1話 梅
「入れ。」
しゃがれた声で戸の向こうの人物に入室の許可を下す。
「失礼します。」
許可と共に自身の体が入る分だけ襖の戸を開け、体を入れると、振り返り戸を閉め、中央に居る声の主の下に寄り正座をして向き合う。
庭が見える大きなガラス窓が、室内に光を取り入れ、中央の介護ベッドに横たわる男性を、神々しく見せた。
「龍吾、良う来てくれた。」
「会長のお呼びとあらば、何処からでもはせ参じます。」
ピッピッとゆう電子音がベット脇から聴こえる、隆吾と呼ばれた男は頭を上げると、神々しかった光に影が出来、体中に管が繋がれ、背上げされたベッドに力なく体を預け、こちらをじっと眺める視線と重なる。
「龍吾、お前さんは、儂に、忠義は誓えるか?」
「当たり前です。私は、昔会長に拾うてもろた恩義がありますさかい。会長を裏切ることなどありません。」
目の奥に頑固となる意思を映し、しっかりとした言葉で答えた。
その様子に安心したのか、ふっと顔を綻ばせる。
「ほうかぁ。」
”忠義”の言葉の意図を確認することなく、会長の言葉をただただ鎮座し待ち続ける。
「なぁ、龍吾。儂は見た通り、長あらへん。そんな儂からの、最後の願い聞いてくれへんか?」
「最後」とゆう言葉に、否定をしようと腰を浮かせ口を開けかけたが、現役と違い細くなった目の前の男の姿を見て、出かけた言葉を飲み込むしかなかった。
腰を下ろし、正座し直すと、脚に乗せた拳に力を込めた。
「私に出来る事なら、誠心誠意を持って成し遂げて見せます。」
「あぁ、頼んだで・・・・・。」
会長は静かに最後の願いと、田中龍吾を縛る言葉を残し、その翌年には息を引き取っていった。
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