり、皮膚がただれてアレルギーを発症したり、重症になるとめまいや嘔吐、呼吸困難、意識障害などを起こし、長期に渡ってさらされると、塵肺(粉塵などで肺が侵される病気のこと)や結核、肺がんの原因になったりもする。



その上、被害は直接的なものにとどまらない。


汚染水や酸性雨によって農作物が枯れたら当然、収穫は減って飢饉ききんになり、餓死する人々であふれかえることになり、山や森などの植物が枯れたりすれば、大雨や高波、台風の際に防水してくれる自然の機能がなくなって土砂災害や洪水被害が拡大し、不衛生になった所からコレラやインフルエンザ、赤痢せきり天然痘てんねんとう麻疹はしかやライ病といった疫病えきびょう(または伝染病)(注1)までも発生させる。


しかも、元々、青銅(合金)のような金属製造(冶金)を行うのに山や地面を掘り下げ、森林を伐採していったので当然、地形は変化し、加えて、これらの鉱毒汚染を広がらせてしまうと、被害にあってからかなり長い時が経っても失われた自然が再生し、復興できるかどうかも難しくなり、次第に人々は実りのない荒れ果てた土地では住めなくなっていき、生活基盤(仕事や食糧、家や水など生きていくのに必要な土台)そのものを失って絶望し、自殺する人もいれば、移民となって住む場所を求めて地上をさ迷い、よその土地で邪険に扱われ、生きる為に泣く泣く奴隷になるか、あるいは武力(暴力)でもってよその土地に住んでいた人達を追い出したり、殺して奪い取ろうとしてまた、戦争が起きる。



その為、彼らが軍拡競争の末に行った数々の環境破壊や公害の爪痕つめあとは、今なお、世界中の至る所に残っており、アブラハムの住んでいた南レバント一帯(現ヨルダン、イスラエル、パレスチナの中東地域)で青銅器時代から古代ローマまで最大の銅鉱床地帯を流れていた“ワジ・フェイナン”(=Wadi Faynan)という涸れ川(季節川)には、約20万トン以上のスラグ(不純物)が今も大量に捨てられたままになっていて、土中の沈殿物を調べると、青銅の前の銅器時代(BC7000~6000年頃)から既に亜鉛や水銀、カドミウムなどの鉱毒に侵されていたことが分かっている。

また、同じく南レバント地帯で青銅器時代において有名な鉱山の一つに“ティムナ渓谷”(=Timna Valley)という銅鉱山があり、BC5000年頃から採掘され始め、マッシュルームのような形をした岩石や“ソロモン王の柱”(=Solomon’s pillars)と名付けられた土柱がそこかしこに見られるが、これは“ルーム・アンド・ピラー採掘法”(=Room&Pillar mining、柱房式採掘法ちゅうぼうしきさいくつほう)と呼ばれる採掘方法で地形が変化した名残であり、露天掘りなどで地下を掘り進めていくとどうしても空洞ができてしまい、その空洞で地面が陥没して地下で働く坑夫達が土砂で生き埋めになることもある。

これを避ける為、氷河期の頃に地下に住居を造ったのと同じように、空洞の間に柱として一部の岩石を残しながら天井となった地面をその土柱に支えてもらって掘り進めていくと、そのような奇妙な地形が出来上がるのである。


だが、そうやって注意しながら掘ったとしても全く陥没しない訳ではない。

時が経てば風雨で浸食されて土砂崩れが起き、大雨が降れば地面がゆるんで陥没かんぼつする。


そうして、採掘中に生き埋めとなって亡くなったり、あるいは手足がもぎ取られるような大怪我をしたり、鉱毒などに侵されて病気になって働けなくなったりと、低劣極まりない労働環境にさらされながら人知れず亡くなっていった坑夫達の生命をも飲み込んで、山は新しい武器や兵器を開発する為の設計図とおぼしき壁画で埋め尽くされ、ひたすら軍拡の為に採掘され続けて、ついには鉱石資源も底を尽き、今では気味悪く変形した岩石や地形の数々と大量のスラグ(不純物)だけが転がる荒地になっている。



(注1)

