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神なき世界で悪魔にモテたので、ついでに人類救済します。  作者: ナナツメ蜜柑


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悪魔より厄介なもの

 ヴィルディアの門は、無駄に大きかった。


 分厚い鉄扉。

 雪除けの庇。

 整列する警備兵。


 そして――


 長い机。


 机。

 机。

 机。


「……机、多くないですか?」

 アリシアがぽつりと言った。


「受付用ですわね」

 セレナが当然のように答える。

「恐らく三段階ですわ」


「三段階……?」


「受付」

「仮確認」

「本確認」


「仮確認!?」



「次の方」


 無表情な門番が、手を伸ばす。


「入都申請書を」


「……ないな」

 ジルが言った。


「は?」


「目的地に来ただけだ」


「は?」


「入るだけだ」


「……」


 門番の顔が、ぴくりとも動かない。


「申請書がなければ、入れません」


「……そうか」


 ジルは素直に頷いた。


 アリシアは、この時点で嫌な予感しかしなかった。


「じゃあ」

「どこで書く」


「第三机です」


「遠いな」


「並んでください」


「どれに?」


「一番後ろです」


 振り返る。


 行列。


 行列。


 行列。


「……考え直そう」

 ジルが言った。


「今さら!?」



 なんとか第三机まで辿り着く。


 紙。

 紙。

 紙。


「名前、所属、目的、身分証明……」

 アリシアが読み上げる。

「多い……!」


「当然ですわ」

 セレナは楽しそうだ。

「秩序とは、紙のことですもの」


「そんな定義聞いたことありません!」


 ジルはペンを持った。


「名前」

「ジル」


「所属」

「旅人」


「証明書は?」

「ない」


「……ない?」


「俺は生きてるぞ?」


「証明になりません」


「手厳しいな」


 アレンが後ろで黙って立っている。

 一切口を出さない。

 だが、表情がすべてを物語っていた。


(ほら見ろ)

(だから言っただろ)

(こうなるって)


 アリシアは見なかったことにした。



 次。


「同行者の申請を」


「全員か?」


「全員です」


「はーい」

 ルナが前に出る。


「名前」

「ルナ」


「種族」

「悪魔」


「……」


 ペンが止まる。


「……はい?」


「ん?ルナ、悪魔だよ」


「……」


 門番は、ゆっくり顔を上げた。


「……悪魔は―入れません」


「そらそうだ!」

 アリシアが頭を抱える。


「理由は?」

 ジルが聞く。


「危険ですから」


「地下都市では平和に過ごしたぞ」


「書類上、危険です」


「書類強いな」


「当然です」



 セレナが、一歩前に出る。


「では私も」

「セレナと申しますわ」


「種族は?」

「悪魔ですわ」


「……」

「元・悪魔軍幹部ですの」


「……」


「今は無職ですわ!」

 セレナがその大きな胸を張る。


「余計に危険です!!」



「せめて人間だけでも――」

 アリシアが食い下がる。


「人間の同行者は…」

 門番は淡々と言う。

「男性2名で――」


「女性も1名です!!」


「……?」


「私は人間です!なぜ悪魔に間違えられるの…?」

 アリシアが涙目になりながらも訴える。


「そら俺と一緒なら大体悪魔だと思われる」


「ジルさん!!」



 沈黙。


 列の後ろがざわつき始める。


「……仕方ないな」

 ジルが言った。


「今日は、やめるか」


「やめるんですか!?」


「入れないし」


「それはそうですけど!!」


 アレンが、初めて小さくため息をついた。


 だが何も言わない。


 何も言わないが――

 肩が、ほんの少しだけ落ちている。



「では」

 門番が言う。

「悪魔を置いてきてください」


「それは無理だ」


「全員で行く」

 ジルは短く言った。

「それが条件だ」


 門番は、一度だけ目を伏せた。


「……規則です」


「そうか」


 ジルは、あっさり引き下がる。


「また来る」


「来ないでください」


 ジルは無言で手を振った



 門の前から離れながら。


「……入れませんでしたね」

 アリシアが言う。


「想定内ですわ」

 セレナは満足そうだ。


「主」

 ルナが言う。

「紙、嫌い?」


「嫌いじゃない」

「向いてないだけだ」


「それ、意味同じ」


 アレンは、相変わらず無言だった。


 だが、門を振り返り――

 小さく首を振る。


(本当に)

(何も変わってない)



 北のシェルター都市ヴィルディア。


 秩序の街。

 規則の街。

 書類の街。


 一行は――


 まだ、門の外にいた。


 都市は目のまえだが、入都までの道のりはまだまだ長そうだ。

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