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第百六話 革命(1)

https://youtu.be/_zF-lHnTEcA


Requiem by Mozart

(URLを範囲指定して右クリックし、移動を選択するとすぐに聴けます。)

上記動画につきまして、それほどグロテスクではないと思いますが、一部、戦死者のシーンが出てきますのでそうした画像が苦手な方は閲覧にご注意下さい



ドイツは、当時、イギリスと同じ封建制でありながら、何度かの戦争を経てそれぞれ小国が乱立し、統一することなくお互いが連立し合う領邦国家(=Territorial State)を築いていたのだが、ナポレオン戦争に巻き込まれて国土を戦地にされたことで、田畑は荒れ果て、人手も戦争に多く駆り出されて国家経済はどの小国もほぼ壊滅状態に陥ってしまった。



何より、日々、戦争に明け暮れていれば田畑を耕すどころか、暴行や略奪、強姦を恐れておちおち家から出ることもままならず、さらに戦争が終わると何万もの死体が辺り一面、ゴロゴロ転がっているのだからその死体を処理するのに追われ、真っ当な畑仕事などしていられなくなる。



そうなれば、むろん田畑の植物は枯れ、飢饉が訪れる。

そこで人々は急場をしのぐのに全財産を売り払ったり、わずかばかりの土地などを担保に金を借り、それでどうにか食糧を得て、農業以外の仕事を探して町や近隣の領土へと出るようになった。



つまり、移民(=棄民)である。


だが、街や近隣の領土に出ていっても当然、仕事は無い。



農業以外の知識や技術がない者ばかりが集まったところでできる仕事は限られている上、“国家自体が戦争ばかりして国民が生活できるよう政治や環境インフラを整えていない”のだから、彼らに仕事らしい仕事など見つかるはずもなかった。

その為、彼らは町などで声をかけられた見知らぬ人に誘われるまま、わずかばかりの賃金につられて何の気なしに革命運動に参加していった。



別に大した思想(理想)がある訳ではない。



表向きは「民衆に自由を!」とか「政治的な平等を!」とか「新聞や言論を弾圧するな!」と立派なスローガン(主義主張)を掲げていても、ただ、大勢で徒党を組んで金や食糧のありそうな場所で暴動を起こし、略奪すれば分け前がもらえる。


そう誘われて行き場を失った人達はやむなく犯罪行為に手を染めていく。

そして、その人数が日を追う毎に膨れ上がると、もはや国家の軍隊とさほどそん色のない一大勢力ができてしまう。




こうして、ナポレオン戦争が始まったように、ドイツも1840年代を境に革命運動が各地で頻発するようになった。(The German revolutions of 1848–49、「諸国民の春」とも呼ぶ)



だが、元をたどれば、民衆によって作られている暴動グループ(テロリスト)とは言え、人数が増えればそれなりに食糧や武器を配って養っていく為の軍資金が必要になる。

実は、この軍資金の出所こそ、国家の中の裏切り者だったり、あるいはその裏切り者が常々、懇意こんいにしている銀行だったりする。




特にこの頃の銀行は大きな転換期を迎えていた。

紙幣の登場である。




それまでの銀行は、主に国家が持つ金貨や銀貨といった正貨でもって返済することを条件に貸し付けを行っていたが、植民地争奪戦で多額の資本が必要となったヨーロッパ各国はとりあえず国家自身が借用書を書いて、戦争に勝利した後、相手国の土地や資源でもって返済することを条件に銀行に借金を申し込んだ。


この時の借用書こそ、“紙幣”(=Banknote)である。


つまり、国そのものを担保にして銀行から借金をする訳だから、国家がつぶれない限り、その借用書(紙幣)の価値は揺るがないことになる。

そして、“戦争に勝てば”その借用書(紙幣)の価値は同等だったはずの金貨や銀貨以上の利益になる。

そこで、市中の民間銀行(いわゆる金貸し屋)はこぞってこの借用書(紙幣)をもらって、国に貸し付けを行った。

それで気を大きくした政府(王室)は、宮廷内でちょっとした物を購入する際にもツケの証拠としてこの借用書(紙幣)を発行するようになり、借用書(紙幣)に書かれた数字が細かくなると複雑になることから(いちいち数字を書くのも面倒になっただけだろうが)、単位を決めて大量発行することにした。




