分かり合えない再会
その男は、道の真ん中に立っていた。
剣を背負い。
鎧をきちんと整え。
周囲を警戒する、正しい冒険者の姿で。
「……おい」
ジルが足を止める。
「まさかとは思うが」
男も、こちらを見た。
一瞬だけ目を細め――
「……ジル?」
次の瞬間。
「生きてたのか!?」
「そっちこそな」
剣を下ろし、男は近づいてくる。
短く刈った髪。
真面目そうな顔。
全体的に、ちゃんとしている。
アリシアが小声で聞いた。
「お知り合いですか?」
「昔、少しな」
ジルが答える。
「アレンだ」
男――アレンは、胸を張った。
「元・旅の仲間だ」
「“元”なのですね」
セレナが即座に反応する。
「……そうだ」
アレンは、そこでようやく周囲に目を向けた。
ルナを見る。
セレナを見る。
アリシアを見る。
そして、沈黙。
「……」
「……」
「…………ジル」
「なんだ」
「説明しろ」
「長くなる」
「短くしろ」
「悪魔と旅してる」
「論外だ!!」
即答だった。
「なんでそんな平然としてるんだ!」
「危険だろう!」
「信頼できるわけがない!」
「失礼ですわね」
セレナが微笑む。
「これでも元・悪魔軍幹部ですわ」
「なお悪い!!」
ルナが首を傾げる。
「主、この人、うるさい」
「相変わらずだ」
ジルは肩をすくめた。
*
「思い出してきたぞ……」
アレンは頭を抱えた。
「お前、昔からそうだった」
「そうだったとは」
「計画を立てない!」
「目的地を決めない!」
「地図も見ない!」
「それで?」
「それで!」
アレンは声を荒げる。
「“なんとかなった”で済ませる!」
「実際、なってた」
「それが怖いんだ!!」
アリシアが、そっと手を挙げる。
「あの……」
「今も、だいたいそんな感じです」
「だろうな!!」
アレンは深くため息をついた。
「俺はな」
「ちゃんと考えたかった」
「人類を守るために、正しい道を進みたかった」
「それで別れた」
「ああ」
アレンはジルを見る。
「悪魔と馴れ合うのも」
「行き当たりばったりなのも」
「俺には、理解できなかった」
「理解しなくていい」
ジルは、淡々と言った。
「無理に同じ道を歩く必要はない」
一瞬。
アレンは言葉に詰まる。
「……変わらないな、お前」
「そうか?」
「そうだ」
アレンは苦笑した。
「昔から、そうやって」
「全部背負う癖がある」
「背負ってない」
「置いてきてるだけだ」
「それも問題だ」
*
「で」
ジルが話を戻す。
「アレンは、どこへ?」
「北だ」
「ヴィルディア方面」
一行が、ぴたりと止まる。
「……え」
アリシアが声を出す。
「同じ方向ですね」
「なに?」
アレンが眉をひそめる。
「まさか、お前も?」
「ヴィルディアに用事があってな」
「用事……?」
アレンはセレナを見る。
セレナは、にこやかに言った。
「忘れ物ですわ」
「忘れ物……?」
「重要な」
「……嫌な予感しかしない」
「正解だ」
ジルが言った。
*
しばらく、気まずい沈黙が流れる。
「……はぁ。一緒に行くか」
アレンが、しぶしぶ言った。
「危険も多い。途中までだが、人数は多いに越したことはない」
「助かる」
ジルは短く答える。
ルナが、アレンをじっと見る。
「主」
「この人」
「まじめすぎ」
「恐らく大半の人間はこれが普通だ」
「普通、つらそう」
「否定できん……」
アレンは空を見上げた。
「相変わらずだな、ジル」
「お前の旅は」
「そうか?」
「ああ」
「意味が分からない」
「それでいい」
ジルは歩き出す。
「意味が分かる旅は」
「たぶん、俺には向いてない」
アレンは、その背中を見て――
小さく笑った。
「……本当に、変わらない」
そして思う。
理解できない。
だが――
なぜか、生き残っている男だ。
それだけは、昔から同じだった。




