悪魔と一緒だと、宿が見つからない
結論から言うと――
宿は、見つからなかった。
「すみません、満室でして」
「悪魔はちょっと……」
「いや、その……怖いので……」
「はいはい、次行こ」
「ねー、主。人間って正直だよね」
「今はそれ褒めてないからな」
シェルター都市カレイド。
安全。清潔。秩序。
――悪魔付きには、だいぶ居心地が悪い。
「昔はもっと適当な宿、多かったんだけどな」
「ねー。草の上で寝る日もあったよね」
「あったな」
ルナが懐かしそうに笑う。
もう、どれくらい一緒に旅してるだろう。
世界の端から端まで、悪魔だらけの土地を二人で歩いてきた。
「主、あのとき覚えてる?」
「どれだよ」
「初めて会ったとき」
「……覚えてるよ」
忘れるわけがない。
「主、あのとき強かったよね」
「たまたまだ」
「でも助けてくれた」
ルナは、少しだけ声を落とす。
「一人じゃ、たぶん消えてた」
俺は歩きながら、頭をぽん、と叩いた。
「はいはい。過去話は一日一回までな」
「むー。主、照れてる」
「照れてねえ」
ルナは、くすっと笑って、また腕に絡んでくる。
……この距離感にも、もう慣れた。
「それよりさ、宿どうする?」
「最悪、野宿」
「えー、人間の街で?」
「いつものことだろ」
そのとき。
「――ちょっと」
後ろから声がした。
振り返ると、
例の銀髪の防衛隊――アリシアが、腕を組んで立っていた。
「……見ていられません」
「奇遇だな。俺もだ」
「あなたたち、本気で路上で寝る気ですか」
「まあ、な」
ルナが元気よく手を挙げる。
「屋根なくても寝れるよ!」
「張り切るな!」
アリシアは、深く、深くため息をついた。
「……空き部屋があります」
「え」
「防衛隊の寮に、です。
一時的に、ですからね」
ルナの目が、きらきら輝いた。
「ベッドある!?」
「あります」
「お風呂は!?」
「……あります」
「最高!」
俺は頭を掻いた。
「助かるよアリシア」
「勘違いしないでください」
アリシアは冷たい目で俺を見る。
「あなたを信用しているわけではありません。
ただ――」
ちらっと、ルナを見る。
「都市の秩序のためです」
「そっか」
ルナがにやにや笑う。
「ねー主。人間の女の子、優しいね」
「睨まれてるぞ」
「愛情の裏返し?
「違います!」
こうして俺たちは、
常識人の監視付きで、
シェルター都市の夜を迎えることになった。
神はいない。
悪魔は嫌われる。
でも――
「ジル」
「ん?」
「今日も一緒だね」
「ああ」
それだけで、十分だった。




