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第百十一話 歴史書

思い起こせば、ヨセフがピラミッド(食糧備蓄倉庫)を建てることになったのは、当時、エジプトのファラオ(王)だったアムン王が7年にも及ぶ長期の飢饉が来るのを心配し、その備えとしてピラミッドをヨセフに建造させたのだが、この7年という具体的な年数と飢饉が来ること(創世記41章27節参照)を正確に予測できたのは、アムン王もヨセフも、知識であれ、経験であれ、そうした飢饉(=危機)が“実際に起こったことを覚えていた”からである。




哀しいかな、人は痛い目に遭わないとなかなか大切な事を理解できないし、覚えられない。


しかも、何度も痛い目に遭いながら、それでもなお、理解できず、覚えられない人もいる。



だから、人は自分が体験したあらゆる“痛い記憶”を何とかして後世の人々に伝えようと、文字や言葉にして遺そうとする。


それは親から子へ、子から孫へと受け継がれる、ただ一つの“愛”だった。


「二度と、こんな失敗をしてほしくない。」


「わたしと同じようなつらい目に遭ってほしくない。」


「こんなことをすればお前が傷つくんだ!」


「そんな真似をすれば不幸になるだけだぞ!」


「我が子を、我が子孫を無残に死なせたくない。」


人はその愛をこめて自分の生き方やそれまでの人生で学んできた事を我が子に、その次の孫達にも言葉で伝え、その歴史や記録データを文字(数字)で書き遺そうとする。



事実(真実)をつまびらかに、嘘偽りなく書き遺すことで、我が子の、我が子孫の生命を守ろうとする。


その繁栄と幸福を願い、親(神)が無償の愛を限りなく注ぐように我が子に、我が子孫に教えさとそうとする。


「危ない!」


「やってはいけない!」


「その道(生き方)は間違っている。」





だから、その真実の歴史をヨセフもアムン王もよく理解し、知っていたからこそ、彼らは飢饉(=危機)が来ることを予測し、事前に準備しておくことでどうにか危機を回避して生き延びることができたのである。


この時、彼らの手元にあった歴史書は旧約聖書ではなく、『ギルガメッシュ叙事詩』(=The Epic of Gilgamesh)だった。



ギルガメッシュ叙事詩は、その起源がBC3000年ともBC4000年とも言われ、ヨセフ達が生きていた頃より千年か2千年前、場合によってはそれよりももっと古くから人々の間で言い伝えられてきた話をまとめ、BC2000年頃、ヨセフの曽祖父であるアブラハムの時代にようやくシュメール(楔方くさびがた)文字による粘土板で書籍化されるようになった詩または小説のことである。


1853年にイギリス人外交官のオーステン・レイヤードと地元民のホルムツド・ラッサムが現在のイラク北部、シリアやトルコにも近いモスル市にあったとされる古代都市ニネヴェ(=Nineveh)の“アッシュールバニパル図書館”(=The Library of Ashurbanipal、鉄器時代のBC7世紀頃、アッシリア帝国の王だったアッシュールバニパル王が建てたとされる巨大図書館)の埋もれた遺跡から約3万点にも上る粘土板の書物を掘り起こし、それらをそのまま大英博物館に持っていって解析した一つがこのギルガメッシュ叙事詩である。


その3万点の書物の分類基準ジャンルも多義に渡っていて、法的文書や外交文書、農業関連の資料から国家経済に関する記録、医学、数学、歴史、天文学、政治、地理、宗教、果ては呪術や魔法、占い本、神話、詩や小説といった大衆的な文学なども豊富に取り揃え、こうした本の数だけでなく、広範囲な分類基準ジャンルからしてもアッシュールバニパル図書館はまさしく現代で言う“公文書館”(=Archive)だったと言えるだろう。


そんな巨大図書館の一点に加えられていたギルガメッシュ叙事詩は、つまり、その当時の国家から“ちゃんと保管して後世に至っても読むべき重要な書物”として認定された小説(または詩)であり、確かに聖書が誕生するまでは世界的に受け継がれ、読まれてきた本でもあった。

(実際、現代に至っても尚、翻訳されて日本を含め世界中で読まれている本でもあるので、聖書ほど名が知れ渡っていないにせよ、聖書の次に位置する“永遠の書物”と言えよう。)



お話としては、簡単な内容である。

都市国家ウルクの王だったギルガメッシュが盟友となったエンキドゥと共に、巨大な樹木が生い茂る帝国を支配していた帝王フンババを倒すべく、戦いの旅に出ると言う冒険活劇である。

友情あり、恋愛ロマンスあり、フンババ以外にもいろいろな強敵が現れ、激しい戦闘を繰り広げるという、まさに現代の軽快小説ライトノベル並みの軽い調子ノリのお話で、これがどうして後世に至っても読むべき書物としてアッシリア帝国の公文書館に加えられ、現代まで語り継がれることになったかと言うと、実はこのお話がファンタジー(おとぎ話)ではなかったからである。


確かに神だ、女神だとお決まり(ワンパターン)の非現実な神話に見えるだろうが、人類が神のごとく王や女王を崇拝し、王権を認める(=信じる)ようになったのは、神殿という食糧(税金)を集める建物を作って食糧(税金)を管理し、それを皆に配分する権限を持つ巫女や神官といった特定の人達が現れるようになってからである。(第92話 ロゴス(言葉)(2)参照)




つまり、神話に出てくる神や女神は“本当の神や女神ではない”。



神を一度も見たことも聞いたこともない人間が、何も存在しない=無から何かを想像して生み出すことはできない。

だから、本や物語に登場する“人物”(=Character)は皆、実在した生身の人間であり、多少、作者が嘘を交えたとしてもそれでも必ず何か実在する人や物を基調にして想像し、神や女神と冠したその人物を描く。


