事情を知らなくても、旅は進む
朝の空気は、冷たかった。
だが――
「……ん?」
アレンが、歩きながら眉をひそめた。
「今日は、昨日より寒くないな」
「そ、そうですかね?」
アリシアが明後日の方向を見ながら返事をする。
「……?」
アレンは、前を歩くジルの背中を見る。
なぜか――
いつもより、背中が大きく見える。
いや、黒とも白ともつかない、嫌なものが背中に張り付いているように見える。
「……おい、ジル」
「なんだ」
「お前」
「なんか変じゃないか?」
一瞬、空気が止まる。
ルナが首を傾げる。
「主、いつも変」
「それはそうだが」
アレンは真顔だ。
「そういう意味じゃない」
「……具体的に言え」
「なんか悪魔みたいなオーラ出てるぞ」
「……」
アレンは、はっとした顔になる。
「お前、今朝外から帰ってきたよな?」
「……」
誰も口を開かない空気の中
「理由は簡単ですわ」
セレナが、優雅に口を挟む。
「昨晩、ジルは」
「雪女風悪魔の加護を受けましたの」
「……は?」
アレンの思考が止まる。
「待て」
「雪女?」
「悪魔?」
「加護?」
「全部その通りですわ」
「なんでそんな淡々と!」
アレンは、ジルを見る。
「お前」
「何してたんだ、昨晩!?」
「話した」
「誰と!?」
「雪女風悪魔と」
「何を!?」
「世間話」
「信用できるか!!」
「だから言っただろ」
ジルは歩き続けながら言う。
「長くなる」
「聞かせろ!!」
アリシアが、深くため息をついた。
「……私たちが怯えて眠れなかった間」
「この人は」
「悪魔と仲良く村を救ってました」
「意味が分からない!!」
「いつものことですわ」
セレナが微笑む。
アレンは頭を抱えた。
「……俺が寝てる間に」
「何が起きてるんだ、この旅は……」
「あの寒さの中で眠れるアレンさんも相当だと思いますが……」
アリシアが苦笑いで言う。
騒がしい旅は続くようだ。
*
しばらく歩くと、
前方に巨大な壁が見えてきた。
灰色の外壁。
規則正しく並ぶ監視塔。
雪除けの構造物。
「……あれが」
アリシアが息を呑む。
「北のシェルター都市」
「ヴィルディア……」
「ようやく着いたな」
アレンが呟く。
「管理」
「規則」
「書類」
セレナが楽しそうに言う。
「まだ何も始まってないのに胃が痛い……」
ジルは、門を見上げた。
整然とした都市。
秩序の象徴。
そして――
「……面倒そうだな」
「でしょう?」
セレナが笑う。
こうして一行は、
北のシェルター都市ヴィルディアの入口に立った。
寒さは、もうない。
だが――
別の意味で、厄介な場所が待っている予感だけは、
誰の目にも明らかだった。




