指輪は落ち、時間は積もる
北のシェルター都市ヴィルディアの高級旅館。
夕食会場は、もはや「文明の勝利」を誇示するかのように豪華だった。
雪国とは思えない温かさ。
終末世界とは思えない料理。
「……豪華すぎませんか」
アリシアが震え声で言った。
「人類最後の抵抗ですわ」
セレナが優雅にナイフを構える。
「主、魚。踊ってる」
ルナが刺身を見て呟く。
「それは新鮮って意味だ」
ジルが淡々と解説する。
「……終末世界でこれって、もう人類救済いらなくないですか?」
「いらないな」
「冗談ですよ!即答しないでください!」
そんなやり取りの中、ジルは箸を止めた。
「……で、本題だ」
一瞬、空気が変わる。
「ヴィルディアに来た目的、覚えてるか?」
アリシアが背筋を伸ばす。
「セレナさんの……指輪、ですね」
セレナは何事もなかったかのようにワインを傾けた。
「ええ。幹部悪魔の証。指輪探しにきましたの」
ジルは無言でため息をついた。
「どこで落としたか、覚えていないのか?」
「多分、この旅館ですわ」
セレナは平然と答えた。
「多分!?」
アリシアが即座にツッコむ。
「元幹部の証を“多分”で扱わないでください!」
「細かいことは気にしない主義ですわ」
「気にしてください!!」
アリシアは深呼吸し、真剣な顔で聞いた。
「……ちなみに、いつ落としたんですか?」
セレナは少し考え、そして真顔で言った。
「二百年ほど前ですわ」
箸が落ちた。
フォークが転げた。
ルナが皿を持ったまま固まった。
「…………」
「………………」
「………………」
全員が同時に頭を抱えた。
「二百年」
ジルが静かに復唱した。
「二百年!?」
アリシアが叫んだ。
「主、遠い目してる」
ルナが冷静に診断する。
「悪魔の寿命を人間基準で測らないでくださいまし」
セレナは肩をすくめる。
「測るとかそういう問題じゃないです!」
ジルは天井を見上げた。
「……一筋縄ではいかないとは思っていたが」
想像以上に無茶だった。
「二百年前って、ここの経営者も何代前なんでしょう……」
アリシアが遠い目になる。
「数えるだけ無駄ですわ」
セレナがさらっと追い打ちをかける。
「詰んでませんか?」
「詰んでない」
ジルは短く言った。
「……多分」
「そこは断言してくださいよ!!」
ジルは箸を置いた。
「明日、聞き込みだ」
「二百年前の聞き込み!?」
「生きてる奴もいるだろ。」
「全然安心できません!」
セレナは楽しそうに微笑んだ。
「久しぶりに昔話ができそうで楽しみですわ」
「ホラー映画の導入みたいなこと言わないでください!」
こうして、
のんびり温泉旅行のつもりだった一行は、
二百年分の過去を掘り返す羽目になった。
終末世界の旅は、
どうしてこうも普通に進まないのか。
答えは簡単だ。
彼らが、普通ではないからである。




