騒音は平和の証
北のシェルター都市ヴィルディアは、雪まつり一色だった。
白銀の都市に、過剰な飾り付け。
悪魔と人間が混じり、終末感は完全に蒸発している。
「……雪まつりに参加すると言ったら普通に入都できた気がするな」
ジルが空を見上げて呟いた。
「アレンさんに迷惑をかけてしまいましたね」
アリシアが真顔で頷く。
「主、屋台」
ルナが袖を引く。
視線の先には「地獄焼きそば」「天国クレープ」「魔王級ホットワイン」。
「やる気の無いネーミング過ぎる」
「魔王級、飲みたいですわ」
セレナが目を輝かせる。
「セレナさんの指輪のために参加するんですよね…」
「細かいことは気にしない主義ですの」
「気にして欲しいですし、細かいことではないと思います…」
一行は雪像エリアへ足を踏み入れる。
雪像がずらりと並んでいた。
英雄像、悪魔王像、巨大鍋料理像、謎の多足生物像。
「最後のは物理的にも謎が多すぎる」
ジルが淡々と言う。
「主、あれ」
ルナが指差した。
そこにあったのは――
巨大なアレンの雪像だった。
しかも妙に美化されている。
「……実物より数倍良い出来だな」
ジルが言った。
プレートにはこう書いてある。
『北の守護者アレン侯』
「本人に見せたら泣くやつだ」
ジルが何気なく雪像のマント部分を触った。
バキッ。
「……あ」
雪像は芸術的な速度で崩壊した。
顔面から下が雪崩のように崩れ、守護者の良い顔だけ残された。
「主、破壊」
「触っただけだ」
その瞬間、係員の悲鳴が響く。
「雪像がァァァァ!!」
「逃げるぞ!」
ジルが全力で走り出した。
「ま、待ってくださいよ!?」
アリシアが慌ててジルを追いかける。
後ろで係員と市民と悪魔が追いかけてくる。
「守護者が倒れたぞー!」
「不敬罪だー!」
「そんな法律あるのか!」
角を曲がり、屋台に突っ込む。
「地獄焼きそばが飛んだァァ!」
「天国クレープが逃げたァァ!」
「無理です!ツッコミきれません!!」
最終的にセレナが屋台の影から出てきて、涼しい顔で言った。
「雪像ですものいつかは壊れるものです」
結局購入したホットワインを優雅に飲みながら合流する。
*
逃亡後、なぜか雪上競技場に到着していた。
「流れで到着しましたね……」
アリシアが息を切らす。
掲示板には競技一覧。
・雪上マラソン
・氷上相撲(人間部門/悪魔部門)
・雪像早作り対決(修復部門あり)
・雪原宝探し(優勝賞品:封印された指輪)
「修復部門ってなんだ」
「明らかに書き足されていますよねこれ」
「主、指輪」
ルナが指差す。
「普通に祭りの景品なんですね……」
「主、参加」
「私の指輪が宝だなんて照れますわ」
「…まずは受付だな。行くぞ」
こうして北のシェルター都市ヴィルディアの雪まつりは、完全に制御不能な熱気に包まれた。
封印された指輪は雪原のどこかに埋められ、宝探しは間もなく開始される。
その指輪の元所有者は、優雅にワインを飲んでいた。
平和とは無責任な騒音の中で成立する。