基本、感染症(伝染病)は、人または動物などの“生物側の免疫力”(病気に対する抵抗力)が弱いのに対し、“外の環境が汚染されて”有害となりうるウィルスや細菌が増えることで引き起こされるもので、生物(内側)と環境(外側)のバランスが崩れると流行しやすくなるが、バランスが保たれている場合はウィルスや細菌そのものは無害である。


本文で紹介した感染症の例として、コレラは、コレラ菌に感染することで引き起こされる脱水症状を主とした感染病で、空気や水、咳やくしゃみなどを通じて感染するのではなく、“汚染された食品によって感染”するものであり、通常、一日以内の潜伏期間を経て発症する。

発症後は体内の水分を補えるよう、水1リットルに対して砂糖大さじ4杯半、食塩小さじ半分で作る“経口補水液”(Oral Rehydration Solution、ORS)、もしくはお粥の上澄みにあるお湯だけをすくって塩または梅干しを入れる“重湯”を補給することで治療できる。なお、スポーツ飲料はコレラ以外の軽い脱水症状を補うことはできるが、コレラの場合は塩分が必要となるため避けた方がよく、また、脱水症状の乳幼児に与えてしまうと体内の塩分濃度が失われて水中毒という別の病気で死亡することがあるので注意が必要である。


インフルエンザは、“汚染された空気に混じって”インフルエンザウィルスが人の鼻やのどに入り込み、呼吸器を中心に全身に広がって感染する病気で、持病を悪化させたり、肺炎や急激に脳血管に異常をきたすインフルエンザ脳症などの合併症を併発する病気でもある。

ウィルスの潜伏期間は大体、1~2日で、乾燥して寒い時期は体温が奪われやすく、鼻やのどの粘膜が乾燥するため、ウィルスが体内に侵入して増殖しやすいことから冬の時期が最も流行しやすい。

インフルエンザウィルスは湿気に弱いと言われており、感染を防ぐにはマスクなどで鼻やのどの保湿を保ったり、室内の湿度を保つことで感染を回避できる。

感染した場合は温かい飲み物を飲んだり、身体を温めるなど体温を下げないように工夫し、内臓機能を高めることでウィルスの活動を抑制するか、発熱した時はわきの下や首の回り、太ももの付け根などを冷やして身体はできるだけ温めておき、保湿を心掛ける。


赤痢せきりは、“細菌性赤痢”と“アメーバ赤痢”と呼ばれるものの二種類があり、細菌性赤痢の場合は、赤痢菌に“汚染された食品”を食べることで感染する食中毒の一種で、通常、4日以内の潜伏期間を経て発熱と共に一日、数十回の下痢や粘性の血便などを起こし、便意はあっても便が出ずに腹痛を訴えるしぶり腹と呼ばれる症状を伴う。

赤痢菌は20~30℃ぐらいの環境で増殖し、バターやマーガリンのような脂肪の多い食品に付着するとかなり長期間、生き続けるので生鮮食品や冷たいままで食べる食品には注意が必要である。

ただし、感染しても成人の場合は2~3日で自然治癒するのであまり心配することはないが、乳幼児の場合は重症化しやすく、感染例のほとんどは調理状態の分かりにくい飲食店での感染が多いので乳幼児の外食はできるだけ控えることをお勧めする。

また、アメーバ赤痢の場合は、赤痢アメーバと呼ばれる寄生虫が人を宿主にして感染する病気で、感染ルートとして“汚染された食品”を食べたりして感染する場合と、感染者とのオーラルセックス(口による性交)を行うことで感染者の糞便や嘔吐物などを口にして感染する“性感染”の二つのルートがある。

症状としては発熱はなく、下痢やイチゴゼリーのような粘血便が出るが、比較的、軽症で自分が病気であることを自覚しづらいが、年数が経過すると肝臓で増殖して膿が溜まり、重篤な症状になりやすい。

細菌性赤痢と比べて感染者が多く、国内だけでも年間、数百件は報告されており、男性は30~50代、女性の場合は20~30代が多く、男性同士の同性愛による性感染が最も目立ち、最近では女性と男性の異性間の性交による性感染も増加傾向にある。

性病の多くは病原の潜伏期間が長く、アメーバ赤痢も通常、数日の潜伏期間にも関わらず、時には数か月~数年に及ぶ場合があり、感染者が気づかず性交相手に移してしまうことと、性病は感染者が恥ずかしさから病院での治療を拒みやすく、病状を悪化させてしまったり、性交する相手が変わることで感染を拡大させる危険があるので自覚症状のある方は早めに病院での治療をお勧めする。


天然痘てんねんとうは、“天然痘ウィルスの混じった汚染された空気を通じて人だけが感染”する病気で、通常、7~17日間の潜伏期間を経て急激な発熱、悪寒、頭痛と共に全身に膿を持った水膨みずぶくれのようなできものが広がる皮膚病でもある。

その後、膿を持ったできものは内臓にも現れるようになり、内臓機能が停止して呼吸困難に陥り、死に至る。

20世紀まで3~5億人が死亡するほど最も恐ろしい感染病とされていたが、18世紀になって古代から中国やトルコなどの東洋で庶民の間だけで広められてきた予防接種がイギリスの医者達に知られるようになり、さらに農村で牛痘ぎゅうとう(牛の天然痘で天然痘よりも症状が軽い。)にかかったことのある牛飼い達は天然痘患者の世話をしていても天然痘にかからないとの噂が広まって、イギリスの医師のエドワード・ジェンナーやジョン・フュースターが医療雑誌などで牛痘ぎゅうとうによる予防接種の方法を紹介するようになった。

1774年、イギリスの農民だったベンジャミン・ジェッティは既に自分も牛痘にかかった経験があったため、そうした医療雑誌に載っていた医者達の言葉を信じ、自分の妻や子供達に牛痘による予防接種を行い、無事、天然痘の被害を免れた。

以来、彼らの予防接種の成功をきっかけに全世界に予防接種法が広まるようになり、WHO(世界保健機関)が1980年に撲滅宣言を発表してからは“もはや自然界で天然痘ウィルスは存在しないとされている”。

天然痘ウィルスの起源は定かではないが、元々はラクダから人類に移った段階で何らかの変化が起きたと言われており、その後、BC16世紀頃のインダス文明の医学文書に天然痘に似た症状が記されるようになり、中国やエジプト文明にも波及したようで、死亡例として最も有名なBC12世紀頃のエジプトのラムセス5世のミイラについて調べてみると、彼の死亡時には都市が燃やされるなどの戦争状態にあったことが記録されており(Turin Papyrus)、この事実を踏まえて日本での天然痘の例を調べてみると、AD585年とAD735~738年にパンデミック(伝染病拡散)が起こっているのだが、この頃は日本もエジプトのように仏教導入や大化の改新(憲法改正)を巡る蘇我馬子そがのうまこ一族と中臣なかとみ(藤原)鎌足かまたり一族、後年は長屋王ながやおうとの内戦状態にあり、さらにそこに朝鮮半島への出兵(白村江はくすきのえの戦い)までも加わったことで結局、蘇我馬子も中臣鎌足の子孫も皆、天然痘にかかって死亡している。

これら二つの事例とその他の歴史的背景から推測するに、“人のみに伝染する”と言われる天然痘ウィルスは戦争時にどうしても数が増えていく腐乱死体の中で増殖し、ウィルスに侵された死体を知らずに触ったり、近く(約1.8m圏内)にいるなどして生きている人から人へと移されていったのではないかと思われる。

あるいは、“故意に”そうしたウィルスに侵された死体を敵地に置いてくることで生物兵器に使用した可能性も考えられる。

しかし、現在は天然痘ウィルスは既に撲滅したとWHO(世界保健機構)は宣言しており、1978年にイギリスのバーミンガム大学で“天然痘の予防接種を受けていたにも関わらず”天然痘に罹患して死亡した医療ジャーナリストのジャネット・パーカーが最後の犠牲者になって以降、WHO(世界保健機関)が指定して天然痘ウィルスのサンプルを保管しているアメリカ疾病予防管理センターとロシアのウイルス学バイオテクノロジー研究センターが“生物兵器として使用しない限り”、全世界の誰も天然痘にはかからないはずである。


麻疹はしかも、天然痘と同じく麻疹ウィルスの混じった“汚染された空気から人のみが感染する”病気で、約10~12日の潜伏期間を経て発熱、咳などの風邪に似た症状を発症し、目ヤニや充血といった目に症状が起き、さらに口の中に白い斑点が現れて1~2日後には赤い斑点が全身に出始めるようになり、高熱がさらに続くが、肺炎や中耳炎、脳炎(脳の炎症)などと合併しない限り、3~4日後には解熱して7~10日後には回復する。

特に乳幼児の罹患が多く、次いで10~20代の若年層が続くというまさしく免疫(抵抗力)の弱い者を標的にする伝染病である。

麻疹は元々、牛から人に移った牛疫(牛の病気)とされているが、動物に移ることはなく、“人だけが感染する”。

しかも、歴史において麻疹の症状を“詳しく”説明し出したのはAD9世紀のペルシャ(現イラン)にいたアル・ラーズィーという医師を名乗る錬金術師で、彼の著書である『Kitab fi al-jadari wa-al-hasbah(邦題では『天然痘と麻疹の書』)』には麻疹と天然痘にかかった患者の詳細な症状が記録されているのだが、不思議なことにこれほどつまびらかに症状がわかっていて、長年、病院長を務めるほどの高名な医者だったアル・ラーズィーがなぜか晩年になると本人が麻疹の初期症状とよく似た症状を発症して目を患うようになり、その“病変に医者の自分が気づかなかった”ばかりか治療すらも自分でできず、結局、最後は失明してしまっている。

このことからも分かるように、恐らく治療目的で天然痘と麻疹それぞれの感染者について記録していたのではなく、わざとそれぞれの伝染病にかからせて人体実験をしたことからその時の後遺症で目を患ったものと思われる。

その後、彼の本がラテン語やその他のヨーロッパ言語に訳されて広く出回るようになると、15世紀から麻疹は突然、ヨーロッパの植民地となったアメリカや南米などで流行し出し、19世紀からは気温の低い北欧のフェロー諸島や、北欧とは正反対の気温の高いハワイ諸島、太平洋のフィジー諸島といった比較的、“小さな島々”で流行するようになり、20世紀にはアジアやアフリカの“発展途上国の人々”を中心に(時にはグリーンランドの“先住民”の間でも流行するが)年に2千万人もの人々が感染して200万人以上の死者を出すようになった。

日本ではとりわけ江戸後期に13回も流行して、その後、太平洋戦争が終った頃から猛威を振るうようになるが、1963年にアメリカで予防ワクチンが開発されるようになると、風疹(「三日はしか」とも呼ばれ、麻疹よりも軽症のもの。)と共に政府が強制的にワクチンを接種させるキャンペーンが実施されるようになり、突如、激減した。

それから2000年まではほぼ撲滅したかに見えたのだが、近年、再び増加するようになり、しかも、ワクチンを接種しても感染してしまう人がいて、効果がないにも関わらずなぜか何度もワクチンを接種するよう政府から呼びかけられ、ワクチンの副作用でかえって病状を悪化させてしまった人もいる。


ライ病またはハンセン病は、本作品の第49話『ラザルスの病死(1)』でも紹介した通り、レプラ菌に感染して起きる病気だが、レプラ菌自体、地球上のどこにでも存在するもので、昆虫や動物にも移ることはあるが、感染力が極めて低く、ほとんどの人がレプラ菌に感染することはまず、ない。

感染する人はレプラ菌に感染する以前にラザルスのようなインフルエンザや結核などで肺を患っていた人か、あるいは何らかの病気やストレスで極端に体力(免疫力)が低下した人であり、そのほとんどが子供で、大人は滅多になく、たとえ感染しても発症することもかなり稀である。

また、レプラ菌の主な症状は皮膚疾患と末梢神経障害だけであり、それ以外で内臓疾患は全くなく、早期に治療すれば後遺症もなく完治する。

現在、日本のハンセン病療養所にいる患者は既にハンセン病は治癒しているが、平均年齢80歳以上の高齢者のため、ハンセン病の治療の為ではなく、介護を必要としている人達であり、日本で新規の患者は年に数名程度であるが、一方でインドや東南アジア、アフリカ、南米などでは依然、ハンセン病患者が“増え続けている”。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