この借用書(紙幣)の大量発行こそ、世界における金融システムの大きな転換点であり、次いで、現代まで戦争が止まない大いなる元凶にもなっていった。



というのも、紙幣は発行しようと思えば、国家そのものの“実体経済”(=本当の価値)をはるかに超えて無限に発行できてしまえるからである。

また、それまでのような金貨や銀貨といった正貨での借金であれば、実際の金貨や銀貨を渡さなければならないが、借用書(紙幣)であればその返済方法は貸す方も、借りる方も曖昧なままになる。


つまり、口約束に簡易の借用書(紙幣)がつけられただけで、借用書(紙幣)そのものに価値は全くない。

だからこそ、無限に数字だけでも発行できてしまえるものなのだが、この政府(王室)が発行する紙幣(借用書)の価値の曖昧さにいち早く気づいたのが、あのロスチャイルド家の創設者、メイヤー・アムシェル・ロスチャイルド(ドイツ語ではロートシルトと呼ぶ)だった。


ドイツ生まれのユダヤ人で、ドイツ領邦国家の一つであるヘッセンのヴィルヘルム9世に仕える金貸し屋だったメイヤー・ロスチャイルドは、主人のヴィルヘルム9世がドイツのハノファー王とイギリス王を兼任するジョージ二世の孫ということもあって、イギリスがフランス革命を抑えるのにかなりの数の傭兵が必要になった際、イギリス政府(王室)の発行する大量の借用書(紙幣)と引き換えに、上述のような生活苦でホームレスになった人々を暴動に誘うのと同じ手口で傭兵を見つけてきてこれをイギリスに献上したことから、イギリス政府(王室)とも懇意こんいになった。

この時、メイヤー・ロスチャイルドはこの紙幣(借用書)がこれまでの金貨や銀貨よりもずっと便利なことに気がついた。


何せ、重さを測ってイギリスとドイツの正貨(金貨や銀貨)を外貨交換する必要もなく、紙幣と引き換えに相手が望む物やサービスを提供すれば、相手は満足してこちらの欲しい物やサービスに替えてくれる。

何より、イギリスは次々と植民地を制圧して豊富な食糧や資源がわんさか入ってくる。

ならば、これからはこの政府(王室)が発行する紙幣こそ、巨富のあかしだ。


そう確信したメイヤーはイギリスに投資し続けて大量の紙幣を獲得し、その紙幣でもってイギリスの植民地から入ってくる食糧や物資を買いつけて、今度はそれをフランス革命に続くナポレオン戦争で物資不足に陥ったヨーロッパ各国に売りまくった。


その間、メイヤーはイギリス以外のヨーロッパ王室が所有する植民地からの物資も狙って、自分の5人の息子達をそれぞれ、フランスのパリやオーストリアのウィーン、イタリアのナポリ、そして自分が住むドイツのフランクフルトといった主要都市に送り込み、そこで各国政府(王室)が発行する紙幣を大量に“買いつける”よう子供達に指示した。



特にこの、紙幣を大量に買いつける、または王室に金を貸し付けるには、政府(王室)が何らかの大きな公共事業をやる時以外にない。




この“公共事業こそ、まさしく戦争”だった。


何せ、戦争ほど大量の食糧や物資が必要になる公共事業は他にはない。



これには銀行以外の他の事業主達も賛同した。

さらに、借りた政府(王室)の方も戦争に勝って奪い取った植民地の土地や物資、利権で返済すれば全ての借金がチャラになる訳だから、こんな都合のいい話はない。

しかも、植民地での事業がうまく回ればその分、自分達の懐も税収などで潤う。



こうして、銀行と政府(王室)はお互い結託して戦争の種をわざと撒くようになった。


そして、その戦争の種の一つが1840年代のドイツ各地で勃発した革命運動だった。






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