旅の理由は、だいたい後付け
都市は、ひとまず平穏を取り戻していた。
都市の外では悪魔が暴れた箇所が聖地され、
防衛隊が慌ただしく行き交っている。
昨日までここが戦場だったとは、
少し信じがたい光景だ。
「……本当に、終わったんですね」
アリシアが、ぽつりと呟いた。
「終わった終わった」
「今回はな」
俺は、寮の部屋で荷物をまとめていた。
といっても、いつもの癖で最低限だけだ。
「もう行くんですか?」
「すぐじゃない」
「すぐじゃない?」
ルナが、ベッドの上でごろごろしている。
「主はね」
「ん?」
「だいたい、てきとう」
「余計なこと言うな」
アリシアは、少し迷ってから口を開いた。
「……あの」
「どうした」
「あなたたちって……」
一拍。
「ずっと、こうして回ってるんですか?」
「こうして?」
「都市を」
「悪魔を倒して」
「人を助けて」
俺は、少し考えた。
「結果的には」
「結果的、ですか」
ルナが、指を折りながら言う。
「気づいたら、そうなってた」
「最初から救うつもりだったわけじゃないよ」
「主、拾い物多いし」
「言い方」
アリシアは、小さく笑った。
「……変な人たちですね」
「よく言われる」
それから、真面目な顔になる。
「でも」
「昨日の悪魔を見て……」
「怖くて」
「正直、震えが止まらなくて」
視線を落としたまま、続ける。
「それでも」
「あなたたちが戦うのを見て」
「……何もしないで守られるだけなのは、嫌だと思いました」
沈黙。
ルナが、珍しく口を挟まなかった。
俺は、窓の外を見ながら言った。
「俺たちは」
「正義の味方じゃない」
「英雄でもない」
振り返る。
「それでも」
「放っておけない場所があったら」
「手を出す」
アリシアが、顔を上げる。
「それって……」
肩をすくめた。
「人類救済、ってやつだ」
自分で言って、少し間が空く。
「……大きすぎませんか」
「大きいな」
「後付けだし」
ルナが、にやっと笑う。
「でも、主が言うと」
「なんかそれっぽいよ」
「適当だろ」
「適当だけど」
「本気」
アリシアは、深く息を吸った。
「……私」
「もし…もし、許されるなら」
まっすぐ、俺を見る。
「あなたたちの旅に」
「……ついていきたいです」
俺は、少しだけ黙ってから言った。
「危ないぞ」
「はい」
「怖い目にも遭う」
「はい」
「変な悪魔も多い」
「……はい」
「あと」
「はい?」
「倫理観は期待するな」
「それはもう知りました」
ルナが、満足そうに頷く。
「合格だね」
「何のですか」
「メンタル」
俺は、荷物を置いた。
「返事は、明日でいい」
「え?」
「考えろ」
「この都市を」
「自分の立場を」
アリシアは、少し驚いた顔をしてから、
小さく頷いた。
「……はい」
夜。
静かになった部屋で、
ルナが俺の隣に座る。
「主」
「なんだ」
「人間増えそうだね?」
「言い方」
「でもさ」
「うん」
「面白くなりそう」
「……それは否定しない」
また旅が、始まる。
これまでとは少し違った。
賑やかな旅が。




