封印とは、だいたい面倒事の前振りである
翌朝。
ジルの部屋。
四人分の布団が敷き詰められていた。
「……なぜこうなった」
ジルが天井を見たまま言った。
「主、夜中に“部屋一つで十分だ”って言った」
ルナが毛布から顔だけ出す。
「そんなこと言っていない」
「言いましたよ」
アリシアが枕を抱えながら起き上がる。
「“どうせ誰かが幽霊を怖がって来るから最初から集まればいい”って」
「合理的ですわ」
セレナが優雅に伸びをした。
「結果的に誰も怖がらずに済みましたもの」
「怖がる前提なのがおかしい」
「でも主、夜中に二回ほど窓を確認してた」
「していない」
ジルは無言で起き上がった。
「……朝だ。指輪だ」
「現実に戻さないでください」
アリシアが布団に顔を埋める。
旅館の主人は困った顔で首を振った。
「封印された指輪? さあ……代々ここは続いていますが、そんなものは」
「二百年前の記録は?」
ジルが淡々と聞く。
「ええと……倉庫の奥に古文書はありますが、私も内容までは」
「倉庫、行ってもいいか?」
「どうぞ。埃まみれですが」
「…アレンを訪ねよう」
ジルが言った。
セレナが頷く。
「彼なら都市史くらい把握していますわ」
「期待値高すぎませんか?」
アレンの屋敷は、街並みから明らかに浮いていた。
「……城じゃないですか」
アリシアが引きつった笑みを浮かべる。
「アレン、金持ち」
ルナが純粋に感心する。
「北のシェルター都市は余裕がありますわね」
「余裕の方向性が違う気がする」
応接室。
アレンの父は、いかにも貴族という威圧感だった。
「なるほど……200年も前の指輪ですか」
男は顎に手を当てた。
「知っているのか?」
ジルが問う。
「……落としたというのか彼女ですか?」
視線がセレナに向く。
「ごきげんよう。元幹部悪魔、セレナと申しますわ」
「さらっと言わないでください」
アリシアが頭を抱えた。
「確かに、この都市には伝承があります」
「伝承?」
アリシアが身を乗り出す。
「禍々しい力を放つ指輪。
過去の都長が“都市に置くべきではない”として封印を命じた」
「まともな判断だな」
ジルが冷静に頷く。
「現在は都市外の祠に封印されています」
「……祠?」
ジルが復唱した。
「ええ。雪原の奥に」
「主、取りに行く?」
ルナがジルに問う。
「実はその指輪今年の雪まつりに景品になっていまして…」
「景品?なんでまた」
アレンの父は神妙な顔で続ける。
「悪魔達が“縁起物だから欲しい”と言い始めまして。都長も対抗してそれならばと景品となった次第です」
アリシアが頭を抱える。
「何が起きてるんですか!一つも理解できませんよ!?」
「……人類、平和だな」
ジルが遠い目をして言う。
こうして一行は北のシェルター都市ヴィルディアで行われる雪まつりに参加することとなる。
終末世界で雪まつり。あまりにも不釣り合いな組み合わせ。
当の指輪の主は優雅にワインを一口。
「面白そうで、血が騒ぎますわね」
「どこから出したそのワイン」




