違うまま並んで歩く
北のシェルター都市ヴィルディア。
石畳の街路、規則正しく並ぶ建物、整列した市民。
「観光開始だな」
ジルが淡々と言った。
「観光って何をするんですか?」
アリシアが小首を傾げる。
「歩けば何かにあたるだろ」
「そんな犬みたいに言わなくても」
セレナが楽しそうに周囲を見回した。
「整然としすぎて逆に落ち着きませんわね。悪魔領の方が自由でしたわ」
「元悪魔幹部が秩序都市に文句言うな」
ジルが即座に突っ込む。
ルナは看板を見上げていた。
「主、文字多い。アリシア、あれなんて書いてある?」
ルナに言われるがままアリシアが看板の文字を読み上げる。
「雪まつりまであと2日。らしいですよ」
「まつりも何も毎日吹雪だろうに」
「きっとそんな日常を彩るためのお祭りなのですわ」
セレナがほほえみながら言う。
「なんだかジルさんより人間っぽい」
「おい」
*
露店区画へやってきた一行
露店が並び、屋台が規則正しく配置されている。
「露店まで整列している……」
アリシアが感動したように呟く。
「主、肉串」
ルナが屋台を指さす。
「買うか」
ジルが銀貨を出すと、店主が直立姿勢で受け取った。
「注文内容を申請書に記載してください」
「串一本で申請書!?」
アリシアが悲鳴を上げる。
「秩序都市ですので」
「秩序と言えば何でも許されると思っていませんかね…」
セレナは肉串を上品にかじった。
「書類を食べさせていただいている気分ですわ」
「味の感想か?それ?」
ジルが呆れた様子で言う。
街中を歩いていると、住民たちが遠巻きに見ていた。
「悪魔、怖いです」
「でも人間と普通に会話してる……」
「でもあの人間も悪魔みたいな人間だぞ……」
アリシアが気まずそうに言う。
「都市教育では、悪魔は即時討伐対象と習いました」
「正しい教育だ」
ジルが頷く。
セレナはにこやかに住民に手を振った。
「ご機嫌よう、ですわ」
子供が泣いた。
「泣いてますよ!?」
アリシアが慌てふためく。
「悪魔の幹部に声をかけられたら泣きもする」
ジルが淡々と解説する。
ルナは子供に近づき、しゃがんだ。
「飴、ある。仲良く、しよ?」
子供は一瞬迷い、飴を受け取り泣き止んだ。
「飴で世界を救えるのでは!?」
「世界が甘すぎる」
*
都市の中心広場で四人は腰を下ろした。
雪に覆われたドームの天井から漏れる陽光が妙に切なく見える。
「……悪魔と人間、やっぱり合わないものですね」
アリシアが静かに言う。
「合う必要あるのか?」
ジルは空を見上げて短く言った。
「違うまま、歩ければ十分だろ」
アリシアは少し驚いたように彼を見る。
セレナは満足そうに頷いた。
「実にあなたらしい結論ですわ」
ルナはパタパタと宙に浮きながら、遠くに立ち昇る蒸気を見つける。
「主、あれ」
ジルがルナの指差す先に見つける。
「温泉か」
「ええ。あれが私おすすめの宿ですわ」
「温泉!久しぶりにゆっくりできそうですね!ジルさん!」
「ああ。行くか」
湯煙の向こうに見える明かりは、終末世界にしてはあまりに穏やかだった。
ただ今は、温泉という言葉だけがやけに魅力的に響いていた。