なので、神話の中で語られる神や女神は“その他大勢”といつも片付けられる名もなき人々と何ら変わりない、人類の一人にすぎない。


そして、王権もまた、神によって与えられたものではなく、


“人が人に与えたもの”でしかない。



この見方を裏付ける証拠をと言うなら、ギルガメッシュ叙事詩の中のエンメバラゲシ(=Enmebaragesi)という、シュメール文明(王朝)で最初に神殿を建てて900年間、王位に就いていたとされる人物の名前が、ギルガメッシュ叙事詩が書かれた粘土板よりももっと古い神殿の石碑(The Tummal Inscription BC2600年頃)や複数の壺に彫られているのが見つかっていたりする。


だが、それでも900年も生きていた王様だの、“サンダーバード”(=Thunderbird、英語の「サンダーバード」はアメリカの先住民の間で言い伝えられてきた雷を起こすとされる鷲に似た巨大な鳥のこと。)が火を吹く夢を見ただの、神が13もの風を吹き下ろしただの、大地に激震が走って空が真っ暗になっただのと、“現代の常識”では到底、起きそうにない出来事が話の中に散りばめられるので、現代人のほとんどはさすがに信ぴょう性を疑ってファンタジー(おとぎ話)だと決めつけてしまう。



しかし、この“現代の常識”=“定説”そのものを疑ってみれば、この話がとんでもなく現実にも通じる出来事であることが分かってくる。


そして、このギルガメッシュ叙事詩で起きた出来事が本当だったからこそ、メソポタミア(中東)のシュメール文明という、場所も時代もはるか遠く離れて生きてきたはずの私達、日本人も、なぜかペルシャ湾(アラビア湾)で起きた同じ悲劇の歴史みち辿たどることとなった。



その悲劇の歴史とは、ギルガメッシュ叙事詩の6番目の粘土板に書かれた話に出てくる、女神イシュタルが自分の求愛を断ったギルガメッシュに怒り、復讐の為に送ったとされる『天の牡牛』(=The Bull of Heaven)のことだった。






『天の牡牛』とは、シュメール文明時代の“原子爆弾”(=Atomic Bomb)の呼び名である。







“原子爆弾”、または“核分裂爆弾”(=Nuclear Fission Bomb)を“現代の常識に従って”説明するなら、1898年にフランスの物理学者ピエール・キュリーとその妻マリーによって瀝青ウラン石(=Pitchblende、油の塊みたいに見えるウラン鉱石)に含まれる“ウラン”(=Uranium)という元素(=Element、物質の特徴や性質などを決める要素)の中にはもっと新しい元素が潜んでいて、その新しい元素には自ら熱を発したり、光ったりする、つまり、電気を放つことのできる能力=“放射能”(=Radioactivity)を持っていることが発見され、それを“ラジウム”(=Radium)と名付けて夫婦そろってノーベル賞を取ったことからウランが一躍、脚光を浴びることになった。

そして、そのウランを使って様々な物理学者や化学者達がそれぞれの仮説(=自分の推測した意見や考え)に基づいた実験や論文を繰り広げ、そこから第二次世界大戦中、米軍がイギリス、カナダの連合軍と共に核兵器開発の為の『マンハッタン計画』(=The Manhattan Project 1942~1946年)を打ち立てて、さらなる研究が続けられ、ついにウランを用いた“ガンバレル型原子爆弾”(=Gun-Type Fission Weapon、長さ3m、直径71cm、重さ4,400kg、火薬類ウラン235、実質設計者はフランシス・バーチ。日本語の“ガンバレル”(=gun barrel)は、「銃砲身」という意味の和製英語)と、そのウランからもっと強力な放射能を持つ新しい元素のプルトニウムを生み出し、それを使った“インプロージョン型原子爆弾”(=Implosion-Type Fission Weapon、長さ3.3m、直径1.5m、重さ4,670kg、火薬類プルトニウム239、実質設計者はロバート・サーバー。インプロ―ジョン(=Implosion)とは「爆縮」、もしくは「内部破裂」を意味し、火薬のプルトニウムを爆弾内部の真ん中に集めてそこで爆発するような構造になっていることからそう呼ばれている。)が作られ、1945年8月6日に『リトル・ボーイ』(=Little Boy、直訳だと「幼い坊や」だが、隠語で「小さいペニス」の意味。爆弾の形からだけでなく、1930年代にエロチックなジョークで流行った探偵小説「The Thin Man」(邦題では『影なき男』)にちなんだ名前と思われる。)と名付けられたガンバレル型原子爆弾が広島に、その三日後の9日には『ファット・マン』(=Fat Man、爆弾の形が前と比べて大きくなったことから「太った男」と名付けられたが、これも当時、「The Thin Man」と同じ作家のダシール・ハメットが脚本を書いて流行したラジオドラマ「The Fat Man」のタイトルをそのまま採っただけの名前と思われる。)とふざけた名前が付けられたプルトニウム型の原子爆弾が長崎に落とされ、何の罪もない赤ん坊から年寄りまで年齢、性別を問わず、無差別に20万人を超す一般市民が原子爆弾の放つ熱線と爆風を浴びて殺された。


多少、端折はしょっていると思われるかもしれないが、これが少なくとも第二次世界大戦後から今日まで語り継がれてきた原子爆弾の定説、一般的な常識である。



だが、この1898年にキュリー夫妻によって発見されたウランが持つ放射能の存在をなぜ、数千年も前のシュメール文明時代の人達が“知っていた”のかと言うと、放射能の存在を“初めて”知ったのは実はキュリー夫妻ではなく、シュメール文明の人達の方が先だったからである。



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