悪魔付きジルは、だいたい想像の三割増しでひどい
ヒロイン(予定)のアリシア視点でのお話です。
(アリシア視点)
――最初に思ったのは。
(……この人、本当に大丈夫なの?)
シェルター都市の中央通り。
私は少し距離を取りながら、“悪魔付き”の青年――ジルを観察していた。
悪魔を連れているという一点だけでも危険人物なのに、
本人は驚くほど飄々としている。
「いやー、さすがシェルター都市。人多いな」
「ねー。人間いっぱい。ごはんいっぱい」
「その言い方やめろって言ってるだろ!」
……もうこの時点で不安しかない。
隣を歩く悪魔の少女――ルナは、
腕に絡み、羽を揺らし、笑顔で人間を威嚇している。
街の人々の反応?
言うまでもない。
「……見た?」
「悪魔よね……」
「防衛隊は何してるの?」
ひそひそ声。
怯え。
嫌悪。
それを――
「人気者だな、俺たち」
「ねっ」
「ポジティブすぎる……」
ジルは、あまりにも自然に受け流していた。
(この人、慣れすぎている)
悪魔と一緒にいることに。
拒絶されることに。
――そして、危険と隣り合わせであることに。
「さて、今日は宿探しだな」
「ベッドあるところがいいなぁ。主と一緒の」
「却下」
私は反射的に足を止めた。
(……宿?)
嫌な予感しかしない。
予感は、的中した。
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「申し訳ありませんが……その……悪魔の方は……」
「だめかー」
「だめだねー」
一軒目、即アウト。
「他を当たってください」
「はいはい」
二軒目も、三軒目も、結果は同じ。
門前払い。
露骨な拒否。
時には、悲鳴。
「悪魔を連れてるなんて聞いてない!」
「すみません、すみません」
謝っているのは、ジルだけだった。
ルナはというと――
「ねえ主、あの人震えてるよ?」
「だから煽るなって!」
(この悪魔……反省する気が一切ない)
それでもジルは、怒らない。
諦めた様子もない。
ただ、少し困ったように笑って、次の宿へ向かうだけ。
(……どうして)
どうして、この人は、
こんな扱いを受けても平然としていられるのか。
気づけば、私はずっと二人を目で追っていた。
そして――
「……はぁ」
四軒目を断られたところで、
私はついに、深いため息をついた。
「見てられない……」
口から、勝手に言葉がこぼれた。
ジルが振り返る。
「あれ、アリシア?」
「あなたたち……本気で今日、野宿する気ですか」
「まあ、最悪は」
「だめです」
即答だった。
「この都市で、悪魔付きが野宿なんてしたら、
夜までに騒ぎになります」
「それは……まあ、そうか」
私は少し迷ってから、続けた。
「……防衛隊の寮に、空き部屋があります」
「え」
「一時的に、ですからね!」
念を押すと、
ルナが目を輝かせた。
「えっ、人間のおうち!?」
「正確には寮です」
「ベッドある?」
「あります」
「やったぁ!」
……なぜ悪魔のテンションが一番高いのか。
ジルは一瞬きょとんとしたあと、
照れたように頭を掻いた。
「助かるよ、アリシア」
「勘違いしないでください」
私は、冷たく言った。
「あなたを信用したわけではありません。
ただ――」
ちらりと、ルナを見る。
「都市の秩序のためです」
「そっか」
ジルは、それ以上何も言わなかった。
その背中を見ながら、私は思う。
(……この人)
悪魔を連れているのに、
悪魔みたいに笑うのに、
どうして、こんなにも――
(人間らしいのよ)
こうして私は、
絶対に関わるべきではない二人を、
自分の寮へ連れていくことになった。
後悔する未来が、
もう、はっきり見えているというのに。




